空は奇妙な色に霞んでいた。
夕焼けと青が混じり合ったような色だ。一体何でこんな色合いになるのかは僕には分からない。
それぐらい奇妙な色だった。
ところで、僕のことについて語ろうと思う。
いつのまにか、僕はこの世界に存在していて、そして、今もなお存在し続けている。
どれくらいの間、こうしているのかは分からない。
ともかくも、僕は今麦畑の中を進んでいた。
麦畑は、僕の身長よりも高い穂で埋め尽くされていて、とてもじゃないけれど遠くまでを見ることはできなかった。
だから、僕はその茎の一つ一つを掻き分けながら進まなければならなかったのだ。
そんな作業を、ずっと前から続けていた。
この世界では、時間なんてものは存在していないのとほとんど同じなのである。
そんな具合に僕が麦を掻き分ける作業を続けていると、どこか遠くから、ぱきぱき、ぱきぱき、という、聞き覚えのある音が聞こえてきていた。
その音は、どんどんと僕の方に近付いてくるようだった。
音は大きくなりつつあった。
僕には、一体この後何が起こるのかがはっきりと分かっていた。
彼女がこちらへと近付いているのだ、と僕は思う。これもまた、何度となく繰り返したことだった。
そして、その音は遂に間近へと迫った。
僕は、ゆっくりと視線を上げて、そこに存在している影の方を眺めた。
麦と麦の穂の間から、彼女は、いつも通りの笑顔を浮かべて、こちらを見下ろしていた。
いつも通りに、白いワンピースを着た少女だった。栗色をした長い髪が、ほとんど腰のところにまで達している。ブラウンの大きな瞳をしていた。
彼女は僕の方を暫く眺めていたのだけれど、その後、彼女は一方的に踵を返して、僕へと背を向けた。そして、僕から遠ざかる形で歩き始めた。
十分に僕が付いてこれるくらいの、それぐらいの歩調で、僕の視界を覆っている麦を倒しながら彼女は歩いていた。
その度、ぱきぱき、ぱきぱき、という音が断続的に響き渡っていた。
僕達はそれをずっと続けていた。
ずっとだ。
歩き続けていた。
ずっと歩き続けていた。
いつになれば、辿り着けるのだろう、と思う。
いつかはきっと、辿り着けるのだろうか、と思う。
でも、とにかく僕達は歩き続けている。