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はてなキーワード: カザンとは

2021-08-07

anond:20210806173141

ニンジャスレイヤーは「ガチンコ対決では強いやつが勝つ」(ノーカラテノーニンジャ)と「状況によっては実力差が覆る」(フーリンカザン)の一見相反する二つの概念があって、そこの使い分けが上手いおかげで格が下がりすぎるキャラがあまり出ないんだよね

2020-09-04

ロシア語表記揺れはなぜ起きるのか

ロシア語固有名詞カタカナで書くときに色々表記揺れがあって紛らわしいよね! 表記揺れが起きる原因をまとめといたから、参考にしてね!

ヴ音の表記揺れ

これは純粋日本語内部の問題から一番わかりやすいね! БладимирВладимирを「ウラジーミル」と書くか「ヴラジーミル」と書くか、Иванを「イヴァン」と書くか「イワン」と書くか、という単純な話だから、好みに合う方を選んでね!

強勢の棒引きをめぐる表記揺れ

強勢の置かれた母音は長く強く読まれるんだけど、この母音を棒引き(ー)で表現するか否かが問題だね! これはだいたい慣用によって決まっているけど(「イワーン」じゃなくて「イワン」、「ウラミル」じゃなくて「ウラジーミル」)、別に慣用じゃない表記を使うことは自由だし見慣れない語だとフィーリングで決めたりするから表記揺れが生じる余地があるよ!

ыの表記揺れ

ыは日本語では書き表せない音なんだ! でもどうしてもカタカナにしないといけないときがあるよね! そういうとき表記が揺れちゃうんだね! Кадыровは「カディロフ」でも「カドィロフ」でも間違ってないよ! どのみち正確な日本語表記は無理なんだし! でも「カドイロフ」はさすがにどうかと思うな! めんどくさいのが形容詞の語尾で-ныйみたいな形になってるときだね! 「~ヌィ」だと語末のйを無視してるみたいで居心地が悪いし、「~ヌィイ」だと煩雑だし、「~ヌイ」だとなんかыっぽくないよね! こういうときは多少正確さを犠牲にしても日本人にとって一番簡単表記を選んでおくのがいいよ! だからВерныйは「ヴェールヌイ」でСовременныйは「ソヴレメンヌイ」なんだね! でも別にヴェールヌィイ」でも間違いじゃないよ!

оの表記揺れ

ロシア語では強勢の置かれないоは「ア」みたいに発音されるよ! Москваは実際には「マスクヴァー」みたいに聞こえるけど、日本語では綴り通りの「モスクワ」で定着してるよ! っていうか日本語表記では反映しないのが慣用になってるね! Достоевскийは「ダスタイェーフスキー」じゃなくて「ドストエフスキー」、Чеховは「チェーハフ」じゃなくて「チェーホフ」って書くことになってるね! ただし例外的に、Спасибоは「スパシーボ」じゃなくて「スパシーバ」、Хорошоは「ホロショー」じゃなくて「ハラショー」で定着してるよ! でももちろん発音を優先して「ア」って書いてもいいよ!

еの表記揺れ

ロシア語のеは「エ」というより「イェ」であって、теは「テ」というより「チェ」、деは「デ」というより「ジェ」のように聞こえるよ! 強勢があると特に! 逆に強勢がないとき母音が弱く読まれて「チ」みたいに聞こえたりするよ! だからЕкатеринаを「エカテリーナ」とするか「エカチェリーナ」とするかで揺れるよ! まあ実際に聞いてみると「イカチリーナ」みたいに聞こえるような気がするんだけどそんなふうに書くわけにもいかいからね!

иの表記揺れ

еと同じで、тиは「ティ」じゃなくて「チ」、диは「ディ」じゃなくて「ジ」みたいに発音されるよ! なんなら由来を重視して「ヂ」でもいいよ! だからПутинは「プティン」じゃなくて「プーチン」なんだね! БладимирВладимирが「ウラディミル」じゃなくて「ウラジーミル」なのもそういうことだね! まあ別に「ヴラヂーミル」でもいいんだけど! ただ「ティ」や「ディ」に聞こえなくもないところがややこしいところかな! でもやっぱり基本的には「チ」や「ジ」って書いとくのがいいと思うよ!

шやчの表記揺れ

шは日本語のシャ行の子音で、чはチャ行の子音なんだけど、後ろに母音を伴わないときになんて表記するかが問題だね! 「シュ」と書くか「シ」と書くか、「チュ」と書くか「チ」と書くかってことだね! Эйзенштейнは「エイゼンシュテイン」と「エイゼンシテイン」のどっちでも間違ってないよ! なんなら「エイゼンシチェイン」でも間違いじゃないよ! もう理屈はわかるよね!

語末の濁音の表記揺れ

語末だと濁る子音の濁りが消えたりするよ! でも表記するときには反映されないね! Петербургは「ペテルブルク」じゃなくて「ペテルブルグ」って書くことになってるよ! ドイツ語地名は「アウクスブルクハンブルク」みたいに書くことになってるのに不思議だね! たまに「ペテルブルク」って書いちゃう人がいるけどあんま好ましくないね! なんでかというと上で書いたような発音法則があるから実際の発音に即して書こうとすると「ピチルブールク」みたいな表記なっちゃうんだよね! 「ペテルブルク」だと中途半端なんだね! 発音に忠実に書くのはめんどくさいか綴り通りに日本語にした方がマシだね!

ёの表記揺れと間違い

ёは形の上ではеに似てるけど、読み方は「ヨー」だから全然違うね! でも、大人ロシア人は読み書きするときにいちいちёとеを書き分けたりしないんだ! 日本人が「これははんこです」を正しく発音できるのと一緒だね! Аксеновを「アクセノフ」って書いた新聞社があったけど、もちろん正しい綴りはАксёновだから「アクショーノフ」だね! このへん、慣れれば「これってёじゃね?」という目星をつけられるようになるよ!

そして、この文字表記揺れを引き起こすこともあるんだ! Фёдорは「フョードル」って読むんだけど、たまに「ヒョードル」って書かれたりするよ! もちろん「フョードル」の方が正確なんだけど、「フョ」は日本人には発音が難しいから「ヒョードル」でも構わないと思うよ!

ьの表記揺れと間違い

ロシア語のьは軟音符っていうんだよ! この文字自体発音しないんだ! じゃあ何に使うかというと、前に置かれた硬い子音を軟らかい子音にする(口蓋化する)ために使うよ! 日本の慣用表記だと、軟らかくなった子音はイ段で表記されることが多いんだ! たとえばл「ル」に軟音符がついてльになると「リ」になるんだね! そしてこの文字は、ほとんどすべてのローマ字表記法で’の記号を当てることになってるんだ! でも、論文とかじゃなくて新聞とかの通俗的表記だと、この’が落とされちゃうことがすごい多いんだよね!

たとえば、большевикиっていう単語をきちんとローマ字にしようと思ったらbol’shevikiになるはずなんだけど、実際はbolshevikiって書かれることがすごく多いんだよね! ロシア語を読める人なら「ボリシェヴィキ」って書くのが正しいってわかるんだけど、ロシア語を知らない人は「ボルシェヴィキ」って書きたくなっちゃうかもしれないね

そしてこれが語末や子音の前に来ると表記揺れを引き起こすことがあるんだ! -ньという綴りが語末や子音の前に来ると、「ン」と「ニ」の中間っぽく聞こえるよ! だからКазаньは「カザン」とも「カザニ」とも書かれるんだね! ポーランド語のGdańskが「グダンスク」とも「グダニスク」とも書かれるのと同じ理屈だよ!

хの間違い

хは喉の奥から出す「フ」の音だよ! 日本語のハ行とは発音の仕方が違うけど、どの行に聞こえるかと言われるとハ行が一番適切なんじゃないかな? 袴田茂樹先生の妹さんはИрина Хакамадаだし! でもこれ、日本でよく使われるローマ字表記だとkhになるんだ! それに引きずられてカ行で表記されちゃうことがあるけど、間違いだね! ハ行で表記しようね!

яの間違い

яって文字はよく見るけど、何て読むか知ってるかな? そうだね、「ヤー」って読むんだね! でも、これをローマ字に直そうとしたらどうなるかな? 実は、ロシア語ローマ字表記はいくつかの種類があるんだけど、それらの表記によってяをどう表記するかが違うんだね! イギリスでよく使われるローマ字表記だとyaだけど、アメリカ議会図書館式だとiaになり、そして国際式表記だとjaになるんだ! そうだね、ロシア語を知らない日本人ローマ字表記だけ見ると読み方を間違える余地があるんだね!

たとえば、Настяっていう女の子愛称は「ナースチャ」って読むんだけど、議会図書館式でローマ字に直すとNastiaになるんだよね! ロシア語を知らない人からすると「ナスティア」にしか見えないよね! 綴りの後半部分はti-aじゃなくてt-iaで切れてるんだけど、そんなの普通わかんないよね! Надяは「ナージャ」って読むんだけど、ローマ字でNadiaって書かれると「ナディア」って表記したくなっちゃうよね! 違うアニメなっちゃうね!

さらさらに、ローマ字に直すときにяの表記が誤魔化されちゃうことがあるよ! この文字は女の人の名前の語尾によく使われるんだ! たとえば英語の「メアリ」に当たるロシア語名前はМарияで、日本語だと「マリヤ」って書かれることが多いね! でも、ローマ字にするときMariaって書かれることがすごい多いんだ! たぶんMariiaやMarijaやMariyaだとわかりづらいと思ったんだろうね! けどMariaって書かれるとロシア語を知らない人は「マリア」って書いちゃうんだよね! Лидияも本当は「リージヤ」なんだけど、Lidiaってローマ字表記に引きずられて「リディア」って書かれることが多いね

複数の間違いが組み合わさることが多いのがТатьянаだよ! これは女の子名前で、素直に読み下せば「タチヤナ」になるよ! 議会図書館式に忠実に転写するならTat’ianaになるんだ! 真ん中の部分はt’-iaで切れるんだね! ’がついたことでtが軟音化して「チ」、iaで「ヤー」だね! でも’が省略されていると、iaが「ヤー」だと知らない人は、Tatianaを「タチアナ」って書いちゃうんだ! ひどい場合には「タティアナ」なんて表記されたりするね! そうだね、ti-aで切れると勘違いしてるんだね!

Литвякを「リトヴァク」って書いてある本があるんだけどさすがにちょっと許せないかな! どうやれば「リトヴァク」になるのかな!? もちろん「リトヴャク」が正しいよ! 「ヴャ」は発音しにくいっていうなら「リトビャク」って書いておくといいよ! 「何百」を発音できない日本人はいないよね!

юの間違い

じゃあみんな、юはなんて読むか知ってるかな? そうだね、「ユー」だね! でもこれもяと同じで、yuとかiuとかjuとか色んなやり方でローマ字表記されるよ! だからたまにiuっていうローマ字に引きずられて「イウ」と書いちゃう人がいるんだ! 気をつけようね!

強勢の位置の間違い

ロシア語は強勢の位置がすごい大事なんだけど、間違えて書かれることがあるんだ! БладимирВладимирは「ウラジーミル」なんだけど、「ウラジミール」って書く人がたまにいるね! チェコ語ならVladimírだからウラジミール」でいいんだけどね! 父称のВладимировнаも「ウラジミーロヴナ」じゃなくて「ウラジーミロヴナ」だからね!

たまにロシア風のキャラクタ名前として「イゴール」っていうのを見かけるけど、これは複数の間違いの複合だね! Игорьはロシアの男の人の名前だけど、厳密にローマ字に直すとIgor’になるんだ! そこから’を抜いてIgorにした上で強勢の位置を間違えると「イゴール」になるんだね! もちろん「イーゴリ」が正しいよ!

結局のところ、なんで表記揺れが生まれるの?

いくつかの理由があるよ!

  1. 日本語にない音や日本語だとどう表記すべきか迷う音が多い
  2. 綴り発音が離れすぎているのでどちらを基準にするかで変わる
  3. ローマ字に直されたものを読むときに間違いが発生する余地がある

これ、つまるところ英語名詞カタカナで書こうとするときの苦労と一緒だね! そういえば英語も「発音に忠実な表記を諦めて綴り通りに表記することにしている」場合がすごく多いよね! Bostonは「バッスン」じゃなくて「ボストン」、Donaldは「ダナー」じゃなくて「ドナルド」って書かれるよね! そういう意味では英語ロシア語って似てるね! オラ英語に親近感湧いてきたぞ!

Fateサーヴァントとか、あんまりメジャーじゃない方表記ゆれ名使ったりしてる印象があるが、検索避けみたいなこと一応気にしてんのかなと思ったりする。

奈須きのこそこまで考えてないと思うよ!

訂正

最初から間違いが…ウラジーミル綴りは Бладимир ではなく Владимир。

ま……マジだ! めっちゃ恥ずかしい! ごめん! 気づかなかった! 訂正しといた! 教えてくれてありがとう! Владимировнаの部分は正しく書いてたからそれで許して!

言い訳すると、ローマ字対応キーボードキリル文字打ってるから、ボーッとしてるとつい目の前のBってキーを押しちゃうんだ! でもそれを押すとБが出てきちゃうんだ! 稀によくある!

アウクスブルク煩雑発音とつづりとの中間点・妥協案的表記であるので,その直後に「ペテルブルクは中途半端ダメ」とか言われれると増田お前自己矛盾してんぞって顔になった。

ごめんね! 正直「~ブルク」ってつく地名なら何でも良かっただけなんだ! よく知らない言語について迂闊なこと言うもんじゃいね! 「ハンブルク」に直してみたけど、これならどうかな?

2017-12-08

まりと終わりのストロングゼロ

朝ではない。昼でもない。走るしかない。機関銃の雨に撥ねる北の大地の泥は、マズルフラッシュにあてられて金雲母のように闇に輝く。

その間を浮遊するバイオチャフにより、ノイズを発するしか能のなくなったウェアラブルオペレーションバグを起こしてあさっての方向を走り回る援射ロボット

背にした土嚢の向こう側から迫るオート歩兵駆動音。隣には陸戦車コントローラを持ったまま冷たくなったT。

突入の見込みはとっくの昔に消えた。私たちに課せられたミッション28分前に破棄された。

この戦線脱出する術はない。すでに戦況は絶望的だ。

後に「雪解けの悪夢」として語られるこのトカチガ管制塔奇襲作戦を、ウラジミールドッグスたちはまさに犬であることを誇示するように食い散らかした。

迫撃砲の嘶く声。耳をつんざく着弾音。ヘッドギアを抱えて、礫岩の雨を受ける。死。幾度となく投げられた賽は今日ついに、その目を出したようだ。

損傷した鼓膜が耳鳴りを起こしている。乾いた血で固まった強化グローブギアを外して、右足を失った私は空を見上げる。白んできた銀色の空に浮かぶロシア無人爆撃機編隊。

通り過ぎると同時に降り注ぐ夥しい数の赤い粒たち。

白煙に包まれながらピンク色に発光する。カザンの血潮と呼ばれ、全道民を震え上がらせた光だ。

その美しさに、私は目を見開く。

これと同じようなものを、私は見た。

はるか昔の記憶に、アクセスする。


「ねえきみ、新入生だよね? よろしくね」

春の日差しのなか、彼女は赤らんだ顔で私にいった。あれはまだこの内戦の起きる前のこと。

19年前、北大入学してまもなく、花見を兼ねた新歓コンパで2歳年上の彼女に話しかけられた。

今日だけは20歳でもいいんだよ」

酒は固辞した。まったく融通がきかない童貞野郎だった。

「じゃあTくんがハタチになったら一緒に飲もうね」

そう一方的約束された。サークルに入りしばらくして飲み会が続き、楽しげに酩酊する同級生を見て、飲んでみてもいいか、と思うようになったが、彼女はそれを許さなかった。

意思が弱い男の子は嫌いだよ」

そういって彼女は私を見張るという名目でよく一緒にいるようになった。

彼女は私の家に入り浸り、朝まで他愛のない話をする。

彼女が飲んでいたチューハイはいつも同じで、アルコール度数の高いものだった。

今は価値が高騰し、市場には出回っていない。

「飲みやすいし、てっとり早く酔えるからねえ」

彼女はそういうと缶のなかをのぞきこんで笑った。勉強に明け暮れた学生生活の中で、彼女との時間幸福のものだった。


ただ私は知っている。この記憶が本物ではないことを。

19年前、ここにいる私は存在すらしていなかった。

正確にいうと私は、3年前に誕生したクローンだ。

この記憶ストロング計画と呼ばれる極秘クローン兵士計画の発起者である北大出身科学者のものである

Tは故郷に爆撃を受け、愛する人を失ったその憎悪から自ら軍研究所に志願し、計画を立ち上げた。

北の大地を侵すものに強い攻撃性を持ったTの記憶データ化され、1000のストロングアーカイブスに分けられた。

クローン兵士ダブルTたちはその中からランダムに196のアーカイブを植えられ、パーソナリティを獲得する。

ストロング196から1は平時より自由アクセスができるが、1つだけ全兵士共通封印された記憶がある。

そのアーカイブは彼らが死に至るときにだけアクセスが許される。

ストロングゼロ。

それはTがもっと幸福だったとき記憶だ。まだ、この国が平和だったときの、幸福な。


春の嵐の中。銀色の空に桜吹雪が舞っている。

「買ってきたぞお~」

彼女が笑って、缶チューハイのたくさん入った袋をかかげる。

もう一方の手には20歳バースデーケーキを抱えて。

私は受け取ったポリ袋から、一本を取り出す。シルバーに映える桃色。

爆炎に飲み込まれながら、私は生まれて初めて、その味を知った。


ストロングゼロ ダブル桃 2027年

2008-05-03

生きているのがめんどうだ

まったくなんてやつだ人生は。結局勝ち馬に乗ったやつが勝つゲームじゃねえか。僕は今日も布団にくるまってそう呟いた。だから成功するか、しないかなんて確率なんだ。よって、僕はここから動かなくてもいい。布団のなかはとてもあたたかで、やわらかくて、僕の汗の臭いがする。もういい加減干さなきゃだめだろう。しかもそろそろ布団を薄くしなきゃならない季節だ。面倒すぎて気がめいる。時間なんか止まっちまえばいいのに。

携帯メールを見る。

新着メールは来ていない。就活で出合った岡山女の子と先ほどまでメールをしていた。しかし、もう返ってこなくなった。だいたいからして口説く気がまんまんに満ち満ちたメールを返してくるほど今の女子は暇ではない。ま、今までがラッキーだったということで。

とりあえず言い訳をして、僕はテレビの電源を入れた。DVDの電源もつけて、いつものようにCUBE映画を見る。もう何回も見ているから、内容は諳んじている。僕はこの映画が好きだ。現在社会で生きている僕らの人生はこの映画と同じような状況だと思う。その中であがく彼らを見るのが好きだ。そして、どうにもならない結末だからこそ、余計リアルだ。

淡々と進む映画を見ていると、いつも僕は自分が皮肉屋で、動きたがらない登場人物、ワースになったような気分になる。こいつの気持ちがすごくよくわかる。初めて見たときはすごくいらいらした。知識持ってんだから動けよ馬鹿、と言いたい気分にもなった。しかし、バカでっかいCUBEみたいなこの社会では、こいつの立ち位置が一番楽なんだ。誰にも迷惑をかけない確率が高いからだ。女の子に後ろから笑われることもない。グループディスカッションで誰かの足をひっぱることも、ひっぱられることもない。だから役員面接で緊張と圧迫でボロクソに評価されることだってない。学校で「イラっとする」と陰口を叩かれ、うざいやつという烙印を押されることもない。布団は本当に暖かい

携帯の自分のメールを確認する。

未練がましいやつだな、と自分でも笑う。メールタイトルをちゃんと消せているかを確認する。ふと、昔の彼女を思い出す。Re:とかついてると何故か怒り出したっけな。僕にはいまだになんで消さなきゃいけないのかわからない。本文を読んでいると、つとめてやる気をださないようにしている僕の努力がよく見て取れた。たしか考えたテキストの量はこの三倍にはくだらないと思う。書いては消し、書いては消しでようやくできたこの結晶には、やっぱり不備が残っていた。東京に出てきたら云々、って書いちゃった。ダメねー、あたし。こうなっちゃうとだめね。

岡山の女子から送られてきたメールを見る。絵文字がとても可愛い。実際はもっと端正な顔をしているのに。じゃけん、とか時々標準語のガードからすりぬけて出てくるそんな言葉イントネーションにすごく悶えさせられた。でも、そのあとの恥ずかしい表情がもっと可愛いんだ。だけど、メールはもう返ってこない。

きめぇな、自分…

自分で呟いた。画面では、クエンティンが独善性を発揮している。いいぞ、もっとやれ。お前みたいなのがいてこそ世界は回るんだ。セリフ口パクと同期させて発音してみた。数度やって、疲れた。なんで俺はこんな何回も見たDVDなんか見てるんだ?やり場のない怒りは、脳内環境と化した登場人物たちに向くことはなく、ただ自分のなかの焦燥感に変換されただけだった。布団のあたたかさがじれったい。だが、僕はもっとそれにくるまった。露出した足に布団をたぐりよせ…

どうやら、眠っていたようだ。何分ぐらい寝たのかな?画面を見ると、クエンティンがいないぐらいなので、そんなに眠っていたわけじゃないだろう。佳境ってやつか。見すぎてなんとも思わないけれど。焦燥感はまだ残っている。腕の付け根あたりがうずうずしているのがわかる。動悸を感じれば感じるほどそれは早くなっていく。生きているのは面倒だ。僕みたいな馬鹿はうごかないほうがいいんだ。そう、ちょっと前までのワースのように。この売り手市場で、内定が出ないのは僕が馬鹿だっていう証明じゃないか。そう誰かも言ってたのを聞いた。バイト先だったかな?…それからのバイトは全部ブチった。電話も無視。だいたい、今の時間に動いたって何にもできないだろう?あたりを見る。夜だ。もうそろそろDVDも終わる時間だな。

ふと足元で、何かが青色に光るのを見た。なんだろ?

携帯が落ちていた。これってことは。拾い上げて、ボタンを押す。メールが来ていた。サイレントにしてたんだな。

どうせリクナビか、マイナビか、フルキャストだろう。

そう思ってメールを開く。

岡山の、彼女からだった。

そのメールの内容はよく覚えていない。ちょっと前のことなのに。ただ、東京に出るときに絶対連絡します!って内容と、ハートマークの絵文字がふたつ入っていたことは覚えている。あと、もしかしたらGW明けに本社面接が入るかも、って書いていてくれたのも覚えてる。なんとなく、年甲斐もなく嬉しくなった。もう充分に僕は諦めていた。今までのことすらラッキーだったと、本当に諦めていたのだ。それが、こんな形で、彼女が、僕に、返信してくれるなんて。何故か涙が出そうだった。馬鹿みたいだってことはわかってる。だけど、胸が一杯になって、ありがとうって気持ちすらわいてきた。GW明け、か。どきどきする。わくわくもする。テレビの画面をふっと見た。ワースがレブンの手を握ったところだった。ワースが立ち上がろうとするシーンだ。手を、握ったんだ。死ぬな。死ぬな。何度も見ている映画のシーンなのに、記憶が出るのが一瞬遅れた。その一瞬ののち、あのシーンが、あの顔が、この液晶画面いっぱいに…。僕は、目を瞑っていた。はじめてのことだった。今は、ワースには殺されて欲しくはなかった。そう、今は。レブンにも、殺されて欲しくはなかった。ちらっと、やる夫のように、片目をうっすらと開いたとき、写っていたのは

カザンの、そう、脱出のシーン。

光り輝いている世界に。そして美しい世界に。

嫌いだったこのラストが、今は、ちょっとだけ、わかるような気がするなぁ、と思えた。理解なんかじゃなかった。同意の写像に近いものだった。

だけど。だけど。僕は少しだけ今日は思う。どんな人間でも、どんな馬鹿でも、一歩を踏みしめて歩きだすことは、このようなものなのかもしれない。

神々しい光に満ちて、まだ見ぬ未来が待っているような。

気がつけば僕は親しんだ布団から這い出て、メールの返信を頭の中で妄想しながら、パソコンの前に座ってGW明けに着ていく服を探している。今着れるのはボロボロの茶色いパーカしかないから、それじゃ不釣合いだろう。まだ見ぬ未来ってやつには。

 
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