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はてなキーワード: ツングースとは

2023-12-06

anond:20231206151733

韓国人は、漢民族に「臭穢不潔」と蔑まれツングース民族「濊」の末裔なのか

https://gendai.media/articles/-/96612

トーテムポールは濊の習慣と言われており、以前は濊は朝鮮系民族と言われていた。

しかし近年の研究によると濊は倭系の民族ではないかという意見が強まっている。

そのきっかけとなったのが言語学者伊藤英人氏による「朝鮮半島における言語接触大陸倭語」だ。

この論文は「「濊倭同系説」を主張し、言語学的にこれを証明している。

2022-09-22

日本語の原郷」についての論文、取り下げ勧告を受ける

去年、「日本語の原郷」についての論文(Robbeets et al. 2021)が話題になった。増田は専門外の素人ながら疑問を持ったのでツッコミを入れたんだけど(anond:20211121124146)、今年の6月に入って専門家集団から「あの論文は取り下げろ」という反論論文が出ていた(Tian et al. 2022)。といっても、プレプリントサーバのbioRxivに置いてあるだけで、学術誌に掲載されたわけではないんだけど、まあいずれどこかには載るよね多分。

そういうわけで、反論論文の内容を(素人なりに)紹介していくよ!

そもそも誰が書いたの?

ふええ……知らない人ばっかりだよぉ……

22人の共同著者による論文だけど、その多くは中国人研究者。ほかは数人のヨーロッパ人中国人研究者については全然からない。漢字で書かれれば一人か二人は名前を聞いたことがある人がいるかもしれないけど、ラテン文字で書かれているので誰が誰やらさっぱりなんだよな……

ヨーロッパ人研究者のうち、ラッセルグレイ氏は聞いたことがある。20年くらい前に『ネイチャー』に印欧語族起源に関するレター載せてた人だ(Gray and Atkinson 2003)。ホセ・アロンソ・デ・ラ・フエンテ氏は以前ロベーツ氏の著書に辛辣書評書いてた人で、去年の増田でも引用した。

そしてトマ・ペラール氏は、日本では有名な研究者だ。彼は宮古島の北4キロに浮かぶ人口数十人の離島大神島方言について博士論文を書き、それが「母音あるいは声帯を震わせて出される音を含まない単語がある」という世界でも珍しい特徴を持った言語であることを明らかにした(Pellard 2009: 80–85;ペラール 2011: 28–29)。ペラール氏は母語フランス語だけでなく英語日本語でも論文や共著を発表していて(最近だとペラール 2021とか)、琉球諸語の言語復興についても発言しているので(ペラール 2013; 2015)、琉球諸語に関心を持って調べたことがあれば一度は名前を聞いたことがあるはずの人物だろう。

要するにこの反論論文には、そのへんの日本人よりはるか日本語に詳しい研究者が参加しているってこと。

言語的側面について

反論論文は、ロベーツ論文で挙げられている同根語(cognate words)が少なすぎると指摘する。

同根語というのは、「起源を同じくする単語」のことだ。ある言語から分かれた娘言語たちは、いずれも共通した同根語を(二次的に失ったのでなければ)持っているはずだ、というのが比較言語学の基本的な考え方だ(生物学でいう原始形質/祖先形質にあたる……と思う。多分)。もちろん、偶然の一致とか、言語場合借用語とかがあるので、言語学的な検討を行って「これは祖語から受け継がれた同根語である」というのを確定させて、それをもとに言語系統関係判断していく。

たとえば印欧語族だと、次のような対応関係が見いだせる(例はウィキペディアの「印欧語彙」のページから持ってきた)(*がはてな記法の一部と認識されちゃうっぽいので*で代用)。

-印欧祖語英語ラテン語サンスクリット語ハラ
pH₂tér-fatherpaterpitṛ́car
2dwóH₁twoduodvā́wu
ped-footpēspā́d-pe
*ék̂wos英語eohequusáśva-yuk

複数の語派(語族の下位区分)にわたって対応する語彙が存在することがわかると思う。これらの同根語が存在することで、「英語サンスクリット語は親戚なんだなぁ」というのがわかるわけだ(お墓に卒塔婆って置いてあるじゃん。あれに書いてあるのがサンスクリット語)(足で操作する機構を「ペダル」といったり歩行者デッキを「ペデストリアンデッキ」といったりするのは、英語のfootに対応するラテン語pēsから派生語なんだよね)(「父権主義」が「パターナリズム」になるのも、英語fatherに対応するラテン語がpaterだから。これがポルトガル語でpadreになり、そこから日本語に入って「ばてれん」になるわけですよ)。

ついでに日琉語族の表も示しておく(Vovin 2017)。基礎語彙において規則的に音韻対応しているのは、これらの一致が偶然ではなく日本語沖縄語が親戚であることの動かぬ証拠だ。

-標準語沖縄語(首里
これkorekuri
toritui
komekumi
場所tokorotukuru

しかしロベーツ論文は、ひとつ以上の語族でみられる同根語が317、2つ以上の語族でみられる同根語がわずか50、そして5つの語族で共有されている同根語はたったの2つに過ぎないという(Tian et al. 2022: 2)。思い出してほしいんだけど、ロベーツ論文テュルクモンゴルツングース朝鮮・日琉の計5語族が同一の起源を持つと主張しているのね。なのに5語族で共有されてる同根語はたったの2ってどういうこと? って話になるでしょ。全然トランスユーラシア語族」の証拠になってないじゃん。

っていうか、その50個の同根語リストの中には、ロベーツ氏自身が「これは借用語だよ☆」って書いてる単語が入ってるんだってさ。借用語は除くというのが比較言語学の基本なのに(借用語だと気づかずにリストアップしたならまだしも)借用語だとわかった上でリストアップするのヤバくない? そんなこと言ったら日本語英語の親戚になっちゃうよ? 大丈夫

反論論文の著者たちはこれに激おこぷんぷん丸になっていて、ロベーツ論文の「著者たちは彼ら自身歴史的言語比較原則無視し、証拠を彼らの必要にあわせて歪曲している」(Tian et al. 2022: 3)とまで断言している。そりゃ、借用語混じりのたった数十の同根語で「トランスユーラシア語族は、ありまぁす!」って言われたらそう言いたくもなるわな。

遺伝学・考古学的側面について

遺伝学的にも、ロベーツらの論文は「不当な仮定unjustified assumption)と、移民についてのありえそうな他の仮説を排除した選択モデリング」に基づいているとバッサリ。考古学証拠も「弱い」と切り捨てている。このへんは遺伝学や考古学に詳しいはてなー解説をお願いしたいところ。

結論

そして反論論文は、こう締めくくられている。

ロベーツ論文の結果を再現しようという我々の試みは[言語遺伝・考古の]3つすべての面で重要な不一致をみた。さらにいえば、ロベーツ論文はこれら3分野の研究成果を統合するために「三角測量」を用いたと主張するが、その「三角測量」とやらの手法定義記述もしていない。したがって、彼らの手法に従って3つの分野に関する訂正を組み合わせることも不可能だ。つまるところ、我々が行った3つのデータセットすべての再検討は、ロベーツ論文の主張を完全に崩壊させた。トランスユーラシア仮説は未実証である私たちはこの論文を取り下げるよう謹んで勧告する(Tian et al. 2022: 7)。

要するにアルタイ語族2.0は失敗したってことっすね。ロベーツ氏は「民族主義的な議題を持つ人々にとっては、自分の言語と文化の起源が国境の向こうにあるということは不快な真実だが、すべての言語と文化、人間は混じりあっている」って言ってたらしいけど、まずはご自分の仮説がボロボロだという不快真実に向き合ってほしい。

こんなガバガバ論文を載っけちゃった『Nature』については、まあ……仕方ないところもあるのかな? ちょっとでも言語系統かに関心を持っている人なら「これアルタイ語族2.0じゃん」と気づける内容だけど、理系雑誌編集者にその目利きを求めるのも酷かな……査読者選ぼうにも誰がこの分野の権威かすらわからんだろうからな……ただし『トランスユーラシア語族ガイドブック』なんてものをホイホイ出版したオックスフォード大学出版会テメーはダメだ。お前んとこは人文系研究書いっぱい出してるんだからアルタイ語族2.0くらい見抜けるだろうが!

なお、ペラール氏のツイッター(@ThomasPellard)を見たら「そもそも論証の基盤になってる語彙の出典が書いてないやんけ。これスタロスチンが作ったデータベースからコピペじゃね? っていうかいくつかの言語対応表に載ってないから同根語を検討できないんだけど?」という趣旨ツッコミをしていた(https://twitter.com/ThomasPellard/status/1536288665936306176)。あっ……(察し)

そういえば

そろそろ凱旋門賞ですが、タイトルホルダーくん楽しみですね。天皇賞(春)宝塚記念圧勝劇(+お姉ちゃん)ですっかりファンになりました。ロンシャンでも逃げ切ってほしいですね。ただ背負ってる期待が大きすぎるドウデュースくんにも勝ってほしい……武豊凱旋門賞に勝たせるために生まれてきた馬になったら胸熱すぎるでしょ……

あと先日のセントウルステークスは感動で泣きそうになりました。桜花賞のころから推してたので……(ソングラインちゃん安田記念戴冠おめでとう。BCマイル頑張れ!)。スプリンターズステークスで今度こそ待望のG1制覇を成し遂げてほしいですね……

ユキノビジンは! 引けませんでした!(すり抜けで夏服メジロドーベルサクラチヨノオーが来たのでまあ良し)

追記

ペラールさんの解説動画見た方が分かりやすい。

https://www.youtube.com/watch?v=UgXq14ag85Q

anond:20220922081214

これ見落としてましたわ。教えてくれて感謝こちらの方がわかりやすいのでみんなペラール氏の解説動画を見てクレメンス

専門外って日本語起源についてってだけで、比較言語学で博士取られてませんか??

博士号って持ってないからわからないんですけど食べられるんですか? ご飯粒よりおいしいんですか?

ここでもいくつか紹介されているようにトマ・ペラール氏は日本語でもいろいろ書いているしTwitterやAcademia.eduなどでも積極的情報研究を公開していて我々素人にとってはとてもありがたいです

ペラール、ヴォヴィン、ローレンスの3氏は色々academia.eduに上げてくれてて助かりますよね。ところで素人はいったい……うごごご。

有り難い要約だけど、最後の「アルタイ語族2.0」だから胡散臭い、という部分はやや迂闊かと。当該論文はそうでなさそう、というだけで真に画期的論文によりアルタイ語族復権することは可能性としてはあるよね

もちろんそれはそうです。ちゃんとした比較言語学的な手法で「アルタイ語族」の存在実証できるのならそれは歓迎すべきことで、その可能性は残されています。ただ、これまで数百年にわたって研究が続けられてきて熱心な擁護者も大勢いるのにまだ確固たる同系の証拠が出てきてない、というのは相当に重い事実ですよね……。ロベーツ氏は「民族主義的な議題を持つ人々」のことを揶揄してますけど、日琉語族の分類というのはまさにその「自分たちの言語はどこから来たのか」というルーツ探しの情熱に取り憑かれた人たちがいっぱい研究して、それでもなお結論が出ていないテーマなわけで(cf. 日本語の起源 - Wikipedia)。

日本日本語起源について野生の専門家増田意見を聞いてみたい

anond:20220922103201

増田はドシロートなんでなーんも独自見解は持ってないですが、古代ロマン的な観点からanond:20211121124146でも言及した大陸倭語仮説が面白そう(「大陸倭語」の存在はまだ定説にはなってないことに注意)。島嶼倭語(仮に「大陸倭語」の存在実証されない場合は日琉語)のUrheimatは五十嵐氏の指摘に沿えば近畿地方のあたり(多分四国ではない)。日琉語族列島半島にまたがって分布していて、そのうち大陸倭語が南進してきた朝鮮語族同化されたと考えると古代日本朝鮮半島との関わりに色々納得がいく(繰り返すように素人古代ロマンといくつかの論文に基づいて妄想したものです)。では仮に対馬海峡をまたいだ日琉語族存在実証されたとして、そのUrheimatは……どこでしょうね? なんもわからん

あ、トラバでやたらゲノム研究URL貼ってる人は、(もし同一人物なら)去年の議論血統言語系統混同したり(anond:20211121201022)、論文増田の内容を理解できてなかったりする(anond:20211121224311)ような人なので、マトモに相手する価値はないっすよ。一応ご忠告

参考文献

2022-02-24

anond:20220224084649

シベリア出兵の時にもう少し頑張っておけばなあ

ブリヤートモンゴル系)とかツングース族とか独立させてやればよかった

2021-11-22

anond:20211122111300

黄河文明書き間違えたりBC記述すっとばしたり色々間違えててごめんね…

今までの情報を元に西遼河流域の文明住民年代順にまとめるとこうかな

 

年代文化遺伝子補足
9000年前粟などの農耕民不明Robbeets(2021)でトランスユーラシア祖語の話者推定している
7000-5000年前紅山文化Y-DNA:N(ウラル語族)Wang(2021)で日本人92%を構成するとしている
4000-3500年前夏家店下層文化相変わらずY-DNA:N?
3000-2500年前夏家店上層文化Y-DNA:O2(シナチベット語族)、C2(縄文人)

 

日本人遺伝子92%を構成しているのは5000年前に西遼河流域に住んでいた住人とのことで

これはほぼ紅山文化に相当すると考えていいだろう(考古学的にも問題ない)

しか父系のY-DNA:Nは日本人にも朝鮮人にもほとんど出ていないので

先日琉祖語の担い手はmtDNA:D4

 

そしてRobbeetsがトランスユーラシア祖語の話者が4000年前の遊牧民であるという「通説」を否定たかった理由もここでわかる

Wang(2021)で知られるように5000年前の西遼河流域人にモンゴルツングースと共有する遺伝子がないため

もっと昔に共通祖先を持っていきたかったんだろう

で、目論見どおり雑穀の語彙に共通性が見られるので、今回の論文を出したと

 

この論立て正しいんだろうか

ここの前提が崩れたら一気に崩壊する気がする

2021-11-21

anond:20211121203827

ありがとう。全文はとても読み切れなかったんで指示のあった部分だけ読んだんだけど

西遼河流域民は朝鮮を経由して日本寄与したと書いてあって、通説(遺伝子的には渡来系8割・従来系2割)と非常にマッチするんだけど

概要記載のとおりモンゴルツングースにはこの西遼河流域民の遺伝子を共有していないとはっきり書いているんで

元の話題トランスユーラシア祖語仮説を真っ向否定する形になっている。元の話題は補強できないと見ていいかな?

 

遺伝子から系統論としては、最近話題に上がった「古墳人」も含めた三重構造仮説との整合性が気になる

https://www.fnn.jp/articles/-/255397

従来渡来人として一括りにされていた遺伝子を「弥生人」「古墳人」に2分する説なんだけど

まるっと西遼河流域民92%と分析してしまたらこ区別がつかないのではないか

最新の情報整合性が取れないので気になってる

anond:20211121192812

現代日本人の遺伝構成が、西遼河流域の青銅器時代92%と縄文人8%の混成で説明でき、黄河流域からの影響は無視できるほどだ」とする論文が出ている

それはどこら辺に書いてるの…

https://www.nature.com/articles/s41586-021-03336-2

ここ見たら記事本文が有料だったんで概要しか見てないんだけど

 

くらいの情報しかない。

青銅器時代東アジアで殷周あたり、すなわち3500-3000年前くらいなんで、

この時代の西遼河流域の農耕民はシナ=チベット語族と思われるんだが

 

例え遺伝子に多くの寄与があったとしても、それは言語継承に影響がなかった

すなわち今の南米大陸におけるインディオ遺伝子(言語的にはほぼスペインポルトガル語に置き換えられた)

に相当するものだと思われる

日本語の原郷についての論文うさんくさいのはこの論文の主たる論点があまり知られてないか

anond:20211121124146

 

結論うさんくさいという話はよくわかる

なんでこんなになってしまったのかというと、Robbeetsさんがこの論文で言わんとしている論点についてあんまり説明してくれてるメディアがないか

どんな論点を言いたかったのかというと

 

日本語朝鮮語モンゴル語トルコ語満州語(ツングース語)などが同一のトランスユーラシア祖語に遡るのは前提としておいて

その祖語は4000年前に遊牧民が話していた言語(通説)ではなく

9000年前に農耕民が話していた言語である

 

ここはMainの章の2,3段落目にはっきり書いてあることを訳しただけなんだが

トランスユーラシア祖語(あるいはアルタイ祖語)と呼ばれている奴が4000年前の遊牧民が喋っていたという通説が

日本国内全然有力でも何でもないので論文新規性についてピンと来る人間がいなくて、国内メディアもこの説明ができなかったと思われる

 

果たしてトランスユーラシア祖語を前提としていいのかどうかは俺もちゃん判断はできないんだけど

論文内でこの前提を受け入れる根拠として出している出典が

論文1 ((Starostin, S., Dybo, A. & Mudrak, O. Etymological Dictionary of the Altaic Languages Vol. I– III (Brill, 2003).

Return to ref 1 in article))

論文2 ((Blažek, V. Altaic Languages. History of Research, Survey, Classification and a Sketch of Comparative Grammar (Masaryk Univ. Press, 2019).

))

論文3 ((Robbeets, M. Is Japanese related to Korean, Tungusic, Mongolic and Turkic? (Harrassowitz, 2005).

Return to ref 18 in article))

論文4 ((Robbeets, M. Diachrony of Verb Morphology: Japanese and the Transeurasian languages (Vol. 291 in Trends in Linguistics. Studies and Monographs) (Mouton de Gruyter, 2015).))

 

なんで心細いことこの上ない

 

また、最古で1200年前くらいにしか文献が遡れないこれら諸語の祖語を9000年も昔に設定して大丈夫なのかという不安もある

そりゃ一応インドヨーロッパ祖語も9000年前に遡れるんだけど、これらは3500年遡れるヒッタイト語の記録なんかが残っている

 

まあ結論としては元増田と同じくうさんくさいって事になります

----

追記 : はてな記法脚注ってどうやるの

日本語の原郷」についての論文を読んでみた

歴史言語学についてはまったくの素人だけど、最近話題になった「日本語の原郷は「中国東北部の農耕民」 国際研究チームが発表 | 毎日新聞」(はてブ)っていう記事の元になったロベーツらの論文(Robbeets et al. 2021)を読んでみたよ!

結論

うさんくさい

前提知識

うさんくさい理由1:その系統は正しいの?

トランスユーラシア語族系統関係、ちっとも証明されてなくね?

著者のロベーツは過去に著書(Robbeets 2015)を出版して、そちらでトランスユーラシア語族系統関係証明したとしているようである。残念ながら増田はその著書を読めていないので、著書の方では厳格な比較言語学手法系統関係証明されているというなら恐れ入谷鬼子母神シャッポを脱ぐしかないのだが、正直言ってめちゃめちゃ怪しく見えるよ……この論文では農業関係の語に絞って借用も含めた系統が論じられているんだけど、正直かなり無謀な気がするし、なんでこれでトランスユーラシア語族証明された扱いになってるのかちっともわからん。さすがに著書の方では基礎語彙の対応に基づいた議論してるんだよね? うーん……

かいツッコミになるけど、論文のSupplementary Informationで、お米を表す「まい」という語について論じている。著者らは琉球祖語に*maïを再建するんだけど、そこから派生した語形として与論語mai、沖縄語のmeeやmeと並んで奄美語misiやmiisɨを挙げている。いやいやどう考えても後者「めし」転訛だろ(標準日本語のエ段に対応する母音琉球諸語だとしばしばイ段になる)。まさかとは思うけど「まい」と「めし」区別がつかないで日琉語の系統を論じてるの?

追記:「それそもそも呉音じゃね?」というid:nagaichiさんの指摘を受けて追記。この論文ではちゃんと「The Chinese loan morpheme is also found in Sino-Japanese mai and entered Proto-Ryukyuan as *maï ‘rice’」と書かれていて、漢語から借用語であることは前提になってます。これは日本語の「早稲(わせ)」が朝鮮祖語*pʌsalから来てるんじゃね? っていうことを説明してるパートに付け足された部分で、借用語であることが誰の目にも明らかな「まい」に言及するのは蛇足じゃねーのと思うんですが……)

っていうか日琉祖語や琉球祖語の「土」が*mutaになってるけど何これ? *mitaじゃないの? 日本語方言形にmutaがあるから*mutaを再構したのかな? でも先行研究(ヴォヴィン 2009: 11)で指摘されてるように祖語形は*mitaだよね……(cf. 八丈語mizya)(なお標準語「つち」は先行研究によれば朝鮮から借用語

さらに、著者は3年前の論文の中でトランスユーラシア語族系統推定しているが、その系統樹では、南琉球語群(先島諸島の諸方言)のうち、まず八重山語分岐して、次に宮古語与那国語が分かれたということになっている(Robbeets and Bouckaert 2018: 158)。……なんていうか地図見ておかしいと思わないのかな。もちろんそんな分岐絶対にありえないと言うことはできないけど、こんな分岐はこれまでの琉球研究提唱されたこともない。もっと言えば、ウェイン・ローレンス2000; 2006)の言語学的な研究によって、宮古語には見られない改新与那国語八重山諸語が共有していることが明らかにされている(つまり琉球祖語がまず宮古八重山に分かれ、八重山祖語から与那国語分岐したと推定される)。大丈夫? 日本語の先行研究ちゃんと読んでる?

余談。本論文はやたらと琉球諸語から例を引っ張ってきてるけど、個人的には「本土日本語」は側系統であって琉球諸語は薩隅方言姉妹関係にある南日本語派の一分岐だという五十嵐陽介(2021)の分析妥当だと思うので、根本的に日本語琉球語を姉妹群とするかのような系統樹には納得できないんだよな(ちなみに五十嵐研究活字になったのは今年だけど5年ほど前から活発にあちこちで発表されててレジュメはresearchmapで誰でも読める状態だった。まあプレプリント以前の発表原稿の段階のもの引用しろというのは酷だと思うのでロベーツが参照してないのは仕方ない)。考古学的・人類学証拠からは、琉球列島へのヒトや言語流入比較的遅いことが推測されるけど、その頃にはとっくに日琉語は複数系統分岐してるはずなんだからcf.万葉集』の東国語)、琉球語が日琉祖語まで遡る古い系統か? っていうとどう考えても違うわけで。

うさんくさい理由2:他の研究からの評判が微妙

ロベーツらの研究依拠しているソースの1つに、セルゲイ・スタロスチンというロシア研究者による語源辞典がある。しかしこのスタロスチンという研究者は、日本語が「アルタイ語族」に属すという証明のために色々と強引な当てはめをやっているのだ。アレクサンドル・ヴォヴィンは、スタロスチンがいかにテキトーなことを書いているか検討している(Vovin 2005; ボビン 2003: 19–26)。たとえば、スタロスチンは日本語に基づいてアルタイ祖語に*u「卵」を再構するのだが、これはどう見ても「卯」と「卵」の取り違えである。また、スタロスチンは日本祖語に*situ「湿っぽい」を再構するが、「湿」をシツと読むのは音読み(=漢語からの借用)であることは説明するまでもないだろう。こんないい加減な「語源辞典」を使って日琉語の系統を論じるってかなり勇者だと思わない?

(っていうか、スタロスチンをはじめとする「アルタイ語族」説の支持者、与那国語標準語のyにdが対応する(cf. duru「夜」;dama「山」)のを祖語形の残存だと主張してるのか(Vovin 2010: 40)。思ってた以上にやべーな)

案の定、ロベーツの著書も他の研究からボロクソ言われているようだ。ホセ・アロンソ・デ・ラ・フエンテは、彼女の著書に対する書評で、「Throughout the book there are inconsistencies which may stem from a lack of familiarity with the languages involved and their scholarly traditions」(Alonso de la Fuente 2016: 535)として、彼女満洲語転写が実にテキトーであることを指摘している。前述のヴォヴィンはさら辛辣なことを書いている(Vovin 2017。出典表記は省略)。

The recent attempts to prove that Japanese is related not only to Korean, but also to the “Altaic” languages fare even worse. In spite of the devastating critique that has been leveled at these quasischolarly publications, they [Starostin and Robbeets] still continue to sprout like mushrooms after the rain, greeted, of course, by yet another round of devastating critique...

こんなこと書かれたら僕だったら泣いちゃうな……

なおこの論文朝鮮祖語の再建にも問題があるらしい。以下の連ツイを参照>https://twitter.com/ian_joo_korea/status/1458706979870838788

まとめ

少なくとも言語学の側面からは非常にうさんくさい

増田素人なので確信を持って間違いだと言い切ることはできないけど、論文全体から信頼できない香りがプンプン漂ってきてる。

考古学とかそういう方向から考察は知らんけど、言語学的な根拠については賭けろと言われたら間違ってる方に賭けるね。

追記:こっちの増田anond:20211121201022も見てね)

蛇足だけど

このへんの言語史については、古代朝鮮半島には幅広く日琉語(大陸倭語;Penninsular Japonic)が分布してたんだけど、北方から朝鮮話者が進入してきて言語が置き換わった、という説(Vovin 2013)が個人的には面白いなぁと思う(大陸倭語については、Vovin 2017; 伊藤 2019; 2021も参照)。いや、素人の考えだからひょっとしたら大間いかもしれないけど。ただ、仮に大陸倭語の存在を認めるなら、日琉語の故地(Urheimat)が列島の外にある可能性もあるわけで、故地をめぐる議論どうしようかっていう議論は生まれてくるところだと思う。

あと、この増田で「標準語」って言葉を使ってるのにツッコミが入るかもしれないけど、国が言語規範を決め全国に普及させているというのを無視して「共通語」と呼ぶのは国家による言語政策権力性を覆い隠すから良くないと思うので「標準語」と呼ぶ派です。

ところで

著者のRobbeetsさん名字を「ロッベエツ」と書いてる新聞があったけど、日本語表記するなら「ロベーツ」じゃない? ベルギー研究者らしいけど、bが重なってるのは詰まって読むこと(促音)を示してるんじゃなくて、その前にある母音が短母音である(「ローベーツ」ではない)ことを示すためのものでしょ、オランダ語的に考えて……。

それにしてもマンチュリア(いわゆる満州)を「中国東北部」と呼ぶの、ヤウンモシㇼを「日本北部」と呼ぶようなもので、先住民族である満洲人の存在を透明化し漢人の入植を自明のものとする植民地主義的な用法から政治的に正しくないと思うんだよな。ちゃんマンチュリア or 満州と呼ぶべきでは。

Q. 増田って賭けに強いの?

A. スプリンターズSではダノンスマッシュ秋華賞ではユーバーレーベン、菊花賞ではステラヴェローチェ天皇賞(秋)ではコントレイルエリザベス女王杯ではアカトリノムスメの勝利を予想していました。マイルCSではグランアレグリアに賭けてますジャパンカップは今度こそコントレイルが勝つはず。

追記

niwaradi そもそも著者が多く日本大学学者が共著者に10人以上いてNature編集部レビュワー賛同したはずなので学会で揉めてる分野なのかな?日本語朝鮮語の共通祖先はどこかにあると思うが。

共著者が多いのは、色んな分野にまたがって調査してる理系論文だとよくあることだと思いますNature基本的理系雑誌なんで言語学みたいな文系領域事情にはあんまり明るくなかったんじゃないでしょうか。ちなみにその「日本語朝鮮語の共通祖先はある」って考え方にめっちゃ反対してるのが本文で言及したヴォヴィンです。最新の論文(Vovin 2021)では日本語起源は「アルタイ語族」じゃなくてオーストロアジア語族だーって気炎を上げてます(ほんとかよ)。

behuckleberry02 大野晋先生が生き返ってあと数十年研究してくれんかな

大野晋日本語タミル語起源説はただのトンデモです。結論どうこうじゃなくて方法論の時点でおかしい。詳しくは長田(1998)や山下(1998)を参照してください。

c_shiika 令和の騎馬民族征服王朝説だったか…… / ウマ増田さんはウマの記事ちゃん増田投稿するべきだと思うの

手持ちのジュエルを全部つぎ込んだけどメジロドーベル引けませんでした!!1!(代わりにすり抜けでナリタタイシンが来た)

mori99 話は逸れるが、恐れ入谷鬼子母神とか、増田、何歳だよ。※あるいは寅さんフリーク

ナウでヤングなガラスの十代だっちゅーの

参考文献

2018-05-03

第一回 ゴールデンカムイ

ゴールデンカムイ」見てますか? 面白いですよね! 原作全部読んじゃって「もっと・・・状態

そんなあなた明治維新前後(18世紀20世紀前半)の北海道舞台にした伝奇/アクション作品を紹介してみようと思います

1)

「地の果ての獄」

 言わずと知れた山田風太郎大先生明治もの

 ”北海道一般の人にとって地の果ての島だった明治19年。薩摩出身青年有馬四郎助は月形の樺戸集治監の看守に着任した。そこは刑期12年以上の凶徒を集めた人間運命の吹きだまりであった。正義感あふれる四郎助は、個性的囚人たちが起こす奇怪な事件に厳しく対しようとする。だが、元与力キリスト教教誨師・原胤昭との出会いがその運命を変え始め...。明治に生きる人々の姿をつぶさに拾い上げた圧巻の人間ドラマ。”

 原さんは『明治十手架』にも出てきます

2)

「旋風(レラ=シウ)伝」

 北海道出身朝松健先生作品。本作はクトゥルーネタあんまりない。

 ”明治二年、箱館五稜郭は陥落し、戊辰戦争最後の戦いは終わった。南部藩出身の若き遊撃隊士・志波新之介は、古参兵士たちのはからいで死をまぬかれ、榎本武揚から手渡されたスペンサー・カービン銃を手に北へ向かう。前途に広がるのは、コロポックル邪悪な罠を仕掛け、犬神が姿をあらわし、淫魔が歌声を響かせる、いまなお伝説が息づく蝦夷の大地。残虐きわまりない北海道開拓使・仙頭左馬之介が率いる討伐隊と死闘を繰り広げながら、新之介は自由の地を目指して歩を進める。” 

 現代北海道ものでは「魔犬召喚」「凶獣幻野」がお勧めです。北海道こわい!

3)

五稜郭残党伝 」「婢伝五稜郭

 こちらも北海道出身佐々木譲氏の作品

 ”戊辰戦争もあと二日を残し、五稜郭で幕を閉じようとしていた。「降伏はせぬ。」と、陥落前夜、自由を求めて脱出した旧幕府軍の凄腕狙撃兵、蘇武と名木野。逃げのびる二人は、アイヌ土地を蹂躪する新政府の画策を知り義憤燃えた。だがその背後に迫る、新政府軍残党狩り部隊足音酷薄執拗な追撃戦が開始された…。広大な北海道を血にそめて追われる者と追う者が、男の誇りを賭けて戦う冒険小説。”

 佐々木氏北海道舞台キング風の現代ホラー「白い殺戮者」で「アイヌ・ライケ・ウパシ」=「人を殺す雪」というアイヌ民話について登場人物に語らせていたりします。

4)

蝦夷地別件」

 船戸与一氏の作品

 ”十八世紀末蝦夷と呼ばれるアイヌ民族は和人の横暴に喘いでいた。商人による苛烈搾取、謂れのない蔑みや暴力、女たちへの陵辱…。和人との戦いを決意した国後の脇長人ツキノエは、ロシア人船長に密かに鉄砲三〇〇挺を依頼する。しかし、そこにはポーランド貴族マホウスキの策略があった。祖国を狙うロシア南下政策を阻止するべく、極東に関心を向けさせるための紛争の創出。一方で、蝦夷地を直轄地にしようと目論む幕府と、権益を死守しようとする松前藩の思惑も入り乱れていた。アイヌ民族最後の蜂起「国後・目梨の乱」を壮大なスケールで描きだす超大作。”

  脇長人て何?って思って検索したら 夷酋列像 が はてなキーワード登録されていました。

5)

天動説

 山田正紀作品山田氏の北海道舞台作品というと「謀略のチェスゲーム」「人喰いの時代」なんかがすぐ思い浮かぶけど、昭和なんですよ。時代を合わせると「ツングース特命隊」「崑崙遊撃隊」あたりになるんですが…

 本作は第一部が江戸編(ザ・”江戸時代”)、第二部が蝦夷編の伝奇小説ラストはむりくり明治維新期まで到達。あんまりアイヌは出てきません。

6)

カムイの剣

 矢野徹作品アニメもある。

7)

王道の狗」

 安彦良和のまんが 全編北海道ってわけではない。

 ”明治時代中期、北海道開拓使役させられていた若い囚人二人は脱獄し、それぞれの道を歩み始めた……。壮大なスケールで描く歴史長篇漫画

どうでしたか? アフィサイト並みに読んでない作品も挙げてみました。

ちなみに「ゴールデンカムイ」読んでません! ごめんなさい!!

2008-09-22

RE:オカン全能説

http://anond.hatelabo.jp/20080921222309

俺のオカンよ、お前は全知全能だよな。クレイ研究所の七大懸賞問題も、宇宙物理法則の統一理論も、複雑系も、太陽の中心や宇宙の果てやツングースか爆発がどうなってるのかも、ネロ皇帝の思惑も道端の雀がいつどちらに逃げるのかもタモリが秘蔵しているネタも、全て知っているんだよな。じゃなきゃ俺に対してああも勝手な仮定を置いてあれこれ言えるわけないよな。

 
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