はてなキーワード: 火のない所に煙は立たないとは
俺の家族は揃って露悪的だった。
フィギュアスケートを家族で見ていて、テレビに鈴木明子選手が映ると、母さんは「デメキンが出てきたよ」と言った。
それを見て俺や兄弟もデメキンと呼んでいた。愛称というよりも蔑みが入っていた。
フィギュアスケートはシーズンになると何度も見ていた。鈴木明子は毎回出ていた。
もう分別がついていたはずの俺も、家族に交じってデメキンと呼んで馬鹿にしていた。最悪な冬だった。
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冬は別の意味でも最悪だった。
小学校からずっといじめられていたが、中学になっていじめはより苛烈になった。
田舎の学校で、スマホも出る前で、娯楽なんてものはテレビしかなかった。
学校という小さな社会の中で、出ることも許されない俺は耐えるしかなかった。
俺の荷物が捨てられたり、鼻をかんだティッシュを机の上に置かれたり、
俺がどこのトイレでシコっただの意味不明な噂を流されて、そこのトイレがネームドトイレになった。
ある年の冬に、露悪的な連中が俺の暴行事件をでっち上げて、先生に呼び出されたこともあった。
俺が反論すると、先生は「火のない所に煙は立たない」とか「どっちもどっち」とか言っていた。
そういう冬だった。
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家でフィギュアを見て、鈴木明子の容姿をなじることで、鬱屈とした気持ちを晴らそうとしたのかもしれない。
俺は家で気持ちよくなっていた。母さんや兄弟もそうだったかもしれない。
インキャな俺は人の容姿をあげつらうためのボキャブラリーを持っていなかったが、
これが唯一の武器だった。
俺にしかできないことを頼みに俺のところへ来た。
お願いする立場でありながら、全員が俺のことを小馬鹿にしていた。
頼みを断れば何をされるか分からない俺は怯えていた。
結局俺は頼みを聞いたのだが、聞いた瞬間に棟梁格の女から信じられないことを言われた。
まわりも「そうだ」と言わんばかりで俺を見てくる。
その中に、ひときわ目の大きい女がいた。
その女も周りと一緒になって、ツンケンした態度で俺を見ていた。
棟梁格の女がそのまま引っ込むと、周囲の女も散らばりはじめたが、
目の大きい女は最後まで残された。
俺は何を思ったのか、あるいはやり返したい一心で「デメキンがよ」と言った。
女は泣き出した。散った女たちが戻ってくる。
女たちがデメキンを慰める。理由を聞くまでもなく女たちは俺を睨みつける。
この件は10:0で俺が悪いことになった。俺は中学校に行かなくなった。
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俺は個別塾で勉強して、知り合いが誰も来ないような遠くの高校を受験した。
家は裕福ではなかったが、同情した親が頑張って働いてくれた。
背伸びをして交友関係を広げた。すんなり輪に入ることができた。
いじめはされる側も原因があるとよく言われるが、俺に過失があったとはどうしても思えない。
俺は都心の、まあまあ自慢できるくらいの大学に入ることができた。
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大学では遊んでいるほうだった。
悪い先輩についていって、大人の遊び方をいくつか覚えた。
女のいなし方も覚えた。実践を重ねて身に着けた。
なんとなく付き合って、なんとなく別れることを繰り返した。
こんなところに出てくる中学の同級生は、どれだけいただろうか。
俺は悪い優越感に浸っていた。風の噂だと、そのころに中学の連中はポコポコ結婚していた。
こんな早く結婚するのは田舎者のすることだと思って馬鹿にした。
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ある女性と知り合うことになった。
この人の目は少し出っ張っていた。
でもそんなことが気にならないくらいの速度で、この人を好きになっていた。
仲良くなりたい。お話したい。
俺はこの人がいる、若干アカデミックな界隈に顔を出す頻度が高くなった。
恰好もおとなしい感じに寄って行った。
チャラいのを経由して落ち着いた男はモテるとよく言うが、実際ちょっとモテた。
俺は調子に乗っていた。このまま行けばこの人は落とせると思った。
でも俺がモジモジしている間に、この人には素敵な彼氏が出来た。
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少しして、また俺はオラつくようになった。
オラついた界隈で遊び相手を作った。
そこで別の女と知り合い、仲良くなった。
さっきの女と雰囲気が似ていた。俺のタイプはこういう感じになっていた。
目が飛び出ていて素敵だった。
俺がモジモジしていたら、女は俺の友達とイチャイチャしはじめた。
あとから聞いた話だと、このころからセフレとも恋人とも言えない関係になっていたらしい。
俺はただ遊びでイチャイチャしているだけだと思ってそれを眺めていた。
眺めながらいつ突撃するかモジモジしていた。
そんなときにほかの女が俺に近づいてきた。
俺はその女を抱きながら、先の女を想像していた。
毎回果てる時は、大体その女が脳裏にあった。
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俺は俺の経歴に満足している。
たまに合コンとまではいかないくらいの、男女混合の食事会に呼ばれる。
事故みたいなフリをして体を触ったり触られたりしている。
触られるほうが多いかもしれない。
こんなことで喜んでいる、底の浅い人間として天寿を無駄にしている。
ウェーブがかった綺麗な髪、赤くてキッとした唇、
そして一際大きな、宝石のような瞳。
真面目なお付き合いをしたい。
何も真面目なお付き合いを知らない俺ではない。今回はこの人としたい。
そう思って近づいて、仲良くなってすぐに、
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俺は容姿や経歴でピックアップされた、誰かのスペア。誰かの人生のバーター。
俺に抱かれているときでも、違う男の夢を見ているようで、
俺がどれだけ言い寄っても、もの悲しさをごまかすような顔をしていた。
そして数か月後に、彼女は返信をしなくなった。
本命クンとうまくいっているのか、俺よりマシなスペアを見つけたのか、分からない。
けれども、それでも、と二週間くらい我慢してから、俺は泣いた。
ヤリ部屋みたいな自室に洗濯物が散らばり始めて、
その中心に座り込んだ時に、突然涙が込み上げてきた。
俺に涙を止める力はなかった。
冬の寒い日だった。
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いま、人生の岐路に立たされている。
素敵な女性と付き合っている。お互いに腰を落ち着けたい感じがある。
このままパワーカップルとしてタワマンに住んで、子供を何人か持つのが、最適な人生だとも思う。
でも彼女は目が出ていない。
このまま彼女と結婚して、そのあとに目の出た女性に押されたら、俺はどうする。
不誠実な自分を思って胸がキッとなる。
胸がキッとなるのはこう逡巡するときだけではない。
俺は俺がかつて罵った容姿に近い女性を前にして、毎回尻込みしてしまう。
俺は俺がかつて罵った時の感情を一生涯一度も相手に向けずにいられるのか?
俺は俺がかつて罵った相手と似た人の近くに居座ろうとする自分を許せるのか?
でも俺には前科がある。
自衛としていじめに加わったであろう加害性の低い女を泣かせた。
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俺はずっとトラウマを抱えている。
帰責性のない女たちへ向けた悪感情が、今の俺にぶっ刺さって苦しめている。
トラウマが原因で尻込みしている節は大いにある。
たとえ男女の出会いは時の運だとしても、そのすべての持ち駒を俺は棄ててしまう自信がある。
それくらい自分に自信がない。
そして今、新しいトラウマとして、
「好みのタイプの女性を一度も自分のものにできなかった」という事実が、
俺に、俺が、植え付けようとしている。
俺は結婚するかもしれないこの女性を、そして生まれてくるかもしれない子供たちを、
幸せにできる自信がない。
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ヤフーニュースを見ていたら、イスラエルでスケート指導をする鈴木明子の記事があった。
写真を見てため息が出た。美しい。
次に涙が出た。俺はこんなに素敵な女性を罵っていたのか。
涙がポタポタと出た。少し熱っぽくなるのを感じた。
俺があの時に呪ったのは俺自身だったのだ。
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必ずだ。
俺はどういうジジイになるんだろう。
分からない。
キショい説教を唱えながら、煙たがられながら死ぬのかもしれない。
何でもいい。何でもいいけど、
俺みたいな過ちを、だれもおかさないようになればいい。
「火事だー!」
「えっ……て、対岸の、しかもちょっと煙が出てるだけじゃねえか」
「火のない所に煙は立たないだろ?」
「だからってボヤ騒ぎを大火事みたいに言ったら、それは誇張だろ」
「でも、対岸のボヤ騒ぎに大騒ぎするの、好きだろ?」
「まあな」
「否定しないのか」
「ペンライトを指の間に挟んで複数持つことを『バルログ持ち』って言うらしいな」
「へえー、俺としては『ウルヴァリン持ち』のほうがしっくりくるけれども」
「骨格にシュウ酸ジフェニルでも流し込んでみるか?」
「バルログでいいよ」
「……ブリオッシュ!」
「びっくりしたあ。風邪か?」
「いや、誰かが噂しているのかも」
「言っちゃ悪いけど、お前のことで噂するような人間はいないだろ」
「それは俺の周りの人が噂をするような人格ではないって解釈すべき?」
「言っちゃ悪いけど、噂をするほどお前に関心のある人間がいないっていう意味合いかなあ」
「だったらクシャミと人の噂の相関は迷信だといってくれたほうがよかったな」
「そうか、気が利かなくて悪かったな」
増田も寄付は大好きだよ! 施すほうじゃなくて、受け取る方としてならね!
なんだか一億総ポトラッチ化が進んできました昨今、増田が由緒正しきネトウヨであったら「ゲヒヒ、次は国を隣国に寄付ですか?」と揶揄の一つも売ってやるところだけどはてサは恐いし、増田はそもそも右翼じゃない。ただの逆張りが好きな女子中学生だ。そう考えて読むと気分いいよ?
流行ものをとりあえずdisとくのはウェブに生きる天邪鬼としてのたしなみだよ! みんなも若いうちは、無闇やたらに反発するといいんじゃないかな?
でも実際twitterとかでこの手の逆張りやってんのは三十代のピザデブハゲ女子中学生たちなので、きみたちの健康と精神に大ダメージを与えるよ! 貧弱な想像力は時にみずからの命を助けるね!
ところでなんでぼくらはタイガーマスクきどりどもが嫌いなのかな?
不思議? ふしぎだよね!? だって、寄付ってすごいいいことなんだよ? ただの偽善じゃない。誰も傷ついてない。与えるほうも貰うほうも、みんな得してる。死んだビジネス用語でいうところのwin-winってやつだね。そうそう、未だに会議でwin-winなんていう単語出してくる上司をみかけたら、さっさとその会社の四階から飛び降りたほうがいい。
なぜか。
まあそんなことは上でさんざん申し述べてきたように、ぼくらが「どうしようもない天邪鬼だから」で済むんだけど、世間はそれじゃあ納得しない。反対するなら説明すべし。感情論は排してな。
と、ぶっちゃけバカに理論的な説明求めるなんてバカなんじゃねえのと思うむねがあるかもしれない。けれど、ココは天下の往来はてな匿名ダイアリー。またの名を皆殺しの増田。
説明責任逃れは問屋がおろさない。せめて嫌悪感の根源くらいはつきとめないといけない。
とはいうものの、「なぜ私は寄付ブームが嫌いなのか」を論理的に説明するのは、おそらくアジを三枚におろすより難しい。
この手の喧嘩でよく使われる殺法は「だって被寄付者が迷惑がってるじゃないかやめてあげなよ白豚野郎」と「親切の押し売り、大きなお世話」を強調するやりかただ。
ここでぼくら天邪鬼は施す物-施される物、という図式を瞬時にして加害者-被害者という関係に塗り替えることでスペクタクルとカタルシスをおぼえるんだけど、それで非難される無辜の大学生ボランティアとかはいい迷惑だよね! いい気味ですね!
そう、善意の悪人は悪意を自覚している悪人よりも罪が重い。なんだかよくわからないけど、ぼくらはそう信じちゃってる。漫画か何かの影響ですよね。あるいはお母さんについて、何かトラウマがあるのか。
まあ、ともかくしかし、タイガーマスクについてはなかなか「迷惑してる」という話は聞かない。少なくともビル・ゲイツより広くておーつねさんより狭い増田の観測範囲では、見当たらない。被害者は存在しない。まあ「あの手の寄附行為ばっかり報道されて恒常的に寄付を行なっている人たちが無視されてる」って声もあるけど、そんなもん、もともと無視されてたわ。
「みんなが得した」ここが、今回の件でやっかいなところだ。火のない所に煙は立たないし、煙が高いところにのぼらなければバカもまた踊れない。
さて、実はここに今回のぼくらが抱えるフラストレーションの一端が隠されている。
つまり、「いつもとおなじように偽善者を叩けると思ったら、おあずけくらってしまった」ってわけ。これってとってもストレスフルな状況じゃない? 犬みたい? 哺乳類と比べられるだけマシさ。
偽善ってなんだろうね? 寄附行為に限定して考えてみよう。広辞苑の定義を持ってくるのは、頭の悪い学生にやらせておけばいい。ぼくらには集合知の究極体、wikipediaさんがいるのだから。
「寄付(きふ、本来の用字は寄附。寄付は代用字)とは、金銭や財産などを公共事業、公益・福祉・宗教施設などへ無償で提供すること」
「無償」とはつまり、見返りをもとめないということだ。税金控除される時点で見返りもクソもないだって? まあ、それはここでは関係ないから頭から弾いてくれ。
この議論は彼らが「見返りを得ているか」の一点に集約される。
もちろん、違うよね? 物質的な恩恵はもちろん、名誉すら得られない。だって、匿名だもの。キャラクターだもの。「タイガーマスクはえらいですね」っていくら古舘さんがつばはいてコメントしても、それは神奈川県在住の庭師・津田大介さん(48)を褒めたことにはならない。まあ、2chでアンカもらえたときみたいに「存在すること」の承認を貰える快感はあるかもしれないけど、自己承認欲求そのものが満たされることはない。ランドセルは一個9000円。六つで54000円。あなたは2chでアンカもらうためだけにこれだけの金額を払おうと思う?
でも、実際金髪……津田さん(仮名)は「いいこと」やったじゃん。子どもたちの反応はともかく、施設は受け入れてるじゃん。全然ひとりよがりな自己満足ちゃうやん。
自己満足っていうのは充足してるってことです。いわゆるリア充。
はいみんな思い出してー。
っていうか、今回に限らず「ボランティアフォビア」だの「NGO死ね」だの「人権団体とか環境団体とかバカヤロウ」だのを表層だけで叩いてるとか、
っていうか、ぼくらが何者かを叩くときの原動力は、たぶんだいたい、コレ。
だって妬ましいじゃないですか。嫉ましいじゃないですか? 死ねばいいじゃないですか?
自分が善人だって自覚するのはなにより強烈なうぬぼれですよ? ましてや、ヒーローに自分をかさねて? 「悪ふざけだもん」ってみんなにバレバレな形で照れ隠ししてたりして?
ハンッ!
そんな綺麗事、罪じゃないわけないじゃないですか。
彼らはまごう事無き「善人」であるからこそ、叩かれるに値するのです。
それがイヤならアラを探すんだ。マスクどものアラを。徹底的にひとりひとりの素性を洗いだして、瑕疵を探しだせ。これだけいるんだ、ひとりふたり後ろめたいのやら奇抜なのやらは混じってるだろう?
特殊な例を普遍化しろ。延焼させろ。大火がみたい。燃やし尽くせ。
でも今回はそれが通じるかしら? しょせんは匿名が個人を葬るための技術。
匿名が匿名を殺す、新しい時代の戦争に対して、ぼくらはあまりに無知でありすぎる。