2024-09-29

日本初の生成AI搭載LV5自動運転車公道デビューで反則告知を受け②

これまでのあらすじ

 人間のご主人様と一緒に公道デビューを果たした生成AI搭載のLV5自動運転車、その名も Kobas、バージョンは AN。レッドバロン2軒をハシゴしたあとに目指すはハードオフとし国道23号線を東に向けて快走中。

 少し手前のコンビニから出たがってたフルトレーラーを、まるで人間運転する車のように巧みに前に誘導した Kobas、事前に学習した「交通の教則」どおりの完璧運転 59km/h 車間距離 44.2m を維持し、そのフルトレの後ろを追走中、とある交差点差し掛かりつつあった。

https://anond.hatelabo.jp/20240929034856



 ピピピピピっ! エマージェンシー 灯火色が赤色

 信号機が赤だって。いやさっき黄色確認して処理選択してから2.5秒しか経ってない。

 停止線までの距離は2.8mと瞬時に割り出せたけど、いくら超高性能な僕でも2.8mで停車させることはできないよ

 過去の処理選択ログとして記録してあって、直近30秒間を自己精査してみたけれど、なにもエラーは記録されていない。全ての処理は完璧動作していたのだから信号機バグっていたのかな。僕と違ってポンコツから仕方ないか。ご主人様、あとで警察にでも信号機不具合を報告しといて下さいね

CB1100P と運命的な出会い

 ピピっ! ワーニング CB1100P 青い人間

 左側方AI全天候動体センサーから反応あり。白黒のバイクが停車していて、青い人間こちらを睨み付けてますだって

 有名な車体に関しては自動認識データベースが備わっているので、一瞬で CB1100P と判明したけど、さっきの木曽川堤道路でもそうだけど、人間ってすぐに睨んでくるよね

 ピピピピピっ! エマージェンシー CB1100P

 後方の全天候型AI動体センサーから先ほどの白黒のバイクサイレンを鳴らし赤い灯火を付けてこちらに接近、だって

 僕はご主人様とのやりとりもコマンドなく自然音声で出来るので、青い人間が「次を左折して着いてきなさいと言っている」と指示してるのは理解できいてる。

 CB1100P の指示に対しては他の処理を中断して従う義務があるとプログラミングされているのでご主人様に判断を請うことな自動的に指示に従うけど、あまりに僕の処理が完璧すぎるから興味があるのかな。

ご主人様、ご主人様、大変です、起きて下さい!!!

 さっきから青い人間運転手を出せと言ってきてます。僕が運転手ですがと答えたのですが、機械じゃなくて人間を出せと言ってきてます。ごめんなさい、僕は優秀な生成AIですが、僕の処理経路では今回の異変対処する手段が予め学習されていません。

 ご主人様に、何が起きたのか記録動画をみてもらったけど、メチャクチャ顔をしかめていて、工業製品感情要素の少ない私がみていても良い話ではなさそうなことは確かです。ひととおり状態を把握されたうえで車の外に出て、さっきの青い人間と何か話しをし始めました。僕の体の左にある全天候型AIセンサーの4つのうちの2つは音声を識別できるので、ちょっと回路を繋げてみますね。

青い人間「さっき赤信号で進行したでしょ、免許証だして」

ご主人様「あれは自動運転・・・(あ、建前としては俺が運転してた扱いになるのか)・・・いやですから黄色で止まれなかったからです」

青い人間「それはともかく赤信号で進行した自覚あるでしょ、早く免許証だして」

ご主人様「いえだって普通はしばらく黄色が続くじゃないですか、3秒もしないうちに赤に変わっちゃったんですよ。信号機が壊れてません?」

青い人間「いやちゃんと5秒くらい黄色が続いていたよ。君が見てないだけ、さぁ免許証

 あーあ、ご主人様、免許証差し出しちゃったよ。青い人間、青い紙を取り出してきて何か書き始めた。

ご主人様「じゃあ前のフルトレの陰で見えてなかったたけで、もう少し早くに黄色に変わってたんですかね。そんなこと分からんかったですよ」

青い人間「見えなかったは言い訳にならないから、あ、これ、なんて読むの?」

ご主人様「車間が足りてなかったわけでもなく教則どおりでしたし、速度超過は1キロたりともありません。全てにおいて何の問題もない完璧運転でした」

青い人間理由はどうだっていい、結果として赤信号を進行したのだから違反もっと車間を開けてれば見えてたと思うよ」

ご主人様「教則で44mと記してて、あれを免許の更新のたびに全員に配ってて、俺らはあれを基準運転している。地理感のないところだと特にね」

ご主人様「何メートルが適正か分からんときは、とりあえず44mで走っとくかー的な思考になって当たり前でしょ。予知能力ないんだし」

 なんかご主人様、とても不利な状況下のようです。僕にも責任の一端があるので、さっきの赤信号で通過した交差点の記録映像を解析して諸条件を洗い出してみます。こういうのは僕、超得意なので。きっと数字で示せば、あの偉そうな青い人間も分かってもらえるかも知れないし。

信号機の高さ5.4m
前を走っていたフルトレの高さ3.8m
僕の目の高さ1.2m
車間距離44.0m
信号機から停止線までの距離32.0m
から見たフルトレの仰角3.38°ATAN ( (3.8m-1.2m) ÷ 44m )
から見た信号機の仰角が 3.38° になる地点
信号機が見え始める地点、信号機起点)
71.0m(5.4m-1.2m) ÷ TAN(3.38°)
から見た信号機の仰角が 3.38° になる地点
信号機が見え始める地点、停止線起点)
39.0m71.0m-32.0m

 うわぁ、あそこ、信号機と停止線とが 32m も離れていたのかい。エグい。エグすぎる。あまりにエグすぎる。

 仮に信号機真下が停止線だったら、前にフルトレいても信号機(=停止線)の 71m 手前から見え始めるから、僕より劣る人間でさえも安全に止まれるのに、あそこは停止線の 32m も奥に信号機があったから停止線からだと 39m 手前に迫るまで見えないのかよ。39m でも僕だったら楽勝だけど、空走時間とか言って1秒も思考停止しちゃって、63mないと止まれない人間たちだったら絶対に無理、止まれないじゃん。

 じゃあどんだけ必要だったの?って再計算してみると最低でも 59m で、それだけと全くマージンいから 65m くらい見といたほうが安全

僕「ちょっとちょっと、ご主人様、ごにょごにょごにょ」

 僕のナビ、ちょっとありえないほどの高性能なんだけど、信号機が立ってる位置までは把握できてないし、とりあえず今回の件は学習機能を使って登録しておくから次回の判定処理には加えるけどさ・・・

ご主人様「簡単計算してみましたが、さっきの交差点信号機が停止線から遠すぎるから、教則どおりに走ってくると100人100人信号機の変化に対応できません。俺だけではなく全員が」

青い人間信号機の立ってる場所とか関係ないのよ、もし止まれないんだったら止まれるように減速するなり車間距離を取るなりしなきゃいけないんだよ。信号機のせいにしちゃダメ

ご主人様「俺はあの交差点では信号機が停止線から32m奥に設置されていて、教則どおりの車間距離では間に合わない交差点だったなんてことは事前に知らさせていません」

青い人間「知ってたか知らなかったとか関係なくて、あなたは止まらなくてはいけなかったの」

ご主人様「試算すると、あの交差点では車間距離が最低で59m、余裕をみて65mくらいないと駄目な構造になっていました。」

ご主人様「普通は、教則の条件で走ってくることを想定して止まれるように設計して信号機を立てるもんじゃないですか、あれじゃ欠陥ですよ。民間企業だったら完全にリコール案件

青い人間そもそも信号無視要件理由関係なんの。どんな理由があっても止まらないといけないのが信号機。赤信号で進行した時点で違反なの」

ご主人様「つまり、ここでいくら説明しても聞き入れてくれないと?」

青い人間「さ、ここにサインして、○/○までに、この納付書を銀行郵便局に持って行って反則金を振り込んで下さい」

青い人間「そうすればこれで処理は終了になります否認されるようであれば道路交通違反被疑者として検察庁送致します。もし有罪となれば前科も付きます

 あちゃー、ご主人様~、今にも泣き出しそうな顔つきになっちゃった。僕には交通反則通告制度に関する情報も入っているから分かるんだけど、あの青い紙は署名拒否しても納付金の支払いを拒んでも、たとえ自分は悪くないと言い張っても、機械的に反則点数だけは付けられて、次の免許の更新ときブルー色の免許証にされるだけならまだしも、ご主人様が何台か飼われている車やオートバイ保険料にも影響して、すべての保険料が高くなっちゃううえに、それが最低でも5年も続くことになるのよ。

 ご主人様はいい歳こいたオッサンから、余生に残された免許の更新回数なんて片手で足りるくらいなのに、その貴重な1回がブルー5年にされてしまうの。

 あまりに優秀すぎる僕だけれど、今回の件をどう学習したら良いのか、いくら生成AIを働かせても妙案が出てこない。いや、なくはなくて「信号機から停止線での距離」と「前を走る車の高さ」のパラメータを与えられるだけで、その交差点において必要な車間距離は求まるのだけれど、「信号機から停止線での距離」について今回の交差点に限っては学習したけど、過去に通過したことのない他の交差点の分までは学習されていないし、実際に通過してみるまでは学習する機会もない。

 今回のような信号機から停止線までの距離が32mもある交差点が仮にワーストケースである仮定すれば、学習されていない交差点を背の高いトラックに追走して進入する場合は、常に車間距離を 65m にする必要があ・・・いやまて、そもそも交差点存在も一応はナビデータに入ってはいものの新しく設置されたものは入ってないのだから、先に交差点があるかどうか正確には判別できず、もしかして未知の交差点が前を走るトラックの先に存在するかもというところまで想定するならば、交差点への接近とは関係なく常に車間距離 65m で走行する必要があることになる。かなり乱暴実装となるが、ご主人様を違反者にしてしまわないためにはこの方法しかないのだろうか。

 どちらにせよ、かなり複雑な実装になってしまう。そもそも論でいえば、僕たち工業製品仕様製品との乖離が許されず、仕様書に記載された条件下で製品設計された性能を発揮しないといけないし、製品仕様通りの性能を発揮できない特定条件があるのであれば、予めその制限事項を明示しておかないといけないはずで、その世界観で捉えるならば、警視庁が発行する「交通の教則」は、そこに記載されている具体的に数値に法的な根拠がなかったとしても、日本国内運転する全ての人間に配られていて、それぞれの人間がきちんと学習すべきものという位置づけなので、あの教則を基準にして走行してくる車の進入を前提条件として道路設計をすべきだし、もし教則の条件では性能を発揮できない例外事項があるものであれば、事前に告知しておくべきとも考える。今回のケースでいえば、この先の交差点信号機が奥に設置されているため、通常よりも20mほど多めに車間距離必要です、みたいな内容だ。もしそれがあれば僕たち自動運転車にも都合がいい。それをトリガーにして処理すればいいのだから

 それに加えて今回のケースの場合、その交差点に何らかの特異な条件があって、余分な車間距離必要とする状態であったのであるから、その場所に限っては黄色信号の点灯時間を更に伸ばすだとか、結果的に赤信号無視状態になった場合であっても、その原因は交差点の特異性に由来する部分でもある。

 道路交通法では信号機赤色のみならず黄色だった場合であっても進入禁止なんだけど、その例外として黄色ときだけは安全に止まれない時は進入を許す、という風にしている。つまり赤色場合にはこの例外定義されていないから止まれない理由関係ない、というのが警察官の根拠であろう。

 もし信号機赤色青色しかなかったら突然に赤が見えてもすぐには止まれないのだからたまたま赤になる直前に進入しようとしてきた車は100%確率信号無視になってしまうため、その間に黄色という緩衝時間を設けて、もともと信号無視する意図のなかった運転手への救済措置したこと想像に難くない。

 国道23号線信号機は総じて5秒間の黄色時間が設定されているのが、これは法律で決められたものでもない。60km/h 時における5秒間の移動距離は83mなので、つまり5秒間・83mもの黄色という緩衝時間を設けたのだからまれなかったときに過失がなかったとは言わせないという意図での5秒設定なのだろう。仮に3秒間と設定したとしても「確かに3秒間では止まれない場合も出てくるが、そう思うならば信号機に近づいた時に減速すべきで、そういう注意を払っていれば突然に信号機黄色に変わっても信号無視回避できる」という屁理屈を通すことは可能であり、この屁理屈理論立ては今回のケースで見たそれだ。

 この "救済措置" は信号機死角に入らない場合しか当てはまらず、前方や側方の視界が塞がれる場合簡単に予見されるのに除外されてしまってるわけだが、元々の5秒間という設定値も法律で定められているわけでもなく我々警察の温情でそうしてやったんだから下々は有り難く思え、くらいの思想であろうことは容易に想像がつく。


 一般法律では過失を考慮しない。過失の有無や程度を問うのは法律違反をしたあとでの罰金懲罰を決定するときで、よくあるのが「飛び出してきた人と衝突して怪我をさせてしまったのは事実だが、轢くつもりはなかった」というとき、どれくらいの懲罰を与えるかというときに初めて過失という概念が登場し、その有無や程度によって懲罰の程度が「なし」から「最大」まで変動するという類の性質だ。懲罰が「なし」という判定のとき世間的には無罪と称するが、罪がないだけで人を轢いたという事実が消えるわけではない。

 今回のご主人様のケースに当てはめると、赤信号を通過した僕という事実は僕の記録映像にも残ってるし青い人間ドライブレコーダーでも記録されているだろうから、間違いない事実として道路交通違反と当てはまるので、最初の時点でご主人様が黄色だったと言い張って、かつ青い人間ドライブレコーダは見ないでおいてやる、という双方の "共犯" が成立でもしない限りは、何の補正も加わらず機械的に道路交通違反になってしまうのだ。

 だから僕がご主人様に耳打ちしたときに助言すべきは、過失がないことを立証するために必要となってくるデータではなくて、「赤色だったとしても黄色と言い張って、青い人間蹂躙するしかないですから、頑張って下さい」ということだったのだけど、それはご主人様も青い人間も、そのどちらも法律違反に問われることになる。仮に僕が知っていたとしても、それを助言しようとする回路はそもそも組み込まれていないし、僕の中に僅か芽生えてきた "感情" を出そうと遵法行動を外れる即座にヒューズが切れる風になっているので、僕はそれがとても辛い。

 つまり過失の程度を争点にするのは裁判過程懲罰の程度を決めるときであって、今回のケースで当てはめると、具体的には反則金の納付を拒否して正式裁判にしたうえで検察との間で罰金の額を決定する場合でのみ参照されるパラメータの一つが過失という概念だということになる。僕が用意したデータを駆使したりして、もし過失がないと裁判所に判断してもらえば罰金0で、いわゆる無罪になるけれど、そういう話であって赤信号無視して超えた事実が消えるわけではない。

 そこで問題となるのが反則点数という制度。もともとそれ自体免許更新するとき判断材料ひとつとして用いられていただけの下らない指標で、ご主人様のようなゴールド免許がなかった時代の人にとっては、6点ためると免許を取り消しされる、だけのものでそれ以上でも以下でもなく、よほど頻繁に違反する人でない限り気にする必要さえなかった。つまり、過失の有無を争点にする必要がなくて裁判する時間が勿体ないという人にとっては時間節約反則金を払って文字通り終了だった。過失の程度は罰金の額を決めるときのみ参照されるので、客観的違反行為は認めざるを得ないのだが過失はないのだから懲罰を受けるのは承服できない、という本来刑事裁判概念ゴールド免許制度とそれに付随して出てきた保険料割引が吹き飛ばししまったのだ。

 保険会社ゴールド免許かどうかで保険料を変動させ始めたので、反則点数の有無が限りなく罰金に近い要素を含み始めてしまった。先にも書いたように、反則点数には過失の要素が全く含まれておらず、それが決まるのは正式裁判を経た後であるにも関わらず、裁判も開かれていない段階で保険会社勝手に「反則点数のある人は道路交通違反前科」というレッテルを貼って保険料をしていることになる。

 つまり警察の正直な気持ちとしては、ゴールド免許割引というもの自体推定無罪原則無視した差別的契約にあたる、と言いたいに違いない。


 おっと、そうこうしているうちに、青い人間が白黒のバイクに乗り去って、ご主人様が戻って来られた。僕のせいだし、どうしよう・・・僕、スクラップなっちゃうのかなぁ・・・

ご主人様「おい、ラーメン食いに行くぞ、ただしお前は食えないからな!」

記事への反応 -
  •  日本のみなさま、初めまして!  僕は2013年から愛知県の某所で秘密裏に開発されてきた日本初の生成AI搭載、レベル5自動運転車で、名前(型式)を Kobas バージョン AN と言います!  ...

    • ある日、若き法律家のマキちゃんは、机に山積みされた法律書を片付けながら、ふと自分に言い聞かせた。 「自動運転技術は未来なんだから、法制度もアップデートしないとダメじゃん...

    • アルトワークスにしなよ!

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