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自民党総裁候補の高市早苗さんが2030年代に実現する(最初は2020年代)と言って話題になった核融合。高市さんのキャラもあってか「そんなもんできるわけねーだろ」的に扱われることもあるが、実は世界の核融合ベンチャー企業では「2030年代に核融合実現」を掲げて100億以上投資を受けている企業が複数あるので、業界としてはさして驚きはないのである。というわけなので、いくつかの核融合ベンチャーと、官製の核融合実験炉であるiterについて簡単にまとめてみる。
冷戦終結の一つのシンボルとして米露が共同で建設を決めていたiterに、単独で実験炉を作るのを予算的に躊躇していた各国が相乗りしたのが現iterの体制である。
建設地決定の遅れや、上記の各国が機器を持ち寄って組み立てるという、みずほ銀行の勘定システムばりにカオスな体制のために建設は当初予定から20年近く遅れ、2025年初稼働(テストみたいなもん)、本格稼働は2035年という状況になっている。実はこの遅れが核融合ベンチャーが乱立する現在を作ったと言っても過言ではない部分があって、というのも、核融合ベンチャーにはiterに予算が取られて食い詰めた研究者が立ち上げた組織が多いのである。
炉形式は保守的なドーナツ型のトカマク。国際協調なのであまり斬新なアイデアは盛り込まれず、磁石も昔ながらの低温超伝導導体を使う。
投入エネルギーの10倍程度の核融合エネルギーを出すことを目指すが、投入"電力"ではないため、正味はマイナス。発電設備も持たない。ここで得た知見を元に発電を行う"原型炉"を設計する、というのが各国政府の公式な計画(ただし予算は決まってない)である。
iterなどの保守的トカマクが、よくあるドーナツ的な形のプラズマを作るのに対して、球状トカマクは球の真ん中に細い貫通穴を通したような形状をしているのが特徴。球状トカマクは磁場を使ってプラズマを閉じ込める(押し込める)のに有利ではあることがわかっているものの、まだ高温・高密度での実績は弱い。
トカマクエナジーは高温超伝導導体で球状トカマクの磁石を作ることを目指している。球状トカマクは保守的トカマクに次いで実績があるので(日本には九州大学にQUESTという中型装置がある)核融合ベンチャーとしては「目新しさ」は弱いものの、逆に堅さがあるともいえるだろう。米国プリンストン大学(NSTXという装置が燃えて止まっている)とも連携しているらしく、そういう意味でもチームが強い。
すでに100億以上の資金を調達しており、堅実に装置を作って稼働させている。すでに1500万度程度のプラズマを実現している(年内にはこの装置で1億度を目指す)ため、単純な段階としては核融合ベンチャーのトップランナーと言って良い。(世界最高温度は1000億単位かかった日本JT-60Uの5.2億度)
2030年までに電力を電力網に送り出すことを目標としている。
MITのチームがベースになって設立した核融合ベンチャー。もともとMITはAlcator C-modというトカマクを持っていたが、CFSはこれをベースにしたARCという核融合炉を提案している。現在はその前段階装置であるSPARCを建設中である。
Alcator C-modは小ぶりながら、世界最強の高磁場(最大8T)を作れるトカマクとして、他では真似できない成果を出していてプラズマ業界では存在感があったものの、2016年に完全にシャットダウンした。それと前後して元々力のあったMITの高温超伝導研究者とAlcator c-modのプラズマ研究者がタッグを組んで提案したのが、ARCである。
2030年代にはSPARC(商用炉でないものの投入電力より大きな出力を出すことを目指している)を稼働させることを目指しているので、ほぼtokamak energyと同じ目標を少し遅めの日程で掲げていると言ってよいだろう。
ARCという名前は、どう見てもアイアンマンのアークリアクターに引っ掛けているのだけど、残念ながらロバートダウニーJrは再エネ関連に投資しているようでアイアンマンとのシナジーはないようだ。
MTF(磁化標的核融合方式)と呼ばれる方式で核融合炉を目指すカナダのベンチャー。この企業はCEOの人のカリスマ的なやつで早期にお金を集めたという印象がある。CFSやtokamak energyがトカマクによる磁場閉じ込めでの長い歴史と実績(90年代に米国はMITの装置ではないが1000 kWを超える核融合出力を実現している)とチームの長い研究歴を背景に、ある種の堅実さをアピールしている一方で、MTFはテーブルトップでの成果も出ていない状態からスタートアップを初めている。液体金属をぐるぐる渦巻かせて中心に空間を作り、そこに吹き込んだプラズマを液体金属で爆縮して断熱圧縮で高温にするというシステムである。野心的であるということはゲームチェンジャーになりえるということであるが、一方で論文などの試算はかなり大雑把なものなので(プラズマや液体金属がうねったりせずにすごくきれいに断熱圧縮される計算)、「そんなきれいに押しつぶされてくれるもんかねぇ?」という印象を持っている人は多いだろうと思われる。
メジャーな核融合ベンチャーの中では多分最古参企業で、おそらく最大の資金投資を受けている企業。FRCという、トカマクなどとは異なる磁場閉じ込め形式を目指す。FRCはプラズマを閉じ込める磁場を、コイルではなくプラズマの動きで作る。5000万度を達成済で、2030年までに発電実証を目標としている点はCFSやtokamak energyと同じ。FRCは高温は作れてもプラズマを安定して維持する能力は低いので、5000万度を作ったからかといって他より先に進んでいるかというとそんなことはないが、装置を作りまくって成果を出しているのは確かである。元々は陽子とボロンの核融合反応を使った発電を目指しており、その反応で出る3つのアルファ粒子に由来して"Tri Alpha Energy"という名前だったのだが、今は他の形式と同じ重水素と三重水素を使った発電を直近の目標とした(陽子ーボロンも捨ててないらしい)ためTAEと名前が変わったらしい。
細かいところはよく知らないが、核融合一辺倒ではなく、応用技術の特許化などで収益をだしているらしく、そこはすごい。
装置名が「ノーマン(現行)」「コペルニクス」とかっこよいのも特徴。
京都大学小西教授が率いる日本初の核融合ベンチャー。小西教授は核融合炉ブランケット(後述)を専門にしている人で、一般向けエネルギー関連書籍を出してたりしている。
ただし、この会社は核融合炉全体を設計するのではなく、ブランケット(核融合で出た中性子を受け止めて熱に変換するところ)の設計を売る会社である。海外などのプラズマ屋さん主導の核融合ベンチャーは、ブランケット設計はあまり注力していないところが多いので、そういうベンチャーに「あんたの炉はこんなブランケットがおすすめですよ」と設計を売るのが仕事。まぁベンチャーの目的なんて投資額と投資家の意思でどうにでもなるといえばそうなので、お金が予想外に集まればプラズマ屋さんも集めて核融合炉全体の設計・製作だってやるのかもしれないが、さしあたり核融合炉自体を作る予定はなさそうである。ほかもそうだが、日本のベンチャーはこの2年でようやく2つ立ち上がっただけなので、今は正直海外と比べると桁違いに規模が小さいし弱い。ここも表に出ている研究者は一人だけである。
Webサイトの小西先生がちょっと疲れているように見えるのが気になる。
2019年創業。"日本初のフルスタック核融合ベンチャー"をうたう企業。光産業創成大(浜松ホトニクスという企業が作った大学院大学)の研究者が設立したらしいが、新しいため詳細は不明。"フルスタック"という言葉はよくわからないが、京都フュージョニアリングがブランケットのみの開発を売っていることと対比して、核融合炉全体を見て実現を目指すという意味だろうと思われる。レーザー核融合は米国NIFの2010年代の大コケにより世界的に元気がないので、生き残りをかけているのだろう。日本のレーザー核融合といえば大阪大学のレーザー研があるが、こことどの程度の連携をするかなども詳細不明である。
ちなみに、"EX-Fusion"で検索すると、ドラゴンボール関連ゲームでの同名の設定のほうが上位に表示される。
Webサイトのみ公開されている未設立の企業。まだ設立すらしていないので何もかも謎だが、噂では日本の核融合科学研究所のチームが作るようだ。核融合科学研究所は1億度を超えるプラズマの実績のあるヘリカル型(トカマクとは違うよじれたコイルが特徴)の装置を保有しているのだが、近々シャットダウンを予定している。その後は新規の大型装置の予算が確保できないために小型設備での基礎研究に舵を切るとされているため、内部の核融合発電所を本気で作りたい一派が起業するらしい。日本で"ヘリカル型"といえばここか京都大学なので、名前からしてどっちかであるのは確かだろう。