監督・原作・脚本・作画（手描き・3D）・音楽を一人でこなすアニメ作家・坂本サクの新作「アムリタの饗宴」と、前作である「アラーニェの虫籠」の同時上映（上映はアラーニェ → アムリタの順）
- 一人で何でもこなすアニメ監督はたまにいる（たつきとか新海誠とか）けど、音楽までやるのは珍しい
アラーニェの虫籠［リファイン版］
- 不動産屋に騙されて不気味な団地で一人暮らしをする女子大生（CV:花澤香菜）。周囲で巨大な芋虫を目撃するようになり、彼女はそれを幻覚だと思い込もうとするが…。
- ほぼ前知識ゼロ（公式サイトにあるキービジュアルをチラ見したぐらい）で観に行き、「サブカル系の作品によくある(偏見)前衛的で独りよがりなだけの作品じゃないの～？」と侮っていたが、この先入観は覆されることになった。エンターテインメント作品としてちゃんと成立している。いやホントナメててすいませんでした
- 脚本は行きあたりばったりではなく(不条理だと感じる展開も無くはないが)、世界観の設定を隅々までキッチリ詰めてて、話が進むにつれてそれが少しずつ明らかになっていくので飽きさせない。新たな事実が判明するたび、作品自体のジャンルが二転三転してゆく感もある。民俗学ホラー→サイコホラー→サバイバルホラー→終末もの…みたいな
- 作画はてっきり手描きがメインなのかと思ってたが、主人公も含めて作画の大部分が3DCGだったのは意外だった
  - そのCGがかなりのローポリで「PS1かPS2の頃の(プリレンダじゃない)リアルタイムムービーか？」と思ってしまった(フランス人形のようでもある)。「見るに堪えない」とまでは行かないが、特に顔のテクスチャの不自然さが目立つ
  - 一方、たまにある手描き作画の絵はすごく魅力的なので、CGの顔の部分だけでもレタッチしたりできなかったのかな…
    - …と思ったが、この作品の場合はそのぎこちなさが全編に充満する「不気味さ」に寄与している面もあるので、ある意味結果オーライだったのかもしれない
- 登場人物のセリフの大半がヒロインのモノローグなので、花澤香菜のこの作品への貢献度はすごく高い(ざーさんの演技力については、自分があれこれ書くまでもなく自明である。20周年おめでとうございます)
アムリタの饗宴
- 電車を乗り過ごして終点まで行ってしまったJK3人組（CV:内田真礼、能登麻美子、MoeMi）。その街にある不気味な団地に迷い込んでしまい…。
  - …ってまたこの団地かよ！舞台が前作と同じだとアセット使い回せてコストを圧縮できる…みたいな事情もあるのかもしれない…？
- 今作でも3D CGが多用されている…と思われるが、前作の不自然さは完全に解消されている。Live2Dみたいな技術も導入されてるっぽい…？(ソース無しの憶測だけど)
- 映画の冒頭、「手持ちカメラっぽい『歩きながら』のカメラワークで、登場人物の後ろにも回り込んだりするワンカットのシーン」というとんでもないのを(恐らく)手描きでやってて驚かされた
  - ただ、流石にそのシーンは作画枚数が足りてなくて動きがカックカクではあったが…それでもすごい
- 舞台は同じだが、前作の緻密な設定もそのまま引き継がれてるのかはいまいち不明。前作とのストーリー的な繋がりはほぼ無い(ラストのファンサービス的なシーンは除く)
  - また、団地のある街全体が舞台で、劇中の期間も数週間(？)だった前作とは違い、今作は「迷い込んだ団地から脱出できない」というクローズドサークルで劇中の時間は恐らく数時間…とだいぶ異なる。ジャンルとしては「パニックホラー」になるだろうか？
- あと、(後述する舞台挨拶で監督も言ってたが)セリフの大半が悲鳴、驚きの声、走って逃げたあとの「はぁ…はぁ…」という息遣い……みたいな非言語音声である。観ながら「お前らもうちょっとバーバルコミュニケーション取れや！」と思ってしまった
- 前作より洗練されてる部分はあるものの、ストーリーらしいストーリーは無いし、尺は短いし、全体的にパワーダウンしてる感は否めないかな…
舞台挨拶
- 観たのは、上映後に監督、プロデューサー、声優のMoeMiさんが登壇する舞台挨拶がある回だった
  - 舞台挨拶があるからこの回を選んだ…というわけではなく、自分のスケジュール的に都合が良かったからなのだが、結果的に選んでよかった
  - ちなみに東京での舞台挨拶は内田真礼と能登麻美子も登壇したらしい……ぐぬぬ。まあでもチケットは瞬殺だったんだろうな…
- ライブビューイングは何回か体験してるけど、生の舞台挨拶は初めてだったので若干緊張してたが、プロデューサーの司会進行や劇場スタッフのたどたどし……じゃなくてアットホームな運営で気分がほぐれた。あと、写真撮影 OKだったんだけど、これって普通なんだろうか…？
- MoeMiさん、失礼ながら今回初めて名前を知ったんだが、改名前は「尾高もえみ」というお名前で活動してたらしい。そちらはなんとなく聞いたことがあるような…。生の声優さんって初めて見ました
  - 「この作品は、噛めば噛むほど味が出てくるガムのような作品で…」って言ってたけど……MoeMiさん、ガムは味がなくなる方だよ…。噛むほど味が出てくるのはスルメだよ…。
- 監督とMoeMiさんによる作品解説やアフレコ裏話などがありつつ、その場でイラストやサインを書いた色紙、アフレコ台本、ポスターなどの抽選会があったんだが……もちろん当たらなかったぜ！
総評
- 全然期待せずに観に行った割に存外面白くて、あまりグッズに手を出したりしない自分が鑑賞後にクリアファイルを買い集めたり、「アラーニェ」のBD、「アムリタ」のノベライズを買ったりするくらいにはハマってしまった作品…ではあったんだけど、「もっとこうすればいいのに」というポイントもいくつかあった
- キービジュアルがイマイチ
  - 公式サイトに掲載されてるこのKVを見て「面白そう、観に行きたい！」と思う人は多くないと思います…（自分は「ダメそうだな…」と思いつつ観に行った好事家ですけど…）
- ホラーにこだわらなくてもいいのでは…？
  - 2作ともジャンルとしては「ホラー」に分類される作品だけど、自分はホラー的な要素以上に女の子の可愛さに魅力を感じた。「アラーニェ」冒頭・「アムリタ」ラストのちょっとコミカルなシーンとか、「アムリタ」で一瞬だけある吊り橋効果的な百合(未遂)シーンとか。
  - 特に「アラーニェ」のヒロインは一見華奢で、いわゆる「巻き込まれ型」の主人公ではあるが、状況に流されるだけではなく、それを乗り越えてサバイブしていく芯の強さがカッコよかった
  - …なので、次回作は女の子の魅力を全面に打ち出した作品でもいいと思います！(監督自身の嗜好/指向としてホラーが第一にあるなら仕方ないけど…)
- 「アラーニェの虫籠」のパンフレットを劇場で販売してない
  - 作品自体のことではないが、前作も併映なのにそちらのパンフレットは売ってなかった。もう在庫がないのか…？と思いきや、製作会社の公式通販では普通に売っている……謎。志村ー、商機！商機！