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2021-03-01

必読書コピペマジレスしてみる・自分オススメ41冊編(3)

戻る→anond:20210301080139

E・M・フォースター「ハワーズ・エンド

「人をたくさん知れば知るほど、代わりを見つけるのがやさしくなって、それがロンドンのような所に住んでいることの不幸なんじゃないかと思う。わたししまいには、どこかの場所わたしにとって一番大事になって死ぬんじゃないかという気がする」

つの家族の間を行き来しながら、人間記憶や、場所への執着を捉えた文章。それはまるで、漱石のいいところだけ抜き出したような文章だった。

ところで、同じ著者の「インドへの道」もいい。これは大英帝国支配下インドで、未婚女性が現地の男性暴行されたという疑惑を巡る話だ。女性を守ろうとする騎士道精神排外主義が結びつき、支配者と被支配者の亀裂が広がる様を描く、不幸にして極めて現代的な作品である冤罪をかけられたインド人が、「誰があんな不美人な年増を」と心の中で毒づくの、とても嫌なリアリティがある。たぶん、帯を工夫したら売れるし、どっちの「弱者」がより保護されるべきか的な話題で定期的に盛り上がる増田住民にも刺さるんじゃないかな。

ニコルソン・ベイカー中二階

切れた靴紐を昼休みに買うだけの、注釈だらけの何だかよく分からない小説。細やかな観察眼と都市生活者が思わず共感してしまう日々の経験で、要するにあるあるネタで延々と読ませる。すごい。こういうのが現代文学なのね、みたいに一席ぶつのにも使えるかもしれない。

真面目な話をすると、文学はいろいろな機能があって、それは作者の意図とはかけ離れているかもしれないのだけれども、その結果的機能の一つとして、その時代言語化されていないもの文字化するというのがある。だから文学賞を受賞した作品からと言って、実は今の自分が読んでも面白いかどうかは全くの別問題なのだ文章が巧みで、いかにも知的主人公知的な悩みを描いた文学けが主流な時代は終わっているのかもしれない。そういうのが好きな人古典で充分であるし、逆に言えばいろんな立場の人のきれいごとではないこじれた気持ちが知りたければ現代文学面白い

ヘルマン・ヘッセ車輪の下

理由は書かないが、自分は周囲の期待を一身に背負っていたエリート挫折する話が好きだ。前途有望な若者が、将来を棒に振ったり挫折したりする筋書きに対するこの偏愛ゆえに、自分は「ゲド戦記第一部の前半部分や「スターウォーズ」のエピソード3に対する執着がある。

生きていくとは何らかの失望を味わうことであり、時間をかけてそれらを味わいつつ咀嚼していく過程であるのだけれど、こうした自分のどうにもならない感情言語化した先行作品があることで、自分孤独ではないとわずかな慰めが得られる。

ホルヘ・ルイス・ボルヘス伝奇集」

「鏡の中の鏡」「魔術」「薔薇の名前」などの元ネタとなる作品を書いた人。「バベル図書館」は聞いたことがある人もいるかもしれない。

非常に濃密な短編を書く人で、このネタで長篇普通に書けちゃうだろ、みたいなネタをそのまま短篇調理する。どの作品も非常に濃密で、読み解くのにエネルギーがいる。文体は簡潔で、物語必要最小限の描写できびきびと進む。ただ、具体的に何が起きているのか、そしてなぜそうなったのか、その設定の意味は何か、を追うには読者に教養要求される。読破すると、それ以上のものが得られる。読み終わったらカルヴィーノだとかスタニスワフ・レムの「虚数」だとかミロラド・パヴィチ「ハザール事典」だとかそういう沼にようこそ。

ジョン・ミルトン失楽園

キリスト教文学の癖にルシファーがめちゃくちゃかっこいい。地獄に落ちても神への反逆を続けよとアジる場面は音読したくなる。そのくせ、彼の弱く情けない姿もまた魅力的だ。アダムエヴァ楽園で楽しげにしているところを見て、自分には愛する伴侶もなく、人類に与えられている神から恩寵も既に失われたことを嘆く場面もまた、声に出して読みたい。そして、彼は人類への憎悪嫉妬のゆえに、アダムエヴァ堕落させる。この叙事詩の主役はルシファーだ!

紫式部源氏物語

好きなヒロイン六条御息所自分の意に反して生霊飛ばし他人を苦しめてしまうことに悩むのがかわいそうでならない。今でいうなら、好きという感情コントロールできなくて、それでも好きな人が振り向いてくれなくて苦しんでいるタイプで、感情エネルギーが強い自分としては大いに共感する。

他に好きなキャラクターというか、嫌なリアリティがあっていいと思うのは薫で、その優柔不断さがいい。「この子とつきあいたいけど、でもこの子そっくりな別の子はい雰囲気だしなあ」みたいな優柔不断というか欲深さは、男性心理をよく観察していないと書けない。そういう意味で、自分の中では紫式部評価がすごく高い。

アルベルト・モラヴィア軽蔑

情けない夫が不機嫌な妻に、お前それだけはやっちゃダメだろ的な行為を延々続け、妻から完全に軽蔑され、とうとう上司に妻を寝取られしまうだけの話で、一人称視点から延々と繰り返される言い訳はひたすらに情けない。ねえ、僕のこと愛してる? 嫌いになっちゃった? と尋ねまくって、わかっているくせにとぼけないで! 今忙しいから後にして! うるさいからほっといて! もう愛してないったら! あなた軽蔑するわ! と怒らせるのは、完璧反面教師であり、ギャグすれすれだ。

しかし、作者は妻のことを相当恨んでたんだなあ。

サマセット・モーム人間の絆」

身体劣等感を持つ主人公が、付き合うだけで不幸をもたらす浮気性の彼女を振り切って、幸せにしてくれる女性を見つける話。多くの人が何かしらのコンプレックスを持っているし、何であん自分に敬意を払ってくれない人を好きになったんだろうって記憶を持っていることだろう。王道過ぎるといえばそうかもしれないが、結婚してハッピーになる王道何が悪い

マルグリット・ユルスナールハドリアヌス帝の回想」

ローマ皇帝自分の治世を振り返る体裁でありながら、欺瞞自己満足をさほど感じないのは文体のせいなのか。時代性別文化言語も超えて、別の個人に憑依しながらも、己を見失うことなく語る著者の声は、他人視点に立って(歴史小説を書くとはどういうことなのかを、これからも厳しく問い続けることだろう。

中年や老人にならないと書けない小説がある。そして何年もかけて書かれる小説があり、構想から数十年が過ぎて着手される作品もある。そうした重みを持つ文学作品がどれほどあることか。

技巧も素晴らしく、文体も素晴らしい。こうした作品に出合えるのは、年に一度か二度だ。

吉田兼好徒然草

説教臭い頑固おやじブログ基本的には仏教説話が多いが、それらに交じって挿入される、「〇〇という迷信には典拠がない」だの「〇〇という習慣は最近のもので、本来のありようや精神とはかけ離れている」だの「〇〇という言葉語源を考えれば正しくは〇〇と言うべきだ」だのが、まさにその辺のおじさんがいかにも言いそうなことで面白い

ただ、それだけじゃなくて、第三十九段の「或人、法然上人に、……」のエピソードは、「とりあえずできるところから頑張ればいいじゃん?」的な内容で励まされるし、十八段の「人は己れをつづまやかにし、……」は身軽に生きていくことの幸せさを教えてくれる。

ジュンパ・ラヒリ「その名にちなんで」

最高だった。ラヒリ大好き。体調崩すレベルで刺さった。アイデンティティの混乱という古典テーマもさることながら、ラストシーン過去と不在の人物記憶が、そして小説の全体が何気ないものによって濃密によみがえってくる様子がすばらしい。そのイメージプルースト以上に強度があるかもわからない。

これは、インテリインド系(ベンガル人移民第一第二世代の話なんだけれど、読んでいるうちに海外赴任者の寄る辺なさを思い、つまりイギリス暮らしていた自分の両親の境遇勝手連想させられ、ついつい感傷的になってしまった。随分と勝手な読み方だが、小説の読み方はいつも私的ものから構わないだろう。

外国では気候も習慣も何もかもが違う。両親の教えることと学校でやることが矛盾していて、両親が里帰りしても子供たちは故郷のノリについていけない、ってのが、すごくパーソナルなツボをついてくる。こういう経験がなくても、地方と都会として読み替えると、増田でいつも議論されている話にも近づくんじゃないかな。

H・P・ラブクラフト時間からの影」

正直なんでこの時代ラブクラフトを読むのか、というのはある。人種差別主義者だし、排外主義者だし、クトゥルフ物はパターンが決まっているコントみたいだし(人類理解できない名状しがたいものに触れて発狂するのが基本的オチ)。でも、彼の持っていた宇宙の巨大さと人類の取るに足らなさという感覚は、まさにセンス・オブ・ワンダーだ。そして、「人間感情の中で最も古くて強いのが恐怖であり、その中で最も強いのが未知のものへの恐怖である」という言葉の通り、究極的には理解できない「他者」という存在の恐怖にまっすぐに向き合おうとしたことを何よりも評価したい。

この作品が好きな理由もまた、不気味なクリーチャーが非常に知的であり、かつ知識欲が旺盛だということによっている。

U・K・ル・グインゲド戦記

一巻から三巻までは、ゲドという人物自我確立に始まり他者を助けることや世界を救う英雄行為が扱われる。しかし、実はゲド戦記は第四部からが本番なのだ。あらゆる魔法の力を失い無力な存在となった彼が、魔法のある世界いかに生きていくか。これは、老いに直面する男性物語だ。

そして第五巻! ゲドの生涯で一番の功績が、実は重大な誤り、人類傲慢に過ぎなかったのではないか、という仕事に生きてきた男性には非常に厳しい可能性が示される。

しかし、ル・グインはゲドにとてもいい歳の取らせ方をしている。果てしなく努力をすれば、男性女性を、女性男性理解できるのだと作者はどこかで述べていたが、その希望を見せてくれるし、そこに女性作家を読む喜びの一つがある。

男性気持ちがよくわからない女性にもオススメしたい。

ジュール・ルナールにんじん

いわゆる毒親について書かれた小説なんだけど、ねちねちしていなくていい。文体は軽く、描写も簡潔。だからこそ、彼の育った環境の異常さが際立ってくる。なんでこんな親子関係なっちゃったかについて掘り下げられることもほとんどない。

そして、暗鬱なだけの作品にならないのは、にんじん少年の異常なたくましさだ。ひどい目に合っても受け流し、冷淡な母から何とか愛されようともがいている。読んだときの年齢によって、感想は大きく変わるだろう。

以上。五十音順計算を間違って40冊の予定が1冊増えた。書いていて非常に楽しかった。

2019-07-09

ビジュアル系作家四天王

思いつかない。

本戦の1,2回戦で負ける連中なら分かる。

荒木飛呂彦・・・隠せない廊下兆候によりカリスマ激減

京極夏彦・・・21世紀に指出しグローブはねーわ

ホルヘ・ルイス・ボルヘス・・・奇跡の一枚であることが判明して敗退

西尾維新・・・名前がカッコイイだけ

2018-10-11

anond:20181011184334

エビデンス

実証重視の方々にとっては「物語」の代表に見えるであろう精神分析系の心理療法も、ちゃん効果確認されるようになってきたたことです。

それこそ、そのエビデンス(論文)でも提示されればいいんじゃないですかね。

この辺りのこと?

Jonathan Shedler,"The efficacy of psychodynamic psychotherapy."(American Psychologist 2010)

Falk Leichsenring,Sven Rabung,"Effectiveness of Long-term Psychodynamic Psychotherapy: A Meta-analysis"(JAMA 2008)


フロイト理論の諸々の失敗

精神分析医のフィーリス曰く(1)、フロイト派のセラピービクトリア時代の人たちには、うまく機能していたが20世紀半ば以降、人々の「性格の鎧」の質が変わり、セラピーはうまく機能せずに行き詰まって失敗することが多かった。

フロイト派の精神分析法は、「幼少期の体験が成人してから人格の基礎となる」というものが骨子の一つ(2)だが、そのことに大打撃を与える調査が出てきた。1990年代マシュマロ実験の文献を詳しく調べたマーティンセリグマンは、幼年期のできごとが成人してから人格に影響を与えるということは、ひどい心的外傷や栄養失調があった場合にはありうるかもしれないが、それ以外では有力な証拠ほとんどないと結論づけている(3)。子供時代と成人してから性質に、ごくわずかな相関は認められるが、それは主に遺伝的(生まれつきの)性質、つまり概して明るいとか気難しいといった性質の反映として説明できるという。

また心理学者のバウマイスター一同がフロイト提唱する理論メカニズムの数々を現代の文献と付き合わせて検証したところ、最も最悪な理論昇華説だということが判明した(4)。そもそも昇華説には根拠がない上、事実はその逆だと考えられる理由が多いからだ。

もちろん、フロイト理論示唆的で興味深いものが多いし、余談だが「快感原則彼岸」については現代思想の中ではかなり重要位置づけになっている。ラカン執拗にこの論文にこだわるわけだしね。

それに、フロイト批判をしたバウマイスターは、フロイト提唱する説でエネルギー重要位置に置かれていることに敬意を表して、フロイトが使っていた自己を指す言葉自我(エゴ)」を使って、「自我消耗」という言葉を「人の思考感情や行動を規制する能力が減る現象」に名付けた。自我消耗に関しては、後に脳波記録検査法(EEG)で脳内の前帯状皮質におけるスパイク発火(エラー関連陰性電位)が対応する脳機能であることが確認された(5)。


科学的な心理学

著名な心理学者であるスティーブン・ピンカーは、 今回で言えば「人生全体」「物語の蓄積」「人生の深み」といったことで、科学基本的研究方略である単純化(simplify)」を退けようとしていることに苦言を呈している(6)。 研究対象をとなる複雑な現象をいろいろなレベル単純化し、いろいろなレベルごとに 解明していくことを拒んで、複雑な現象ありのまま理解しようとしていたのでは研究はいつまでたっても現状に停滞したままになる。単純化を嫌って、複雑な現象を複雑なままで捉えようとする人文系学問に多く見られるのこうした研究方略を、ピンカーは完全な正確さを求めて「原寸大の地図」 を作った愚かな地図職人を描いたホルヘ・ルイス・ボルヘス(Jorge Luis Borges)の寓話批判している。

現代心理学の始まりブント(Wilhelm Wundt: 1832-1920)のライプチヒ大学での心理学実験室創設とされるように、そのスタートから科学を目指したものだった(7)。 人文学科学化と言っても、物理学化学実験を導入するのではなく、心理学実験手法神経科学実験手法(EEGfMRIなど)を取り入れればいいのである。また、国際的科学心理学学会APS(Association for Psychological Science)の会長だったカシオッポはこうした点に注目し、心理学科学と他の文系学問とのハブとなるべきであると主張している(8)。

個人的には、人生全体から人間理解フロイト理論人間理解よりも、人類史から人間理解(進化心理学)(9)や神経科学から人間理解の方(10)がより多くのことと整合性が有ると思うし、「物語」を一切考慮しないで休職者の約53%を予測したリシテア(11)といったことの研究心理学がより一層取り組んでいくことを願ってるわ。


▼出典

(1)Allen Wheelis,"The Quest for ldentity"(New York: Norton,1958).

(2)Sigmund Freud,"Drei Abhandlungen zur Sexualtheorie(『性理論三篇』)"(1905)

(3)M.E.P.Seligman,"What You Can Change and What You Can't :The Complete Guide to Succesful Self-Improvement"(New York:Alfred A.Knopf,1993).

(4)Roy F. Baumeister,Karen Dale,Kristin L. Sommer,"Freudian Defense Mechanisms and Empirical Findings in Modern SocialPsychology: Reaction Formation, Projection, Displacement, Undoing, Isolation, Sublimation, and Denial"(Journal of Personality,1998)

(5)Michael Inzlicht,Jennifer N. Gutsell,"Running on Empty: Neural Signals for Self-Control Failure",(Psychological Science 2007)

(6)Pinker, S."Science Is Not Your Enemy: An impassioned plea to neglected novelists, embattled professors, and tenure-less historians." (New Republic, 2013)

(7)Bringmann, W. G., Bringmann, N. J., & Ungerer, G. A."The establishment of Wundt's laboratory: An archival and documentary study." (W. G. Bringmann, & R. D. Tweney (Eds.), Wundt studies: A centennial collection (pp. 123-157). Toronto: Hogrefe. 1980)

(8)John Cacioppo,"Psychology is a Hub Science"(Observer 2007)

(9)Martin Daly, Margo Wilson,"How evolutionary thinking inspires and disciplines psychological hypotheses." Pp. 15-22 in XT Wang & YJ Su, eds., Thus spake evolutionary psychologists.(Peking University Press,2011)

(10)一例を挙げれば、心の理論(Theory of mind)における神経科学役割とか。サイモン・バロン=コーエンが有名だろうが、研究は色々有りすぎて挙げきれない。

(11)HR テクノロジーで、人や組織パフォーマンスの最大化を図る 「リシテア/AI 分析サービス販売開始(https://www.hitachi-solutions.co.jp/company/press/news/2016/1201.pdf)

 
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