速成教育をうけただけの私にはむずかしいことはわからなかったが、素人ながらどうしても解せないことがあった。
その道路が空っぽという前提で説明されているのだが、東京や横浜には大人口が住んでいるのである。
敵が上陸ってくれば当然その人たちが動く。
物凄い人数が、大八車に家財道具を積んで北関東や西関東の山に逃げるべく道路を北上してくるに違いなかった。
当時は関東のほとんどの道路が舗装されておらず、路幅もせまく、やっと二車線程度という道筋がほとんどだった。
戦車が南下する。大八車が北上してくる、そういう場合の交通整理はどうなっているのだろうかということであった...
(その将校は)しばらく私を睨みすえていたが、やがて、昂然と「轢っ殺してゆけ」と、いった。
— 「石鳥居の垢」