はてなキーワード: デファレンシャルギアとは
バスが急坂でブレーキが効かなくなって横転事故を起こした件で、個人でバスを所有する変態さんが検証動画を出しているが、
https://b.hatena.ne.jp/entry/s/togetter.com/li/1959853
前提の知識が全然共有されてないのが気になった。なので説明を書く事にするよ。
まず元記事のバス個人所有氏は2速で下ってるんだが、バスやトラックというのは2速で発進する。1速は急勾配での坂道発進とかの緊急用で普通は使わないのだ。
乗用車のオートマだと「PRND21」とレンジが分かれていて、2、1レンジではギアが固定される。峠の下りでは2速で下ると思う。1速に入れるって事は余り無いと思われる。その1速に入れてると思ってくれていい。普段じゃそんな運転する機会はないと思う。
動画では2速で下って回転数がレッドーゾーンに入って警報が鳴っているが、これはデモンストレーションでやっている事で、普通のバストラックではこういう運転はしない。
バストラックは大体100万キロ走って廃車になるのだが、そのディーゼルエンジンも精々オーバーホール一回程度でその距離を走り切る。乗用車と比べると非常に頑丈なエンジンなのだ。
だが頑丈に作ってあるために作動部が重い。その為にオーバーレブ(回転数数オーバー)に大変弱いのだ。ガソリン乗用車のつもりでシフトアップを引っ張る走り方をしていると壊れてしまうのだな。
だから彼の道路での実際の走り方は3速でリターダー動作(後述)か2速でオーバーレブしない速度って事になる。
アクセルもブレーキも踏まず、エンジンブレーキだけで抑速する。また、バストラには排気ブレーキとリターダーというエンブレの強力版が付いており、そのスイッチがハンドル左手にある。車種によるがウインカーレバーを向こうに押すタイプと、ウインカーと別に短いレバーが生えているのがある。動画でカチカチ言ってるやつだ。
これのスイッチを入れたり切ったりして速度を調節する。
ヘアピンではぐっと速度を落とす必要があるのでそこだけで足ブレーキを踏む。ブレーキ「ずっと踏みっぱなし」は絶対にNGだ。というかそんな運転するのはちょっと考えられない。
ブレーキを踏みっぱなしにして加熱させるとブレーキが効かなくなるが、その原因は2つある。
ブレーキライニング(押し付けられる摩擦材)が熱で滑りやすくなる事。「段々効かなくなる」のが特徴。
フェードが起きると独特の匂いがする。東武東上線とか伊勢崎線の古い電車で駅に着いた時に床下とホームの隙間から香ばしい匂いががした事ないだろうか?実はこれがフェードの匂いなんですな。MT車でクラッチを滑らした時とかも同じ匂いがするよ。
電車のブレーキはどれも同じ構造なのに東武の旧型車だけがあの匂いするんですな、不思議である。
あの匂いがしても東武電車は普通に走れるが、車だともうダメ。冷えると効きは幾分戻るがシューが変質してしまっているので交換か灼けた表面を削らないと効きは元に戻らない。
ブレーキ油が沸騰して水泡が出来る事。「突然、全く効かなくなる」という恐ろしい特徴がある。
ブレーキペダルの踏力の伝達には分子量の高いアルコールなどの液体を使っている。液体は圧縮できないからそのまま力が伝わるが、これが沸騰して水泡が出来てしまうと体積が千倍にもなり、また気体は圧縮できるから踏力が気体の圧縮に使われてブレーキを押す力にならない。
この両者は相反するものじゃなくて連続して起こる事もある。フェードが起きるとブレーキが効きにくくなるのでより強く踏まないとならない。そうすると発生する熱量が増えてそれでヴェーパーロックが起きてしまう。
で、増田の見立てだとこの事故の原因はヴェーパーロックだ。その理由には更にバスの構造を知ってもらう必要がある。
バスのサイドブレーキは、乗用車のように手でギギギと絞り上げるようなものではなくて、運転席の小さいレバーを倒すと全力で掛かるようになっている。
元々、バストラもハンドル式だったが、掛かる場所が違った。サイドブレーキはミッションについていたのだ。
昔のバスが終点に着くと、「ユッサユッサ」と揺れていたのを覚えているだろうか?これは車輪ではなくてミッション軸にサイドブレーキが掛かっていたからで、そこと車輪の間にあるシャフトやデファレンシャルギアの隙間、自在ジョイントのたわみのせいでユッサユッサしてたのだ。
だがこれはジャッキアップすた時などにデファレンシャルギアのせいでサイドブレーキが掛かっていない状態になり危ない。また急勾配で確実に止まっていられる事が車両法で定めらると、手で絞り上げる式では確実性と力が足りない。
なので、ブレーキのバネを普段は高圧空気で抑えておき、空気を抜くと強力なバネが全力でブレーキシューを押し付けるという方式に変更された。
画像を見たら一目瞭然だが、https://www.tbk-jp.com/products/brake_01.php
さて、変態バス氏の動画を見返して欲しいが、4:40頃から事故車両のブレーキ痕が続いている。
これはサイドブレーキが作用して後タイヤがロックしたって事である。
サイドと足ブレーキはシューが共用だ。もしフェードが原因だったらロックできないのではないか?
だとすると消去法でヴェーパーロックという事になる。
バスのブレーキ構造は、前がディスク、後ろがドラムというのが一般的だ。
見てもらうと一目瞭然だが、google:image:バスドラムブレーキ バスディスクブレーキ
ドラムというのは熱がこもりやすいがシューの摺動部とピストンの距離がある上に接触部が狭いところがあるので熱が伝わりにくく、ヴェーパーロックは起こりにい。
一方、ディスク式は摺動部とピストンが近い上に接触面積も大きいので熱が伝わりやすい。故にこっちの方がヴェーパーロックはし易いのだ。
だから後輪ドラムのフェードは大したことが無く、故にサイドブレーキは効いたが前輪のヴェーパーロックが来て全く減速できなくなったと考えるものである。
サイドブレーキが効いても減速できなかった理由は、一つは荷重の問題。下りでは車体がつんのめっているから荷重は前に移動する。だから後輪はロックしてスリップするがグリップ力が足りず減速できない。
この荷重移動を利用したのがドリフト走行なのね。ブレーキで前に荷重が移動している時にハンドルを切ると普段より舵が効く。前輪を中心に車がスピンしようとするからそこでサイドブレーキを引くと後輪が滑りだすってわけだね。
もう一つはホイールパークブレーキのせい。レバー倒すと後輪に全力でブレーキが掛かるので走行中ならいきなりロックする。スリップ状態はタイヤの摩擦力が低くなるから減速力が足りないって事になる。
よく出てくる排気ブレーキとは何かだが、エンジンブレーキを強力にする仕組みだ。
エンジンは2回転する間にピストンが2往復して1サイクルとなるが、爆発(燃焼)工程の前に空気を圧縮せねばならない。ディーゼルでは断熱圧縮で熱くなった所に経由を噴霧して燃焼させる。この圧縮には力が居るのでエネルギーロスだ。
圧縮の後に燃焼がなければロスだけが存在する事になる。エンブレはこの圧縮のロスを抑速に使っている。
排気ブレーキはここで更に排気管を塞いでしまうのだ。エンジンは圧縮ロスで虐められているのに更にペッと吐き出した息まで塞がれてしまう。とんだ意地悪だ。苦しいようやってられないよう、って事で更に速度が落ちてしまう。
排気ブレーキの作動中は「ドドドド」とエンジン音が野太くなって、解除時には「プシュ!」というのが特徴だ。
リターダーにはオイル式などもあって、これはオイルの抵抗でエネルギーロスをさせようというもの。木の板でかき混ぜる草津温泉の湯もみは水の抵抗があって結構大変、汗が出ちゃう。これと同じ仕組みだから湯もみブレーキと覚えてもらって差支えない。
でも日本のバスで一般的なのは、圧縮解放式ってやつで、これはエンブレの超々強力版である。
エンブレは圧縮ロスを利用するものだが、ピストンで圧縮された空気はその後どうなる?燃料が無くて燃焼されなくても、圧縮された空気はバネみたいにピストンを押し戻すのだ。
そこで圧縮解放式では意地悪して圧縮しきったところで排気バルブをちょっと開いてしまうのだ。すると圧縮空気は逃げてしまう。
更にまたすぐに閉じてしまう。すると今度は1気圧の所からピストンを引いていく事になるので真空ポンプの負荷が出来る。これで超強力なエンブレが出来るという訳だ。
新宿区の牛込柳町の交差点は急坂の底にあり、自転車で通る時に坂の上から一気に下りその勢いで向こう側の坂を上りたくなる。が、この交差点には信号があるのでそれをさせず停止状態からエッチラオッチラ上る羽目になる。
故に圧縮解放リターダーは柳町信号ブレーキと覚えてもらって差支えない。
圧縮開放式は空気が圧縮されたところでバルブを開くので動作中は「ンババババ」と結構派手な音がする。
因みにVTECみたいな可変複数カムによって実現されている。バストラもハイテクなのだ。
ある。
ブレーキ液には高分子アルコールを使うが、これは水を吸う。すると沸点が下がる。ブレーキは水が掛かる足回りにあって、そのピストンにはゴムのパッキンで水を防ぎ、ブレーキ液が漏出するのを防いでいる。
しかし窓をカッパギで拭いた時、水は残らないがなんかしっとりしているよね?あれが蓄積して水を吸い、200度以上ある沸点が150度くらいまで下がってしまう。この為に車検の度にブレーキ液は交換するのである。
因みにレースではもっと沸点が高いシリコン系が使われるが、これは親水性が無いので混入した水が水のままで存在してしまう。するとピストンが100度になると容易に沸騰してヴェーパーロックを起こし危険である。だから公道での使用は禁止されている。レースカーはレースごと、雨が降ったら走行ごとにブレーキ液を入れ換える。ブレーキ液にアルコール系を使うのはこのせいだ。
だからもしも車検(1年)ごとにブレーキ液を交換していなかったら沸点が下がりヴェーパーロックはし易くなる。この辺は国交省の調査を待つしか無いと思う。
また、少しではあるが、高山に上がって気圧が下がると沸点も下がる。
最後になるが、大型2種免許は他の免許取得後3年経たないと受験資格が無い。プロ中のプロのドライバーで、フェードしたりヴェーパーロックさせたりする運転というのはちょっと考えにくいんだよね。急坂であれば排気やリターダーのオンオフだけで慎重に下り足ブレーキには頼らないものなのだ。だから増田もちょっと腑に落ちない事故なのだ。
卒業と入学、就職に伴い、引越しのシーズンが到来したが、中には自分でレンタカーでトラックを借りてやってしまおうという人も多いかも知れない。
そんな人に、運送業勤務歴がある増田がトラックを借りたら真っ先にすべき事をアドバイスしたい。
トラックを借りて真っ先にすべき事…
車検証のどこを見るのか?
「全高」を見るのだ。車の高さである。それを紙に大きく書いて、ダッシュボードに置いておく。
何故か?
トラックを借りる場合、恐らく箱車(メタルバン)を借りるだろう。若しくは幌付き。
言っておくが平車は難しいぞ。両アオリに壁を作ってテトリスのようにぴったり積まないといけない。
箱車の特徴は背が高い事だが、ただ背が高いのではない。
「運転席より後ろが高い」のだ。
だから目線よりはるかに高い荷台(しかも後方)の車両感覚なんて付いている筈が無い。
だから道を走っていて「高さ制限」の標識があったら見逃さず、メモの全高と突き合わせるんだ。
箱車は3.7mが多い。
これをうっかり忘れると「ドカーーーン」とやらかしてしまうわけである。
因みに車の破損は保険がおりる。しかし衝突で道路設備を壊した場合、保険はおりない。
それから、商店街には入ってはいけない。商店街は人通りもあり道もすれ違うには狭い。
そして何よりも「商店の軒先」が鬼門だ。雨の日の買い物客が濡れない為のビニールの日除けなどだ。あれには「全高」表示がない。
そして「運転席より高く、箱より低い」のだ。最悪だ。
つまり、すれ違いで気を使って路肩に寄せている内に運転席基準で軒に寄せすぎてしまう。すると数秒後に「めりめり」と後ろで聞こえると言うわけだ。
これは30万以上と思ったほうがいい。
また商店街の電灯から斜めに枝飾りなんかを出している事がある。これが幌に引っ掛かると、簡単に破れるのだ。
あと注意すべきは、川の近くの道だ。
川に近いところは管理者が河川局になっている場合がある。すると、警告や制限標識などの設置基準が他の道路と違う、特に劣る場合がある。
それに気付かずトラックで通行したら、いきなり3.6mのローカル線のガードなんかが現れたり、なんて事もある。
古くしょぼいガードだと速度が出ているとぶつかった衝撃でずれてしまう事がある。
そうなったら大変だ。エライ金取られて人生が終わること請け合いである。
ならば逃げてしまおうか?
死者が出た場合、往来危険致死に問われ、この法定刑は死刑か無期懲役だ。
そういう訳で、川の近くで道がしょぼくなったら特に注意が必要なのだ。
ついでなのでパンクした時の事も書いておく。
まず特徴的なのは、「トラックの左側のホイールナットは逆ネジ」という事だ。
これはゆるみ止めでそうなっている。左にいくら回してもナットは緩まない。
次に一番大事なのは、ジャッキで上げる前に「車止めを必ずしなければならない」。
サイドブレーキだけじゃダメという事だ。これはトラックの構造に由来する。
だから1輪をジャッキアップしても、どっちかの後輪が設置していれば車は流れない。
これに対し、トラックのサイドブレーキは「ミッションの出力軸」を締め上げる構造になっている。つまり車輪自体はクルクル回るのだ。
そして車の駆動輪には「デファレンシャルギア(デフ)」というものがある。これはカーブで左右のタイアの通る距離が変わるので、それを吸収するための機構だ。
電車では両車輪は直結になっているので、カーブでは軋み音がしてスリップする。電車は鉄車輪だからスリップしやすいが、ゴムタイアではそうは行かない。
このデフの悪作用で、片輪をジャッキアップすると持上がったタイアが回転を始め、車が動き出してしまう。
そうなると、当然ジャッキは外れて車は落ちてくる。
死ななくても、体勢的に足は挟まるだろう。その後はずっと片足義足の人生だ。
だから、タイア交換する羽目になったら「必ず上げる車輪の対角に車止め」を忘れてはいけない。
因みに、この「ミッションにサイドブレーキが掛かる」というのは、バスに乗っている時にも実感できる。
渋滞、終点等でバスがサイドブレーキを引いたときに前後に「ゆっさゆっさ」と揺れるのを感じた事があるかもしれない。
これはデフの歯車やジョイントの遊び、シャフトの捩れがあるからで、乗用車ではない挙動だ。
因みにトラックはMTでもエンジントルクが太いのでエンストしないから乗りやすいし、坂道発進支援装置(自動的にサイドが掛かって外れる)もあるから、運転は難しくないのだ。