2020-01-03

2019 下半期面白かったマンガ

総じて良い半期だったと思う。

-----

・オレが私になるまで 2 佐藤 はつき

相変わらず構成力が高い。進行に無駄がないのもそうだけど、進行しつつ回収/再利用するの上手い。

今更だけどやっぱり表現しようとするメンタリティの選び方が群を抜いて上手いと思う。見せられるまで気づかないんだけど、見せられると「ああ。。」ってなる。「子供ってね」という感覚ではない。

それぞれのイベントはそれぞれの年頃の世界観ハイレベルに反映していて、一括りに語るのが難しい。

適切な言葉を探したけど見つからないので、ぜひ読んで感じてほしい。

このあたりの共感度の高低で本作への評価が大きく分かれるとは思う。

画についてはずいぶん明るくシュっとしたと思う。あとは枠線でこんなに印象変わるんだっていう。母さんに「ありがと」と応えるアキラの横顔が綺麗。

セーラーアキラかわいい。ブレザー派のおれがセーラー派に寝返りそうになった。危ないところだった。

印象的なイベントが沢山だけど、やっぱり最後アキラと瑠海かな。言ってしまえば10代の女性同士にありがちな痴情のもつれなんだけど、瑠海がそう思ってしまうのも無理も無い背景があり。しかし場当たり的な対応袋小路に向かうアキラを救うのはやっぱり瑠海で。

2 巻は電子書籍サイトランキングなんかでは結構良い位置にいるのも見かけたけど、もっと売れて良い作品なのでみんな読んで読んで。

出版社は電書サイトの良いとこに広告出して!書店天井に届く勢いで平積みにして!

個人的には 2019 は佐藤はつきの年でした。

-----

・スペクトラルウィザード 最強の魔法をめぐる冒険 模造クリスタル

前作も面白かったけど、本作はさら面白かった。ストーリー物では多かれ少なかれ都合よく話が進むと思うんだけど、本作はぜんぜん都合良くないんだよね。登場人物がそれぞれのイデオロギーに従って行動していて、なかなか収束する感じがしない。そこに生まれる摩擦や軋み、人間臭さにずっしりと覆われる感じ。

そう書くと重そうだけど、エンタテイメント感が増しているので読みやすくなってる。ファンタジークラシカルさとアメリカンアクション物感を混ぜたかんじ。

人間臭くて、静謐さ荒々しさユルさが混在する世界観ユニークでカッコいい。模造クリスタルらしい大仰なやり取りも映える。

画はパッとしたなあという印象。前作と比べると疎密とか引き寄りのバランスが良い気が。読みやすくなってるけど、ダークさや静謐さも前作以上に上手く出てると思う。フェニーとスペクトラは最高にカワイくてカッコいい。

おおむねスペクトラの内面フォーカスしつづけていた前作と異なって、ドラマの中にスペクトラの内面を埋め込んでいるように見えた。(前作もリレントレス~はそうだけど。)

良く消化されていて、このへんもエンタテイメント感に貢献していると思う。だけどやっぱり重要局面ではスペクトラの内面回帰していて、「板挟みにはうんざり」「日常に戻ろう」と言ったスペクトラを襲う展開の悲しさに言葉を失う。

模造クリスタルフォローしていない人はこの機会に是非トライ。高いと思った人はページ数を見れば納得!

-----

ヴァンピアーズ(1) アキリ

マンガ演出を新たなレベルに引き上げたと言ったら大げさ?

個人的にはそのくらいインパクトがあった。ここまでやるんだっていう。どこにもスキがないってゆーか。

画は見どころしかなかった。背景まで演出に動員しててスゲーし、ヒトはもちろん良い。

一花の表情がいちいち良い。「げぼく・・」の表情とか特に好き。

話としては一つ屋根の下でデッドロックした関係にあるカップルとその周辺キャラが繰り広げるドタバタってことで良いのかな。

この構図はなんとなく全盛期の高橋留美子っぽいなあと思った。

百合オタやマンガオタなら読まない理由はない。もちろんそれ以外の人も楽しめる。基本的には面白おかしく楽しく読める百合モノなのでオタからライトまでわりと広い層にアピールすると思う。

同時に凡庸マンガ表現バキバキに踏み砕いて進む戦車のような作品。強い。

-----

・僕の心のヤバイやつ 2 桜井のりお

京太郎カワイイなあ。おねえと山田京太郎カワイくてしゃーないな!おれも京太郎カワイイ!

最初のころは山田殺すとか言ってたのに、最近では女子コミュニティ平和維持活動とか山田の護衛がんばってるもんね。

ちゃんPKO部隊かよ~。

-----

・うちの息子はたぶんゲイ 1巻 おくら

ある状況を受け入れ可能にするのは(親子の間柄とはいえ)愛ではなくて聡明さなんだな。という感想。もちろん愛を否定するつもりは無いけど聡明さが無ければ愛は意味を持たない領域があるんだなあと。愛による理解を試みてハマったのがシロさんのカーチャンなわけで。

こうした構図を作品世界の中でさらっと表現してみせたのはインパクトあった。理解を求めるのではなく、気付きを提示したという点が新しさなのかな。理解と気付きは似ているようで違う気がする。

おれの感想で小難しい作品ぽく見えたらゴメン。作品テイストとしては重たい演出はなく、構えずに楽しめる良作だと思う。楽しい作品

-----

放課後ていぼう日誌 5 小坂泰之

引き続き面白い。安定感。

ロケーション釣りスキルの面でスケールさせていて飽きさせない。釣りのワクワク感が失われないのが凄い。

ところで夏海マンガ界で一番ハイカットのスニーカーが似合うと思う。上手い。

-----

エクレア orange

作品バリエーションが増えてて面白かった。SF百合的なのもフォローされてたりして。いろんな方向性作品があると保守的百合作品も輝きを取り戻すなあと思った。個別作品ではあらた伊里が良かった。「許してくれるまで」はニヤニヤせざるを得ない。

まあでも、最終的に百合界のモヒカン平尾アウリが全部持ってったけどね。種籾まで奪う勢いで持って行ったよ。最高。もちろん「推し武道館いってくれたら死ぬ」もね。6 巻は全方位にレベル高かった。

-----

・球詠 6巻 マウンテンプクイチ

まだ 3 回戦なのにこんなに盛り上がって大丈夫なのか心配になるアゲっぷり。

梁幽館にもドラマがあって、ゲーム残酷さと美しさが存分に表現されていたと思う。高代出塁のシーンはもう先が読めるだけに泣いた。

もちろん希のホームランシーンはエモエモで最高。画的にも一番の見どころ。

野球漫画史上に残る好ゲームだったのでは。

それはそうとスタンドお姉さま方ガラ悪すぎw。らしくて好きだけど。

-----

・さめない街の喫茶店 2 はしゃ

想像以上に動きがあって驚いた。固定的なフォーマット最後まで行くタイプ作品と予想してたんだよね。

でも 2 巻はゆっくりと、しっかり盛り上げてて。本作の"らしさ"が感じられる良い演出だったと思う。

画が良いだけのマンガだと思ってる人はぜひ手に取ってほしい。

とはいえ、やっぱり画は最高で。

画が良いと調理工程も楽しく読める。自分食べ物マンガ好きだけど調理工程はほぼ読まないので(シロさんが酢豚に入れたのがラー油なのかデスソースなのかわからない)、本作が唯一調理工程まで読む食べ物マンガだったりする。

2 巻はトルココーヒ淹れてるとことか、穴ドーナツ揚げ中のシーンとか印象に残った。

他にはスズメの表情も面白かった。笑顔イラッとしてるとことかブツブツ言ってるとことか。

スズメヒナのキャトルに舞台を移した続編とか出ないのかな。スズメヒナのキャトルもっと見たい。見たい。

-----

廃墟のメシ2 ムジハ

2巻はさら面白くなってた。相変わらず端々ににじみ出るコメディ感が可笑しい

突っ込むべきなのか突っ込んだら負けなのか。

ストーリーも先が気になる要素が色々で期待させる。

画も相変わらず良い。動きのある画も楽しいし、座ってるだけ、立ってるだけ、歩いているだけの画もいちいち良い。

上段見開きにハルカの後姿のシーンが2つあったけど、どちらも良かった。奥側も良いし、ハルカが少し膝を折ってる姿勢がぽくて良い。髪の流され方も。

エレベーターの前に立ったシーンみたいな背中に重心がある立ち姿が好き。

サンダルで塔から出てくるシーンがイイね。塔がカッコいい。家に帰ってきたシーンとかも良い。

俯瞰で寄った時のハルカもイイ。まあだからだいたい全部良いんだよ。

ストーリー物であっても、毎話毎ページいろいろな方向からしませてくれるのがうれしい。

(先が気になる以外に見どころの無いストーリー物も多いからね。もちろんひたすら丁寧にストーリーを追っていく良作もあるけど。)

かなり広い層が楽しめると思う。もっともっと話題になって良いと思うんだけどなあ。潜在読者かなりいるはず。

-----

・LIMBO THE KING(6) 田中相

ひたすら丁寧にストーリーを追った良作だった。完結。

ブレない世界観タイトな展開、ストイック表現。ここまで絞り込まれ作品は近年珍しいのでは。(おれがストーリーあんま読まないのでそう思うだけかもだけど。)

完結したし読んでない人はまとめて読むと良いんじゃないかな。最初は一気に読まないと追いにくい。

ガワは SF ではあるものの、テーマとしてはヒューマンってことで良いのかな。とは言え LIMBO という仕掛けは作品重要な土台ではある。

パンデミック物としてみた場合でも新しいアイデアじゃないかな。こういう攻めはマンガ小説みたいに読者に時間が与えらているメディアが向いてるなあと思った。

作画は狭い画角に人の表情を中心とした密度の高い画が続く独特な感じ。作品の内容にマッチしている。というかそういう狙いでそうなってるんだろうけど。大きな流れの中にあって、全体像をつかみかねる登場人物たちが何が起きているのか模索するという構図がすごくそれらしく表現されてる。

人の表情や人体はさすがに上手い。作画バリエーションに乏しくてカオばっか描いてるマンガとは違う。イケメンたちのイイ表情をたっぷり楽しめる。

個人的にはセスが好きかな。表情に乏しいんだけど、そのせいで余計に思ってる事が出てる感じとか上手い。

ヒューマニズムとしての構図や展開はよくあると言えばよくあるんだけど、そんな批判を「だから何?」と軽く払いのけるタフさがあり、このタフさこそが王道と呼ばれる何かなんだろうと思う。

ルネの記憶の中で、アダム希望を与えたものが、アンジェラから受け取った自身言葉が、ルネに希望を与える。アダムの望みがルネの心を捉える。このシーンは何度でも胸をつかまれる。

最近では珍しいドストレートで良質なヒューマンなのでみんな読むといいよ。マンガにこだわらず良いコンテンツを探している人なんか特に

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん