鬼滅の刃が爆売れしているのはなぜか?というのを論じる記事をたまに見るが、どれも本質的ではない。惜しいものならあるのだが。
今回は、ヒットした理由の本当のところを述べてみたい。
鬼滅の刃は、他のジャンプ作品に比べて愛憎や人間同士の繋がりを描いた場面が多い。
そのうえで、キャラクターが魅力的であり、バトル描写があり、一応は恋愛要素もある。
これでウケないはずがない。
『ベストセラーコード』という、アメリカの言語学者とフリージャーナリストによる共著だ。テキストマイニングという数学的アプローチにより、実際に世にウケる作品のパターンについて記した本だ。1万冊以上の小説をスキャンして機械分析にかけている。
しかし、このふたり(注:書中で紹介されているベストセラー作家のうち2名)の共通点のうちもっとも興味深いのは、彼らが上位で使っているトピックが、ベストセラーを予測するにあたって決め手になるとモデルが判断したトピックに一致することだ。といっても、ベストセラー作家に特有のトピックという意味ではない。売れない作家もよく使うトピックだからだ。しかし、非ベストセラーにくらべると、ベストセラーに出てくる率が高いので、予測するときには威力を発揮する。書き手にとっては無視できないトピックといっていいだろう。セックスや犯罪といった人目をひくものにくらべると、驚くほど平凡なそのトピックは、人と人との交流や関係を示すものである。だが、人間関係といっても、ロマンチックな恋愛や情熱といった激しい感情を伴うものではないし、先生と生徒、社員と上司といった型どおりな関係でもない。それは人間同士のつながりを感じさせる近しい関係だ。予測するにあたってもっとも重要なこのトピックが出てくるシーンには、互いに親しみや愛情を感じ、絆で結ばれている人々が登場する。
著者は、これ以降の章においても、ベストセラーになる作品の傾向を繰り返し述べている。人間同士の温かい関係性という要素が、作品がヒットする最大の要因であると。
同感だ。これまで多くの漫画やアニメや映画や小説を嗜んできたが、面白かった作品というのは、どれもみな人の繋がりの描き方に重点を置いている。
それに比べれば、作画が美しいとか、戦闘シーンに迫力があるとか、性的な描写というのはおまけに過ぎない。
もう一点だけ述べるとしたら、「感情」だろうか。鬼滅の刃は、とにかく感情が動かされる。ページを捲りながら、複雑な気分になって悶えたりすることが私の場合はよくある。
あとひとつだけ引用させてほしい。こういうのは客観性が大事だ。
脚本の基礎を学ぶ時間はそろそろ終わりにしよう。今から脚本執筆術で本当に大事なことに焦点を当てよう。本当に大事なこと、それは脚本を読む人に感情的な体験を提供するということなのだ。読んだ人の心がいろいろと感じたから、それを良く書けた脚本と呼ぶのだ。
先に挙げた本は科学者寄りの人が書いたもので、こちらは実際の脚本家が執筆した本になる。
こちらの著者は、感情を揺さぶるものこそが良いストーリーであると、本書の中で繰り返し述べている。
例えば、『鬼』の描き方がそうだ。鬼滅の刃に出てくる鬼のほとんどに過去がある。凡百の作品では、敵は倒しておしまいであり、過去が用意されるのは重要なキャラクターに限られる。
でも、この作品では、鬼と戦っている最中にモノローグが流れ、敵が歩んできた道のりや、鬼になった理由や、鬼になってからの労苦が描かれる。こんな作品は今までにあっただろうか。いや、ない(反語)。
山に住んでいる少年が炭を売りに出るところから始まって、売りに出た先の町では可愛がられていて、炭治郎の人柄ゆえに炭は無事に売れて、帰る頃には暗くなっていて、山に登ろうとしたところで〇〇に泊まっていくように言われ…その夜、家に男が2人、何も起きないはずがなく…
修行シーンも長々と描かれて退屈に感じることもある。それでも、上に挙げた名作の条件をばっちり満たしているからこそ、ジャンプで生き残ることができた。
世でいうところの、売れる要素、売れない要素というのは上っ面でしかない。連載当時の編集者や読者は『本物』を見抜くことができた。だから、同じくこれが本物であることを見抜いたアニメプロデューサーによって、潤沢な予算とスケジュールをもってアニメ化されたのだ。
鬼滅の刃の評価については、当記事のほかに、はてな匿名ダイアリーや、note記事や、個人のブログなどをいろいろ読んでみるといい。
個人的には、Amazonのカスタマーレビューが一番参考になった。以下のURLを載せて終わりにする。
なお、漫画版において低評価レビューが顕著であるが、彼らの正体は売れない漫画家かアマチュア作家だ。