はてなキーワード: Metasequoiaとは
10年超のプログラマやってるものだけど自分の成長過程を書いてみよう
https://anond.hatelabo.jp/20190128220133
少し前に最近話題のバーチャルのじゃロリおじさんがMMD界隈に叩かれてたの思い出したから書く。
まず最初に、MMDで作られた映像やMMD映像の作家自体を貶すつもりはないとだけ言っておくし、破壊が言い過ぎならガラパゴス化と言い換えてもいいかもしれない。
日本で一番影響力のある(あった)動画サイトといえばニコニコ動画だと思うんだが、ニコニコでは「3DCGのキャラクタアニメーション = MMD」という図式が定着してしまった。だからプロが高いソフトで作ったような商業案件っぽい動画にも「MMDでこんなことできるんだスゲー」「これMMDじゃねえよ」みたいなコメントがよく付いてる。
それゆえ、3Dのキャラクターが歌って踊る動画だとかドラマみたいなものを観たいときに見るタグは「MikuMikuDance」になってしまう。BlenderだったりUnityだったり、あるいはCINEMA4DとかMayaみたいなガチガチに3DCGをやるツールで作られた動画はそもそも検索にヒットしない。
なんだかんだでネットで動画を公開する場合、再生数がモチベになるわけだからこれは致命的だ。
動画投稿者が再生数を欲しがるように、モデルデータの作者はモデルを使ってもらいたいのである。だから作者も基本的にMMD向けにしかデータを作らない。
魅力的なMMD向けデータを他のソフトで利用したい場合はインポートする必要があるわけだが、インポートしても正常に扱えないものが発生する。obj形式などで配布されたらどれだけのソフトで利用できたことだろうか。
そんなにMMDが有利なら、MMDで作ればいいじゃないか。そう思っていた時期が私にもあった。
死ぬほど不便だ。冗談じゃなく過去の遺物でしかない。Blenderなど一般的な3DCGツールの大半では、モデリングとアニメーションが1つのソフトで完結する。
もちろんモデリング向きなソフトとアニメーション向きなソフトのような分化は生じているから、ソフトを使い分けることもある。それでも、アニメーションを作るソフトでモデルデータのポリゴンをいじることができる。
一方、MMDはモデルデータを読み込んでアニメを付けるためのソフトだ。他の人のモデルを借りてくるなら手軽だが、自分でモデルから触リたい場合(通常の3DCG制作だとそうなることが多い)には非常に不便になる。モデルデータはMetasequoiaあたりのソフトで作成し、それをMMD用のモデル作成ツール「PMX Editor」に読み込む。そしてPMX Editor上でボーンを仕込んでエクスポートし、そのデータをMMDに読み込ませる。
一回やってみると分かるが、アニメーション作成中にモデルデータを修正したくなったらその手順をもう一度踏む必要がある。たった一箇所の色を変える作業でさえ、だ。
また、一般的な3DCGツールでは「レンダラー」というものが存在する。光や反射など物理な現象をシミュレートして通じて写実的な画を出したり、あるいは物理現象を捨象してモデルデータの境界線だけを抽出し、セルアニメ風の画を出したりといったこともできる。3DCGツールから出力される画像や映像の質はレンダラーが握っていると言っても過言ではない。
一方でMMDはDirectXが映し出す低品質な画像しか出力できない。2000年代のPC用ゲームがリアルタイムレンダリングしていたような品質である。
死ぬほど不便だがユーザーは多いとなると、ユーザーの中に存在する野良の開発者が改良を加え始めてもおかしくない。実際、何度か名前を出しているBlenderの方はオープンソースであるから、世界中の有志によってどんどん機能が向上してきた。
一方、MMDはこれほど知名度と影響力を誇るソフトウェアなのに完全にクローズドソースだ。MMD本体がクローズドならともかく、MMDのデータ形式であるPMDの仕様も元々はクローズドだったのである。現在はPMXという後継の形式が主流だが、これはMMD開発者ではない第三者(PMX Editorの開発者)が提案し、MMD側がこれを取り込んだものである。
現在、MMDの不便な点を補うような関連ツールも多数存在する。しかし、それらは開発者が多大な努力をして解析した結果である。
明らかに不健全なコミュニティだと思うのだが、それを批判する雰囲気はMMD界隈に見られない。作者である樋口M氏の姿勢を批判するMMDerは居ない。年齢層が低いこともあってか、過度に神格化されているようにすら思う。MMDを批判したのじゃロリおじさん氏が叩かれたのもそれのせいだ。
樋口M氏からすると、趣味で作ったソフトウェアがここまで大きな影響力を持つとは思わなかったのだろう。とはいえ、趣味で支えられる領域はとうの昔に超えているのだし、ソースを公開してコミュニティに委ねてもよかったのではなかろうか。
これほど多数のモデルデータが公開されたり、PMXが提案されたりといった現状を見て、作者自身が一番コミュニティの力を実感しているはずなのだから。
もちろん、MMDが3DCGへの参入障壁を下げたのは事実だ。Blenderは無料だよなんて言ったところであんなに難しそうなソフトを使ってみようなんて思う人間は少ないはずだ。そういう点ではフリーのモデルを読み込ませたり、フリーのモーションを読みこませるだけでアニメーションが作成できるMMDは画期的な存在である。
ただ、裾野を広げた存在に日本の3DCGは縛られすぎていると思う。例えるなら、インスタントラーメンのせいでラーメン店が続々と潰れていっているという感じだろうか。開発者の人には、「Scratch」が幅を利かせていると例える方がいいかもしれない。
MMDがオープンになって機能を大幅に向上させ、コミュニティベースの膨大なモデルデータを活かしてBlenderや商用ツールを追撃するような未来も面白いと思うが、現実はそうもいかないだろう。