はてなキーワード: 化石エネルギーとは
「再エネの主電源化」: 太陽光、洋上及び陸上風力の変動性再エネ(以下VRE)を主力電源にすることで、電力分野においての低炭素化の達成。バックアップ電源としての化石エネルギーの利用は排除しない(調整力の問題から100%脱炭素は不可能のため、後で理由は説明する)
「小売自由化」:全ての消費者は、参入障壁の低い電力市場に参加した小売業者から自由に選択して電気を購入する。競争原理により消費者は低価格な電力を選択、もしくは証書つき電力を購入することにより非化石価値などの付加価値も購入できる。市場への入札は基本的に電力の限界費用で行われる(現行ルール)。これは達成済み。
「安定供給」:化石燃料市場の動向および天候や気温の条件に関わらず、発電サイドの問題(燃料制約、電源不足や天候不順など)での停電は起こさない(注意:配送電に起因する停電は災害などの理由から0にはできないので、ここの定義には含まない)
大手電力:自前の大規模電源を有する電力会社(JERA、関西電力などといった旧一般電気事業者、ENEOS、東京ガスなども含む)
新電力:大部分を市場で電力を購入して消費者に供給する小売事業者
「再エネの主電源化」「小売自由化」というものを両立する場合、少なくともこの先10年ー50年の短中期においては「安定供給」を日本においては完全に達成するのは不可能であるということ。
理由を説明していく。ただし「再エネの主電源化」を達成しない選択肢は国際的かつ政治的に今後取り得ないので、「安定供給」と「小売自由化」をどの程度のバランスで守るかということを考える材料を提供したいと考えている。まずは今の方向性を維持する場合を考える。
- VREはインバータ電源(直流→交流への変換を伴う)のため電力系統に大規模に導入すると電力系統が慣性力を失い、火力、水力、原子力などの同期発電機脱落時の大規模停電のリスクを高めるため、蓄電設備がない場合は出力抑制が必要
- 付言するが、蓄電池+VREも近年では価格競争力を持ち始めている(ただしあえて蓄電池のコストを負担しようとする者はいないだろう)。また2022年からFIP制度というのが始まり、再エネを市場価格+プレミアムで買い取る制度ができる(インバランスにはペナルティも課される)。この場合では再エネが発電できない、電力価格の高い時間帯に売電するインセンティブを生むため、アグリゲータやFIP対象の発電事業者が蓄電池コストを負担するモチベーションにつながる。一方で資源価格が上がっている現状で蓄電池の資本費を回収できるかは不透明
- この二つは国を超えたレベルの広域な電力系統が存在しない日本で特に顕在化する。
- ネガワット、DRは何れも短期間の電力の過不足への対応技術のためいずれも一日から1ヶ月の長期間のVREの変動には対応できない
- あくまで安定供給に向けた金銭的なインセンティブでしかなく、100%の保障を行えるメカニズムにはならない
- ただし、出力抑制が起こるような先週の土日の東北電力、四国電力管内の例には電力を活用する観点から重要
- VREが安い時間帯に水素を作ってkwが不足する場合の火力発電の燃料とするという発想
- 電気分解で90%、コンバインドサイクルを利用する場合でも高位発熱量基準で熱効率40%程度が限界なので全体として見た時に結果として3割ー4割程度のエネルギーしか利用できないため、ファイナンスの面から達成が難しい
- 発電に利用するならCCS付き水素を利用する方が現実的だが、将来的なタクソノミーを考えると採掘に関係する資産が座礁資産になる可能性が高いという筆者の予想
- 加えて重要なのが、火力発電の燃料、特にLNGは大手電力にとって長期契約するインセンティブが失われるため(長期による電力需要を見通せず、余った場合にはLNG転売損を招く)スポット調達がメインになるが、スポットは割高のため、VREが使えない時間帯のさらなる電力価格高騰の常態化を招く
- スポットは常に入手できるとは限らず、加えて無駄な国富流出の要因になり、経済安全保障の観点から政府も手を打つべき問題
- 結局VREの統合コストが2030年でも原子力に比べて割高なのはこれらの理由による
- 2024年度より容量市場が設置され、電源(kW)を取引できるようになった(すでに取引は開始されている)が、様々な理由から現在の市場価格では既存設備は維持するのは可能(難しいものも多いが)だが新設するには安い値段に落ち着いてしまっている。結果的に現在の市場設計では中長期的な将来の容量を担保できない。
- 既に2024年の九州電力管内の落札結果は供給信頼度が低く、管内の電源容量不足を示唆している。
- 発電設備の資本費を市場に負担させるシステムが必要ではあるが、新電力側からすればメリットが皆無なので難航するのは目に見えている
- 容量市場についても経過措置で取引価格が下がる仕組みになったことからほぼ期待できない
- 現状では再エネの主電源化は遠い目標なので脱炭素および電力価格の安定を目指すなら活用せざるを得ない
- 電力の完全脱炭素化を達成するには将来的にはSMRなどの調整力を備えた原子力発電所が必要不可欠だが...
- 利点
- 同期発電機であり大規模電源でもあるため電源として単純に優れている
- 限界費用は再エネと同様0、福島での事故を加味してもまだ既存原発の再稼働コストは安い
- 燃料費は発電コストの15%程度、かつそのうち加工コストが半分程度なのでウラン価格が費用に占める割合が低く、経済安全保障に資する
- 欠点
- 既存の原発に調整力を担わせるのは経済的理由から難しい(技術的には可能だが...)
- 事故が起こった時の恐怖感から賛否が分かれ、利用のための政治コストが高い上に政治家はそれを払おうとしないので期待できない
- 安全対策及び特重施設設置の問題から東日本大震災から止まっている原発については迅速な再稼働は期待できない
1. 価格面で起こること
現状の市場システムでは燃料調達のスポット市場への依存を促す仕組みになっており、資源価格の上昇がより厳しい形で市場に跳ね返る。そしてそれは最終的に一般の消費者が負担させられる構図が出来上がっている。特にエネルギー価格は逆進性があるため、低所得者への支援は必要不可欠。
2. 脱炭素面で起こること
VREの導入はこれからも進んでいくだろうが、主力電源化を進めるためにはVREの変動をカバーできるシステムが必要。蓄電池は有力な候補だが、主力電源化に必要なレベルの蓄電池導入のコストを誰が負担するのか決まっていないため、不透明と言わざるを得ない。このままでは長期的な変動はともかくとして、短期的な天候の変化にも対応できず、春や夏でも晴れた日には出力抑制が常態化するのに夜間や荒天の日には火力発電所がフル稼働する日常が迫っており、電力の脱炭素化は遥か遠い目標となる。
3. 安定供給面で起こること
中長期的なバックアップ電源を保障するシステムが今の日本には存在しない。現状が進行すると3/22のような需給逼迫警報が特に冬の時期に日常化しうる危険性がある。小売事業者に適切に発電設備の資本費を負担させる仕組みおよび長期的な発電事業者の収入を保証する仕組みが必要。安定供給は破綻に近づいている。
と、ここまで書いてきたが結局再エネの主電源化を妨げているのは制度設計のまずさとしか言いようがない。FITは再エネ導入に大きな役割を果たしたが、野放図な開発を招き、加えて電力系統の不安定さを招いた。パネル設置者が固定価格で買い取ってもらえる一方でそれによって増大した再エネ賦課金と安定供給維持のコストは広く国民が負担するハメになるのでまさに外部不経済としか言いようがない。理念が間違っているわけではないのだが、安定供給と再エネの柔軟性確保に誰が責任を持つのかはっきりすべきだった。つまりこれらは政治の責任であり、政治コストを払わなかった政治家の責任である。最も現実的選択肢としての(特重施設設置期限の延長による)原発再稼働も政治コストの高さから誰もやろうとしない。票にならないことを政治家がやりたがらないのはわかるが政治家の失策のコストを国民が払い続ける現状はおかしい。参院選の後からでも日本の電力の未来に責任あるビジョンを示す政治家が現れることを期待したい。