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2021-05-06

ある鬱の例

鬱にはいろいろな症状があるらしい。自分自分の症状しか知らない。

10年ほど前、文字どおり馬車馬のように働いていて、心が壊れた。

毎月の500時間労働で、ずっと会社で寝泊まりしていた。

スーツ下着は大量にロッカーストックして、3日に一度ほどカプセルホテルシャワーを浴びた。

毎日地獄だった。

システムトラブルから立て直せず、すでに数人が倒れている状況で、

とうとう上司が倒れたことで当時まだ若手だった自分サプライズ人事で突然チーフプロマネになった。

あとで思えば、クローズのための人身御供だったんだと思う。

たいして立て直せないままデスマーチは続き、半年ほどたって、

会社は巨額の損失を受け入れてプロジェクトクローズする判断をした。

自分担当する新プロジェクトリストラだった。

当然自分退職願を出したが、どうしても受け入れられず、

自分のチームから20人切ることになった。

すべて自分の元先輩社員だ。

地獄のような日々を一緒に過ごしてきた戦友なうえ、目上の人たち。

役員に「今やめるのがもっとも人として醜悪な逃げ方だ」と説得され、

お前が責任を取れと詰められ、

部下(かつての先輩)には怒鳴られ泣かれなじられ、

ただただ死にたい日々だった。

数人しか自主退社はしてくれなかった。

うまく書く言葉が見つからないので、なるべくシンプルに書く。

ここから半年記憶ほとんどない。

医師から聞いたのは、自分は突然真っ昼間の職場号泣し、

逃げ出してしまったそうだ。

たいして親しくもない大学時代の友人宅に転がり込んで、

日中携帯をいじっていたらしい。

まったく記憶がない。本当にないからどうしようない。

そのあと妻に連れ戻され、精神病院にいったようだが、

ある日突然、半年ほどでスッと鬱が抜けた。

妻は喜んでくれた。

退院したあと、すさまじい恐怖が襲ってきた。

自分に何もない恐怖に耐えられなかった。

仕事金もない。マンションのローンを返せるあてもない。

狂ってしまった自分が恥ずかしく、外に出られなくなった。

妻にあまりにも申し訳なく、妻の顔が見られなくなった。

空白の半年記憶もまったく戻らない。

妻に付き添われて心療内科にいき、カウンセリングをはじめたが、

治療を受けるのが急に怖くなってしまい、また逃亡してしまった。

重度の不眠症になり、どんどん飲む薬が強くなり、

妻のパート収入だけでは生活不可能だったので、妻とは離婚した。

実家寄生してそろそろ10年になる。

もう自分技術では就職はできないだろう。

だが死んでわびる勇気もない。ただただ母に申し訳がない。

せめて一円ももわず、炊事以外の家事はすべて自分がやっている。

父の遺産実家くらいしかない。築40年の田舎の戸建てに価値なんてない。

母の月10万ほどの年金で親子2人で暮らしている。

どうすればいいのか毎日考えているまま10年が過ぎてしまった。

自分はどうすればよかったんだろう。

2008-12-22

大臣スカウト

俺は大臣スカウトが言う言葉を疑った。

「アイツは素晴らしい。あれほどの大臣はもう二度と出ない。アイツを絶対大臣にすべきだ!」

俺は日本のとある省庁に勤務するうだつのあがらない万年ヒラ公務員。で、それはお約束通りの世を偲ぶ仮の姿で、実際はアンダーグランドな省庁の仕事をこなす影の仕事人と言ったところだ。役人隠語で『請負稼業』と呼ばれている。

主な仕事としては、自分が属する省庁の予算を死守する事が目的で、文字通り、『どんな仕事でも』やるのだ。予算の取り合いが激しくなった相手省庁のスキャンダル、例えばタクシーチケットの使いこみなどをマスコミ野党にリークしたりするのも俺の役目だし、天下り税金無駄遣いを調査するのも俺の仕事だ。だが、省庁間の争闘は熾烈を極める。敵対する省庁の『請負稼業』を抹殺するのも仕事のうちだし、その争いの末に命を落とすものも少なくない。ただ、こういう各省庁の仕事を請け負う『請負稼業』の者が死んでも死体は出てこなかったり、過労死として処理されたりする。まさしく死して屍拾う者無しだ。

そういう俺達『請負稼業』が最も気を遣うのは、大臣の人選だ。もちろん表向きは首相内閣組閣する時に大臣を選ぶのだが、日本首相がそういう権限を持っていると信じているのは、高校生くらいまでだろう。組閣の際、各省庁の大臣を決めるのは官僚だ。官僚がゴーサインを出した人選の中から、首相派閥力学考慮して大臣を選ぶに過ぎない。そういうわけで、一時期サプライズ人事とか言われていたあのかつての首相組閣も『請負稼業』がもちろん一枚噛んでいた。そうでなければここまで省庁の利権が丸残りするわけは無い。

請負稼業』の俺は、組閣に際して、これはと思う人物を選び、調査して、省庁のトップに情報を送る。それこそ、小学校時代の作文から、今まで付き合った行きずりの女まで全て調べ上げるのだ。なるべく最初から省庁にたてつかず、弱みの多い人物が大臣にはふさわしい。そういう人物をリストアップして調査するのだ。

大臣の人選で大事な三原則がある。「無能」「従順」「人気」だ。もちろん「無能」でなくてはいけない。省庁に対して機転を利かせて予算を削ったりするような輩は死んでも大臣に出来るわけがない。そして、省庁に対して「従順」でなければならない。これも言わずもがなだ。そして、一番大事なのは、意外と「人気」なのだ。大臣に人気があれば、その省庁は叩かれなくなる。しかも無能で従順大臣が人気があって、二回三回と留任したりすると省庁はおいしい事この上ないのだ。

そういうわけで、『請負稼業』の俺達は大臣人事には非常に気を遣う。ところが、ここ数年で新しい流れが出始めた。これまで『請負稼業』に一任されていた大臣人事なのだが、『請負稼業』と同じく、アンダーグラウンドな役割の専門家が出現し始めたのだ。その名も『大臣スカウト』だ。もちろん、隠語だが。

俺はこの『大臣スカウト』を最初は信用していなかった。死ぬ気でやってきた自分仕事が取られたのが面白くないと言うのももちろんある。どこの馬の骨かわからない『大臣スカウト』にこの道の事が簡単にわかってたまるかという反骨心が先に立ったのだ。だが、俺は結果的にトップの命令に従い、『大臣スカウト』の意見を訊く事にした。トップの命令は絶対だし、また、トップの命令が間違っていた事は無かった。国民危険にさらされるようなどんな失敗でもやらかす俺の省庁だが、予算を守る事に失敗した事なんて一度もないのだ。

こうして、俺は指令を受け、『大臣スカウト』に会った。どこぞの小汚い中年禿げデブなオッサンは脂でテカテカ光った顔で微笑みながら握手のために手を差し出したが、俺はゴルゴ13に倣って小学校以来握手はした事ないんだとその場で考えた嘘で本能的に握手を断った。そして、仕事でなければ絶対に話をしないであろう『大臣スカウト』に「無能」で「従順」で「人気」のある大臣候補の人選を仰いだ。『大臣スカウト』は、良い人材が見つかったら連絡する、と言ったまま一週間何の音沙汰も無かった。

大臣スカウト』から連絡があったのは、俺が大きな仕事に区切りをつけ、久しぶりの安眠を貪っている時だった。寝ぼけながら携帯電話を取った時、ディスプレイ時計の表示はAM2:13だった。受話器から聞こえるオッサン声が『大臣スカウト』でなければ、逆探知してトドメを刺しに行っているところだ。俺は不機嫌を隠さない声で『大臣スカウト』に聞いた。

「候補は見つかったんだろうな?」

携帯電話の受話器の向こうから『大臣スカウト』は言った。

「アイツは素晴らしい。あれほどの大臣はもう二度と出ない。アイツを絶対大臣にすべきだ!」

アイツはこうして俺の省庁の大臣になった。

俺は最初『大臣スカウト』の言葉を疑っていた。確かにアイツは人気があったが、元々うるさい評論などで活躍をしていた奴だ。とても無能で従順などとは思えなかった。そこが『大臣スカウト』の慧眼だった。「何度もビデオを見て、アイツが如何に無能で目先の事しか見ていないか、自分の人気の事しか考えていないかがよくわかってきたんだ。目をつぶれば俺達の言いなりになってくれるという姿がありありと浮かんできたんだ。アイツしかいない、とすら思えた。天啓に近い確信だったよ」

俺は『大臣スカウト』の自信に満ちた神がかり的な声を聞いて、アイツの周辺調査を行い、叩くほどに出てくるスキャンダルの多さに半ば感心しながら、調査報告書をまとめてトップに提出した。自分で言うのもなんだが、これだけのスキャンダルの材料があれば、従順どころか傀儡人形だな、と少しアイツに同情するほどの充実した俺のレポートだった。

こうして俺と『大臣スカウト』が自信を持って世に送り出した大臣は、三回の留任をして、俺達の省庁に多大なる貢献をしてくれた。圧巻は、うまく世論の攻撃を交わしながら、行政改革をしてると見せかけて、俺達の省庁の天下りの巣窟の一つを完全に残すという離れ業をやってのけてくれた事だ。人気のない大臣だったら、一回目で首をすげ替えられ、こんな大仕事は成し得なかっただろう。まさしく、俺達のための大臣オブ・ジ・イヤーだった。省庁のトップから臨時のボーナスが出たほどだ。

俺は早めの仕事納めして、『大臣スカウト』に最高級ズワイガニ3匹セットをクール宅急便お歳暮に送り、年末年始ハワイで過ごすための飛行機に乗った。

 
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