はてなキーワード: 「あると」とは
「アイドリッシュセブン」、通称「アイナナ」をご存知だろうか。
iOS、Androidで一年ほど前から配信されているソーシャルゲーム、それがアイドリッシュセブンだ。
近年人気ジャンルの一つになった「アイドル育成ゲーム」であり、そしてそのアイドル達が実際に歌う曲をゲーム中でプレイする、俗に言うところの音楽ゲームとして宣伝されてきた。
豪華声優陣が演じるフルボイスストーリーも売りの一つで、着実に人気を得ていたアプリゲーム。
この記事を書いている私も配信当初からプレイし、アイドル達の物語に一喜一憂し、トラブルにも負けずに前を向く姿を応援していた。
グッズは購入しないけれどその分アプリに課金して、とにかくハマっていた。
最初は暇潰しに丁度いいや、と軽い気持ちだった。それがフルボイスのストーリーに触れ、追加されるカードイラストが見せる表情や動きに次第に傾いて行き、気付けば暇潰しどころか毎日の空き時間や睡眠時間までも削るゲームになっていた。
「でも、楽しいし推しのイラストは可愛い。ゲームも楽しい。睡眠時間もお金も惜しくない」、そう言ってゲームを続け、何かあればゲームに逃げ込んだ。
推しは運営にも愛されている。だってカードを定期的に追加してくれるし、ストーリーでキャラを崩されないし、誕生日だって祝ってくれた。
アイナナにはキャラの誕生日ガシャというものがあって、そのガシャでは「誕生日のキャラのカードしか出ない」という仕組みだ。アイナナのガシャは普段なら候補生といって、所謂モブのRカードが平気で排出される。
他のゲームでいえば、フレンドポイントなどで回せる無料ガシャで出てくるようなカードが課金で回すガシャで出てくるといった具合。
それが一切出てこない上に、大好きなあの子のカードしか出て来ない。日々課金しては出てくるモブに辟易していた私にとって、まさに「神のようなガシャ」といえた。
そうすればユーザーは「運営ありがとう!」と感謝するし、確実に欲しいキャラを手に入れられて苛々は霧散して、自然と好感度が上がった状態になるのだ。
仮にその後のガシャを回しモブが出て来ても、ユーザーは「また次の誕生日ガシャがある。もしかしたらその前に何か特別なガシャがあるかもしれない、あんなガシャを開催してくれるんだから希望はある」と勝手に自分で自分を納得してくれるのだ。
言い聞かせ続ければユーザーはいつの間にか思考を停止するし、そこにトドメのように事あるごとに課金アイテム(石)を与えておく。
アイナナは同じSRを特訓(合成)すれば、上位レアのSSRになる。更にSRもRの合成で持つことが出来るカードがある。故に他のゲームより、課金が出来ない学生の割合も多かった。
そんな中課金アイテムを多く配布したらどうなるか? 簡単だ、優しい運営を崇拝するようになる。
課金している人にも石の足しになり、当然文句を言う人は少ない。
CDを出せば必ずランキング、CDTVの話題などを公式アカウント――それもゲーム中に実際に出てくる大神万理というキャラが言っているようにツイートすることで、更にユーザーはいかに運営がアイナナを大切にしてくれているのか!と感動する。
不定期だがプロデューサーレターというものもあり、ユーザーはより一層「このコンテンツは私たちが育てた」と優越感に浸れる。
私もそうだ。日々の仕事で疲れ果てていたのを、そんな気持ちを抱くことで誤魔化すことが出来た。
アイナナは最高だった。曲追加もストーリー追加も遅く、待ち飽きる時間だって楽しみになった。推しのカードが出るならそれくらいいいとさえ思っていた。
私はTwitterもやっていて、そこではアイナナ好きの人とも他ジャンルの人とも繋がっていた。布教はしなかったが毎日何らかのスクショをアップし、公式からの告知をRTしては「可愛い!」と言う。
アニメ化も決まった。冗談抜きで泣き崩れたし、フォロワーと喜び合った。楽しかった。
その日も仕事帰りの疲れの中、Twitterを開いた。私は電車の中で思わず声を出しそうになったくらい驚いた。
アイナナが炎上している。他ジャンルメインの人が特に苦言を呈しており、カードのキメラトレスや構図パクだと訴えかけるツイートが回ってきた。
更にキャラの設定パクを纏めたwikiまで出来ている。恐る恐る覗いてみると、そこには私の大好きなキャラの被り点を指摘する記述が並べ立てられていた。
私は何とか空いた席に座ると、スマホを片手にしばらく放心した。身動きが出来なかった。
ソシャゲ以外に疎かった私は「そのジャンルはアイナナの後に出たんじゃないのか」と、怒りで頭を真っ赤に染め上げてすぐに検索を掛けた。
……もう5,6年は続くジャンルだった。対するアイナナは一年。おまけに原案は、その長寿ジャンルの同人誌を書いていたこともあるらしい。
設定であげられていたジャンルだけじゃない。某アイドルゲームが好きなフォロワーさんが怒っている。
アイナナ繋がりの人は皆黙するか、知らぬ存ぜぬという素振りでツイートをするか、「こんなのありふれてる!」と言う人がほとんどだった。情けないことに、私も運営を信じてしまった。
するとひとりのフォロワーさんがこういった。
「私がこの子をずっと応援してきたのは、その子がアイドルとして輝く姿を見る為だ。最初は出番が少なかったけど、必死に出番を貰えるようにお金を入れてきた。全てはアイドルとして未来で笑って欲しかったから。
このゲームのカード制作の手間を減らしてやるためでも、素材を提供してやる慈善でもない。ステージで輝く姿を馬鹿にしないで」
輝いてほしい。アイドルとしてステージで誰よりも素敵になった姿を見たい。だから応援するし、お金も入れた。
…………それじゃあ、今私の手元で笑顔を見せるこの子のカードは何だ?
見れば見るほど似ていた。この笑顔もステージ上の姿も、この子であるはずなのに決してそうではない。あろうことかキャラを構成する骨組みでさえ、よそからつぎはいだものだという。
私の大好きだったアイドルは、他のジャンルの人達がずっとずっと応援してきたアイドルを平気で横取りした材料で生み出された?
ぐるぐるする頭で考えていた私の元に更なる衝撃が飛び込んできた。根岸綾香の問題だ。
アイナナに登場する如月あると。それが根岸Pが自己投影しているキャラクターだ、というツイートだった。
アイナナで「あると」と言えば、「如月あると」という人気女性アイドルという設定のキャラクターだ。
この「如月あると」は、2(キャラ名は一応伏せておく)とゲーム内ストーリーで共演し、公式ノベライズでは撮影現場でも仲良くしており、「ある坊」と呼ぶ程親しい仲なのだとも言われている。
根岸PのTwitterアカウント名が「あると」であること。アイナナ関連の(恐らく製作に関わる重要な)情報をツイートしていることから裏付けが出来ると、スクリーンショット付きで流されていた。
なんで?私がお金を払っていたものは他の人がたくさんの愛情を込めたコンテンツを平気でパクったものなの?ゲームプロデューサーの夢小説ってどういうこと?
グッズについても言及する声があった。やはりそちらも類似しており、眩暈がした。
それでもツイッターのアイナナ好きは意見を変えない。寧ろおかしいと声をあげることを赦さない、異様な雰囲気のままTLが流れていた。私は先ほどの訴えと根岸Pの件を耳に入れ、ようやく決心した。
アイナナに課金するのは様子を見よう。そして一度運営に問い合わせよう。
大丈夫だ。あれだけキャラに愛を持っていた運営だ。ユーザーに優しいツイートを流し、プロデューサーレターまで用意する様な彼らなら、誠意ある対応で今後も安心して遊ばせてくれるはず。
そんな期待もあった。私は運営にメールを送り、調査を待った。何の根拠もなく調査してくれると思い込んでいた私の元に、翌日返信が届いた。
内容は典型的な挨拶、それから「そのような事実はない」という否定。
……調査は?と思った。ツイッターを開き検索すると、同じような内容が返ってきたというツイートを見かける。おまけに課金していないのに勝手に代金を請求されるという「課金エラー」も起きており、早急な対応をするべき問題にノータッチ。
愕然とした。どうして?なんで?あんなにキャラを、ゲームを大切にしていたなら、ちゃんとするべきじゃないの?
「本当に大切ならその子固有のポーズや表情を考える。その子だけの煌きの一瞬を切り取るはずだ。アイナナは、そうじゃなかった」。
私はあれだけ熱に浮かされ、運営を信じ込んでいた頭が一気に冷えて行くのを感じた。本屋でアイナナが表紙になっているのを見かけ、コンビニでアイナナの商品があると知らずのうちに嫌悪感を抱いていた。
キャラは好きだ。ストーリーも応援していた。運営も好きだった。なのに対応は杜撰、根岸の自己投影。何よりもパクリ問題や他の俗に言うラレ元ファンの人を踏みにじった。
ツイッターを見るとアイナナファンはみんな口をそろえ、「アイナナは悪くない」「どこにでもある」「他のゲームも被ってる」という。傷付いた人たちのことは顧みない。どこにでもあるという構図は、そのゲームの運営やイラストレーターがきっと必死になってそのキャラの為に考え生み出した一枚だ。
私自信、彼らのこともゲームも良く知らない。けれど彼らがアイナナのための素材集ではないことくらい分かる。
それでも諦めきれずだらだらとゲームを続け、罪悪感や苛々、ファンの言動への嫌悪を募らせていた時。ついに公式が声明を出した。私は藁にも縋る思いで読み、乾いた笑みを零した。
要約すると「パクじゃない。これからもオリジナリティを追求し頑張る。」問題の根岸に至っては、まるで怒られて不貞腐れた子どものそれだ。
第三者機関への調査依頼さえせず、違うと言い張る運営。絶望だった。そうか、彼らはアイドルを大切にしていない。他のゲームもファンも、自分のコンテンツのキャラクターさえ「金になる存在」程度にしか見ていなかった。
私はアプリをアンインストールした。グッズを購入しないタイプだったので、何も手元には残らない。でもそれで良かったと安心した。
ツイッターは相変わらず「嫌なら辞めろ」「アイナナを叩くな」と盲目的な意見で溢れている。一歩間違えば私もああだったのかと思うと、今回の件で傷付いた人やクリエイターさん達に申し訳ない気持ちでいっぱいで、トイレに籠り思いっきり泣いた。
辞めた人達にもアイナナが好きで、運営がまともな対応をしてほしいと思う人だっているだろう。実を言えば私もそうだ。
そんな人たちの意見さえ許さない。肯定しか受け入れない。まるで今の擁護派は宗教の信者のようで、日々誰かを傷付けていることに気付かない。
彼らはいつになったら気付くんだろう。存在しているだけで不安と怒りを与えるコンテンツを擁護する自分達という姿を、一度見つめ直してほしい。
アイナナが今後も誰かの大好きなキャラを素材にするかもしれないのだ。標的は自分の大切なあの子かもしれない不安を、きっと他のユーザーは抱き続けないといけない。
ストーリー中で、アイドリッシュセブンの楽曲が盗作されるというものがありました。盗作されたアイドリッシュセブンの子達は、喜んでいましたか?
それが答えです。ストーリーだ!創作だ!というなら、もう何も言いません。
消費者にはこの件について言及する権利があります。私は気持ちの整理をするためにこれを書きました。
終わって問い合わせ可能な時間になれば、調べてから然るべきところへ問い合わせます。もうアイナナをプレイすることはないでしょう。アニメも観ません。
でもきっと一緒に成長したかったあの子だけは忘れられないし、これから好きな気持ちと、好きになってしまったのが悪いことだと言う罪悪感も持ち続けるんだと思います。
ついさっき一縷の望みをかけて公式サイトもツイッターもみました。でもやっぱり、なんにもない。
残ったのは色んな感情と、このコンテンツを応援し続けたという一年間だけ。なーんにもない。あの子は運営から愛されていなかったし、きっとあの子にしか無い煌きも本当はどこにもなかった。
まだ課金エラーにも対応していない運営。彼らがいつかまともになっても、私は今回のことが頭を過ってしまうから、きっともう戻りたくても戻れない。
アイナナの人達はみんな切った。私がお金をかけて生み出していたのは誰かの憎悪と、哀しみと、不安と、傷だった。一年間情熱を注いで愛を抱いて笑って楽しんで、手元に残ったのは途方もない罪悪感と虚しさだった。
これでおしまいにする。アニメショップにももう行かないし、ツイッターも消すだろう。アイナナを見ればどうしようもなくなってしまうから。
でもあの子が成長する姿や煌くのをもっと見たかった、どうなるのか一緒にはらはらして笑って泣いて前に進みたかった、あの子がいれば毎日頑張れた。私にはあの子が必要だった。でもあの子は演じている人さえ、規模は小さかったけどやってはいけないことを起こしていた。怒ってる人がいた。だからもうだめだった。
さようならアイドリッシュセブン。これを書いている時点で未練も何もかもたらたらなんだろうけど、私は元ユーザーとして、せめてもう誰もこんな気持ちを抱く人が出ないことを祈っています。