2015-08-24

オリンピックエンブレム佐野氏の話と、「デザイナー」という職業

 

私の職業は「デザイナー」兼「イラストレーター」です。


高校デッサンなどの基礎美術を学び

大学では広告・冊子・WEB等の「ビジュアルデザイン」を学び

もちろん知的財産権についてなどの座学も受けて

卒業して、デザイン事務所に入って、その後フリー仕事してるような人間です。




まず最初に、件の話の発端である

オリンピックエンブレムパクリかどうか」について触れます

「好きかどうか」「良いか悪いか」じゃないですよ。

その辺は個人の主観によるので置いておきます



個人的結論を述べれば、

「まあパクリではないだろう」というところです。




「丸と四角と三角をTの形にいい感じに並べて、さら日の丸を強調した」

というだけのロゴであるわけだから、結果何かと似たとはいえ、

まあそんな話はよくあることだという印象です。




もう少し詳しい背景を説明していきます。読み飛ばしても良いです。




オリンピックロゴを含む、「大企業ロゴ」や「国家事業マーク」といった、

公共性の高い団体ロゴデザインというものは、簡単な図形で作られた抽象的なものが多いです。

理由は色々あるけれど、「万人に受け入れられるものであるべき」というところは大きいんじゃないでしょうか。

女性向けでも男性向けでもなく、大人向けでも子供向けでもない、そういう物を作らなくてはならないので、

あんまり具体的なモチーフを使うと偏りがちなんですよね。


そうはいっても、

近年のオリンピックロゴというのは、自由曲線で書かれた具体的な物が多かった。

その分好き嫌いの分かれるものだったわけです。


ロンドン五輪なんか

「夜中にヤンキーが高架下の壁にスプレーで書いてるアレ」を元にしてて。

それを「超クールだぜ!」って思う層もいれば、「伝統冒涜している、ありえない」と思う層もいて。

そんな流れから日本招致することになった今年。

振り返られる伝説、「亀倉氏の東京オリンピックロゴ」はその具体的なものと比べて非常に抽象的。

赤丸にゴールドの文字でTOKYO

これを嫌いだって言う人はそういない。だって「丸が嫌い」だなんて人は居ないもん。


佐野氏を始め、亀倉氏を信奉するデザイナーは非常に多いです。

オリンピックロゴを作りましょう」なんて話になったら、真っ先に思い浮かぶのがあのロゴ


最近は具体的なロゴの流れが来ているけれど、果たしてそれで良いのか?」

「亀倉氏のロゴのように、シンプルで迫力があって、それでいて繊細でモダンで…」


というイメージは、デザイナーだったら選択肢には上がったのではないでしょうか。

例に漏れず、佐野氏はそこから作り始めて。


東京から「T」を使おうと決めて。

伝統的なフォント「Didot」はとても美しいから、その形をモチーフにしよう、と考えて。

その特徴的なセリフ(Tの左右の飾りの部分)の曲線を見て、

これは円を内包しているようにも見えないだろうかと気付いて、

それを強調するためには、セリフの片方を右下におろせばいいのでは?なんて試して。

それだとTに見えないし、そうだ、ここに日の丸を置くことで、左胸の心臓(正面から見たら右側)を表せるのでは…




とか言って作っていったんじゃないかと想像が付くわけですね。




佐野氏や委員会著作権法が述べる「オリジナリティ」は、この過程にあるわけです。

出来上がったものだけ見たら、そりゃまあ似てますが、

結果的に似てしまった」

っていうのは著作権的には全く問題ないんですよね。

Tの形に丸や四角を並べただけで著作権に引っかかってちゃ抽象的なロゴなんか全部パクリなんです。

それじゃ困るし、実際「たまたま似ちゃった」ってことは頻発してるので、法的には許されてるんです。

ちなみに商標権的には「たまたま」でも法に引っかかるんですけど、

その辺はクリアしてるらしいので、やっぱり問題ないんですよ。







さて、以上がオリンピックロゴが「パクリではない」「問題ない」

と、私を始めとするデザイナーたちが主張する理由です。

あとは佐野氏の人柄が「パクるような人じゃない」とか、そういうのもありますが、

私は末端の人間なので佐野氏の人柄については存じ上げませんし、なんとも。






じゃあ何なら問題があるのか。



他人作品たまたま似ちゃった」

じゃなくて

他人作品意図して使用した」

だと問題が発生するんですよ。




まさにその例がサントリートートバッグ佐野デザイン




フランスパン写真自分で撮って配置したらたまたま似ちゃった」

かいレベルじゃないわけです。


そのフランスパン写真の角度や焼き目やキズは、

無関係の個人がブログに上げてたフランスパン写真完全に一致しちゃってるわけです。

これはもう言い逃れはできない。

誰がどう考えたってその写真パクってデザインに貼り付けただけなんです。大問題です。




しか特筆するならば、本人も言ってましたが

これはまあ、スタッフ仕業だろうな、ってところ。





そもそもデザイナーって職業は、

世の皆様が思っているほどクリエイティブオリジナリティ溢れる職業じゃないんです。



デザイナーからって絵が書けるとは限りません。

(絵を描くのはイラストレーター仕事です)

デザイナーからって写真が上手とは限りません。

写真を撮るのはフォトグラファー仕事です)

広告に書いてあるお洒落な文面もデザイナーが考えてるとは限らないし、

コピーを考えるのはコピーライター仕事です)

そもそもPC使えないデザイナーだってそこそこ存在してます

(下っ端デザイナーが代わりにPCを使います




「じゃあデザイナー仕事ってなんなのか」というと、

端的に言えば「考える事」と「コミュニケーション」です。



お客さんに還元できるかんじの、夏っぽい企画を考えてくれ、って仕事が入ったとしましょう。



夏っぽいってなんだろう。

プール水着サングラスにビーチ。フランスパンとかおしゃれかも。女の人は鳥なんかも好きだよね。

そういうのでノベルティを作って…せっかくなら使えるものにしたいよね。

そんな柄のおしゃれなトートバックを大量に作るってどうだろうか。


っていう企画を考えて、クライアントプレゼンします。

「こんな企画どうでしょう話題になるとおもうんですよね!」なんて言って。


さて企画が通ったぞと。予算も決まって、デザインの開始だ、と。


フランスパンをなんとなくおしゃれに見せるためには、

斜めに置いたらいいんじゃないか?とか、はみ出したらいいんじゃないか、とか、

それっぽくていい感じのレイアウトを考えて、スケッチして。

じゃあ色は何色がいいんだろうか、とか、

大きさはどんなもんだろうか、とか、たくさんのことを考えて…




予算◯◯◯円でベージュ帆布生地を探して、業者と話つけといてね。

 デザインスケッチ描いといたから、それっぽい絵や写真を用意して×日までに作っておいて。」

って、事務所スタッフ達に伝える。




・・・ここまでが想像される佐野氏の仕事です。

あとはその×日に全作品をチェックして、「これはOK」「これは駄目、やりなおし」ってスタッフに伝えて。

数日後に出来上がった全てをクライアントのところ(サントリー)に持って行って、

「これでどうでしょう」って再度プレゼンするわけです。




完全に想像なので、実際にはもっとはじめの方からスタッフ任せかもしれませんし、

もうちょっとだけ手を動かしてるかもしれません。



つまるところ、

クライアントから依頼を受けて、細かく企画を考えてプレゼンして。

テーマに合わせてパーツを選んで、いいかんじに組み合わせて素敵な作品に仕立てる。

そういうのが「デザイナー」の仕事です。




世の皆様が想像する「クリエイティブ」っぽいことしてるのは、

実際に手を動かしてる写真家イラストレーターの方々であって、デザイナーはそれほどでもありません。


もちろん自分で絵を描いたり写真を撮ったりするデザイナーさんも居ますが、

かならずしも自分の絵や写真が、作りたいものマッチするとは限りません。

アニメっぽいイラストしか描けないデザイナーさんにリアルな画風のシリアス仕事が来ても描けないし)

そういう時には他のイラストレーター写真家を探して外注します。


車を作るメーカーと、そのパーツを作る下請け会社関係、みたいな感じ?

パーツは自社で作ってないけど、それをいい感じに組み上げる技術は持ってる、みたいな。

その技術活用するのが「車を作るメーカー」であったり「デザイナー」であったりするわけですね。






で、佐野氏の話に戻るけど

そういうわけで、

パクったのは佐野氏じゃなくて(本人の言う通り)事務所スタッフだと思うんですよね。



「こういうレイアウトフランスパンのいい感じの写真配置して」

って言われたスタッフが楽をして、ネットからフランスパン写真を探してきて配置したんでしょう。



とまあ、特筆したわけですが、だからといって佐野氏が悪くないわけでは全く無いです。




・「佐野デザイン」って銘打ってるんだからスタッフのせいだろうと責任佐野氏にある。

というのがよく聞く話で、それはもちろんのこと。




さら個人的には、

イラスト写真の分の対価はどこに消えたのか

という部分も気になります



ネット写真を拾ってくるのと、

実際にフランスパン看板を用意して写真を撮ったり絵に描いたりするのでは、

所要時間結構な差が出るはずなんです。

フランスパン看板を買うお金だって必要です。数百円かもしれませんが。


その差に誰も気づかなかったんでしょうか。

フランスパン領収書貰ってないけど、どうやってこの写真撮ったの?とか。

出来上がりがやけに早かったけど、この絵はいつ描いたの?とか。


素材をちゃんと自分で用意していれば、

その分出来上がりまでの時間が遅くなって残業代が出たり、

イラスト外注したりパンを用意したりした分の経費が出るはずなんですよね。

普通会社なら。


普通会社なら。




写真をパクったスタッフは、果たしてホントパクリたくてパクったんでしょうか。

さすがにデザイン事務所で働いてる人が「ネットから勝手写真を持ってきても良い」とは思ってないでしょう。

悪いことだとは認識していると思います

佐野氏はオリンピックエンブレムを作る程には大御所ですし、クライアントも大きなところですから

写真を購入する程の予算がどうしても捻出できない、とは考えられません。

でも、写真は購入していない。させてもらえなかったのか、スタッフ自身判断かはわかりませんが。

でも自分撮影するにはスケジュール的に無理があって。でもなんとかしなきゃ怒られる。

うーーーーん仕方ない、どうせバレないだろう。適当写真勝手に使ってしまおう。



という流れすら透けて見えるのです。


これは妄想ですよ。妄想ですからね。

スタッフがどうしようもないクズで、時間があったのにやらなかったとか経費をくすねたとかいう可能性もありますし、

事実だったとしてもスタッフが悪くないわけではないです。罪になりますからね。







デザイン業界というものは、おしゃれに見えて、わりかし体育会です。

残業代なんてあってないようなもの

普通サラリーマンに比べれば給料も安めです。

初任給は額面で15万〜20万ぐらい。手取りは13万とか15万とか。

多くの事務所関東にありますが、住宅手当も寮もないから家賃給料の半分以上が飛んでいきます

ボーナスはあったりなかったり。残業代も出たり出なかったり。

少人数で回している事務所では、そもそもそういうシステム自体が無かったりもします。

もちろんそうでない事務所もあるんでしょうが、そういう話はよく聞きます

なんでそうなっちゃうかって、代理店仕業だったりクライアント事情だったり色々な理由があるんですが。






結論として。


佐野氏がパクったわけではないだろう、とは思っています

でも、佐野氏の事務所では働きたくないな、と思ったし、

HH堂やD通はやっぱ噂通りにしんどい(色んな意味で)場所なんだろうなとも思いました。


佐野氏だけじゃなくて、デザイン業界全体の闇?みたいなものを再認識した一件でした。


追記


まあ書くまでもなかろうと思ってましたが、

トラックバックで突っ込まれたので追記。

デザイン業界ではよくあることだから別にいい」

とは言ってません。

しろ

デザイン業界ではよくあることだからデザイン業界はクソ」

ぐらいの話のつもりです。

ただそこで、

佐野氏がパクったか佐野氏はクソだ」とか

佐野氏にはオリジナリティがないからデザイナーを名乗るな」

とか言う論調になるのに疑問を覚えただけであって。

私としてはまず「佐野氏の事務所スタッフ管理はどうなってるんだ」と思ったし、

でも、自分の知ってるデザイン事務所を思い起こせば、どこもそんな管理体制だったわけで

(上は下の仕事文句付けるだけだし、下がまともに仕事をするためのロクな環境は整ってないし)

そうやって考えたときに、「佐野氏以前にデザイン業界の業務体制自体がクソだ」という結論に至った、ということです。

デザイン業界の横のつながりって「仲が良い」「飲み仲間」「一緒に展覧会した」みたいなレベルの話で、

業務自体基本的に、1クライアントに対して1デザイン事務所なので、自浄作用とかあんまり期待できない。

クライアントに対してのプレゼンが誠実で説得力があれば、クライアントからスタッフ給料とか実務時間とか見えないし。

デザイン業界」っていうのに明確なヒエラルキーがあるわけでもないので、

デザイン業界佐野氏を罰するべき」とか無理無理。佐野氏に上司なんかいないし。

せいぜい「昔の同僚と飲んだらもっとちゃんとしろって叱られた」とかそのぐらい。

クライアント側がこれから佐野氏に仕事発注するか否か。それだけ。

最初に述べた通り、自分フリーで細々と働いているわけだから、こういう話は蚊帳の外

誰に何を言おったってサントリーから仕事は来ないし、佐野氏に肩を並べることもない。

だってそのためにはその「デザイン業界の闇」の中を歯食いしばって勝ち抜かなきゃいけないんだもの

  • デザイン業界の人間ってのはどうして何一つわかってない奴らばかりなんだろうな 「オリジナリティやクリエイティビティが重視される業種の人が悪質な盗用をしでかしました」 この時...

    • だって価値を決めるのはお前みたいな有象無象じゃないからw

    • この↓認識が違うんじゃないの? オリジナリティやクリエイティビティが重視される業種の人が 業界の人が繰り返し言ってるのはそういう業種じゃないよって話でしょ。(皆無とは言...

      • 馬鹿の考える「オリジナリティとクリエイティビティ」=「これまでに発表されたありとあらゆる作品と全く異なり、かつ誰が見ても良いと思えるもの」ってことだから話にならんよ。

      • 業界の人が繰り返し言ってるのはそういう業種じゃないよって話でしょ。(皆無とは言わんが、一般の人が思い描いているようなものではない、ってこと) そう、そこが不思議なんだよ...

        • デザインの役割や意味や目的について、実際にデザインを役に立ててる人たちとそうでない外野の人たちでとらえかたが違うってことでしょう。 そんで、それが一般的にデザインの質や...

          • 何の権威も持たない一般人の写真を盗用するような手合いが大物ヅラしていられて、しかも業界人がこぞってその盗人を擁護しまくってる業界って時点で十二分に害悪だから

            • 別の論点を持ちだして否定するという悪質なメソッドを使う人は、 まったくもってまっとうな人類として認められませんなあ。

            • あーなるほど、「大物ヅラ」かあ。そのへんに温度差があるのかもなあ。 俺はデザイン業界人じゃなくて、日常目にするデザインを誰が作ったのかなんてほとんど意識したことない。今...

              • 何の価値もないからさっさと切り捨てれば良いのに、業界人が一致団結して擁護しようとしてる辺りが気持ち悪いんだよ

  • 「BEACH」もそんな感じで弁護できる?

  • 論旨とは違うと思いますがデザイナーさんということで質問させてください。 「東京だから「T」を使おうと決めて。」 これってどう思います? 企業のロゴならともかく「TOKYO」の...

    • 元の日記を書いた人ですが、この辺は単なる個人的な趣味の話。 TOKYOのTをロゴにするっていう発想自体は別に、悪くは無いと思うんですよ。 扇子や桜はわかりやすいモチーフだけ...

  • 元増田、まだここ見てる? 五輪エンブレムの組織内検討資料に他人の写真を使うのはどうなのか/ 佐野研二郎、海外ブログの写真からCopyrightの文字を削り盗用か?

    • まとめブログにアクセス流すなカス 佐野を殺したいならまずまとめブログから殺せよカス

    • パクリブログを引用してアクセス流すような奴が真っ当な主張をするわけないだろ。 「パクリブログはダメだが俺は奴らとは違う」という言い訳は通用しない。 通報される前に犯罪者は...

    • 虫の混入で騒ぎになったペヤングなんて、店頭に並んでる商品全部回収してさらに生産ラインも改修して半年後にようやく販売再開してたからな 盗作が発覚したデザイナーなんて食中毒...

  • 長い。簡潔にまとめて。

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