はてなキーワード: UBS証券とは
これと同じパターンでユーザーをかき集めているベンチャー企業が、ニュースアプリのgunosyだ。gunosyは東大生の福島良典氏が創業し、後に、グリーにネット広告の会社を売却した連続起業家の木村新司氏が共同代表に就任して経営を引き継いだ(2014年8月退任)。今年のIPO有力候補と目されており、その時価総額は数百円規模になるとも噂されている。
昨年に調達した24億円のほとんどを広告費に投じたとされていて、そのお陰かダウンロード数は800万に達しているようだが、そのうちの一体どれほどがアクティブなのかは甚だ疑問だ。
その証拠に、グーグルトレンドで「gunosy」「グノシー」「ブレフロ」「ブレイブフロンティア」と入れて調べてみると、その落ち込み方は上場ゴールを決めたgumiのゲームタイトルがかなりマシに見えてしまうほど深刻であることがわかる。
足元の業績動向がどのようになっているかは外部からは知る由もないが、ゲームアプリと違って直接的な課金が出来ない分、業績数値を作るのは容易なことではないと推測できる。昨年投じた24億円もの広告費で「買った」ユーザー数の伸びを実績として空虚なエクイティストーリーを描き、それを元にして言われているような大規模な上場を許してしまうことは、日本の証券市場に大きな汚点を残す危険性を孕んでいるように思える。
調達した資金によってテレビCMという短期的には成果の上がりやすい劇薬を飲む。その経営判断をするのは自由だが、ユーザーの離散という副作用が現れる半年や1年後の経過を待たずして、上場株として押しこんでしまうのは非常に危険であり、モラルを著しく欠いた行為だと言わざるをえない。良識ある市場関係者ならば、絶対にやってはならないことだ。
最近ではメタップスやラクスルの例があるように、非上場でも数十億円単位の調達が可能なご時世であるし、もしgunosyが本当に優れたビジネスであれば、ここでIPOを急がずとも、もっとしっかりと業績がついてきた段階で改めて上場しても何も問題はないはずだ。テレビCMというブーストをかけて作った成長イメージを上場株の投資家に売りつけるのが目的なら関係者は困るかもしれないが、そういう人たちの投資資金や労力が泡となって消えたとしても自己責任であり、単なる投資の失敗なのでやはり問題はない。
今や時価総額3600億円にまで成長し、ゲーム市場で確たる地位を固めたコロプラも、2012年末のIPO時の公開価格は売上高100億円、営業利益23億円という業績予想に対して時価総額234億円、PER18.7倍という水準で生まれてきている。関係者がその企業の将来性を信じているのなら、IPO時の価格を必要以上に高くする必要は全くない。その後の結果によって、自らが信じる本来あるべき企業価値へと投資家を導けば良いのだ。
市場の活性化を目指す取引所や大手証券会社は、とにかくIPOの社数が増えればいいと思っているフシがあるようだが、私が思うに現実はその逆で、IPOの粗製濫造を今すぐにやめるべきだと考えている。
そもそもリスクを取りたがらない気質に加え、人口減に陥り、経済全体の成長が大きく見込めない日本において、有望なベンチャーがポコポコ湧いて出てくると考えるのは誤りである。にも関わらず、「シリコンバレー」や「エコシステム」などの言葉ありきで物事を進めようとするから、後に残るのは上場後数ヶ月もすれば誰にも見向きもされなくなった「かつてIPOだった」ゴミの山なのだ。
そうではなく、もっと少数精鋭の有力ベンチャーを市場に呼び込み、成長性の高いIPO銘柄に投資することは投資家にとっても有益であるという成功事例を積み上げることこそが、唯一の解なのではないだろうか。私などからすれば、市場関係者が今やっていることは、IPOを単なる期間限定のマネーゲームの道具として扱うことを促進、推奨しているようにしか思えない。
取引所が昨今のスタートアップブームに迎合しなければならない必要はまるでない。いたずらに上場基準を緩くしたりせず、市場の規律を守る番人として毅然とした態度を取り続けて欲しいと願う。
この際だから、私が昔から違和感を覚える現象についても触れさせていただきたい。それは、ベンチャー企業が大きな調達をした時に、手放しで起業家側だけを賞賛する一部のネットの人々の存在だ。私のような投資家側の人間からすると、そのリスクを取りに行った投資家も同じだけ賞賛されるべきだと思うのだが、どうも資金を受ける側もそれを応援する側にも、投資マネーはどこかから湧いてくるようなものだというおかしな感覚があるのではないかと感じてしまう。
その際たる例が、gumiのCFOとして大型の調達を実現し、数々のスタートアップイベントにて武勇伝を語ってくれた川本寛之氏の存在であろう。
川本氏の発言の数々を見ていると、この人は他人のリスクで博打を打って、その成功を自分の手柄にしてきた人という印象しか受けない。人から預かった何千万円、時には何億円という大金を、以下の発言のような感覚で使ってしまう人間がベンチャー業界の有名人なのだと言う事実に私は恐怖と戦慄を覚える。
私、キャピタリスト時代に5社か6社か、ちょっといろいろあって少ないんですけど、投資をしたんですけども、一番自信がなかった案件がgumiでした。「多分、潰れんだろうな」みたいな(笑)、そんな感じで思いながら、49:51でいうと「まぁ51で投資してみるか、こいつちょっとおもしろそうやし」っていうのが國光さんだったって感じでして。
その後2011年11月に、わりと当時のベンチャー企業としては大型のファイナンス、20億円の増資を担当しまして、挨拶代わりに20億円調達したからっていうのもあったのか、現任で取締役をやらせてもらってます。
特技として資金調達って書いてますけど、一応今まで50億円くらい調達してまして、非上場の間に私は100億円調達するというのが一応目標です。そんな感じです。
まさに調達屋を自認している様子だが、こうした人々が集まってそれぞれの調達自慢を行う場のモデレーターを、UBS証券のマネージングディレクターがつとめていることには驚くしか無い。外資系証券だけあって、他人のサイフで博打を打つことにかけては共感する部分があるのだろうか。
極めつけはこの発言だ。
「FIFAショック」って社内で呼んでいるんですけれど。私銀行にいたから、晴れているときに傘を借りまくろうと思って。このとき、3.5億円と10億円の融資をいただいたとき、実は裏側で「FIFAショック」が起きるって情報をインサイダーでもってたわけですね。
8月の10日ぐらいに「やべえFIFAの契約が11月で切れるかもしれん」という話しが国光さんから来て、どうしようかなと思って「明日からちょっと資金調達に走ります」とか言って、9月末に融資を10億円引っ張ったという。かなりタイトなスケジュールでお金を引っ張った途端、売上がドンと下がっていって、赤字が最大3億円に。
そのあと、ぎりぎりのところで、『ブレイブフロンティア』がリリースされるという。これはgumiに金がなかったので、gumiベンチャーズを使って、変則スキームで買収したっていう、ありえない形で。人のゲームで何とか救ってもらったという状態です(笑)。
このような信義にもとる行為を自慢気に語る人間がいる会社に私は絶対に投資をしたくない。
この手の風景を賞賛する人々には、ではもし自分がその資金の出し手だったらどう考えるか?という発想が全く抜け落ちているように思える。時には他人を踏み台にしていく図太さも成功には必要なのだろうが、公の場でこうした発言の数々を臆面もなくしてしまうような人たちが主役として持ち上げられる限り、日本のベンチャー業界が健全さを保つことはないし、gumiのような上場ゴールは何度でも起きるのだろうと思ってしまう。
今回の件を受けて、これまで英雄視され、そのビッグマウスぶりが許容されてきた國光氏の存在がスタートアップ業界内でどのような扱いを受けるのかについて注視していきたい。ああいう人だから、という声も一部では未だにあるようだが、一旦上場して公開企業となった以上は、これまでのようなベンチャーごっこの感覚では済まされない。今後、時間をかけて経営責任を全うし、結果で株主に報いていくことが必要になる。
それを待たずして、彼を「上場に成功」した人間として周囲が持ち上げ続けるようではいけないし、日頃から日本にシリコンバレーを、もっと起業家の数をと叫んでいる業界の人々も、こうした内側の腐敗に対してもきちんと向き合わない限り、日本のスタートアップ業界に本当の夜明けがやってくることはないだろう。
また、本筋とは違うとばっちりで申し訳ないが、本件で物議をかもし、様々な業界から注目を浴びることになってしまった梅木氏も、主だった実績としてはサイバーエージェント子会社における短期間の投資補佐業務しかないようであり、彼のような人が業界人としてそれなりに幅を利かせているようでは、外部から業界全体を見た時にその程度の集団かと思われてしまうリスクはあるように思う。
そんな彼が主催する月額4000円の有料サロンには387名もの加入者がおり、その中には上場、非上場問わず著名な起業家の名前も見られる。
http://synapse.am/contents/monthly/yuhei.umeki
この方々はせっかく素晴らしい実績を打ち立てたのに、梅木氏とつるんでいると思われることで失う何かがあることについてはどうお考えなのか、機会があればぜひ伺ってみたいと思っている。とは言え、毎月157万円の固定的な売上があり、手数料が3割としても年間にして1300万円ほどの粗利を確保している梅木氏は立派な成功者であると言えよう。昔から、ゴールドラッシュでは金を掘るよりツルハシを売れと言われるが、それを実践している点だけは見習うべきところかもしれない。
長くなったが最後に自戒の念も込めて、我々個人投資家の側にも多少の責任はあることは記しておきたい。日本の個人投資家が毎年のように出てくるIPOにとてつもない高値をつけ、マネーゲームの道具として次々に使い潰している現状があることは事実で、それを使って一儲けしてやろうと考える人が現れても仕方のないことではある。
起業家やベンチャーキャピタルを含めた市場関係者には、業界を長期的に、健全に発展させていくために良識を発揮してもらいたいと願う一方で、我々個人投資家の側も、優良なベンチャーを見極め、そこに投機ではなく投資マネーを供給して共に成長していく姿勢が求められる。
特定の誰かの利得のためではなく、全てのステークホルダーが同じ方向を向き、一丸となって行動して行かない限り、今回のスタートアップブームもまた一過性のものに終わり、バブルの歴史に新たな1ページが書き加えられることになるだけだろう。そのような未来は、誰一人として望んではいないはずだ。