はてなキーワード: CANNABISとは
http://b.hatena.ne.jp/entry/gendai.ismedia.jp/articles/-/54373
「医療大麻」に対する肯定的な反応が多いが、どのようなものをイメージしているだろうか?
医療大麻Medical Cannabisと言った場合、ほとんどは飲み薬や注射ではなく、大麻草に火を付けて煙を吸入するものを指す。英語で検索すれば分かるだろう。上の記事中で言及されている大塚のサティベックスは「大麻から作られた薬」であり、医療大麻ではないのだ。
つまり嗜好品として吸われる大麻と医療大麻は大麻草の品種が違うぐらいで、実質的な差はほとんど無い。大麻製剤ではなく医療大麻解禁を求めている連中はまず下心があると思っていい。
大麻に医療上有効な成分が含まれるのは間違いないが、だからといって「医療大麻」が医療上有効ということにはならない。カテキンやポリフェノールが健康にいいからと言って、茶やワインが健康にいいとは限らないのと同じだ。十分な量を摂取できないし、余計なものをいろいろ取り込んでしまう。
THCはいわゆる麻薬で、鎮痛・吐き気止め・食欲増進などの効果がある。ただし効果が不安定で副作用が大きく、目的に反して痛覚が鋭敏になったり吐き気を増幅したりする場合もあるため使いづらい。他の鎮痛剤や医療用麻薬の効き目が悪い患者用としての需要はあるので、無意味というわけではないが。
CBDは麻薬ではなく、依存性もハイになったりもしない。てんかんの治療に使えるとか、抗がん剤の作用を増幅するとかいった効果があるようで、それなりに有望な成分だ。
ただし大麻やTHCと違って、CBDを薬として使用することは今の日本でも禁じられていない。CBDに期待するからといって、医療大麻解禁などを訴える必要は無いのだ。
先日、ゲートウェイ理論に納得できないって増田があったよね。これhttp://anond.hatelabo.jp/20161026010604
ブコメでも学術的にはどうなのよって声があったのでちょいと調べてみました。
まず薬物のゲートウェイ理論に関する最初期の論文(たぶん最初じゃないかな?)はKandel (1975)ね。
・ランダムサンプリングされたニューヨーク州の高校生における縦断的(経時的)研究
・5~6ヶ月の観察期間中、飲酒および喫煙習慣のある高校生の27%で大麻への移行が見られたのに対し、そうした習慣のない高校生のうちわずか1%でしか移行が見られなかった。
・同様に、大麻を使用する高校生のうち26%でLSD、アンフェタミンまたはヘロインへの移行が見られたのに対し、非薬物大麻(食品とか飲料に入ってるタイプ)や合法ドラッグ(酒やタバコ等)の利用者で移行が見られたのはそれぞれ1%と4%のみであった。
つまりは"酒・タバコ → 大麻 → その他違法ドラッグ"という一連の流れ("Gateway" sequence)が存在するのではないか、という話。
なかなかそれっぽくて分かりやすい結果だね。
疫学を多少かじった人が見たら「なんか交絡あるんじゃない?」って思いそうな結果でもある。
この論文、うちの大学では全文読めなかった(Scienceなのに!)ので、交絡やら何やらどこまで考慮されているのか等は分かりません。ごめんね。
さて、その後いろいろあってゲートウェイ理論は非専門家にも知られる程度の知名度を得たわけだ。
でもまあ結局のところ知りたいのは"ゲートウェイ理論はどの程度確からしいのか?"ってことよね。
"肯定的なエビデンス、どんくらいあんの?"って言い換えてもいい。
そいじゃ近年のレビュー論文――総括的な知識が欲しいならレビュー論文やメタ解析論文が便利。あと英語版Wikipediaもバカにできない――から良さそうなのを1本もってこよう。
Vanyukov et al. (2012)はゲートウェイ理論とその対立仮説であるCLA (Common Liability to Addiction: 薬物中毒に対する一般的傾向)説に関して、いろんな論文を集めて論じたものだ。
・ゲートウェイ理論の一連の流れ("Gateway" sequence)に因果関係が示されていない
・非典型的な流れは"エラー"や"例外"として除外されていることが多い
・あくまで薬物"使用"に限った説であり、薬物中毒の程度や進行については触れられない
著者らの推し論がCLAの方っぽいので多少割り引いた方がいいかも知れないが、少なくともこの論文では薬物問題に関してのゲートウェイ理論はあまり確からしくないって結論だね。
レビュー論文1本で分かった気になったら痛い目を見る(見た)。もう1本いってみよう。
Agrawal and Lynskey (2014)。
これはゲートウェイ理論と言うか、大麻とそれに関わる問題をあつかったレビュー論文だね。
大麻と他の違法ドラッグ、うつ病、自殺に関する話。何ともおだやかではない。タイトルからして"大麻論争"だし。
さっきのレビュー論文よりかは甘口だけれど、因果関係に関してはやはり不明瞭なようだ。
この手の論文はたいてい1国での調査だし、せっかくだからワイドに国際比較した論文も探してみよう。
Degenhardt et al. (2010)。これは良い。なにせ調査国に日本が入ってる上にけっこう字数も割いてくれてる。
実はさっきのレビュー論文(Vanyukov et al., 2012)でも引用されてたりする。
・"Gateway" sequenceは、因果関係ではなく"計測されていない共通の原因(unmeasured common causes)"を反映していると考えられる。
・初めての違法薬物は大麻が最も多く、飲酒喫煙から移行するのが典型的。ただし国によって大きく変わるため、あまりあてにならない。
まあ前の2つとあまり変わらないね。国ごとに特徴があってなかなか面白い論文だった。
ついでに、この論文で日本がどう扱われているかと言うと、"大麻より他の(重大な)違法ドラッグの方が多い国"、もっと言えば"ゲートウェイ理論が全然成り立たない国"。
まず大麻少ないから"飲酒喫煙→大麻"も"大麻→他の(重大な)違法ドラッグ"もほぼ成り立ってないわけ。
じゃあ"飲酒喫煙→他の違法ドラッグ"のパターンはどうかと言えば、何故かは知らんがこれもまた調査国中で最も低頻度なのだ (※)。
※ 日本で"酒もタバコもやらないけど違法ドラッグには手を出した人"の頻度は52.5%(全患者中)。初手からドラッグ。ゲートウェイなんていらんかったんや!
参考までにメキシコでの頻度は6.3%、すなわち93.7%の患者がドラッグ前に飲酒喫煙者。
以上、違法薬物におけるゲートウェイ理論について少し調べてみた結果である。
他の論文もちらほら読んでみたけれど、概ね
(1)"合法ドラッグ→軽いドラッグ→重いドラッグ"といったGateway sequence自体はよく観察される、
お役にたてば幸い。役に立たなくてもクレームは受け付けない。スターは受け付ける。
それでは。
参考文献
Agrawal A., Lynskey M. T. (2014) Cannabis controversies: how genetics can inform the study of comorbidity. Addiction, 109, 360–370.
Degenhardt L, Dierker L, Chiu WT, et al. (2010) Evaluating the drug use gateway theory using cross-national data: consistency and associations of the order of initiation of drug use among participants in the WHO World Mental Health Surveys. Drug Alcohol Depend, 108, 84–97.
Kandel D. (1975) Stages in adolescent involvement in drug use. Science, 190, 912–914.
Vanyukov MM, Tarter RE, Kirillova GP, et al. (2012) Common liability to addiction and “gateway hypothesis”: theoretical, empirical and evolutionary perspective. Drug Alcohol Depend, 123, S3–S17.