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2013-05-12

夏への扉』はとんでもない愚作なので褒めないでください

hatena内でオススメSFリストアップするのが流行だ。

ホコリの被った旧作(「古典」ではない)ばかり挙げられていて本当に辟易する。

SFアイデアの新奇性、センス・オブ・ワンダー重要なのであって、

さらヴェルヌやウェルズを読んだところで、価値はない(ギブスンやディックも同様)。

そしてこういう「オススメSF」の話題になると必ず出てくるので『夏への扉』を薦めてくるやつだ。

はっきり言えるが『夏への扉』を薦めるやつは見る目がなく、センスに欠けていて、信用できないってことだ。

私もその手合いに騙されて、貴重な時間無駄にしてしまった。

夏への扉』は読まなくて結構。今からその理由を端的に3つ述べる。

夏への扉』は決して猫小説ではない。

夏への扉』は猫好きなら読んでおくべき、みたいな薦め方もされる。

読んでみて驚いたのだが、これはまったくもって猫小説ではない。

なぜなら猫はストーリーの本筋とまるで関係いからだ。

夏への扉』は共同経営者に裏切られた主人公が、

冷凍睡眠未来ジャンプして復讐を果たそうとする話だ。

では、猫は何なのかというと、主人公が猫を飼っていて、たまに触れられる程度。

一緒に行動するし、『夏への扉』というタイトルは猫の行動から来ているが、

猫が作品のテーマだったり、猫の行動が何かストーリーに影響を与えるわけでもない。

ただの添え物であり、これを「猫小説」だと思ってしまうやつは、どうかしている。

最近、『世界から猫が消えたなら』という小説20万部?かそのぐらい売れていたが、

これもとんでもない愚作で、主人公消失物について浅い思弁を展開するだけの小説はいえない代物だった。

どうやら世の中には猫が出ていればほかはどうでもいい連中がいるようだ。

猫好きは『綿の国星』でも読みなさい。こっちは掛け値なしの名作です。

プロット杜撰すぎる

主人公復讐を果たすために未来に行くのだが、

しかし、想像した未来と違い、不可解な点が散見されるので、

その理由を正すために過去へと舞い戻ることになる。

主人公未来にきたのは「冷凍睡眠」によってなので、過去に戻ることはできない。

じゃあ、どうやって戻るのか・・・というのが肝になるはずだが、『夏への扉』は驚くべき処理をする。

たまたま未来世界で知り合った男が、たまたま時間旅行研究しているマッドサイエンティストと知り合いなのだ

そして、マッドサイエンティストを紹介してもらって過去に戻る・・・なんじゃそりゃ?

ほかのも「たまたま」で処理される部分はいくつかある。たまたま通りがかったとか、たまたま見逃した・・・とか。

それに未来過去へと行ったり来たりするが、そこでタイムトラベルらしい伏線を張ったり、解消したりということはない。

例えば『バック・トゥ・ザ・フューチャー』なら、「過去でのあの行動が未来にこう生きてくるのか!」という驚きがあるが、

夏への扉』では一切そういうのはない。時間移動というより、単なる舞台移動にしかすぎないのだ。

夏への扉』はタイムトラベルものとしても優れていない。プロット杜撰復讐ものなのだ


ロマンスご都合主義すぎる

夏への扉』のなかにもヒロインと呼べる人物がいて、

最後はそのヒロインと結ばれて物語は終わる。

夏への扉』において、それは一緒に会社を興した男の義理の娘だ。

このヒロインは幼い頃に主人公なついていて、未来世界主人公と結ばれる。

仲のいい少女がずっと思っていてくれて、未来で結ばれる、というロリコン白昼夢のような展開だ。

しかし、それでも合理的な説明がなされていてれば文句はない。

ヒロインがなぜ主人公なついているのか、なぜずっと主人公を思っていてくれてるのか(何十年も!)、その説明がなされればいい。

だが、驚くことにそこら辺の理由が一切説明されない。

ヒロインは理由なく主人公なついていて、理由なくずっと待っていてくれるのだ。

これをご都合主義と呼ばずしてなんと呼ぶ。私は読み終わって背筋が凍った。

こんな展開を「感動のラブストーリー」だと思っているやつもいるようで、SFファンはどうりでモテないはずだと合点がいった。

聞けば、海外では『夏への扉』の評価は決して高くない。

オールタイムベストの類では上位には入ってこないという。

夏への扉』が人気なのは日本特有のことなのだ。それを知ってはは~んと納得がいった。

夏への扉』はJ-POP歌詞みたいなものなのだ

中身はないが、何だか心地よい。日本にはそういうものに騙されるやつが多い。

なんていったって『負けないで』みたいな中身空っぽな歌がミリオンになる国だもんな!

『負けないで』に励まされるやつってどんだけ寂しい人生を送っているんだろう。可哀想だ。

うん、おれも仕事がつらいときたまたまラジオから流れてきて、泣きそうになっちゃったけどな。

お前ら、他人の評価に惑わされるんじゃねえぞ。お前にとって何が面白いのか、知っているのはお前だけだ。


参考記事

■読んでないとヤバイ(?)ってレベルの名作SF小説10

http://d.hatena.ne.jp/Rootport/20130511/1368241656

■読んでいてもたいして良いことはないSF名作私選十作

http://d.hatena.ne.jp/Lobotomy/20130511/p1

■お前らわざわざ無理してSFなんて読もうとするんじゃねえよという6冊

http://banraidou3rd.hatenablog.com/entry/2013/05/12/021854

■全部読んでるとコイツヤバイ(!)ってレベルSF小説家 6選

http://d.hatena.ne.jp/kwsktr/20130512/1368303146

おすすめSF小説15選

http://d.hatena.ne.jp/pub99/20130511/p1

■読んでなくてもヤバくない名作?SF小説10

http://d.hatena.ne.jp/NOV1975/20130511/p1

■読んでおくと良いかも知れない名作SF小説8選

http://azanaerunawano5to4.hatenablog.com/entry/2013/05/11/165646

2013-03-26

かっこ悪い振られ方、二度と君に会わない

最初にお断りしておくが、これは冗長な自分語りである。あまり面白くないと思う。

 

共通の知人の結婚式で、前に付き合っていた女性に会った。もう数年前のことだ。

私たち大学の同期生で、お互いが初めて付き合う相手だった。二十歳から付き合い始め、20代の大部分を二人で過ごした。同棲していた期間も長かった。20代の終わり、彼女が突然別れを切り出し、部屋を出て行った。会うのはそれ以来だった。

 

彼女美人ではない。ファッションに力を注ぐタイプでもない。しか彼女は、なんというか、非常に素敵になっていたのだ。その時だって別に美人ではなかったが、彼女を綺麗だという人がいても私は全く驚かない。付き合っているときはあんなにもっさりしていたのに。

私にはその時点で、特定の恋人がいなかった。それで思ったのだ。彼女とは趣味が合うことも分かっているし、一度は別れたが共に積み重ねた10から歴史があるわけで、もう一回付き合ってみてもいいんじゃないか、と。もしも彼女彼氏がいたとしても、そいつには私の何分の一かの歴史しかない。しかも私は転職大成功を収め、今や彼女と付き合っていた頃の3倍の収入を得ている。勝ち目はある筈だ。

 

友人に頼んだ根回しも功を奏して、パーティーが終わった後に彼女と二人で話す機会を得た。近くのカフェで、向かい合って座る。私は柄にもなく緊張していた。

とりあえず、付き合っている男はいるのか聞いてみる。答えはイエス。まあ、いい。何とかしてみようではないか

ここはひとつ端的に切り込んでみようと考え、私はストレートに言った。今日、久しぶりに見たら綺麗になっていて驚いたよ。付き合ってた頃と別人みたいじゃん。こんな○○ちゃんだったら、俺もう1回付き合ってもいいなと思っちゃって。

彼女は薄く笑みを浮かべたまま、きっぱりと答えた。

「やめたほうがいいよ」

考えるだにどうかしているとしか思えないが、この時の私はやけにイケイケな気分で、彼女言葉に「そんな遠慮することないよ、自信持ちなよ」などと思って浮かれていた。そこに彼女から放り込まれたのが、こんな言葉だった。

あなたと付き合うと、私またブスになるから

浮かれた心が一瞬で冷え切った。ええ、今何て言った?耳を疑う。

「どういうこと」

私は顔が引きつるのをこらえながら彼女に尋ねた。

あなたは私に何をしたのか、覚えていないの」

彼女の声が冷たくなる。パーティーで友人たちと笑っていた時とは別人のように。

「俺、何した?」

最悪な返答だが仕方がない。これしか言葉が思い浮かばなかった。彼女は言う。聞きたいの?忘れているならそのほうがいいんじゃないの?

いや、聞きたい。私は食い下がる。長くなるよ、と彼女が言う。別にいいよ、と私は答える。それなら、と彼女が話し出した。

 

あなたが私にしたのは、「あんたには性的価値がない」と徹底的に叩き込むこと。自分みたいな度量のある寛容な男がいたか恋愛をできているけど、本当は市場価値なんかない、むしろマイナスだということ。

付き合っている間中、あなたにブスといわれデブといわれ、友達彼女と比べられて、「俺にも男のプライドがあるから」っていう理由で友達カップルで集まる場に連れて行くのを拒否されて、あなた友達が私のいる前で「(こんなブスと付き合えるなんて)お前凄いわ」ってあなたに言っても、あなたひとつも怒らず「まあいいとこもあるんだよ、家事出来るし」って言ってへらへらして、友達が帰ったらその日はずっと私に冷たく当たったよね。

二人で働いてたのに家事は全部私がやってたし、ご飯も、あなたは放っておくと牛丼コンビニばかりで、そのくせそれだとすぐに具合を悪くするから、食費はほとんど私が出していた。あなたは服や本やレコードを大量に買ってくるけど収納は絶対に買わなかった。収納も私が買った。

とにかくくたくただった。仕事がないとき家事家事が終わって茶の間に戻ると、あなた自分好きな音楽映画をかけていて、全然楽しくなかった。くたくたに疲れてるときに、プログレだのレディオヘッドだのフランス映画だの。私がたまに好きな音楽をかけると黙ってボリュームを下げたでしょう。私はボリュームなんていじってなかった。あなたと同じ音量のままだった。

お金時間もなくて、元気もなくて、いつもけなされて、綺麗になんかなれる筈がないと思う。

 

私は黙った。彼女がいうことは、一つ残らず事実だった。

俺は交際相手でありながら、彼女女性として価値の低い人間だと思っていた。それでも彼女の賢さや仕事能力掛け値なしに評価していたし、ブスだのというのも照れ隠しのつもりだったし、彼女のことを愛しているつもりでいた。

しかし、何だかそれもよく分からなくなっていた。自分がこんなに酷い男だったとは、それを彼女がこんなに恨んでいたとは。

 

「うん、付き合ってたときは、俺が悪かったと思う。でも俺も変わったし…」

私が何とか言葉を繋ぐと、彼女は遮るように

あなたと付き合うことは、二度とないよ」

とぴしゃりと言った。私は思わず舌打ちしそうになり、何とか抑える。そして、また黙る。長い沈黙彼女に目をやると、顔色ひとつ変えず淡々コーヒーを飲んでいる。無性に怒りが湧きあがる。

「あのさ」

私は言う。言うが、言葉が続かない。むかむかして黙っていられなかっただけで、言いたいことなど特にはなかった。

彼女は言う。

私、もうあなたの不機嫌は怖くないよ。あなたのこと好きじゃないから。

付き合ってた頃は不機嫌になられるのが嫌で、何でも言うことを聞いていたけど、もう違うから

彼女は、付き合っていた頃は見たことがないような毅然とした表情だった。綺麗だった。

 

「今の彼氏は、いい男なの」

私は力なく、聞きたくもない質問をする。

彼女は短く「うん」とだけ答える。

どんな奴なの、幸せなの。いろいろな言葉が口を突いて出そうになったが、聞いても仕方がない。そいつがいい奴で、彼女幸せにしているのは一目瞭然だったから。

来年の夏に結婚するの、と彼女が言う。

ごめんなさい、最初あなたが「もう1回付き合わないか」って言った時、「私、結婚するから」って言えば済む話だったのに。何だか自分でもコントロールが利かなくて、長々と酷いことを言って。

彼女は悲しそうな顔をしていたが、その顔はとても優しく穏やかだった。そんな表情を初めて見た。

 

本当に、本当にごめんなさい。酷い後出しで、今更こんなことを言って。

私、あなたが好きだったの。でも、一緒にいるときは卑屈になるばかりで、勝手に疲れて自爆しちゃった。

次に付き合う人には、うんと優しくしてあげてね

 

彼女はそう言ってにっこりと笑った。私は泣きそうになっていた。私はこの人を何年もかけてぼろぼろにし、それを見知らぬ男がものの数年で完璧に近く治癒して、彼女は美しくなり、変わらず聡明であり、私はそんな彼女と、恐らくもう会うことすらないのだ。

便所に行き席に戻ると、彼女はもういなかった。テーブルからは伝票がなくなっていた。

 

先日、新宿で久しぶりに彼女を見かけた。結婚相手らしき男と一緒だった。

彼女から話を聞いて、最低の男である私は「そういう優しい男は大抵が醜男だし、心根が良くても話がつまらなかったり、お人よしで金に縁がなかったりするに決まっている」と勝手に思い込んでいた。ところが、彼女の伴侶は私など比べ物にならないほどの長身イケメンで、二人で笑いながら話している様子を見るにつまらぬ男にも貧乏な男にも見えなかった。彼女はあの時よりももっと綺麗になっていた。男は顔をくしゃくしゃにして彼女に笑いかけていた。二人は新婚のように睦まじく、目を引くくらい幸せそうだった。

私はといえば、コーヒーを飲みながら妻の買い物が終わるのを待っていた。妻は彼女よりも美人で、彼女ほど賢くはなく、たまに長話に退屈はするが、結婚生活は概ね幸せである

私は家事をし、妻の美しさや料理の美味さを毎日褒め、妻の好きなミスチルを好きになろうと聞き込んだりするようになった(それで実際好きになった)。私は妻が笑うと嬉しい。私は妻を愛している。

結婚式の後で彼女と話したカフェを出た後から2ヶ月くらい、私は自分の最低さに打ちのめされ、体重が減るほど落ち込んだ。彼女逆恨みして死ねばいいのにあのクソ女と思ったり、そんな自分が醜すぎて吐いたりしていた。あんな話を聞いたこと、彼女と話す気になったことをくよくよと悔やみ、あの日の前日にタイムリープしたいと真剣に願った。

けれど、あの時、あの話を聞いてどん底に堕ちなければ、私は彼女をずたずたに傷つけた最低の心を直視して、反省して、直そうなどとは一生思わなかったろう。女性に対して「あなた価値が低い」と言い、気に食わないことがあれば不機嫌な顔をして、それで支配できなければ「一緒にいても退屈なんだよね」等と言って別れていただろう。実際、彼女の次に付き合った女性とはそうして駄目になった。

 

今、彼女に対しては深い深い感謝しかない。彼女には、旦那に愛されて私のことなどすっかり忘れていることを願う。

下らない話ももう終わりにする。読んでいて私に腹の立った人もいるだろう。不愉快な思いをさせて申し訳ない。読んでくださったことに感謝します。

2012-12-31

林文夫氏と齊藤誠氏

どちらも日本におけるマクロ経済学者の掛け値なしトップクラスで、

どちらも非常に厳しい人間であることで有名で、

どちらも一橋教授なので、

キャラも似ているのかと思っていたら全然そんなこと無かったぜ。

林文夫氏はツンデレなだけで、内心はとても暖かく学問以外に対しても謙虚な人だった。

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