はてなキーワード: 藤井くんとは
長すぎて読めない:AIの推奨手と解説聞きながら藤井SUGEEE!してればおk
(対象読者:駒が規定の動きに従って取ったり打ったりできるのは知ってるくらい)
かつて、電王戦というイベントがありました。故米長邦雄永世棋聖(ちんこにまつわるエピソードが豊富)の鬼手/奇手として遺ったそのイベントは、プロ将棋界に大きな爪痕を残しました。2013年、コンピューター(当時はAI=人工「知能」とは呼ばれていませんでした)に破れた最初の現役棋士、佐藤慎一五段(ギターと歌がうまい)のブログに多くの中傷コメントが寄せられたことに始まり、その後プロ棋士が泥仕合の末の引き分けを挟みながら連敗すると「コンピューターに負ける棋士達に偉そうに生きていく資格はあるのか?」という問いが投げかけられました。その後はプロ棋士も一時的に巻き返して勝ったり負けたりになりましたが、その勝ち方に対しても「コンピューターに対するハメ手」ではないかという意見が上がるなどしましたし、2016年3月にAlphaGoが囲碁のトップ棋士を破るに至っては、もはや二人零和有限確定完全情報ゲームで人間がAIに勝つのは不可能だろうと考えられました。実際AlphaGoに敗れた棋士は、2019年に「AIに勝つことができない」ことを理由の一つとして引退しています。2017年に佐藤天彦当時名人(ABEMAトーナメントの煽り文句が「おしゃれマスター」なのはひどすぎる)が番勝負を連敗で落とすに至って、「絶対に将棋で人間はAIに勝てない」という合意が形成されていきました。
藤井聡太二冠(初手を指す前にお茶を飲む癖があり、昨日の王位戦にはお~いお茶がスポンサーした)は、そんな2016年末、「プロの将棋棋士とか存在する意味ある?」という疑念がマッハな時代にプロデビューし、2017年度にまたがってあのデビュー後無敗で29連勝とかいう前後不覚、いや空前絶後の記録を打ち立てたのです。藤井二冠の将棋の魅力は色々に語られますし私も以下で色々に語っていきますが、当たり前であるが故にスルーされがちな第一の理由としてシンプルに「強い」ことが挙げられるでしょう。誰しも推しがしょんぼりしている姿は見たくないものですし、そこから逆照射して強い人を推しにするのも自然なことです。藤井二冠の強さは誰しも知るところですが、端的に説明するならば2018年に達成した記録4部門(勝率、勝利数、対局数、連勝数)独占が挙げられるでしょう(なお過去の独占者:内藤國雄、羽生善治、羽生善治、羽生善治、羽生善治)。今回の「二」冠についてもそうですが、レーティングや勝率など将棋についての数字で表せる強さに関しては、ほとんどすべての場合において現状藤井二冠に勝てる人はいないでしょう。そのことは世間に対する「わかりやすくすごい」というアピールに繋がっているのだと思います。駒の動かし方すらわからなくても、何かでデビュー後29連勝するのがとんでもなくすごいことだというのは誰でもわかりますからね。
さて、「数字に関して藤井二冠はすごい」と言いましたが、ではこれが「数字じゃない部分は藤井二冠は大したことない」という皮肉であるのかと言えば、そんなことは全くありません。まあ将棋が勝ち負けのつく勝負事である以上、どうしても「勝てば官軍」的な側面は存在してしまうのですが、それを抜きにしても多くのプロ・アマチュアの意見の一致するところとして「藤井将棋は華がある」というものがあります。
世の中にはプロ棋士に評価されるプロ棋士、されないプロ棋士、というものが実は存在します。その基準は将棋に対するそもそもの姿勢であったり、序盤の構想力であったり、終盤の鮮やかさであったり、あるいは元も子もなく勝率であったり、さまざまです。しかし、羽海野チカ先生(キラキラ系だと思ったら違ってむしろアコガレ側だというのを吉田豪のインタビューで知ってより好きになった)が『3月のライオン』で「信用」という言葉を用いて描いたように、それは確かに存在します。その言葉を借りて言うならば、藤井二冠は今棋界で最も信用を得ている棋士といえるでしょう。その源は何かと問えば5連覇中の詰将棋解答選手権に明らかな終盤力でしょう。「詰まないと思ったけど藤井くんが詰ましに行ったからまさかと思って調べてみたら詰んでた」というエピソードをどれだけのプロ棋士の口から異口同音に聞いたのか数えきれません。昨日も村山慈明七段(兄弟子の飯島栄治七段をトーナメントで負かしたのを忘れて「叡王戦どうされました?」と聞いた)がそれを言ってました。他方で、序盤力で羽生九段(って呼び方違和感あるよね)の若い頃と比較して、「新人の羽生の序盤は荒削りで終盤の豪腕で勝利をもぎとっていたが、藤井はそうではない」と度々評されてきたあたり、「序盤、中盤、終盤、隙の無い」という格言に当てはまる棋士のような気がします。ちなみに藤井二冠はコロナ前後の課題として中盤力を意識的に強化したようです。
さて、ここまで散々凄いことかのように言ってきたのですが、実はプロ好みのプロ棋士というのはさほど珍しくありません。何十人かはいるでしょう。しかし、「プロ好みで」かつ「アマチュアにも好かれる」棋士、しかも勝ちまくっている棋士といえば片手で十分なレベルでしょう。「プロ好み」「勝ちまくり」についてはすでに説明したので、以下では藤井将棋のどのような部分がアマチュア好みであるのかを解説します。アマチュアもまたプロに負けず劣らず基準が多様なのですが、結局は一つです。「オレが観てて面白いか否か」。以下では、その点について昨日の封じ手を中心に論じていきたいと思います。
さて、封じ手です。封じ手とは何でしょうか。大丈夫です。たまに先走っちゃうけど私は「駒の動かし方というものが存在する」レベルの知識の人にも分かるように書いてるつもりです。封じ手とは2日制の棋戦で用いられる作法で、どこかまで指して、じゃまた明日、となっては最後に指してない側の人が一晩考えられてあまりに有利なので、手番の人が誰にも見せず「封じ」て、翌日に開封するということでそれを相殺しようという試みだと私は理解しているのですが、実際は「お前それ同歩の一手やん」みたいな封じ手も多く、謎です。たぶん同歩の先に必然手順があってその先にある分岐を実質的に封じているのだとは思うのですが、封じ手やったことないし全く分かりません!誰か解説して!ともあれ、封じ手(NARUTOとかの技名っぽい)の瞬間にドラマチックなことが起こることはまれです。でもなー、そこで起こすのが藤井二冠なんですよ!
さて、王位戦第4局の封じ手は8七同飛車成でした。これは、一手前に木村王位(自ら将棋の強いおじさんと称するユニークな解説名人の称号は当分は奪われないでしょう)が飛車の前に銀を進め、飛車にお帰り願う手に対するものでした。お帰り願われては仕方ないので、飛車を逃げるだろうというのが大方のプロの見解でした。しかし。藤井挑戦者はここで30分以上の、当たり前の一手があるに場面しては長考を行います。まさか、と解説がざわめきます。飛車を切る手順を考えているのではないか。お帰り願った銀を飛車で食いちぎり、その飛車を金に取らせる手順を考えているのではないか。長考のまま封じ手の時間となった。解説では飛車を切る手順と逃げる手順の比較を行っています。解説の橋本崇載八段(金髪パンチパーマゴリラから一時期太ったがまた巻き返して爽やかになった)は「いやー同飛車成は指せないですね。いや指すには指せますけど。ただ封じ手でしょ?手が震えて紙に書けないですよ」と言う。それほど異色の手なのだ。
同飛車成について私の印象を言わせてもらうならば、「アマチュア5級~3級の人がやりそうな手」です。お帰り願われたんだけど、そのまま言いなりになるのも業腹なので、切ってしまう。飛車と銀の交換で、相手は最強の駒・飛車をどこにでも打てるのに対し、自分は飛車より弱い銀をどこかに打つ権利を得る。普通はそれでは勝てないが、相手が考えてない手を指した結果、相手の陣地は乱れ、時間も使わせることができる。お互いに強くないのでそこからごちゃごちゃっと泥仕合にして最後はなぜか飛車を切った方が勝ってしまう、というのはそのレベルの人たちの将棋ではありがちです。ムカついたからという理由で飛車を切り飛ばし、それで勝ってしまう。こうなると将棋はやめられません。もちろんそれはお互いに棋力が低いから成り立つ無茶で、相手が強くなっていくにつれてそうした手は通らなくなり、みんな普通の手を指すようになります。プロがよく言う「将棋は当たり前の手の積み重ね」「将棋は悪手を最後に指した方が負ける」という格言はそれを物語っています。ある程度強い人同士の将棋では、必殺技みたいなすごくいい手というのはなかなか出てきません。相手もそれを読んで必殺技を出させないようにするわけですから。しかし、です。藤井二冠にそれは当てはまらないようです。今回の同飛車成も、以前に指した数々の「AI越えの鬼手」も、いかにも無茶で派手な、必殺技的な手です。つまり3級~5級の頃にみんな指していて、今はもう出来なくなってしまった手です。将棋は一般に、2級と初段に壁があるといいます。2級になるためにはそうした無茶な手を捨てられるようにならなければならないし、初段になるには詰将棋や定跡を覚えなければならない。そうやって人は昔の無茶苦茶でありながら楽しかった将棋を失い、しかし強さを得ていきます。そうして強くなった人にとって、3級~5級の人の将棋というのは、少年期の懐かしい思い出のように映ります。昔は楽しかったな、でも今はあんな無茶はできないな。しかし、藤井二冠はその少年のような(というか少年なのですが)手を数々の大舞台で指して、そして強敵を破ってしまう。そりゃテンション上がりますよね。
さて、藤井二冠のデビュー前後でAIが棋士の地位を脅かしていたという話をしました。今もネット中継ではAIによる評価値や予想手が画面上に表示された状態で視聴者・解説者は将棋と向き合うことになります。そんな中で生まれた面白い解説の常套句があります。「これは人間には指せない手ですね」。初めてその言葉が使われたのはおそらく第2回電王戦のどこかだと思うのですが、最初のうちは否定的なニュアンスが多分に含まれていました。人間なら一目でもっと上手く指せるのに、コンピューターにはこんな変な手を最善手として示してしまう、と。しかし次第にその言葉は畏怖と諦観を込めて使われるようになります。AIはこの手を最善と示している、確かにそれは正しいのだろう、しかし人間にはそこまで深く読むことが出来ないから指せないのだ、と。現在の棋士はおおむねその諦観を受け入れているように見えます。AI的な最善よりも、人間の身の丈にあった答えを。ほとんど神話か寓話の世界の話ですが、その姿勢は間違っていません。人間が鳥の真似をしたところで、翼を焼かれるだけですから。しかし少数の棋士は、その諦観を受け入れません。その筆頭が藤井二冠でしょう。彼は徹底してAIの感覚を身につけようとし、かつ成功している人間であるように思われます。先ほど述べたように、「コンピューターのような」という言葉が蔑称として使われる時代はもう過ぎました。それは単なる時代的なドグマではなく、すでに述べたとおり実際に「面白い」のです。藤井二冠はきっと、ラジオの時代にポップスターがいたように、テレビの時代にプロレススターがいたように、AIの時代に生まれるべくして生まれた将棋スターなのだろうと思います。
将棋はきっとこの先永遠にAI=神様との比較にさらされ続けます。その中で、我々よりもずっと神様に近い人が諦めてしまう。きっとこの構造は人類史上普遍的なものだと思います。そして、その諦めは決して不幸とイコールではない。そのことは多くのプロ棋士が「コンピューターには指せない」=「人間に特有の」戦法や戦術を用いて証明してくれています。しかし、もし、人間が諦めずほんとうに神様を目指したとしたらどこまで行けるのか。その問いに対して藤井二冠の活躍は答えを出し続けてくれているように思います。私にはできない、あなたにもできない、困難な道を歩むことを彼は決めました。ならばせめて、その後ろ姿をずっと眺めていたいとは思いませんか。私は思います。というか散々述べたように後ろ姿を眺めるのが楽しすぎてやめられない状態にあります。まあ、私は振り飛車党なので実は推し棋士は別にいるんですけどね。
(2021/2/7追記)書きました anond:20210207093448
私は将棋の知識がほぼゼロなんでめちゃくちゃざっくりとしか説明できないんだけど、将棋について一家言持ちのじいちゃんによる渡辺明棋聖対藤井聡太七段の棋聖戦のポイント解説がへたなテレビの解説よりなるほど〜となったのではてなに記す。既にみんな知ってるようなことだったらごめん
じいちゃん曰く、勝負の明暗を分けたのは、藤井七段が序盤やらかして不利な局面に入った少し後らしい(何手目とか言ってたけど忘れちゃった、じいちゃんごめんなさい)。
そこで渡辺さんは金を打って攻撃すべき場面があったらしいんだけど、金を打たずに守りに入った。その金打ちは、単純にどんどん攻撃するぞー!みたいな素人くさい手だったのと、藤井七段相手に安易に攻め込むことを躊躇してのことと考えられるらしい。渡辺さんはなんか、よりスマートな?手を選んだそうな。だけどこれが失敗だったらしい。金でどんどん攻撃していれば、もしかしたら藤井七段は反撃しきれなかったかもしれなかったところを、ストレートに攻撃されなかったためその隙をついて藤井七段は反撃態勢に入った。
で、普通なら棋士は目の前の角や飛車といった大駒を狙いがちなところ、藤井七段は飛車をエサにして渡辺さんを引きつけ、その間自分の陣地を整えていたんだってさ。最終的に、自分がとられたらまずい駒を歩でうまく守れるようにわざといらない駒を捨てながら罠を張るように陣地作りを行う藤井七段のやり方はまあ想定されないものらしい。実際の戦闘で言うなら、敵に唯一の武器である銃をわざと奪われた後死なない程度にタコ殴りにされながら相手を地盤のもろい場所に誘導し、なおかつどこをどの程度の力で蹴ったら何分後に地盤が崩れるかを素早く計算しつつ的確に相手の立つ場所を崩していくようなものだ。並の頭の回転と度胸じゃない。
渡辺さんは思惑にはまり、藤井七段にとって都合のいい形にすることを許してしまった。そして、終盤、さあ藤井七段を攻撃してやる、というところで一気に足元を崩されたらしい。
じいちゃんは、そういうところを解説すれば藤井くんのすごさがもっとみんなに伝わるのになあとぼやいていた。私は終盤の足元が一気に崩れるシーンについて、ジャンプ漫画の見開きコマみたいだなとばかみたいな感想を抱いていた。おわり
時間 | 記事数 | 文字数 | 文字数平均 | 文字数中央値 |
---|---|---|---|---|
00 | 119 | 15462 | 129.9 | 41 |
01 | 63 | 5937 | 94.2 | 34 |
02 | 28 | 3483 | 124.4 | 60.5 |
03 | 14 | 2554 | 182.4 | 91.5 |
04 | 18 | 3496 | 194.2 | 68 |
05 | 13 | 2515 | 193.5 | 143 |
06 | 15 | 1083 | 72.2 | 29 |
07 | 44 | 7999 | 181.8 | 51 |
08 | 61 | 4097 | 67.2 | 47 |
09 | 70 | 12146 | 173.5 | 40.5 |
10 | 139 | 11875 | 85.4 | 50 |
11 | 114 | 10468 | 91.8 | 41.5 |
12 | 175 | 15576 | 89.0 | 47 |
13 | 168 | 17341 | 103.2 | 42.5 |
14 | 129 | 14969 | 116.0 | 56 |
15 | 147 | 12586 | 85.6 | 45 |
16 | 149 | 15799 | 106.0 | 42 |
17 | 158 | 15087 | 95.5 | 49 |
18 | 155 | 14187 | 91.5 | 53 |
19 | 109 | 13134 | 120.5 | 40 |
20 | 127 | 20863 | 164.3 | 44 |
21 | 113 | 16206 | 143.4 | 34 |
22 | 142 | 18248 | 128.5 | 41.5 |
23 | 133 | 23357 | 175.6 | 45 |
1日 | 2403 | 278468 | 115.9 | 45 |
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