2015-01-02

Natural Color Phantasm Vol.03 『アンドロイド少女電気羊の夢なんか見ない』

■その1。

 今回のテーマにあたって、かかしあさひろとロボット少女萌え起源を辿っていたら、真っ先に出てきたのが、筆者が『メタルK』の冥神慶子で、かかしが『コブラ』のアーマノイドレディだった……まあ、実は、1965年スタジオゼロが作ったアニメレインボー戦隊ロビン』に出てきた看護婦ロボット・ルルが筆者の知る限りでは、最古のロボット少女萌えであり、起源だと思うのだが、現在入手不可能なので、とりあえず忘れよう……。

 それはそれとして、おたく向け作品定番パターンの一つに、ロボット少女萌えというジャンルがある。『ToHeart』のマルチが大ブレイクした事で、美少女ゲーム世界では一気にメジャージャンルになった。

 特に今年に入ってからは、『WoRKsDoLL』『MACHINE MAIDEN』『RIZE』と、ロボット少女ものが続けて出ている。筆者は『WoRKsDoLL』と『MACHINE MAIDEN』をプレイしたのだが、このジャンルでの定番テーマである人間性の欠落を補う為の美少女ロボットか、人間の欲望を充足させる為の美少女ロボットか、については『MACHINEMAIDEN』では対立するものとして描かれているし、『WoRKsDoLL』では選択するものとして描かれていた。ただ、『MACHINE MAIDEN』では、前者の概念意図的に勝利している。これは、ユーザー美少女ゲームに何を求めるかという意識の変化を反映したとも言える。

 個人的な話で恐縮だが、筆者の本業はまんが編集者(ただし休業中)であり、仕事の参考用に市場の傾向分析をするのだけど、昨年あたりから、過剰な位に、癒し郷愁テーマにした作品を求める傾向が見られるようになった。元々、ユーザーの好みは、ハードエロソフト癒し系に別れる傾向があったが、かなり後者は先鋭化している。まあ、過剰なヒーリング志向のものについては、場を改めて言及するが……。

■その2。

 美少女まんがをエロ目的ではなく、「癒し」を目的として買う人が増えているという現実。それは、ゲームでも同じで、1キャラあたりのセックス描写が1~2枚程度な美少女ゲームが売れている理由は、この雑誌の読者ならば「CGクオリティ云々~」に帰着させるんだろうけども、もう一つの背景として、ユーザー特に男性の側に、失われつつある少女幻想へのニーズが高まっているという状況があると思う。

 情報の氾濫が人間性を希薄にするというのは、いささかステロタイプ認識だが、「少女」の実像曖昧になっているのは確かだ。たとえば、我々が考える現代少女像は、概ね記号化されている。宇多田ヒカルを聴き、キューティコミックを読んで、援助交際に励む……といった程度が、おそらくイメージ限界なのだが、それはまた、多くのおたくにとっては唾棄すべきイメージでもある。何故なら、それは情報キメラ化で生まれた「鵺」のような不快感が付きまとうからだ。そして、情報の氾濫により座標軸を失った人々は、古典的価値観を求め出す傾向を示す。

■その3。

 さて、ロボット少女代表格としては、『ToHeart』のマルチ存在する。マルチには「少女」の記号がこれでもかという程、多く存在するが、これは、おたくが望む所の少女幻想を満たそうとすれば、年々侵食する大人の領域から逃れる為に、必然的に年齢が下がる。少女というよりは幼女ベクトルが向かってしまい、行き着く聖地小学校の一階になるのだが、下がると同時に社会的な軋轢が生まれイノセンスとは別の要素も混じってきてしまうという欠点がある。というか、犯罪

 で、マルチ場合は、ロボットということでその障害を回避している。幼女絶対的処女性、ロボット=無機質の美、メイド成熟した女としての意志が介在しない従順存在、という要素群が、これほど見事に合致した例もないだろうし、だからこそ、ヒロインあかり差し置いてアイドルに成り得たのだ。ただ、個人的には、その濃厚な純粋性がちょっと……という心境ではある(単なるひねくれもの)。というのも、どんなに崇高かつ絶対的少女を再現しても、ロボット少女ユーザーの欲望の為に用意された人工物に変わりはないのだ……。

 ちなみに、この視点で見ると『マシンメイデン』には、問題が一つある。それは、タイトルは「機械処女」なのに、アルシアは早々に処女を失ってしまうから(笑)。まあ、筆者などは、純粋性を維持した上で、淫乱さも持つなんて最高じゃん!と思うのだけども、逆に萌え要素が目減りしたと思うユーザーも多いのだそうだ。こうなってくると、何のための18禁ゲームなんだか分からなくなってくるのだが……。余談だが、ゲーム構造の相似性もあって、アルシアのキャラクターは、『ナチュラル』の千歳彷彿とさせる。そういえば、千歳従順ロボットのような少女ではあったが……。

 話を戻すと、美少女ゲームが、少女まんが的な絵柄を用いて、イノセンス従順少女を描くことに腐心した結果、セックス描写を減らしていく一方で、当の少女まんがでは、あからさまなセックス描写が増えた。下手すると、18禁指定美少女ゲームより、『少女コミック』や『マーガレット』の方が過激なエロを展開している状況もあるのだ……。そして、同じようにセックスを扱っていても、意図するもの正反対であり、保守的価値観へ向かう男の子と、過激で積極的女の子との距離は限りなく離れていく。その結果として、男性向けエロメディアの中にだけ、少女幻想が生き延びるというパラドックスも生じた。

 今、手元に『火の鳥・復活編』の文庫版がある。というのも、現実少女への絶望人間性への絶望が、ロボット少女という形を取るならば、その描写のまんがに於ける元祖は、おそらく『火の鳥・復活編』に於けるチヒロであろう。念のため、ストーリーを軽く説明すると、交通事故で身体の大半を機械化されたレオ少年は、全ての生物無機物に見えるようになってしまった。

 レオナはその代わりに、無機物であるはずのロボット女性を感じ、チヒロというロボットに恋をする。無論、異常者として二人は社会から非難され、二人の恋はチヒロの電子頭脳移植された記憶として昇華するが、結実した瞬間、醜いロボットと化した現実に直面する。

 この話で一番痛いのは、普通人間にとっては、機械剥き出しで無個性ロボットしかないチヒロが、レオナの感覚では美少女として捉えられていることだろう。ロボット少女萌え属性な人には痛い描写だし、また、今日の状況を予見している描写でもあるからだ。

 確かに、手塚治虫トキワ荘の一派は、ロボットを描くことで人間性を問う作品を多く描いたし、ロボット少女も多く描いた。ただ、その存在全面的肯定することはほとんど無かった。何故なら、ロボット少女は、現段階ではあくまで空想の存在しか無いのだ。ユーザー現実世界に生きている以上、何処かで折り合いを付けなければ、レオナと同じように社会から非難されるはずだったのだが……その点、現代おたく幸福だ。何故なら、おたくを取り巻くシステムもまた、完成されつつあるからだ。「メディアミックス」という、優しい収奪システムに取り込まれ、飼い慣らされた結果、ユーザー電気羊ならぬ、電気少女の夢を、半永久的に見続けることができる状況が生まれた。しかし、システムの中に閉じることにより、一般社会との相対的視点を失いつつあるユーザーもまた多いのだ。

 従来のポルノグラフィが、無意識のうちにマチズモ(男らしさ)を規範としている以上、マチズモに耐えられずおたく化した人々が、相対する少女まんが的な技法感性へ惹かれていくのは、当然のことだ。筆者にもそういう時期があったから、頭から否定はしない。ただ、世界(=社会)への目を閉じて、失われていく「少女」への感傷と、過剰に供給されるヒーリングアイテム盲目的に消費し続け、快楽だけを享受している、最近ユーザーには、苦さと虚しさを感じるんだな……。

 そう、僕らの居る世界は、天国かも知れないが、同時に地獄でもあるのだ。その認識だけは最低限、持っておいて欲しいのですよ。

■実はダメな人の総括。

 相変わらず暴走している筆者です。えーと、ロボット少女だったら、個人的には『Automatic Angel時計仕掛けの天使~』(樹崎聖)の笑(えみ)かなー。『BROTHERS』(小池一夫叶精作大先生)のメモリーも捨てがたい(笑)。ちゃンとお兄ちゃン属性フォローしているぞ!(笑)

 さて、次回は「優雅で感傷的な美少女ゲーム」と題して、今回の続きです……いや、書いている方も痛いんですが、少女まんが的なポルノグラフィ供給する場所として、美少女まんがや同人誌市場があったけども、同時にそれは収奪システムであり……というか。BGMは、ビーチボーイズ『グッド・バイブレーション』で。

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