2016-02-13

Qでミサトがついたある嘘と、新世代の思慮不足

コメントありがとうございます(元記事コメント

774さんの意見/主張をざっくりと整理しま

新世代の人々の前に広がった風景(サード後)は、悲惨ものであった

・彼らはそれに触れるうちに慣れてしまった

世界が滅ぶかどうかという危機的状況に置かれている彼らは一個人の生死を優先することができない

シンジ新世代の間にはその点に関し齟齬がある

洗脳猟奇殺人事件と同じく、誰を憎んでいいのか分からない

・サード後はサクラシンジに対し複雑な感情をもって葛藤している

歴史認識(サード、ニアサード)に関して、新世代とシンジの間で相違がある

新世代にとって、シンクロ率とは憎悪/恐怖の対象である

・そのため、サクラ純粋シンクロ率0を喜んでいた

シンジが起こしたサードのせいで、新世代の平穏生活は奪われた

他人を思いやれるほど平和な状況ではない、むしろ十分な対応している

・「怒りと悲しみの累積」をそれぞれが抱えている

・それゆえ、悪意はないにせよ各種の言動に繋がった

シンジ可哀想だが、未来を壊された新世代も同様に可哀想

大体こんな感じですが、もう少し要約したいと思います

<1>

新世代には明るい未来が広がっていたが、サードインパクトによってそれは全て壊されてしまった。サードインパクト後、凄惨風景が彼らの目前には広がり、悲惨暮らしを強いられた。サード(ニアサー関係)を起こしたのは碇シンジであり、新世代は彼に対し複雑な感情を持っている。特にサクラエヴァ搭乗者としてのシンジの側面も兄から教えられているために、余計に葛藤している。

<2>

サードインパクト後、生き残ることで精一杯であった彼らは悲惨暮らしを過ごす中で、人が死ぬことは日常茶飯事になり慣れてしまった。そして、危機的状況の中では人類の存続が最優先であり、シンジ一個人の希望を優先することはできない。この点に関し、シンジ新世代の間で齟齬が生じている。また歴史認識、すなわち「世界はなぜ壊滅的な状況になったのか」という史実に関しても情報錯綜しており、新世代は誰を憎んでいいのか分からない。

<3>

新世代にとって、「シンクロ率」とは憎悪/恐怖の対象であり、サクラ発言純粋な喜びから出たものである他人を思いやれるほど平和な状況ではない上に、各人が「怒りと悲しみの累積」を抱えている。それゆえ、新世代にとって複雑な感情から各種の言動に繋がってしまった。世界崩壊犯人扱いされたシンジ可哀想だが、未来ある人生を壊滅させられた新世代も同時に可哀想存在であり、ヴィレの中に悪者はいない。



まず押さえておきたいポイントですが、肝要なのはサードインパクトです。「破」のラストでは、アスカ精神汚染隔離中、マリと弐号機は戦闘不能に陥り、綾波故障明けの零号機での戦闘を試みるもゼルエルに飲み込まれしまい、残っているエヴァは初号機のみです。

シンジがあのまま残り、何もしなかったと仮定しましょう。そうすると、自ずと零号機と同化したゼルエルは地下のリリス+槍と共鳴を果たし、サードインパクトが起こります。これは旧劇における最後インパクト(初号機+リリス+槍)と同じであり、ほぼ人類生存は期待できません。

すなわち、シンジ勝手な行動を取ろうと取らまいと世界の壊滅は決定的だったわけです。まずこの点が重要。「シンジ勝手な行動を取ったために」世界が壊滅したわけではなく、あの状況においてはシンジの動きに関わらず世界は確実に壊滅します。ダミープラグ処遇を巡ってシンジ追放した時点で、世界の壊滅はほぼ決定的だったのです。これらの事をミサトたちは目前にし、自分たちでは解決不可能問題のを一人の少年に託したはずです。責任転嫁も甚だしい。

そのため、新世代の未来は元々明るくありません。それに加え、戦闘が続き疎開が相次いでいたサード前から推察しても明るいものではありません。戦闘爆弾に見知らぬロボットによる迎撃ドンパチ騒ぎ。当時から元々平和ではなく、明るい未来/今と同じくらいの幸せは元々存在していません。

そうなると、次に問題となるのは「誰が世界を滅茶苦茶にしたか」という史実です。14年間何があったかは分かっていません。しかし、前述のとおり、ミサトたちは一連の内容を把握していますシンジ追放、そして再び手に負えなくなったら都合よく再利用しかも、「自分自身のために!」と応援とまきた。自分たち範疇を超えた問題を一人の少年に託しておいた、これは致し方ありません。初号機に乗れるシンジしか解決できぬ問題ですからしかし、新世代はなぜこの史実を正確に把握していなかったのでしょうか。青葉がビデオも取っていたのに。情報錯綜は当然あるでしょうが凄惨暮らしを強いられたのであるならば、その犯人が知りたいというのは最もです。

14年間の内容は分かっていませんので、ある程度の推察も含みますが、おそらくミサトたちは組織を作るために嘘を伝えました。まさか事もあろうに世界を再建しようとしている幹部たちが、実はこの凄惨な状況を招いたサードインパクト自分たちの力では解決できず、一人の少年に託した上に、失敗に終わった。などという情報を流せば、組織の混乱/疑心は図りかねません。

そのため、「サードインパクト碇シンジによって引き起こされたものであり、自分たちNERVに騙されていた」という主旨の内容を伝えたはずです。そうすれば、ヴィレの総括はしやすくなります嘘も方便というやつですね。その結果、ミサトは建前上シンジに冷たくしなくてはならなかった。オペレーター全員がいる戦闘室ではハッキリと冷たい目線/口調で述べたのに対し、サクラのみが同行した応接間では俯き「もうレイはいないのよ…」と寂しげに呟くだけでした。その後、マーク9の突入時にもサクラがいたために、「身元は私達で管理します、ここにいなさい…!」と言うしかなかったのです。本音はその後のDSSチョーカーの震えに現れている通りであり、シンジ組織統括の大義名分として利用したことへの罪悪感と、そこから生じたシンジの命だけは守りたいというアンビバレント感情の現れです。

新世代には嘘の史実が伝えられました。「碇シンジが君たちの世界をぶっ壊した張本人である」といった旨を教えられたために、たらこ唇は苦い顔をしサクラは憤りを顕わにしました。シンジ新世代の間で、サードインパクト史実に対する認識が異なっているのはミサトの嘘のためです。この齟齬によって、彼らはシンジに対し憎悪/複雑な葛藤を抱くしかなかったのです。旧世代リアクションが異なるのも、嘘があったためと考えると納得いきますね。

彼ら新世代にとっては「自分たち幸せ未来を吹き飛ばしたのは碇シンジである」という史実がありますが、軍人としては問題を分けて考えるべきではありませんか。軍に身を置くのならば、職責と史実は分けて考えるべきです。アメリカ原爆を落とされたからといって、共同戦線を張る際に感情を表に出すなどあってはなりません。さらに言うと、サクラが本当に「サードを繰り返したくない」と考えているのであれば、なおさら自分感情は胸に秘め、”危険対象であるシンジには慎重な扱いが妥当です。シンジ新世代にとって大型地雷みたいなもんで、どこを歩くと爆発してしまうかということには慎重になるべきです。危機的状況が続いて精神的に疲労していたとしても、ここは慎重にならざるを得ません。シンジを最も危険対象として認識しているのであれば尚更、軽はずみな言動は避けるべきです。

さて、シンジはその前のシーンで自己アイデンティティを支えていたエヴァ(「あなたはもう何もしないで」)を奪われ、自己が安定していない心理状況です。774さんのおっしゃるとおり、確かにここのサクラ発言;「シンクロ率は0です。良かった」には曇りがありません。純粋に喜んでいますしかし、前述のとおり、ここは大変に慎重ならざる得ない場面であります。トウジからエヴァ搭乗者であったことをサクラは知っていたはずです、それならばシンジの大変さ/苦労も伝わっているはず。そうであるならば、シンジの拠り所であったエヴァに関する言及は非常に繊細になる必要があります

なぜ、サクラ不用意な発言をしてしまたか。それは、ミサトがここでもう1点嘘を付いていたからです。新世代に伝えられていた2つ目の嘘は、「シンクロ率危険指標である」ということです。サード前はエヴァ搭乗者のポテンシャルを図るポジティブ指標でした。しかし、サードを起こしたのはエヴァエヴァの搭乗者にはある一定シンクロ率必要、そしてシンクロ率危険という考えに至ります。サードを起こしたエヴァに乗るためには碇シンジシンクロ率必要であり、それさえ無ければ金輪際インパクトは起きないと伝えられていたと推察します。ある程度は新世代の思い込みもあります。そのために、「シンクロ率0で良かった」というサクラ不用意な発言に繋がってしまったと考えられます


さて、ここまでの内容を振り返っても、サクラを筆頭に新世代が迂闊であり、配慮に欠けている自己中心的な人物であるという自分結論は変わりません。彼らの苦しみを考慮していなかったのは事実ですが、それらは軍事的な職責とは関係してはいけません。広島/長崎原爆を落とされたからといって、いつまでもアメリカを憎んでいても仕方ありませんし、感情的には理解できても意味のない行動です。ましてや彼女らは軍人マヤさんなんて吹っ切れてビシビシ動いてるじゃないですか、あれもシンジやサードで亡くなった人への贖罪の一つですよ。

もう一つ、彼らが迂闊で自己中心的だというのは、ミサトたちの話を信じこんでしまっている点です。本当にシンジがサードの犯人であるのか、本当に敵であるのか、危険存在であるのか、といったことに思慮を巡らせず、自分たちの都合のいいように解釈し、シンジ原発のような危険物とみなす。悲惨現実は確かに目前にありましたが、そこに思考責任転嫁をするのは納得できません。旧世代、青葉や伊吹日向は度重なる戦闘オペレーションを繰り返して精神がすり減る中でも、自分たちで思慮していました。「ダミープラグは仕方ない措置だった」「そうじゃなきゃ君が死んでいた」と、目前にしたシンジの心情にも折り合いをつけながら分析して答えています。旧世代の行動は利他的ですよね。新世代の彼女から稚拙さが拭えません。感情論支配されている軍人は、利己的/幼稚と捉えられても致し方ないと思われます

また、新世代たちに同情的な目線を向ける必要がなぜあるのでしょうか。そこがよくわかりません。「新世代もいろいろあって辛いんだよ!!だからシンジに気配りできなく当然!!」なんて論理は通りません。彼女たちの先には幸せ未来が広がっていて、なおかつそれをシンジに壊されたと仮定しても、彼女たちに世代的な苦しみへの慮りを要求するのは些か理解に苦しみますシンジ世界をたった一人で守れと言われた、背負わされた、その上理由もなく突然にそれをヤメロと言われた。エヴァを通じて人間関係を築けたのに、アスカ精神崩壊綾波感情リセットされたTV版以上ですね、精神の乱れ具合は。

それで、ぼくは劇中のゆとり世代に腹は立ちますが、物語としては彼らの成長も一つの展開だと思うんですよ。旧世代新世代も力を合わせてお互いに妥協する点を模索して、やっていくストーリーだと思うんです。世代論にかまけてたり、時代環境のせいにするのではなく、当事者意識をもって問題の解決に(能力差があっても)構成員全員で取り組もうというメッセージだと思うんです。左翼/右翼若者/年配で内ゲバ起こしてる場合じゃないんですよ、今の日本って。GDPは下がり年金受給年齢は上がり、消費も増えない。賃金も上がらない。対立してる場合じゃないんですマジで

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