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2011-09-02

学術出版という封建制

西洋世界でもっとも無慈悲な資本主義者は誰だろうか?

彼らの独占の仕方の前では、ウォルマートさえ街角個人商店にすぎず、

メディアマードックでさえ社会主義者に見える。

そのような候補者は限りなくあるだろうが、

私が一票を投じる先は銀行でも保険屋でもない。

学術出版社である

科学最先端研究を理解することが望ましいということには、誰もが賛意を惜しまない。

最新の知識を欠いては安定した民主的決定は不可能だ。

しか出版社はその門の前に立入禁止の札を掲げる。

タイムズ紙やサンデー・タイムズ紙をアクセスするのに24時間あたり1ドルという、

マードック流の購読システムには飽き飽きしている人も多いだろう。

しかし、少なくともその期間内はいくつでも記事を読めるし、ダウンロードしておくこともできる。

エルゼビアの出版する学術雑誌では、1つの論文を読むのに31.50ドルかかる(原注1)。

シュプリンガーは34.95ユーロ(原注2)。ワイリー・ブラックウェルは42ドルだ(原注3)。

10件読みたければその10倍を払わなければならない。

そして出版社は永続的な著作権を保持している。

1981年出版されたレターを読みたければ、やはり31.50ドルだ(原注4)。

もちろん、(まだそれがあるとして)図書館で読むという選択肢もあるが、

図書館も多額の購読料に苦しめられている。

化学分野の学術雑誌場合、年間購読料は平均して3792ドルだ(原注5)。

なかには年間1万ドル以上に及ぶものもある。

私が見た範囲ではエルゼビアの Biochimica et Biophysica Acta の2万930ドル(原注6)が最高額だ。

大学図書館は購読を打ちきることで帳尻を合わせようとしているが、雑誌購読費は予算の65%を占めている(原注7)。

大学支出のうち学術雑誌購読料はかなりの割合を占めており、

そのつけは学生に跳ね返ってくる。

マードック記者編集者賃金を払っており、

彼の会社群が使うコンテンツの大半は彼ら自身が作ったものだ。

一方、学術出版社論文論文の査読と編集作業の大半とをタダで手に入れている。

コンテンツ製作に当たって支払いをするのは出版社自身ではなく、

政府による研究費を通して支払う私たちだ。

そしてそれを読むために、私たちはもう一度支払うのである

上がりは天文学的だ。

会計年度のエルゼビアの経常利益営業利益は 36% (20ポンド収入中7億2400万ポンド)(原注

8)。

この結果は市場の独占から来ている。

エルゼビア、シュプリンガー、ワイリーはそれぞれ競合企業を買収した結果、

今では学術雑誌出版の42%を占めている(原注9)。

さらに重要なのは大学が購読にロックされていることだ。

つの学術論文は一ヶ所でしか出版されず、

研究者は最新の情報に追いつくためそれを読まなければならない。

需要弾力性はなく、競争存在しない。

同じ内容を別の出版社出版することはできないからだ。

多くの場合出版者はたくさんの学術雑誌パッケージとしてまとめて購読するよう、図書館に強制している。

この国の人々を食い物にした極悪人の一人、

ロバートマクスウェルが学術出版でその財の大半をなしたことは驚くに当たらない。

製作と配布の費用をまかなうためにこれらの購読料を課さざるをえない、と出版社は主張する。

また(シュプリンガー言葉では)「雑誌ブランドを築き、学術情報流通電子的基盤で支援する」という付加価値提供もしているという(原注10)。

しかドイツ銀行の分析では異なる結論が出ている。

出版社出版プロセスに与える付加価値は相対的にはほとんどないと考えられる。

もし出版社の反論するように出版プロセスがそれほど複雑で高コストだとすれば、40%の利益率は不可能だ」(原注11)。

出版社は、投稿から出版までに1年以上の長いプロセスをかけることによって、

研究を伝播させるどころか研究を隠してしまっている(原注12)。

ここに見られるのは、公共の資源を独占し不当な価格を課す、純粋なレンティエ資本主義である

経済寄生ともいえよう。

その製作に当たって自分たちがすでに支払っている知識を得たければ、

私たちは地主土地を明け渡さなければならないのだ。

これが学術界に対して害をなすのはもちろんだが、

世俗に対してはさらにひどいことになっている。

私は主張をするときは根拠となる原典をたどれるようにしておくべき、

という原理にしたがって、査読済み論文引用する。

だがその主張を私が公正に要約しているかどうか、読者が検証しようと思っても、

その費用を支払えるとは限らない。

在野の研究者重要な学術雑誌に目を通しておきたければ、

数千ポンドを支払わなければならない(原注12)。

これは教育への課税、公共の知の収奪である

「全ての人は自由に……科学の進展とその恩恵を享受する権利を有する」とする世界人権宣言抵触する恐れすらある(原注13)。

Public Library of Science (PLoS) や物理arxiv.org などの優れた事例もあるとはいえ、

オープンアクセス出版は独占資本家を駆逐するには至らなかった。

1998年エコノミスト誌は電子出版の可能性を調査し、

利益率40%の時代はまもなくロバートマクスウェルと同様に終わりを迎えるかもしれない」と予言した(原注14)。

しか2010年のエルゼビアの利益率は1998年と変わらず36%のままだった(原注15)。

その理由は、大出版社インパクトファクター上位に来る学術雑誌を手中にしているからだ。

こうした雑誌出版することは、研究者にとって、研究費を獲得しキャリアを積むためにかかせない(原注16)。

とっかかりとしてオープンアクセスジャーナルを読むことはできるが、

クローズドな方もけっきょくは読まなければならない。

少数の例外を除いて、各国政府は彼らと対決することができていない。

米国 National Institutes of Health は、自らの研究費を獲得した研究者オープンアクセスアーカイブ論文を置くように求めている(原注17)が、

英国の Research Council の公共アクセスについての宣言は無意味の極致である

それは「出版社現在ポリシー精神を維持しつづけるという仮定」に基づいている(原注18)。

政府は短期的には、出版社に対する監視機関を備えるとともに、

政府研究費に基づいて製作される論文がすべて無料の公共データベースにおかれるよう強制すべきだ(原注19)。

また長期的には、政府研究者協調して中間搾取者を追い出し、

ビョルン・ブレンブスの提案に沿い、学術論文データ世界単一アーカイブを作る取り組みを進めるべきだ(原注20)。

査読を監督する独立した機関を設置し、

いまは略奪を受けている図書館支出でそれを運営することもできるだろう。

知識の独占は、穀物法と同様、正当化できない前時代の遺物だ。

寄生地主を追放し、私たちの研究解放しよう。

George Monbiot

2011年8月30日ガーディアン

http://www.monbiot.com/2011/08/29/the-lairds-of-learning/

2009-05-31

http://anond.hatelabo.jp/20090531005554

「1970年代の始め、マクスウェル・モールツという美容整形外科医はある事実に気づいた。整形手術で外見が変わると、患者は驚くほど自信を深めることが多く、人格が一変することさえある。その一方、容姿が見違えるように良くなっても精神面で全く恩恵に預かれない人もいた。

 モールスはこう結論づけた。整形で患者の外見を矯正しても、患者の内なるセルフイメージが貧弱な時、つまり彼に言わせれば「内面に傷があるとき」は効果が出ないのだ。

 そこで、このような患者に簡単なイメージトレーニングを教えると、セルフイメージが劇的に変化した。驚いたことに、そしてまたうれしいことに、これが実際の整形手術と同じくらい、いやそれ以上に効果を上げたのだ。

 ネガティブセルフイメージを持つ患者に、理想自分の姿を繰り返し思い描くよう教えると、わずか数日のうちに患者は以前より幸せで心安らかになった」(ポール・マッケンナ著「7日間で人生を変えよう」より)

2009-04-04

http://anond.hatelabo.jp/20090404045107

どうせ数学偏重するならまず線形代数だろう・・・という突っ込みは置いておいて。暇な理系大学生が書いたトバシ文章の臭いがするが(自分もそうだから分かる)、敢えてマジレスしてみようか。

理系な科目は数学が出来ればそれでいいって種類のものではないと思うけどな。物理なんかでも、数学的な扱いが出来ないのは困りものだけど数学とは直接関係ない物理固有の考え方ってあると思う。「数式を通さずに理解するということが、物理法則を真に分かるということだ」みたいなことをファインマンも言ってたはず。紙を広げたまま落とすのと丸めて落とすのでは落下の仕方に差が出るけど、その差があるということを理解するのに数学はいるのか?紙の形状と摩擦力等を定義すれば数学的な解析は出来るけど、いつだってそうやって数学を振り回す必要があるのか?数学的な解析は重火器みたいなところがあって、確かに確実に制圧出来るけどフットワークは悪い。大砲だけでなくサブマシンガンも用意するべきだろう。数学的に高度だと物理自体の理解にしばしば邪魔になる。エントリ主は ISBN 9784254130911 みたいな本についてどういう見解を持っているのか聞いてみたい。

化学量子力学なしでは「分からない」というのはシステムとしてモノを見るという視点が欠けすぎている。例えばマクスウェル方程式を知らなくても電気回路は「分かる」のだ。

文系には物理化学(今の理系学生が取っているもの)を必修にする。

こういうことを書くと「理系には哲学を必修にする」とか言われかねないからほどほどにした方がいいと思うよ。

2008-07-26

物理オタが非オタ彼女物理世界を軽く紹介するための10人

via : http://anond.hatelabo.jp/20080721222220

まあ、どのくらいの数の物理オタがそういう彼女をゲットできるかは別にして、

「オタではまったくないんだが、しかし自分のオタ趣味を肯定的に黙認してくれて、

 その上で全く知らない物理世界とはなんなのか、ちょっとだけ好奇心持ってる」

ような、ヲタの都合のいい妄想の中に出てきそうな彼女に、物理のことを紹介するために

見せるべき10人を選んでみたいのだけれど。

(要は「脱オタクファッションガイド」の正反対版だな。彼女物理布教するのではなく

 相互のコミュニケーションの入口として)

あくまで「入口」なので、時間的に過大な負担を伴うマニアックな人物は避けたい。

できれば伝記が出てる人物、少なくともブルーバックスレベルにとどめたい。

あと、いくら物理的に基礎といっても古びを感じすぎるものは避けたい。

物理好きが『ケプラー』は外せないと言っても、それはちょっとさすがになあ、と思う。

そういう感じ。

彼女の設定は

物理知識はいわゆる「ブルーバックス」的なものを除けば、中学校程度の物理は知ってる

サブカル度も低いが、頭はけっこう良い

という条件で。

まずは俺的に。出した順番は実質的には意味がない。

アルバート・アインシュタイン

まあ、いきなりかよとも思うけれど、「アインシュタイン以前」を濃縮しきっていて、「アインシュタイン以後」を決定づけたという点では

外せないんだよなあ。知名度もあるし。

ただ、ここでオタトーク全開にしてしまうと、彼女との関係が崩れるかも。

情報過多なアインシュタインの業績の数々について、特にリーマン空間上の時空の幾何学という数学的側面が強い一般相対論について、

どれだけさらりと、嫌味にならず濃すぎず、それでいて必要最小限の情報彼女

伝えられるかということは、オタ側の「真のコミュニケーション能力」試験としてはいいタスクだろうと思う。

アイザック・ニュートン

アレって典型的な「オタクが考える一般人に受け入れられそうな物理学者(そうオタクが思い込んでいるだけ。実際は全然受け入れられない)」そのもの

という意見には半分賛成・半分反対なのだけれど、それを彼女にぶつけて確かめてみるには

一番よさそうな素材なんじゃないのかな。

物理オタとしてはニュートン力学万有引力法則は“常識”としていいと思うんだけど、率直に言ってどう?」って。

スティーブン・ホーキング

ある種のSF物理オタが持ってる時空制御やタイムトラベルへの憧憬と、一方で時間順序保護仮説を唱えるオタ的な理論物理へのこだわりを

彼女に紹介するという意味ではいいなと思うのと、それに加えていかにもSFオタ的な

「一般相対論破綻」を記述する特異点定理

量子力学重力統合」を提唱する量子重力理論

の二つをはじめとして、オタ好きのする理論世界にちりばめているのが、紹介してみたい理由。

ジョン・フォン・ノイマン

たぶんこれを見た彼女は「モーツァルトだよね」と言ってくれるかもしれないが、そこが狙いといえば狙い。

これほどの変態的天才がその後続いていないこと、これがアメリカでは軍事への貢献で大人気になったこと、

数学から経済学までのあらゆる分野に影響を残した天才ぶりはアメリカなら実写テレビドラマになって、

それが日本に輸入されてもおかしくはなさそうなのに、

日本国内でこういう天才が生まれないこと、なんかを非オタ彼女と話してみたいかな、という妄想的願望。

ジェームズクラークマクスウェル

「やっぱり物理は目に見える自然現象を説明するためのものだよね」という話になったときに、そこで選ぶのは「アンリ・ナビエ」

でもいいのだけれど、そこでこっちを選んだのは、電磁気学にかけるマクスウェルの思いが好きだから。

(以下思いつかねえ)

レオンハルトオイラー

今の若年層でオイラーを目指す人はそんなにいないと思うのだけれど、だから紹介してみたい。

量子力学よりも前の段階で、力学現象を解析的に取り扱う哲学位相空間の技法は彼で頂点に達していたとも言えて、

こういうクオリティ物理学者数学者の片手間でこの時代に生まれていたんだよ、というのは、

別に俺自身がなんらそこに貢献してなくとも、なんとなく物理好きとしては不思議に誇らしいし、

いわゆるニュートン力学でしか物理を知らない彼女には見せてあげたいなと思う。

アマリー・エミー・ネーター

(還元論的)物理の「本質」あるいは「原理」をオタとして教えたい、というお節介焼きから見せる、ということではなくて。

「あらゆる基本的な物理量は保存する」的な感覚がオタには共通してあるのかなということを感じていて、

だからこそ理論物理学の最も基本的な量はハミルトニアン以外ではあり得なかったとも思う。

複雑系を取り扱う新しい物理」というオタの感覚今日さらに強まっているとするなら、その「オタクの気分」の

源はハミルトニアン(時間並進対称性に起因する保存量)にあったんじゃないか、という、そんな理屈はかけらも口にせずに、

単純に対称性と保存量の美しい関係を楽しんでもらえるかどうかを見てみたい。

エドワードウィッテン

これは地雷だよなあ。地雷が火を噴くか否か、そこのスリルを味わってみたいなあ。

こういう純粋数学チックな物理を元文系の天才物理学者が推進していて、それが非オタに受け入れられるか

気持ち悪さを誘発するか、というのを見てみたい。

リチャード・P・ファインマン

9人まではあっさり決まったんだけど10人目は空白でもいいかな、などと思いつつ、便宜的にファインマンを選んだ。

アインシュタインから始まってファインマンで終わるのもそれなりに収まりはいいだろうし、場の量子論以降の

素粒子物理時代の先駆けとなった人物でもあるし、紹介する価値はあるのだろうけど、もっと他にいい人物がいそうな気もする。

というわけで、俺のこういう意図にそって、もっといい10人目はこんなのどうよ、というのがあったら

教えてください。

「駄目だこの増田は。俺がちゃんとしたリストを作ってやる」というのは大歓迎。

こういう試みそのものに関する意見も聞けたら嬉しい。

10人は疲れるなこれ…。穴だらけだわ。そういう意味では元増田すげえな…。

ディラックとかハイゼンベルグとかシュレディンガーあたりを入れたかったが入らなかった。

あと湯川秀樹朝永振一郎も入れたかった。

2007-03-20

http://anond.hatelabo.jp/20070320233049

ジョン・C・マクスウェルの本とか、好きそうな友人だな。

俺は一時期ハマッたんだよな。

「その他大勢から抜け出す成功法則」とか

「夢を実現する戦略ノート」とか。

本当に成功する奴って、頭のいい奴ばかりだと思う。

そう言う人って、他人の批判でも一度受け入れて吟味するだけの、頭脳的な余裕があると思う。

吟味した結果、軌道修正するんだよね。他人の意見に流されるってコトじゃなくて、必要な要素はちゃんと取り入れつつ。

普通が嫌で足掻いてる普通の奴って言うのは、その他大勢に批判されたら顔真っ赤になると思うわ。

頭脳的な余裕が無いから。

だから、他の人の意見忠告ですら、無意識に「批判」としてブロックしてるんだと思う。

まぁ、そう言う意味で、挫折した状態で上記のような本を読むと、多角的な視野でモノゴトを考える力の乏しい頭脳じゃ、そりゃその他大勢からは抜けられないわ、とシミジミ実感した。

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