2024-05-17

フェミニスト大嫌いな人こそ、特権階級の女様が主人公ドラマ、虎と翼を見るといい

なぜなら主人公は「ひたすら恵まれている」ハイポジションリベラル女子」だから。日頃から女はズルいと怒り呆れがちな人たちが真っ先に鼻で笑うタイプの恵まれた女だから

ドラマ主人公の寅子は、投資銀行に勤める父と良妻賢母の母という大正昭和初期のアッパークラスの、それもリベラル色の強い理解あるご家庭に生まれて、その潤沢な社会資本を余すことな享受して弁護士の道を自由に邁進している。そして勉強大好きで周囲が態度を変えるほど頭が良く生まれついてもいる。そして子供のころから正義感がある。家柄が良くまっすぐ育った明るい優等生

大学に行っても目立つタイプ、拗らせミソジニーを発動する拗らせエリート同級生男子が、いつの間にかそのまっすぐな人柄にやられて好意を抱いたりする程度にはモテる

寅子の家には、父が面倒を見ている司法試験合格を目指す書生がいて(アッパークラスのご家庭ならでは)この書生とも「私たち同じ道を進む仲間よね」という異性友達ムーブをぶちかましているが、書生は寅子に片思いである。そしてこの書生よりも寅子の方が圧倒的学力がある。要するに立場的にも、恋愛的にも経済的にも非対称性が生じている年上の男性を寅子は「異性の友人」として遇している。中々のタマである

寅子は、前述した好意を抱かれていた拗らせエリートに「彼女結婚してくれとはいえない、彼女の夢を奪うことになるから」と思われて振られてしまうのだが、それまでどっちつかずの態度だったくせにいざ振られるとショックを受けたりするし、せっかく弁護士になったのに依頼が来ないのは私が結婚していない(社会的信用がない)からだ、と思いつき慌てて縁談を探してもらうがうまく行かない。そりゃそうだ。

ところが助け舟で、寅子に片思いしていた家の書生から結婚をしたいと言われる。渡りに船逃げ恥のような「条件偽結婚」だと思い込みスピード結婚を承諾するが、前述のとおり書生は寅子に片思いしていたわけで、初夜にぬいペニ状態となる。かわいそうな仲野太賀…。

と、寅子の痛さを中心に4月ドラマが始まって今日までの1カ月半を振り返った。フェミニスト嫌いの諸氏や、女はずるいと常々思っている諸氏が叩き放題の「豊かさという下駄を履いて産まれた恵まれた女様」それが寅子である伊藤沙莉が演じていなかったら大変なことになっていたと思う。

だが伊藤沙莉の演じる寅子はとっても魅力的である

「虎と翼」は、現代問題昭和初期の物語に練り込んでいる疑似歴史感が臭うドラマだが、一方でモデルになっている三淵嘉子は実在の人で、ドラマにおける寅子のキャリアや背景はモデルのそれをなぞっている。恵まれリベラルな家に生まれ弁護士になり、戦争時代突入し、色々あって戦後日本初の裁判官になるスーパーウーマンである

ドラマの寅子も恵まれた家に生まれ、厳然とした性差別がある世界を、明るく、元気に、強気に突き進んでいく。そして突き進む中で彼女は、自分が周囲と比べ恵まれていること、「自由選択ができるという」下駄を履いて生まれてきたことを徐々に自覚していく。

寅子が持って生まれた豊かな資源は、裏返せば、女に人権がなかった時代には、ここまで特権的に恵まれてなければ法曹界で働く道を切り拓くことができなかった、ということの証左だ。そしてこれを現在に照らせば、形式上男女平等になった現在の女は寅子に比べれば矜持や頑張りが足りない、という振り返りもできるし、現在でもまだまだ形式的しか男女の機会平等は達成されていないよなと振り返ることもできる(医大入試における性差別不正はつい最近出来事だが、あの時は差別だと批判する意見と、女はズルいから消耗が強い診療科を選ばないため合理的配慮だという意見に二分されていた)。

これは、女性人権がなかった頃を引き摺って今も残る男性優位の古い価値観を、改めてマーカーでなぞっていく作業であり、同時に現代の女が抱える特権性の問題も照らし出す作業でもある。

そしてドラマの中では、現代にもしっかり残っている、個人幸福を削るような価値観を改めて再発見することになる。

結婚しなければ社会的信用が得られない」、「エリート男が生きていくには従順に従う女が必要」、「女の弁護士なんて信用できない」、「自分より優秀な女は生意気で目障りだ」、「適齢期を過ぎると縁談がない」、「人は生まれた国や家や身分に縛られる」、「平等を求める声は不平等利益享受する側には届かない」、「上品批判下品な妬みには勝てない」、「お金がないと社会的意義の高い仕事につけない」などなど。昨日どこかのSNSでだれかがぼやいていそうな内容である

これらは女だけではなく、男も同様に削られる呪い価値観である。学友たちはこの呪い価値観によって法曹界で働くという夢を立たれていき、寅子は弱い立場に置かれた人を助けたいという正義実践に加えて、諦めなくてはならなかった仲間への思いを「使命」として背負う人生を選ぶことになる。

平等と戦うに十分な恵まれ武器を持って生まれて、更に先駆者の使命を背負った寅子は、おそらく来週から戦争ターンではどんどん「恵まれていたもの」を奪われていくことになるのだと思う。世紀の愚戦・負け戦の太平洋戦争ってそういうものだったから。男は戦争に行くし残った老人や女子供は空爆さらされる。男も女も人がたくさん死に経済活動は退潮する。

その時でも寅子は「正義」と「使命」をもって生きていくのだろうと思う。モデルの三淵さんは生き残ったし、何しろドラマ主人公なので正義や使命は捨てないだろう笑。

たくさんのものを奪われてなお「正義」と「使命」を失わない女がどんな生き方をするのかのドラマを私はとても楽しみにしている。

そして、形式上の機会が平等になった世界で、これまでずっと恵まれていたはずのものをどんどん奪われ不満が溜まっている人たち、「女は狡い」、「現代の女は特権階級だ」と思っている人こそ、奪われても正義と使命を捨てなかった人のドラマを見てほしいと思う。

フェミニズムドラマくっさー、と思う人も多かろうが、お勧めしたいのには、単純にドラマとして良くできているのもある。

寅子は「戦う女戦士」みたいな感じではまったくなく、前述通りそこそこの空気読めないわがままな、脇の甘い生き方をしていて、いちいちナレーションに突っ込まれている。ナレーション尾野真千子で、芝居がかったナレーションだがコメディの良い味付けになっている。

寅子の両親や兄夫婦明治家族観(男が働き女は家を守る)できわめて円満夫婦関係に描かれている。一方で嫁姑ちょっとしたストレスも描かれたり。父は帝人事件(疑獄事件)の当事者になり、リベラルエリート父親会社での立場に縛られる姿をシリアスに描いてもいる。

また、法曹界への女性進出を後押しする立場であるリベラル派の教授弁護士がしっかりと性差別をしていてフェミニズムにおける父権問題提示していたりもして、本当に痒い所にまで手に届く配慮がされている。セリフやシーンの伏線もとても豊かでドラマとして見ていて普通に面白い出演者はみな手練れの俳優だらけで演技へのストレスはほぼない。

単にドラマとしても面白いので、ぜひ。

フェミニズムドラマとしての側面については、あまりブコメが集まっていなかったがこの記事分析がとても分かり易かったhttps://bunshun.jp/articles/-/70764 これ読むと「女のためだけのドラマ」じゃないことがよくわかると思う。

ところで最後全然話は変わるのだが、昭和初期というのは実はWWIIジャンプして戦後と地続きになっていたかなり民主的かつ退廃的な時代だったらしい。「富国強兵」を叫んで強国を目指していた大日本帝国から現代にいたるGDPの推計推移をみると「戦争が無かったらこグラフの線が素直に上がっていたのではないだろうか」と感じさせるラインが描かれる(https://www.nippon.com/ja/in-depth/a04003/ 中ほどのグラフ)。まあ実際は戦争しないと色々糞づまっていたわけで後付けの皮算用しかないが。

ともかく、人が自由を求めそして退廃を享受できる程度の十分な豊かさが生まれていたのが大正末期から昭和初期の時代。ちょうど朝ドラで描かれているこの時代は、結構現代に近い時代だったりもする。

しかし、このニッポンドットコム笹川財団由来のかなり右寄り情報サイトなのだが、それでも「高度成長期ストック90年代で尽きてその後の策がねえぞ」という分析になっているのが、ちょっとだけ面白いですね。

  • 15分にまとめろ 朝ドラだろが

  • 『ゴールデンカムイ』の分析・鑑賞で”アイヌ人差別をする登場人物は悪者(敵)だけ”という指摘があったが、それとの対比 ⋙法曹界への女性の進出を後押しする立場であるリベラル...

    • ゴールデンカムイって別に敵側にもアイヌ差別するキャラほとんどいなくないか

      • その情報は何? 「アイヌ人差別をする登場人物は悪者(敵)だけ」に対する反論のつもりか? 「アイヌ人差別をする登場人物は悪者(敵)だけ」の反対は「悪者(敵)以外にアイヌ人差...

        • 解りませんけど?

        • いやこれは増田bの知能を測りそびれた増田aの落ち度だよ。 『ゴールデンカムイ』では"良き人"とされているキャラクターは決してアイヌ差別をしないのに対し、 『虎に翼』では、開明...

          • Aである、Aでない、aである、aでない、と、Bする、Bしない の組み合わせの中で増田にとって一番直感的でない組み合わせで説明しようとしたのが悪い

        • 反論じゃ無くて前提に対する疑義だよ。 そもそもアイヌ差別がほとんど描かれて無いんだから問題にするならそこで、味方側に無いことはどうでもいいだろって話。

      • 観光客VS現地人みたいな偶発的接近遭遇のシチュエーションじゃなくて アイヌ差別、朝鮮人差別、部落差別みたいな「日常の差別問題」は 悪人がことさらマイノリティをとっ捕まえてお...

  • 「ちゃんと描けている!」っつーか、正直あまりにも盛り盛り過ぎて逆に不自然になってるとしか思えんわアレ あそこまで全方位ミサンドリーなら男尊左翼や慈悲的差別ぐらいは当然盛...

    • あなたの感想ですよね。。。 どこにラインを引くかと言う問題。野田サトルはゴールデンカムイで「そこ」に引いたし、朝ドラは別の位置にラインをひいた

  • 悪人や愚かな役は全部男で醜く演出し、女は全員が賢い善人で美しい、というのが不自然だと思う 昔の仮面ライダーとかみたい それは近年の朝ドラではよくあるパターンなのだけど、...

    • 社会には男しかいなかったんだから、悪人も善人も自動的にみんな男になるんだよ

    • えー? よねさんとか賢い善人か? 兄嫁の花江とか、同級生の梅子さんとか、微妙な描き方をされてる女性もたくさんいるじゃん

    • 女は全て善人に何て描かれてないし、元増田の文章も何なら主人公が痛いやつだと言ってる中でこれが書けるって、 字が読めないとか嘘つきだとかそういうレベルを超えたバイアスの強...

  • 文章構成がうますぎてすごい

  • これもう半分ファスト映画だろ

  • 上級レイヤーにもホスト通いや精神的DVや経済的DVはあるが語られない、だな

  • フェミニストは嫌いじゃないけど、自称フェミニストのサイコパスは嫌い。

  • 戦争しなければ、って世界恐慌を知らんのか。 世界恐慌の影響で欧米列強諸国がブロック経済を始めたから日本は経済的な窮地に追い込まれたんだぞ。 戦争は良くないが、戦争しなけれ...

  • 熱く語っているけど、今回に限らず、フェミニズム云々以前に日本のドラマは本当に苦手。 とにかく台詞回しがオーバーで嘘くさい。すぐ泣き喚いたり怒鳴ったりする人間が出てくる...

  • 加えて、内心の自由は侵害されないという話で結局差別は残り続けることを考えると、反フェミの人たちほど内心の自由はアカンとする極フェミになったほうかええよな

  • chatGPTに要約してもらった   3行まとめ 主人公の寅子は、特権的な環境で育ち、弁護士として性差別を克服する物語。 ドラマは、女性の権利と現代の性差別問題を歴史と共に描いて...

    • どうでもいいけど、ChatGPTをchatGPTって表記する人珍しいよね

  • なんというか、 「チーハーモノって馬鹿にするなよ!確かに薄着の巨乳キャラだらけだけで主人公に都合がよすぎる世界だけどストーリーはよくできてるんだよ!」 って言われてる気分

  • 女の偉人についての本を読むと、男の偉人にはない「女なのにそんなことやめなさいパート」がほぼ必ずある そのパートで折れて偉人になれなかったハイスペック女は数多いるのだろう ...

    • やめなさいと言ってるのは父親など(強者男性)や周囲の女性とかだと思うけど、それじゃつまんないからとりあえず弱者男性が悪いことにしとくか…

    • 男の場合は「男なんだからやりなさい」ってケースが発生する 本当はやりたくない家業を継げとかね 戦国時代なら仏門に入ってたのに嫡男が早世して還俗させれれるパターンとか

  • フェミの話とかワロタ 戦争家たちが、最高裁判事の家にご褒美として送りこんだ弁護士娘の話だろ 娘の親も金融家だったし、先夫といたところが元家族はほぼ終戦前後にバタバタ死亡...

    • フェミ女性法曹は、本人はフェミニズムの存在に救われて、男が下手クソな家事調停員(同情演技)などで食えるとしても 結局、男社会都合、金融会社都合であれこれキメてるんじゃな...

  • パパ活売春婦に言えよ

  • 最後のほうだけ読んだが、「高度成長期のストックは90年代で尽きてその後の策がねえぞ」が右寄りのサイトに載ってると面白い理由が分からなかった。右寄りって何?

  • 過去に性差別があったのは事実なんだろうけどその頃俺まだ産まれてもないんだよな 俺にとって防ぎようもなかった性差別を「これはお前達男性が犯した罪だ」と咎められているようで...

  • anond:20240517223047 日頃から女はズルいと怒り呆れがちな人たちが真っ先に鼻で笑うタイプの恵まれた女だから。 まずさぁ 「鼻で笑う」の使い方が間違っている。この慣用句はバカにす...

    • はてな匿名ダイアリーでは、特定の人物への言及があった場合、本人からの申し立てがあれば記事は削除される。 たとえば自分のブコメを引用されたり、アカウント名を出されたりし...

    • 暇なの?テンション高い暇人なの?

  • 「虎に翼」とはNHK制作のドラマであり、表題は「トラストに翼」の意 トラストは主に保険業界・裁判業界のトラストを指す 翼は、損害調査不正の告発者からトンズラするための手段とい...

  • フェミニズムって人権のことだよね。男は人権がお嫌いなんだろうかといつも思う。

  • タイトル間違っている。 「虎に翼」

    • 世が世ならそのタイトルのキャプつばのBL(当時の言葉だとやおい)同人が描かれたんだろうな、と

  • ありがとう。とても良い文章だった。 そのドラマを見たいと思ったよ。

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん