2021-10-18

とらの話

うちは普通サラリーマン家庭なのですが、父方の祖母は、占い師か拝み屋みたいなことをしていました。とはいえ、謝礼にお金はもらっておらず、食べものばかりだったようです。それも手をつけることはなく、近所のお稲荷さんお供えしていました。

私が大学の時、先輩と出会いました。先輩はゼミOGで、就活相談で知り合いました。色白で、黙って座っていたら良家のお嬢さんという印象です。しかしどこか掴みどころがない人でした。

祖母が先輩と会ったのは、相談の時に私が忘れ物をしたのがきっかけでした。

春先だったか梅雨だったか、よく覚えていないのですが、雨が続く時期だったと思います

友だちからもらった、ディズニーお土産タオルハンカチでした。大事ものだったので、同じ沿線から駅まで持っていって渡そうか、という先輩の言葉に甘えました。

出掛けに、祖母駅前へ花を買いに行くというので、一緒に向かいました。

先輩を見るなり、祖母は「とら」と言いました。ハンカチを渡してもらいながら、何を言い出したかと、私はポカンとしていました。

お嬢さん、ごおうのとらでしょ。お母さんとお父さんの干支は何?」

「母はひ(き?)のえうまです。父はごおうのとらです」

先輩はちょっと驚いていましたが、割と平然と答えました。

「昔、古いおうちに住んでた?」

はい日本家屋ってほどじゃないですが」

ここで根掘り葉掘り尋ねる祖母をたしなめようとしましたが、「色々聞いちゃってごめんなさいね」と、自ら質問を切り上げたので空振りになりました。

から聞きましたが、先輩は育ちが西の方で、昔住んでいた家が、さるお屋敷の離れを一戸建てに改築したものだったそうです。訛りが全くなかったので驚きました。

その時はそれで解散となり、おばあちゃん何なんだろな、と思いつつも、それで終わりでした。

祖母と先輩が次に会ったのは、夏になった頃です。祖母はこの時期に、一番拝み屋的な仕事をしていました。とはいえ、詳細はよく知りません。謝礼のお供えものをもらってくるので、そうと知れただけです。息子の父が何も言わないのはともかく、嫁の立場の母は、こういうのどう思っているんだろうと思っていましたが、母は全く咎めませんでした。祖母と母は、仲良しとまではいかないものの、ごく普通関係でした(それが実は大変なことだというのは今はわかっていますが)。

7月の中頃だったと思います。先輩と連絡を取りたいと祖母に言われ、私はびっくりしました。拝み屋絡みか、と訊いたら否定しませんでした。しつこく粘られ、「先輩が承諾したら」「私にも詳細を教えてもらう」という条件でしぶしぶLINEしました。先輩は祖母が拝み屋ということにもさして引かず、むしろ面白げにあっさり了承しました。

手伝いというのは、祖母指定する家に一晩泊まるという内容です。孫の私でも、かなり怪しい話です。

心配なら、W(私)ちゃんも泊まりなさいな」と祖母は言い、私もそうすることに決めました。

向かった先は、有名な温泉街の駅でした。交通費は先方持ちとのことで、温泉に入った後、駅からタクシーで向かいました。山坂のある道で、結構距離はあったと思います

途中、神社にお詣りし(なんという神社失念しましたが、たぶん八幡様だったと思います)、着いた先は、ごく普通の一軒家でした。

祖母は入る前に、先輩に「和室で待ってる人がいるので、やってもいいと思うなら、肩を叩いてあげて」と言いました。それから、二階には上がらないこと、全員一階の和室で寝ることを言われました。

インターホンを押すと、奥さんらしき人が、扉を開けてくれました。少し疲れた印象でした。二階に上がる階段は、入って正面の突き当たりにありましたが、赤ちゃんペット用の柵みたいなものが塞いでいたので、うっかり上がることもなさそうでした。

和室には祖母の言ったとおり、高校生ぐらいの男の子がいました。背の高い、いかにも運動部という感じの男の子です。集団でいたら避けたいタイプかもしれません。しかし妙に落ち込んでるように見えました。歳や見た目割りに、大人しいというか。先輩は、特になんともなく、その子と叩きました。

その泊まりは何もありませんでした。

ラップ音とか、怪しい影とか、変な声とか、何も。

というか、実はこの話、最後までそういうのはありません。

まあ、私も先輩もいわゆる霊感などなく、先輩に至っては、夢で幽霊や化け物が出たら、怒り狂って殺しにいくとのことでした。だから怖い夢が怖くないと言っていました。

夢占いだとそういう化け物殺しはストレス兆候らしいのですが、今となってはどうかはわかりません。

夜のご飯弁当(高いの)を持ち込みましたが、朝はおにぎり味噌汁を出してもらい、そのまま帰りました。帰り際に、祖母封筒(おそらく交通費弁当代)と、お菓子か何かをもらっていました。

私と先輩は訳がわからなかったものの、温泉・高級弁当・タダということでラッキーという感じでした。当初の怪訝さはどこへやら、うまい話ヤッターみたいな感じになりました。

結論として、この手伝いは数年続きました。夏が多かったものの、季節関係なく、先輩のスケジュールが空いていれば成立しました。

色々なところに行きましたが、大体条件は同じでした。

まず地元神社に寄る。

温泉があれば寄る。

先輩が居間の人の肩を叩く。

二階や特定の部屋には入らない。

祖母・先輩・私は同じ部屋で寝る。

ほぼ、先輩は肩を叩きました。

時折、臭う不潔な人や、ずっとうめいてるような露骨に変な人もたまにいましたが、普通に叩きました。

しかし、数回だけ、叩かないことがありました。

その時はその家には泊まらず、謝礼も貰わず祖母持ちで、ビジネスホテルや空いている旅館に泊まりました。

叩かなかったいずれの時も、先輩がものすごく機嫌が悪くなりました。本当に、露骨に触るのも嫌という様子でした。普段飄々とした先輩が、突然牙を剥くみたいになるのです。

先輩の声は女性にしては低い方なのですが、「叩けません」という声にはドスがきいて一層迫力がありました。はたから見ていても、とても怖いのです。

叩かれない人は、ずっと呆然としていたり、逆にニヤニヤしていたり、やはり変な様子でした。しかし、叩かれた人にも変な人はそこそこいたので、正直私には差が分かりませんでした。

先輩に後で訊いてみると、先輩も理屈はわからないものの、とにかく本当に触れない、触りたくもない、汚らわしい、腹が立つ、という気持ちになったそうです。

今思えば、そういう不思議なことは間違いなくあったのに、直接的に怖い訳ではないと、存外平気なものなのだな、と思いました。

この手伝いがなくなったのは、突然でした。祖母が「今までお手伝いありがとうございました、これで最後になります」と、宣言したのです。秋か、冬のことでした。

最後のおうちは、特に印象はありません。そこの人は、肩を叩かれました。白い猫ちゃんがいて、私にも先輩にもゴロゴロいってかわいい子でした。

先輩は「役に立ちました?」と訊き、祖母は「大変助かりました、ありがとうございました」と言って、先輩にお礼は何がいいですか、と尋ねました。

先輩は遠慮したものの、祖母は食い下がりました。

「それじゃ最後にWちゃんも含めてお食事しましょう、それがうれしいです」ということで、祖母の奢りで3人でふぐを食べました。祖母は奮発してくれ、一番いいコースで食べました。

その後、先輩は引っ越して県外に行ってしまい、私も仕事に慣れて忙しくなり、疎遠になりました。

結局あの手伝いはなんだったのか。

祖母が亡くなる前、割と最近になってから尋ねました。

その時、祖母は、私が先輩から借りっぱなしにしているものはないかと訊き返しました。先輩とはものの貸し借りはなく、お金などは代わりのものを奢ったりして都度トントンにしていたので、そういうものはありませんでした。

それを聞くと、祖母は話してくれました。というかメールですが。

「K(先輩)さんはね、とらです。悪いものには、ものすごく怖いとら。動物のとらみたいに、いるだけで怖い。巡り合わせもありますが、滅多にいないひとです」

「泊まりの都合が、合わなかったひとは、もう最初から、助かるご縁がなかったんです。来てもらって、肩を叩いてもらえたひとは、許されてもいいってこと。叩いてもらえなかったひとは、だめ」

「強いと因果も色々あるんだけど、Kさんは、絶対大丈夫。あのひと、甘やかされてないから、馬鹿みたいに運がいいとかはない。だから負ける時は負けるけど、それはそれで、怖いことなんです。自分を負かした相手の運を、埋め合わせに、根こそぎ持っていってしまう。貸し借りのことを聞いたのはね、それと同じで、借りっぱなしで泥棒するのが、とても良くないことだからちゃんと謝って返すか、許して譲ってもらうかしないと、持ってるものぜんぶ無くなるまで、持っていきます自分からは、どうこうしないけど、ずうずうしいとか、わきまえないひとに、容赦しない」

祖母がこのことを言うのは、たぶん私と先輩のご縁が切れたからで、でも忠告でもあるんだろうな、となんとなく思っています

コロナが本格的に流行り出す前に、祖母脳梗塞で亡くなりました。

お稲荷さんへの謝礼のお供えの話は、葬式の後に父から聞きました。

父も詳しくは知らないそうですが、他人様の不幸せを、自分の稼ぎにしてはいけない、ということでお供えにしていたようです。

母が嫌がらなかったのも、たぶん金儲けじゃなくて人助けだと思っていたからなのかもしれません。

今でも、我が家はちょくちょくお供えをしています

先輩は、人づてに聞いたところ、普通に元気で、バリバリ仕事をしているそうです。

お手伝い中、会社パワハラで有名なお局さんに嫌がらせされている、とボヤいていたのですが、結局そのお局さんが部署たらい回しにされ、会社をやめたそうです。

たぶん、そのお局さんはこの先いいことはないんでしょう。知らないとはいえ、恐ろしいことをする人もいるものです。

もう一つ、昔の友人にCD借りパクされたという話を聞いたのも、今書いていて思い出しました。それもどうなるのでしょう。

特にまとまりのない文章になってしまいました。まあ、別に怖くもないでしょう。

こんな話は誰もリアルには信じないと思うのですが、やはりこうも変な体験だと誰かに話したくて(フェイクも混ぜてますが)、ここに投げています

唯一怖いといえば、都合のつかなかった人、叩いてもらえなかった人のことがあります

どうなったんだろう、とふと思います

気にはなりますが、出来もしないことに深入りしないのも大事でしょう。

私は虎のように強くもないし、祖母のようにそれを見極めることもできないので。

うそう。また書いていて思い出しました。そういえば、タオルハンカチを届けてもらった時に「親切にしてもらうのだから、お礼を持っていかなきゃ」と、祖母ゼリーを用意してくれました。あれは今思えば、なかなかファインプレーだったのかもしれません。

礼儀って大事ですね。

オチのない話で申し訳ないですが、あなたの暇潰しにでもなれば幸いです。

***

虎の威を借る狐だった。

こんなこと何度もないですよ。これが初めてです。

皆さんもお気をつけて。

***

から気をつけてと言ったのに。

まだ気付いてないんですね。

これはとらの話なんですよ。

残念です。

***

縁がなかった、許された、許されなかった。

その差は?

何がその判断基準抵触したのか?

でも、聞いても理解できないかもしれない。

だって良かれと思ったことが、こちらは些細と思ったことが、向こうを怒らせてずっと恨みを買うなんて、よくある話じゃないですか。人間相手ですら。

びっくりするぐらい真反対の考え方の人って、実際いるでしょう?

多数派なら大丈夫

私は間違えない?

私は正しい?

本当に?

主観や肌感覚って、そんなに信じていいものなんでしょうか。

信じるって、そんなあっけらかんにしていいことなんでしょうか。

***

急に寒くなりましたね。

狐よ、肥えろ肥えろ、どんどん肥えろ。

***

黄質黒章、鋸牙鉤爪。

のこぎりの歯とかぎづめを持つ、黒いすじを持つ黄色の化け物。

訳が分からなくて、怖いですよね。

でも、それに「虎」と名付けたら?

あらびっくり、「虎」以外の何ものでもなくなる。

から「とら」にした。

少しでも縁のある器に注いで、形を捉えた。

そういうことなんですかね。

でも、名前が付いたからって、虎は本質的に虎のままじゃないですか。

ましてや「とら」だなんて、図々しいじゃありませんか。

そういうものの名を、人の分際で決めて、しかも領するなんていうのは。

定義付けるべきじゃなかったなら、せめて、よくある作り話とみんなが思って、薄まらいかなって思ったんです。

これも、いまいちでした。

あんまり詳しく正しく書いて、道理を通そうとするのは良くないんですよ。この手のは。

言うじゃないですか、ラテン語か何かの格言で「神秘は秘匿されるが故に神聖也」って。

でも今時って、皆さん考察したり、伏線矛盾を突いたり、暴くのがお好きでしょう?

かえって、あちこちに細く尾が走っていってしまってね。申し訳ないことに。

大丈夫、そろそろ終わりますよ。

ほら、もう、大分日にちが過ぎちゃいましたからね。

***

これで手打ちにしてくれるそうです。皆さんどうも。

明日もっと寒いそうですから、よく肥えてくださいね

***

長らくお付き合いありがとうございました。

こち出張の片手間に推敲もせず書いたもので、始末に困って貼ったのですが、存外見ていただけたようで、驚いております

かような人生初の乱筆乱文に、大変恐縮でございます

それでは、本当のお開きでございます

皆様、余さず頂戴し、骨の髄まで堪能させていただきます

ご機嫌よう。

  • 貴女、大学でてるでしょう、じゃなかった(苦笑)コレはプロの犯行だな!!←文章力

  • https://anond.hatelabo.jp/20210428022710 このオカルト増田の人?

  • 何食ったら毎回こんな話を思いつくようになるのだろう? 発想力がうらやましい

  • 人の縁ってふしぎなもんだな。

  • 特に面白くもない作り話。 つじつまの合わない事とか全部「(フェイクも混ぜてますが)」で片づければいいんだから こういう実話を装ったヨタ話の方がフィクションとして書くより全...

  • 干支の話に引っ張られるけど 古い家に住んでた?とか 甘やかされてないとか 先輩もしかしてなんか憑いてる?

  • 同人誌の話がいつ出てくるのかと思ったら全く出てこなかった

  • 先輩をネタに日記を書いて承認欲求を満たすのは借りを作ったことにならないのか、ちょっと心配になった

  • 「西の魔女が死んだ」が好きな人は好きそう。私は「渡りの一日」の方が好きだけど。

  • 「さるお屋敷」の意味がわからなくて、そこで詰んだ。猿尾?

  • 五黄の寅ってのがキーワードやね んで調べると1986年生まれ、1950年生まれ、1914年生まれが五黄土星と寅年が重なる歳らしいわ そして来年に生まれる子達もそう、五黄の寅なんですって ...

  • 追追記の "だから気をつけてと言ったのに。" "まだ気付いてないんですね。" がわからない。どういう意味だろう? 追記の "皆さんもお気をつけて。" を受けて、気をつけてないトラバな...

  • とらだけに人を食ったような話だな

  • 追記また増えてる。 どんどん物騒になってる気がする。

  • TL;DR

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