2018-03-22

2018年アニメ宇宙よりも遠い場所」を12話まで観た感想 その3

各話ごとのレビューネタバレあり)

https://anond.hatelabo.jp/20180322081702 からの続き)

11

背景美術どうやってんの

 そもそも写実的な背景美術には素材が必要なのだけれど、アニメを作るために宇宙よりも遠い場所に行けるわけもないので、限られた素材であれだけの背景美術をこさえていることになる。マジでどうやってるんだ。

報瀬と日向の成長

 報瀬が日向を呼び出すシーン。笑顔(抑圧の象徴)ではなく自ら弱さを見せる日向は6話でのやり取りから成長を強く感じさせる。でも結局笑顔で気を使っちゃう日向を見ると、どんだけ日向過去に捕らわれて深く傷ついてるんだろう…と思う。このあとのシーンにおける日向セリフ「ちっちゃいな、私も」がヤバイ彼女なりに弱みを見せないよう満面の笑みで言っているのが逆に強烈。

 そして例のシーン。日向が「6話でああいうことを言い出したり、普段から笑顔で振る舞って「友達にさえ」弱さを見せなかったりする」ようになった原因を作った奴を報瀬が許さなかったのは日向が報瀬にだけ弱さを見せることが出来たからだし、さらに言えば報瀬が6話で日向と気を使わない関係を築けたからこそ、自分わがまま日向を守ったのだろう(トイレまで尾行したり、勝手メール見たり、奴らにメンチ切ったり)。かーちゃんという過去を断ち切るために南極まで来た報瀬だからできたウルトラCであり、物語を通して報瀬がいかに成長したかを描いた最高のシーン。あと何が最高かって、たぬキマリゆづ日向のことを守ってくれたことだ。特にたぬキマリ11話では全話中最もポンコツを発揮していたところにあのシーンである10話でめぐっちゃんの話が出ていただけに、強烈に刺さった。

明るい予感

 このシーンで流れる挿入歌は4話でキマリ隊長が会話するシーン以来。4話ではキマリが「ここではないどこかへ」ではなく「この4人で南極行って、あれやこれやしたい!」と覚悟を新たにする印象的な回であり、それに対して11話でたぬキマリの「もう日向ちゃんは~」というセリフから、4~11話の間に4人が培ってきた時間や、その間の日向笑顔だった時間をたぬキマリがすべて肯定してくれていて胸がいっぱいになる。この挿入歌は今作で最も好きな曲なのでぜひフルVerで聴いてほしい。「宇宙よりも遠い場所で 真っ白な世界を見渡して ここから始めよう」っていう歌詞が控えめに言って最高。

 締めも最高で、

たぬキマリ「全部ぶっ飛ばそう、日向ちゃん!」

日向「ぶっ壊れるかもしれないぞ?」

報瀬「ドラム缶から良いんじゃない?」

日向「…そっか!」

すごく重い回なのにこんなに晴れやかな終わり方しやがって、最高かよ。なんかドラム鐘が鳴る音も良く出来てるし。

マリポイント

16:45頃 カップ麺作ってて、ドヤ顔で卵を持ち出すタヌキマリ

12

12話をリアルタイムで観たあとぐっすり眠れた人はいるのだろうか。この回だけはどうしても「一歩引いて観る」が出来なかったので、あまり参考にならないと思う。

隊長

 4話で報瀬のことを「娘のことはよく知らない」とキマリに話していた隊長と報瀬の関係が9話で「距離がある」報瀬の思いを知り、12話で背中を押してあげるという流れに、隊長不器用さがあって好き。隊長が報瀬に贈った「人に委ねるな」は「思いの強さとわがままは紙一重である」あるいは「吟の魂」に通じているものがあり、報瀬に自らを変えるよう強いるものではなく、むしろこれまでの報瀬を強く肯定していて、まるでお父さんである

 観測隊の中で最も貴子の亡霊にとらわれていたのは間違いなく報瀬だけれど、次点はきっと隊長なのだろう。だから天文台予定地に到着して一人空を仰ぐ姿は表情が硬かったのは、隊長隊長たる強さが報瀬との対比として描かれていて好き。

報瀬の気持ち(以下自分語りにつき注意されたし)

 私が母を病気で亡くしたのは13歳の頃。報瀬家と違って、私の母は癌との闘病の末だった。だからある日いきなり云々というはずはないのだけれど、いかに当時の私の認知が強く歪んでいたかをよく覚えている。

 母の闘病は数年続いていて、最初仕事しながらの通院だったのが、ある日から入院に切り替わった。でも私は一度も病院にお見舞いに行かなかった。当時の気持ちを代弁するならば「ゆうてもしばらくしたら癌も治って、元気に帰ってくるんでしょ?お見舞い行ったら逆に心配してる感じがして恥ずかしいし、家でおとなしく待ってるよ」といったところだろうか。定期的に父から母の病状を聞くにつれ、徐々に悪化していることはわかったはずであるしかし当時の私にそういう認識は一切なかった

 ようやく私が現実直視したのは、母が亡くなった日だった。早朝、父に叩き起こされて病院に向かう車の中で「眠い。こんな朝早くにお見舞い行って病院の人に怒られないの?昼に行けばいいのに」と心のうちにぼやいていたことを思い出す。横たわる母の手はまだ温かく、部屋は静かだった(心電図モニターのP音が鳴っていたはずだけれど)。もしあの時間がなかったら、私は今どうだったのだろう。報瀬は私が経験したあの、母の帰りを待っていた日々を過ごしていたのだ。

幸福レプリカ

 報瀬にとっての「母を待つだけの、いつもと変わらない日々」は、言い換えれば「何も変わらない日々という偽物の楽園」、あるいは「幸福レプリカ」と言える(河野裕 著 「サクラダリセット」第5巻 ”ONE HAND EDEN”参照)。案外、それは心地よい。偽物だとうすうす気づいていたとしても、ついつい抜け出せないような依存性がある。だから、報瀬が母の元へ行きたくない気持ち死ぬほど分かる。殊更報瀬にとって母の死という事実はとても辛く、同時に報瀬自身孤独にすることになるため(父親がいないこともここにつながっている可能性アリ)、受け入れ難かったのだろう。だから報瀬は「母がもしかしたら帰ってくるかも知れない日々」という、幸福レプリカから抜け出すことが出来なかった。

 それを象徴していたのが「母あてに送ったメールである。母がメールを読んでいる姿を想像すれば母を近くに感じることができるし、もしかしたら生きていて、メールを返信してくれるかも知れない。そしたらまた母に会える。この現実逃避は一時的に報瀬の心を満たし、現実直視しないで済むための手段として、報瀬なりに編み出したのだろう。

 そしてこの幸福レプリカ本来、心の穴を一時的に埋めるための麻酔に過ぎない。報瀬は日々の中で本物の幸福を見つけて、入れ替わりに幸福レプリカ役割を終えるものである最初仏壇毎日拝んでいたけれど、そのうち回数が減っていって、最終的に全くしなくなる、というのに近いような。報瀬の場合も、時間解決してさえくれれば自らの手で幸福レプリカ破壊する必要はなかった。そう考えると、すべての原因は報瀬の孤独にあって、もし傍にいつも寄り添ってくれる友達がいたら、報瀬は母の死をゆっくり受け入れることが出来たのかもしれない。だからこそ、あそこまで来たけれど最後の一歩を踏み出せなかった報瀬のことをキマリたちが助けるという演出彼女たち4人が培ってきたすべてが描かれている気がして、胸がいっぱいになった。

宇宙よりも遠い場所

 そして例のシーン。目の前で新着メールをひたすらに受信し続けるPCは、報瀬にとっての幸福レプリカが音を立てて壊れていくことの具現、つまり報瀬のヨスガが失われていく瞬間である。直前の、母に向けて綴った報瀬の独白も相まって悲しみが天元突破した。そしてこれこそ彼女の望んだ「宇宙よりも遠い場所」に着いた瞬間を描いている。

 「でも報瀬はもう幸福レプリカと決別するために歩きだしていて、すでに本物の幸福を手に入れていた」という物語を、「母に宛てたメール」、「南極を目指すために稼いだ100万円」、そして「一緒に泣いてくれる友達」で語る演出はとてもじゃないが言葉にできない気持ちにさせてくれる。そんな、彼女の「動き出した時間」を、「太陽が沈んで初めて夜になる南極」という絵で表していて、こんなに綺麗な終わり方があるのだろうか、と思った。

本来の報瀬の性格

 キマリは本作では特に感情表現が豊かな子である。それに比べ報瀬は感情表現が歪であり、一見すれば報瀬はキマリと違ってクール女の子のようにも見える(え?見えない?)。11話までの報瀬は、どんなきれいな景色風景を見てもなんというか、感動しているようなしていないような、すごく微妙な表情をしているのだけれど、その多くは彼女の横顔である。そんな彼女の表情が、横断幕に書かれた報瀬の似顔絵に現れている。この横顔が12話で号泣する彼女の横顔と強い対比になっていて、この瞬間に彼女が得たものの大きさを感じさせる。

 一方、6話の飛行機内でのシーンで報瀬はペンギン映画号泣しており(本作で報瀬が号泣するのは1話トイレ、6話飛行機内、12話のアレ)、実は感受性の豊かな子であることが分かる(他にも感受性の豊かさを象徴するシーンはいろいろある)。

 だからこそ12話で報瀬が泣く姿は本来の(母を失う以前の)報瀬を描いているように見えた。それは声からも読み取れる。中学時代の報瀬が母としゃべるシーンは本作を通して9話 12:30頃の回想で「でも行くんでしょ?」と母に話す一言だけ。今より3歳くらい若いいか、少しだけ高く、そしてやや甘えたような声。12話で「お母さん!」とPCに向かって泣き叫ぶ報瀬の声はまるでこの声のように幼くて、まるで中学時代の報瀬が母に泣きつく姿のように見えた。冒頭の回想において3年前、一人で泣くことが出来なかった報瀬がこの日4人で泣く様子は、報瀬の成長と、報瀬が得た幸せと、動き出した時間を優しく描いていて大好き。

挿入歌「またね」

 本当によく練られたタイトルである。5話では「じゃあな」と別れを告げためぐっちゃんに絶交無効押し付けたキマリの歌であり、10話では「離れていてもつながっている」キマリとめぐっちゃんの姿を端的に表す「ね」の歌として、そして12話では、報瀬の心を捉えて離さなかった貴子を、その死を認識することでようやく別れを告げることができた報瀬の歌として演出されていて、色々すごすぎる。

マリポイント

2:00頃 報瀬が放球の撮影に来なかったので、代わりに出ることになりすごく張り切ってる(いつの間にたぬキマリ治ってたんだ)キマリ

13話

<<放送情報>>

AT-X・・・3/27 20:30~

TOKYO-MX・・・3/27 23:00

BS11・・・3/27 23:30~

MBS・・・3/27 27:00~

<<配信情報(最速のみ)>>

d'アニメストア・・・3/27 20:30~

AbemaTV・・・3/27 20:30~

最後

 今期のアニメは色々観ていたのだけれど、どれも面白い作品ばかりだった。でもあえて本作について書いた理由は便乗以外にもある。いちファンとして、作り手の思いに報いたいと思ったのだ。この感想を見た人が100人いたとして、そのうち1人くらいパッケージを買ってくれないかなぁ、そうなったらいいなぁ、というのが本稿の目的である

 私は本作に触れる以前にプロデューサー田中 翔氏のインタビュー記事( http://anime.eiga.com/news/105638/2/ )を読んでいたのだけれど、その中で同氏は

田中:うーん。今お話したように、ビジネススキームが変わりつつある状況ではありますが、映像お金をだしていただく、いちばん分かりやすい結果は、結局「パッケージが売れる」ことなんですよね。自分は、パッケージが売れないタイトルは、あまりやる意味ないと思っています――心の底では、ですけど(笑)

とまで言っている。個人的に、良い作品であることとパッケージが売れる作品であることに強い相関があるとは思っていないし、そりゃ円盤はどの作り手も売りたいと思ってるでしょと考えている。本作についても初めは「私はこの作品が大好きだから売れなくても別にいいや」というスタンスだったのだけれど、Pの発言を思い出すうちに少し気が変わった。もっと作り手に「この作品を作ってよかった」と思って欲しいのだ。そして、このような作品作りをもっと続けて欲しい。贅沢な願いだけれど、この感想一助になれば嬉しいな。

記事への反応 -
  •  1~12話まで観たけど、とても刺さった。私なりの観測範囲でよく話題に上がっていた作品なので、便乗して感想を書く。まだ観てない人向けにネタバレなしレビューも書いたので、リア...

    • 各話ごとのレビュー(ネタバレあり) (https://anond.hatelabo.jp/20180322081336 からの続き) 5話 ゲーム機  めぐっちゃんと、「南極行きの荷物整理中に見つけためぐっちゃんのゲーム」を...

      • 6話で見られるような報瀬の気の強さって、謝罪を撤回したはあちゅうを髣髴とさせるよねクスクス いやあまさかとは思うけどはあちゅうが嫌いなのに報瀬は好きだなんて奴いないよね?

      • 逆に報瀬を嫌ってる連中の発言を見ると、アンチはあちゅうそのまんまでそれはそれで駄目だこいつら、となる

      • 6話は単体として見ると非常に良いが、全体として見ると破滅の始まり この話数からそれまで主人公だったキマリが空気となり報瀬が無双を開始する その変化の仕方は極めて歪で不自然

      • 砕氷するときに「いっけー」とかロボットアニメみたいに叫んでる連中、正直ウザいです 落ち着けや 何度も砕くんだから なにこいつら自分に酔ってんのかよ

      • 砕氷シーンをロボットアニメみたいな過剰演出するアニメが「リアル」とか言われてるの片腹痛いんですけど

      • 「ざまーみろ!」は意外性ゼロでなんとも思わなかった 作劇的にああいう場面でひねってくるのは逆に見え見えだよな キャラ的にもはあちゅう報瀬ならそう言って当然だろうという

      • 友情をテーマにした物語なら、それを台詞で語るのではなくストーリーで見せるべき けものフレンズを見習え

      • 「友達とは」の答えをキマリが言ってしまうのも変 主題が「友達とは」でなく「友達とは何かを言語化する」になってる まあキマリ空気化への微々たる抵抗だろうけど

    • ところで、2018年の「冬アニメ」をもう見たのか? タイムスリップしてね?

      • タイムスリップわろたw

      • 一瞬ドキッとするが、 2018年の「冬アニメ」は、1月~3月に放送するやつで、ただ今絶賛放映中なんだよね。

        • いやいやいやいや、おかしいだろ。 2017年冬アニメで調べたら普通に2017年の10月頃のアニメが出たぞ。 4月で年度変更するのか? だったら2018年4月のアニメは2019年春アニメか???

          • 2017年冬アニメで普通に2017年1月からのアニメ表が出てきたが。 1月開始…冬 4月開始…春 7月開始…夏 10月開始…秋だろ。

            • 2017年の冬のアニメ(12月頃)のが出るだろ?2017年の。 2018年のが出るのもあるが、両方出るんだよ!

          • 横だけど2017年の10月頃のアニメはどう考えても2017秋アニメじゃん?

            • そうだよな、どう考えてもそれは2017秋アニメだよな

            • 横だけど、気温との言及無しに 秋と断定するのはいかがなものか。 10月でも寒い日は無いとは言えない、つまり冬ではないとは言えないのではなかろうか。

          • 2018年4月のアニメは、2018年の春アニメですよ。 2018年1月~3月期=2018年冬アニメ 2018年4月~6月期=2018年春アニメ 2018年7月~9月期=2018年夏アニメ 2018年10月~12月期=2018年秋アニメ ...

        • 一瞬ドキッとするが、 2018年の「冬アニメ」は、1月~3月に放送するやつで、ただ今絶賛放映中なんだよね。 じゃあ、2018年の12月にやってるアニメは何か?というと、 2018年の「...

          • いわゆる、GIGAZINE基準ってやつですな。 http://gigazine.net/news/20171210-anime-2018winter/

            • GIGAZINE関係ないだろ

              • 実は、GIGAZINEは2007年頃から新作アニメ一覧をこの四季分類で解説を始めていて、 今でこそ、いろんなアニメサイトが同じように新作解説をしていますが、 おそらく最古参の一角であるこ...

        • カードキャプターさくらは2018年冬アニメでもあり春アニメでもあるし上手くいけば秋アニメでもあるから、そこんとこよろしく。

    • おっ増田で書くとはいい度胸である

    • このアニメはとにかくキャスティングセンスが悪い 有名どころをそろえるだけで使いどころが下手 水瀬日笠能登松岡茅野は不合格

    • 1,2話はとにかくキマリのモノローグがキモい おっさんの妄想が込められた女子高生という感じ

    • 「お茶くみに格下げか」 ってお前は自分の家に呼んだ客にお茶くみさせるのかよ!

  • 報瀬はただでさえ母親という大ネタを持ってるのに、日向まで報瀬の引き立て材料にしちゃったのは本当に失敗だよ キマリの立つ瀬がない

  • 4人主人公なら見せ場はなるべく均等にするものなんだが まさかいしづかあつこ、報瀬が気に入ったから贔屓したのか? メアリー・スーとかプロとしてレベル低すぎてどうかと思うのだ...

  • 反撃してこない相手に一方的に啖呵をきってドヤるのは程度の低い創作実話と変わらない このアニメは報瀬TUEEEEがやりたいだけなのか

  • メール受信シーンには「自分の思いの強さ」と「母の消失」の二つを再確認する意味があるが 「思いの強さ」はその前の札束並べとかぶってしまっている かぶらせちゃ駄目だよね?スタ...

  • 個人的には「死を受け入れられない」という状態に全く共感できない 「いや最初から死んだって言われてたやん。現実見るの遅っ」としか思わないので、メール見て泣かれても置いてき...

  • 俺は宇宙よりも遠い場所をあの世と解釈したので、結局到達しないで終わったと思っていたが、逆に辿りついたと見立てる発想もそれはそれでいいね

  • つっても「一人で泣くことが出来なかった報瀬がこの日4人で泣く」ってのはどうかなあ 主人公報瀬さんの引き立て役3人は部屋の外で勝手に泣いてただけじゃん

  • あ、報瀬の号泣に共感できなかった原因の一つは「母親に魅力を感じない」かも 茅野声のキマリみたいな性格をした女、本気でどうでもいい 本田貴子が良かった! メイドインアビスも...

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん