2013-12-29

LLF』と『果実』を比較検証する(1)

はじめに

中村あきの星海社FICTIONS新人賞を受賞したデビュー作『ロジック・ロック・フェスティバル』が、古野まほろメフィスト賞を受賞したデビュー作『天帝のはしたなき果実』と類似していると指摘され一部で話題になっている。『ロジック・ロック・フェスティバル』に続いて『天帝のはしたなき果実』を読了したので、前回(http://anond.hatelabo.jp/20131221141558)に続いて比較検証していきたいと思う。ちなみに私が読んだのは講談社ノベルス版(通称「旧訳」)である古野まほろとしては全面改稿した幻冬舎文庫版(通称「新訳」)を決定稿としたいようだが、諸事情から旧訳を参考とした。以下の比較検証おいて新訳では違ってくる部分があることをあらかじめ了承いただきたい。

古野まほろの指摘

12月7日Twitter於いて古野まほろが「関係性の説明」をした。それは大きく分けて【学校の設定】【死体発見時の言動等】【推理合戦】の3点である。今回はその中から死体発見時の言動等】について検証していきたい。古野まほろが挙げた「同一性」は以下の通りである

死体発見時の言動等】

被害者は、「世界史倫理担当の教師である

被害者の特徴は、理不尽質問悪態である

被害者は、成年男性1人である

被害者は、クローズドな施設において殺されている

発見者は生徒である

警察への通報を拒否する生徒が現れる

警察への通報を拒否する理由は、高校生として「重要イベント」のためである

警察通報すべきだ、と反対意見を述べる生徒が現れる

・結果、その場にいる生徒による、多数決が行われる

警察通報しないことを、倫理的糾弾する生徒が現れる

通報するかどうかの多数決が、可否同数になる

最後の一票により、イベントを優先して通報しないことが決まる

・生徒たちによる、実況見分等の捜査が行われる

現場に留まるのは危険、との判断から、無人の室に移動する


1つ1つの要素の問題ではありません(要素で見ても厳しいかな、とは思いますが・・・)。私が問題にしているのは、これらすべての要素の「組合せ」です。このような「組合せ」が、まったく別個の作家により、偶然に案出される可能性は、ゼロです。死体発見時の言動等もまた「同一性」の問題です。

被害者は、「世界史倫理担当の教師である

古野まほろ(作者)は「死体発見時の言動等」と銘打っているが、前半は被害者の特徴についてである。『ロジック・ロック・フェスティバル』において、メインとなる密室殺人事件被害者となるのは「灘瀬朝臣(なだせあそん)」である。灘瀬について記述してある部分を引用したい。

ねちねちとした口調、ねめつけるような視線、四十代半ばにして既に注意信号の頭髪、加えて誰が言い出したかセクハラ疑惑まで併せ持った社会科担当教諭、灘瀬――なんとか。失礼、フルネームは存じ上げない。専門も世界史だったか倫理だったか


ロジック・ロック・フェスティバル

灘瀬朝臣社会科担当教諭であり、専門が世界史なのか倫理なのかは本文中で特定されていない。高校世界史を教えるのに必要なのは高等学校教諭一種免許状地理歴史)」であり、倫理を教えるのに必要なのは高等学校教諭一種免許状公民)」だ。それぞれ別ではあるが、実際は両方を取得しどちらも教えるというケースが多い。

天帝のはしたなき果実』におい殺人事件は何度か起こるが、メインとなる首無し殺人事件被害者となったのは「瀬尾兵太(せおひょうた)」である。瀬尾兵太は世界史担当教諭である。本文中に世界史以外の社会科科目を教えているとの記述はない。

黄昏音楽室に入ってきたのは、我が県立勁草館高等学校世界史の教師を勤めるとともに、同校吹奏楽部顧問に任じる瀬尾兵太だ。


天帝のはしたなき果実』講談社ノベルス版、23

「要素」で判断する限りは「社会科担当教諭(専門は世界史倫理か不明)」と「世界史担当教諭」を「同一性」と表現するのは厳密な意味おいては正確ではない。だが、少なくとも数学英語のように全く関係がない教科ではなく、非常に類似している「要素」であるといえる。

被害者の特徴は、理不尽質問悪態である

ロジック・ロック・フェスティバル』において、被害者(灘瀬朝臣)の特徴が「理不尽質問悪態であることは、さきほど引用した文のすぐ後に書かれている。特筆すべきなのは、実際に灘瀬朝臣が生徒に理不尽質問をしたり、答えられない生徒に悪態をつくような場面が一切登場しないことだ。設定として生徒に恨まれる理由があることを示す以上のものはない。

根も葉もない噂には同情を禁じ得ないけれど、彼を生理的に受け付けない生徒は多そうだ。授業も理不尽質問を当てるし、答えられない生徒には悪態もつく。


ロジック・ロック・フェスティバル

天帝のはしたなき果実』において、被害者(瀬尾兵太)の特徴が「理不尽質問悪態」と断言していいものかは迷う。『ロジック・ロック・フェスティバル』の灘瀬朝臣がただの記号として描かれているのに対し、瀬尾兵太ははるかに血の通ったキャラクターで、特徴として挙げるべき点が複数あるからだ。主人公たちの所属する吹奏楽部OBであるとか、東京帝大法学部出身であるとか、胸に大きな緑色宝石を付けているとか、語学の達人であるとか……。

そこで、まずは「理不尽質問悪態」に該当しそうな部分を探してみることにする。第一章から瀬尾兵太が生徒に質問するシーンを抜粋したのが以下だ。

p、って何だ」

「『弱く演奏する部分に付いた強弱記号』」

阿呆(ドゥラーク)かお前! 確かにfは『強く』でもいいが、pは『静かに』。(後略)


(『天帝のはしたなき果実』講談社ノベルス版、34頁)

「あと峰葉、お前は腕立て二セット追加だ――理由は?」

「歌口(マウスピース)を押さえすぎるから、です」

「唇に歌口(マッピ)の跡が付きすぎて興を削ぐな。何でそうなるんだ?」

右手の小指を深く引っかけて持っているからです」

「それは何でだ?」

ペット左手だけで支えられていないからです」


(『天帝のはしたなき果実』講談社ノベルス版、36頁)

(前略)音がボケてる。どうしてだ?」

「舌遣い(タンギング)が柔かすぎたからでしょうか(はふう、想定の範囲内)」


(『天帝のはしたなき果実』講談社ノベルス版、37頁)

瀬尾兵太が吹奏楽部の録音を聴いて指導する場面である。「理不尽」かどうかは判断が分かれるところだが、「質問」をすることによって生徒にどこがよくなかったのか自ら考えさせるのが瀬尾兵太のやり方のようだ。そして適切な答えを返せなかった生徒には、「阿呆かお前!」と悪態をついている。「悪態」については具体的にその言葉が出てくる箇所がある。

「まずは誰も口論当事者だって名乗りでてこないからです。瀬尾先生悪態というか音楽に関しての辛辣かつストレートな要求は今に始まったことじゃありません。誰だって何度もボコボコにされてます


(『天帝のはしたなき果実』講談社ノベルス版、582頁)

この発言をした登場人物は瀬尾の言動は「悪態」そのものではなく、「悪態」と表現してもいいような「音楽に関しての辛辣かつストレートな要求」と認識しているようだ。

被害者は、成年男性1人である

これまでに記述したとおりメインとなる殺人事件比較した場合、『ロジック・ロック・フェスティバル』も『天帝のはしたなき果実』も「被害者は、成年男性1人」で間違いない。しかし『ロジック・ロック・フェスティバル』は日常の謎を解く場面がいくつかあったのち、メインとなる密室殺人事件が描かれるのに対し、『天帝のはしたなき果実』は連続殺人事件を扱っている。その被害者男子生徒、女子生徒、教師(これが「成年男性1人」に当たる)である。つまり、メインとなる事件だけを比較対象にした場合同一性」に該当するが、比較対象を物語全体に敷衍した場合同一性」には該当しないことになる。

被害者は、クローズドな施設において殺されている

クローズドな施設」という表現が、含みを持たせている。ミステリーおいては「密室」と「クローズドサークル」というふたつの閉鎖状況がある。『ロジック・ロック・フェスティバル』において描かれるのは密室殺人事件だ。文化祭開催期間中に、密室となった社会科研究室死体発見される。

「……密室

 ぼそりと言ったりり子の言葉に僕は哀しいかな反応してしまう。

 僕らが入ってきたドアは確かに鍵が掛かっていた。もう一方のドアは元よりガムテープでがちがちに封鎖されて閉め切りになっており、出入り口としての役目を完全に放棄させられている。四つある窓全てにしっかり施錠されているのが確認できるし、廊下側の壁の上部・下部にそれぞれ設けられた換気用の小窓もご丁寧に施錠がなされていた。

 現場は完全なる密室だと認めざるを得ない。


ロジック・ロック・フェスティバル

高校敷地建物文化祭期間中で一般にも広く開放されているので「クローズドサークル」ではない。しかし、社会科研究室を含む四階は、唯一の階段ふたりバスケットボール部員によって監視されている。

はい、そうみたいでした。なのであたし、立ち聞きする気はなかったんですが、会話の内容が耳に入ってしまったんです。彼女たちはこう言ってましたよね、『私たちがいる間にここを通ったのは、会長副会長、あと実行補佐の四人で全部です』って」


ロジック・ロック・フェスティバル

天帝のはしたなき果実』において、メインとなる首無し殺人事件が起こるのは、アンサンブルコンテスト大会が行われている姫山市文化会館の第7楽屋である。この第7楽屋には死体発見時に鍵が掛けられていたが、オートロック式で関係者が鍵を持っていたこともあり「密室」とは呼べない。

ここの楽屋オートロック式で、カードキィを持っていなければ開かない代わりに、内側からは鍵もチェーンも掛けられない珍しい扉になっています(朝のミーティングとき瀬尾がいいましたね)。


(『天帝のはしたなき果実』講談社ノベルス版、648頁)

姫山市文化会館は一般に広く開放されている公共施設であるので「クローズドサークル」ではない。しかし、楽屋を含むエリア関係者以外立ち入り禁止となっている。

「非公開区域にはリボンないと入れへんし、第7楽屋のドアは専用のカードキィないと入れへんで、念のため。借りたら記録残るし」


(『天帝のはしたなき果実』講談社ノベルス版、626頁)

鷹松学園も姫山市文化会館も一般に広く開放されている。しかし「クローズドな施設」という含みを持った表現をすれば、どちらの作品も外部との出入りが制限される場所死体発見されており、当てはまることになる。

発見者は生徒である

ここから死体発見時の状況になる。『ロジック・ロック・フェスティバル』において、被害者(灘瀬朝臣)の死体発見するのは、主人公中村あき)、山手線太郎、鋸りりこ、万亀千鶴生徒会長(衿井雪)、副会長(成宮鳴海)の6人である

 四階に辿り着くと、そこにはなんと会長までもが参席していた。

「鍵、持ってきてくれたか! 早く、嫌な予感がする」

 既に事態も把握しているようだ。

はい、これ、マスターキーです」

 走り寄って僕がポケットから鍵を取り出すと、会長が引っつかむようにしてさっさと鍵穴へ差し込んだ。

 かちり、と確かに鍵の外れる音。

 社会科研究室の扉が開くと、中から冷気が溢れ出した。エアコンがかけっ放しらしい。何か異様な雰囲気と共に、確かな臭気がその中に感じ取れた。

「うっ……なに、この臭い

 千鶴が鼻を押さえる。

「――灘瀬先生、いらっしゃいますか?」

 呼び掛けながら室内に足を踏み入れる会長。僕がその後に続いた。

 研究室入り口付近左手にすぐ壁、そして右手本棚といった配置である。そのため本棚が途切れたところで、ようやく部屋の全容が見渡せた。

 目に飛び込んでくるのは痛いほど鮮かで、残酷な色彩。

 一面の赤色

 血の海。

 赤の海。

 そこに沈む、ぐにゃりとした男の体。

 深紅に溺れる、こと切れた灘瀬がそこにいた。


ロジック・ロック・フェスティバル

天帝のはしたなき果実』において、被害者(瀬尾兵太)の死体発見するのは、主人公古野まほろ)、峰葉詩織の2人である

 うひゃあ! 前を歩いていた瓶緑色ボトルグリーン)のブレザー着た集団も飛び上がった。彼女はず、ずいと第7楽屋の前に立つ。「キィは?」

「こちらです」

 ピ、と脳天気電子音とともに若草色(リーフグリーン)のランプが灯る。彼女は目を伏せがちにいった。

「こんどは檸檬、買ってくるのよ。古野君の勝――」

 彼女の声が思いっきり完全休止(ゲネラルパウゼ)する。

 次いで教科書どおりの、深々とした、背筋の伸びた息継ぎ(ブレス)。

「僕の、か?」

 彼女の凍てついた顔を、僕は忘れない。陸奥みちのく)の安達ケ原の姫山に、鬼籠もれりというは真実まこと)か――

 そこには、嵌め殺しの机にもたれ、ドアに背を向ける形で、瀬尾だった物体があった。

 肩からうえには、首がなく。

 それは、避けられない宿業のようだった。


(『天帝のはしたなき果実』講談社ノベルス版、648~649頁)

上記に引用したとおり、『ロジック・ロック・フェスティバル』も『天帝のはしたなき果実』も「発見者が生徒である」ことは間違いない。付け加えるならどちらの作品も「死体発見者が主人公を含む集団である」と言っていいだろう。また主人公自身が鍵を開けるのではなく、別の人物に促されて主人公が鍵を渡す点も共通点と言える。

警察への通報を拒否する生徒が現れる/警察への通報を拒否する理由は、高校生として「重要イベント」のためである

ここからは、死体発見したもの警察通報しないという判断をするシーンである。上記ふたつについて引用部分が同じなので同時に検証する。『ロジック・ロック・フェスティバル』において、通報を拒否する生徒は生徒会長(衿井雪)である。その理由は自身が実行委員長として力を注いできた文化祭最後まで終わらせたいというものである

 その時だった。

 会長がすっとみんなを置き去りにするように入り口の方に向かった。そして直後、社会科研究室の扉がぴしゃりと閉じられる音が響いたのだ。

会長……?」

 不審に思い、僕も一度灘瀬の遺体から離れ、一同の輪の方へ戻ることにする。

 そこから入り口を見ると、なんと会長は信じられないことに扉を背にしてその場で膝を折り、こちらに向かって土下座をしていたのだ。

 それだけではない。とんでもない発議がその口からなされた。

「……頼む! 文化祭が終わるまで通報を待ってくれないか

 それは誰もが理解に時間を要するほどの突飛な提案だった。

「な、何を言って……」

 ようやくどうにかして言葉を発した副会長を遮って、会長は哀願するように続けた。

「分かっているんだ、これは普通の思考じゃない……異常だ、狂ってる……そんな風に思うかもしれない……それでも! それでも私は自らの全てを鷹松祭に注ぎ込んできた……実行委員長として私にはこの祭を完成させる義務がある。それだけは誰にも邪魔させない。じきに一般公開も終わる。そこから簡単な片付けがあって後夜祭、ファイアーストーム、そしてグランドフィナーレ――鷹松祭が終了を迎えるまで残り約三時間、あとたったそれだけなんだ!」会長は喘ぐように息を継いだ。「――今一度、三顧の礼を尽くして懇望する。鷹松祭の終了まで示し合わせて黙っていてはくれないだろうか」

 総員、言葉を失ってしまった。


ロジック・ロック・フェスティバル

天帝のはしたなき果実』において、最初通報を拒否する生徒は主人公古野まほろである。その理由はすでに演奏が終わったアンサンブルコンテスト大会の結果が聞きたいというものである

差し当たり重要なことは」一馬が厳かに口火を切った。「ひとつしかないわ。通報沈黙か。それが設問よ(ザットイズザクエスチョン)」

「僕は沈黙派だよ」と僕。

(中略)

「今通報すれば、会場は大混乱、大会どころじゃなくなる。あれだけの演奏ができたのは瀬尾のお陰だし、客観的にもその評価を得るのが供養だと思う」


(『天帝のはしたなき果実』講談社ノベルス版、530頁)

どちらの作品も警察への通報を拒否する生徒が現れ、その理由は、高校生として「重要イベント」のためであるのに間違いない。

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