文字数オーバーになってしまった前回(http://anond.hatelabo.jp/20131229045340)の続きである。
『ロジック・ロック・フェスティバル』において、警察に通報すべきだと意見するのは、ヒロイン(鋸りり子)である。
りり子は穏やかな声音で言葉を重ねた。もっともその中には、最後の審判を告げるガブリエルのごとき決然さをも含んでいたが。
「先ほども申しましたが、会長の心境には私自身強い同情を感じています。ただ……人が一人死んでいるという状況、命を落としたという事実に対して応じることは、やはり何にも増して優先されるべきだと思います。どんな信念、心情を差し置いても、です」
これに会長が返答をする前にある人物によって言葉が差し挟まれた。
「そ、その通りです……!」
金牛事務員だった。彼は周りを窺いながらもごもごと続ける。
「……会長さん、でしたっけ? お気持ちは分からないでもないですが、これはやっぱり一刻も早く警察を呼ぶべきです。議論をしている間にも、ほら、時間経過と共に重要な手掛かりが失われているかもしれないですし……」
『天帝のはしたなき果実』において、警察に通報すべきだと意見するのは、志度一馬である。
(中略)
「アタシの臓腑(はらわた)は今煮えくりかえってるわ。だからこそ、一刻も早く腐れ下手人が死刑になればいいと思ってる。そのためには通報すべきよ。それに、ひとの生き死に以上の優先事はないわ。たとえ音楽だろうと」
人の死は何事にも優先されるという理由が一致している。
『ロジック・ロック・フェスティバル』において、多数決で決めるとの宣言はなされない。生徒会長(衿井雪)とヒロイン(鋸りり子)の意見に続く形で、副会長(成宮鳴海)が会長の意見を支持したことにより、多数決の流れが自然にできる。
「一時沈黙、に一票ということです。鋸さんとも対立することになってしまいますね。しかしここはどうか目を瞑っていただきたい」
多数決の結果が決まった後に、多数決という方法で決めたのが正しかったのか山手線太郎が意見する場面がある。
「そんな取り違えはしてないよ。ただ行動の選択に時間を取られていてはいつまでたっても行動自体を起こせない。今は総意をある程度一致させてとにかく動き出すべきだと思う」
『天帝のはしたなき果実』において、部長(柏木照穂)が多数決で決めることを宣言する。
「決を採る。それには全員従うこと(この面子だと――)」と柏木。
「多数決で決めていいことなの? 瀆魂(とくこん)じゃない?」詩織さんが遺体を見遣った。
「どっちの意見を容れても、すぐ行動しなきゃいけない。みっちり討議してる暇がない」と柏木。
多数決で通報するか否かを決める理由を、すぐに行動しなければならないからとするのが共通点である。
『ロジック・ロック・フェスティバル』において、「警察に通報しないことを、倫理的に糾弾する」のは山手線太郎である。
「――いいえ、速やかに通報するべきですよ」
そう言い切って、副会長の前に颯爽と立ちはだかったのは線太郎だった。一瞬、二人の男の正義がぶつかり合う音が聞こえた気がした。
「会長の鷹松祭への熱意も、それを慮る副会長の誠意も、最大限に斟酌したいと思います。でもやはりそれとこれとは別問題と言わざるを得ない。通報を保留し、再度この部屋に鍵を掛けて、知らぬ存ぜぬでさあ鷹松祭ですか? 死者を前に失礼ですが、僕は生前、灘瀬先生のことをあまり快く思ってはいませんでした。そんな僕でもこんな所業はあんまりだと思います」
『天帝のはしたなき果実』において、「警察に通報しないことを、倫理的に糾弾する」のは切間玄である。
「敢えていうけど(デンク・マール・ナッハ)」と切間。「奥平事件なんてあれだけ先陣争いみたいな捜査して、あれだけ関係のない可能性の高い生徒、総ざらえで調べたんやで。それでも解決してへん。まして発見者が協力せえへんかったら」
上記引用した「糾弾」がはたして「倫理的」なものかどうかは私には判断できなかったが、該当する部分が他になかったので上記部分を引用した。
『ロジック・ロック・フェスティバル』において、沈黙派が3人(衿井雪、成宮鳴海、万亀千鶴)、通報派が3人(鋸りり子、金丸遥、山手線太郎)で同数となる。最後に主人公(中村あき)が沈黙に一票を入れ、通報しないことが決まる。
なんてったってこれで三対三、通報か否かを巡る決議はもつれにもつれていた。本来、人様の死に対し、こんなやり方で接することなんて許されない。そんなのは分かっている――分かりきっているけれど、今はそんな採決の図式を思い描かないわけにはいかなかった。
事実、僕以外の全員の目がこちらに向けられている。
「僕は――」集まる注目の中、僕はおもむろに口を開いた。「沈黙を支持します」
『天帝のはしたなき果実』において、沈黙派が3人(志度一馬、修野まり、切間玄)、通報派が3人(古野まほろ、穴井戸栄子、上巣由香里)、棄権が1人(峰葉詩織)で同数となる。最後に部長(柏木一馬)が沈黙に一票を入れ、通報しないことが決まる。
「棄権する」
「はい?」柏木が、いや一同が眉を寄せる。「棄権は想定してないんだけど」
「どちらを選ぶにしても、失われるものが多すぎますわ。あたしには決められない」
「珍しいな、瞬殺(ブリッシュラーク)の詩織さんがよう決められへんなんて、理由訊いてええか?」
「黙秘権を行使します。それに理由を説明したところで、そしてみんなが納得しなかったところで、あたしの意見は変わりません。以上」彼女は以降の意思疎通を拒否した。
「最後は僕か」部長はため息を8拍ほど延ばした。「通報はしない」
『ロジック・ロック・フェスティバル』において、実況見分をしようと提案するのは会長(衿井雪)である。「15. 現場検証」をまるまる使って実況見分する様が描かれる。
「ではまず、手早く研究室内の様相を検めようか。その後、施錠したら私たちも粛々とここを立ち去るべきだ。いまでさえグレーだというのにここで長居していたら、余計に捜査が入った時に疑われる」
『天帝のはしたなき果実』において、実況見分をしようと提案するのは修野まりである。
「なら」由香里ちゃんがいった。「ここは撤収すべきですね、粛々と、急いで」
「もちろん」修野嬢がいった。「この部屋に何がどのように配置されているのか、確認してからだけど」
「どうして?」栄子さんが訊いた。「当面の間、知らぬ存ぜぬを通すんでしょう?」
「まり、『犯人』よ。『容疑者』でもいいけど」詩織さんが微苦笑した。その声は何か哀しかった。
「――犯人による現場改変に対処するため。いまひとつは犯人を特定するためよ。ただし前者については」修野嬢は呼吸をずらした。「瀬尾先生がいまカードキィをお持ちなら成り立たない理由だけど」
『ロジック・ロック・フェスティバル』において、現場から移動するように提案するのは生徒会長(衿井雪)だ(上記引用部分参照)。その理由は「余計に捜査が入った時に疑われる」との判断だからだ。移動先に音楽室を挙げるのは副会長(成宮鳴海)である。
「音楽室はどうでしょう?」と副会長。「今は誰もいないはずです」
音楽室は鷹松学園の新館でも旧館でもない、別館にあった。吹奏楽班や合唱班には別に練習室が設けられている関係上、入っていくのを見られたら何をしに行くのかと怪しまれるかもしれないものの、それさえ注意すれば後夜祭以後のイベントの間、ほぼ百パーセント誰も入ってこないような場所である。
こうして音楽室で落ち合うことに満場一致で決まり、すぐにそれぞれの組で行動を開始した。
『天帝のはしたなき果実』において、現場から移動するように提案するのは上巣由香里だ(上記引用部分参照)。移動先に第4会議室を挙げるのは部長(柏木照穂)である。その理由は相互監視をするためだ。会話文内にある括弧は柏木の心の声である。主人公(古野まほろ)は柏木の心の声を聴くことができるという設定がある。
「一馬」部長がいった。「一馬、美術得意だったよね。まほと見取図を作ってくれ。切間と僕で先生の遺体を改める。女性陣は第4会議室に先行して」
「柏木、きみは」僕は口を挟んだ。「僕らのなかに、教師殺しがいると?」
「(そのとおり)その議論は引っ越ししてからだ。誰も来ないとは思うけど、急ごう」
古野まほろ(作者)は「現場に留まるのは危険、との判断から」を「同一性」としているが、『ロジック・ロック・フェスティバル』においては捜査が行われたときに疑われるからであり、『天帝のはしたなき果実』においては相互監視をするためなので「同一性」とは言いがたい。
また「無人の部屋」とあるが、『ロジック・ロック・フェスティバル』における音楽室は無人の部屋だが、『天帝のはしたなき果実』における第4会議室は無人ではない。アンサンブル・コンテンストの運営を手伝っている勁草館高校の生徒の控室であり、実際に訪れた際にも内田という生徒が中にいる。
「あ、柏木先輩。例のおつかい終わりました」内田が焼きそば(大盛)を啜りながらいった。
「ここの部屋は」でんでんでん、と軍人のごとく爆進(ばくしん)しながら柏木が訊いた。「勁草館(うち)の人間以外は来ないんだね?」
古野まほろ(作者)側の主張に沿って見れば、勁草館生徒は事件関係者であり「(事件関係者以外は)無人の部屋」と無理矢理解釈することもできなくはないが、普通に考えれば第4会議室は「無人の部屋」ではなく、こちらも「同一性」とは言いがたい。
『ロジック・ロック・フェスティバル』と『天帝のはしたなき果実』を両方読了した印象としては、影響を受けているのは間違いないと感じた。今回検証した被害者のキャラクター造形と警察に通報しないことを多数決で決めるシーンは明らかに参考にしている。とはいえ文節単位の剽窃はなく、仮に裁判になったとしても著作権侵害との判断が下されるかどうかは微妙なところだ。
上記のように細部を比較すると必ずしも「同一性」と呼べない部分もある。箇条書きマジックを演出するために無理矢理同一だと主張した部分もあったのではないだろうか。とはいえ私が参照したのは旧訳であり、新訳では同一なのかもしれない。
はじめに 中村あきの星海社FICTIONS新人賞を受賞したデビュー作『ロジック・ロック・フェスティバル』が、古野まほろのメフィスト賞を受賞したデビュー作『天帝のはしたなき果実』と...
はじめに 中村あきの星海社FICTIONS新人賞を受賞したデビュー作『ロジック・ロック・フェスティバル』が、古野まほろのメフィスト賞を受賞したデビュー作『天帝のはしたなき果実』と...
はじめに 文字数オーバーになってしまったので(http://anond.hatelabo.jp/20131229045340)の続きである。 結果、その場にいる生徒による、多数決が行われる 『ロジック・ロック・フェスティ...