2020-03-11

私は広告制作現場を辞めて、広告屠殺する現場転職をした



私は広告業界10年ほど広告制作仕事をしていた。最初総合代理店で、最後半年WEB広告代理店で。

そして昨年末をもって退職に至ったので、退職エントリではないが、なんとなくWEB広告の実情について

広告業界の人たちにも話したかったので文章にまとめることにした。


私は広告業を一つの文化」だと思っている。

そう考えるのは広告従事者の奢りだ、と言われがちだが

私はそれは、奢りではなく、むしろ戒めだと考えている。

なぜなら広告会社は、そういった矜持自戒の念を込めて持っていないと、

簡単ゴミ製造する工場へと成り下がってしまうからである




私は新卒とある広告代理店入社し、そこから10年ほど制作担当することになった。

大手というわけではないが、時々全国規模のTVCM制作も手がける、そこそこの代理店である

そこは、今となっては「働き方改革」の標語ひとつで一蹴されてしまうような、徹夜休日出勤を繰り返す昔ながらの制作現場だった。


なぜそこまで業務時間が長くなるのか?

普段長時間労働と縁のない企業の方からすると不思議だと思う。

私はこれは、他ならない「文化からの転落への恐怖」に起因していると考えている。


基本的に、広告公共空間公共電波を使ったゴミである

もし広告クライアントの言われた通りのものを作れば、

タレントは不自然に微笑み、手放しで商品を褒める怪しいコピーで溢れかえり、

最後自己満足キャンペーン応酬お茶を濁す

お金をもらって公共空間を1枠使って汚す「ゴミ」が完成する。


からこそ代理店制作者は、1ミリでも多く、見る者の目を楽しませる努力をする。

広告の枠を超えて世の中全般を動かせるような言葉を発信できないか苦悶する。

ゴミ」と「文化」の間に横たわる深い河を、靴一足分だけでも超えられないか

というギリギリ闘争クライアントと繰り広げる。


だって自分人生をすり減らしてゴミを作ってる、とは思いたくない。

自分文化を作っているんだ、と言い聞かせたい。


そんなミリ単位のこだわりを爆発させていくうちに、時間外労働は積み上げられ、

残業休日出勤オンパレードとなっているわけである

ホントにダラダラやってるだけのヤツもいるんだけど)


私は土日の撮影徹夜プレゼン準備が反吐が出るほど嫌いだったが、

ういういい歳こいたおじさん達が、1ミリでも良い物を作るために

わがままを通そうとする姿を見ているのは嫌いではなかった。


情熱大陸とかプロフェッショナルでは、プロ達は綺麗なオフィスキラキラ仕事している場面ばかりだが、

現実プロ達は深夜の制作会社会議室で、ボロボロになりながら臭い鼻息を撒き散らして仕事に食らいついている。

繰り返されるのは、誰かが「もうこの辺で辞めにしませんか?」と言ってしまえば終わってしまうような脆弱会議である

しかし「少しでも良いものを作らないと俺たち生きてる意味ないよな」という不文律が全員の頭の中に共通して存在するから

「もう辞めよう」と口にする人は一人もいない。そして1ミリだけ良くなった企画書を持って徹夜明けでプレゼンに挑む。

その情熱大陸が映さないような種類の、リアルな感じが好きだった。


まぁ、そういうおじさんおばさん達の見えない闘争が積み重なって、

広告文化」と心の中で思っていても怒られないくらいの社会風潮は出来たのではないかと思う。

美大メディア学系の大学広告論の授業があったり、

過去の名作広告をまとめて本や番組が作られるくらいなのだから、一応文化と言っても差し支えはないだろう。




その会社で9年働いた後、私は縁あってWEB広告代理店転職することになった。

これが同じ「広告代理店」を冠しているが、とても同じ広告を作っているとは思えないような職場だったのである

ここが広告という文化を殺して食べる、屠殺現場のような場所だった。



WEB広告とそれ以外の広告の、一番の違いは何か。

それは「数値化」だ。

WEB広告を作る、ということは、制作物の全てを数字に置き換えることができる、ということなである

この広告が何秒見られたのか、どんなクラスターの何%が見たのか、何%が商品を買ったのか、広告コスト効率はいくらか。

広告の全て数字で語ることができるのがWEB広告独自性であり、実際私が居た会社はその強みを最大化するような戦い方をしていた。


すると何が起こるか。

全ての広告を、数値をベースに作るようになるのである


たとえば、必ず視聴率クリック率が高く出るような広告をつくる。

それはどういうヤツかというと、始まってすぐに「お得なキャンペーン」とか「今だけ何%ポイントキャッシュバック」といった数字を画面に大きく出すようなアレである

誰もがあれに反応するわけではないが、一定層そういう数字に反射的に反応する人種の人たちがいる。だから結果的に数値はわかりやすく上向くのである


たとえば、広告コスト効率が高い広告をつくる。

コスト効率を上げる方法は2つしかない。前よりも大きく結果を出すか、制作費を削るか、である

そういうわけからWEB広告代理店では撮影外注を行わない広告制作奨励されている。

ストックフォトやフリー素材だけで制作すれば、地獄みたいなクオリティになるが原価はゼロに近づく。

そして前述の視聴率アップの手法があるので、不思議とそんなものでも視聴率が高かったりする。数千万かけて作ったTVCMより高かったりする。

その結果、コスト効率は上がり、「クライアントも喜んでいます!」という嘘みたいな報告が営業からは来るのだ。



私にはこれが、数字裏付けされたゴミを作っているようにしか見えなかった。

始めにこのクオリティ広告を見た時「まともなクライアントがこれにお金を出すはずがない」と思っていた。

しかし実際は違う。喜んで買っている。そりゃそうだ、クライアントの持っているお金は「広告宣伝予算」であって「広告文化への投資予算」ではない。

RADWIMPSが歌うデザインされたTVCMであれ、フリー音源ポイント還元キャンペーンだけで出来たWEB動画であれ、効果が高そうなものお金を払う。

なんとなく効きそうなだが高価な胃薬と、見た目はチープだが安価で効き目が数字裏付けされている胃薬だったら、後者を選ぶ人は少なくない。

私が在籍していたのは半年程度だったが、WEB広告会社大手代理店から仕事を奪ってきた、というようなニュースを度々耳にした。




かくして、広告という文化は、数値に裏付けられたゴミによって貪られ、じわじわと瓦解し始めている。




今なお「広告文化だ」と思っているのは広告制作者を始めとする一部の広告ギークだけなのだろうか。

しかしたら多くのクライアントサイドも、今では広告文化だとは思っていないのかもしれない。

(思っている希少なクライアントもいる。代理店はそういうお客さんを大事にしてください。)


少なくとも、WEB系の広告会社にはそもそも広告文化と思うような発想はない。

ただ忠実に、広告言葉通りの「広告なのだと彼らは思っている。

彼らは非難される立場ではない。だってそっちの方が本来の「広告」の語義には近いのだ。

から彼らは彼らが今作っているものゴミとは思っていない。

経済を回すための1つの因子」みたいな感じに思っているんだろうなぁ、きっと。


私には、彼らが目先の利益のために無邪気に広告破壊

文化もろとも倒壊しているのにも気づかず勝ち気になっているのが我慢できなかった。

そういうわけで、私は半年会社を辞めることにした。



懐古趣味の「昔は良かったおばさん」みたいな話にはしたくなかったのだけど、

この話は結局そういう結論しかならないのかもしれない。


2019年、ついにWEB広告の出稿費がTVCMのそれを超えたという。

この先の広告業界WEB業界を中心に回るのは日を見るより明らかだし、その時のエースプレイヤーは私が辞めたあの会社かもしれない。

しかし、あの地獄クオリティWEB広告達を元に大学の授業が行われることはないだろうし、それを論じた本が出るようなこともない。

広告という「文化」は静かに解体され、彼らに食いつぶされ、いつの間にか消滅していることになるだろう。


私はそんな「冷たい熱帯魚」みたいな解体現場で確かに働いていた。

そして次はまた、古い広告業界に近い所で仕事をする。

これは救命ボートからタイタニック号に乗り換えるような所業かもしれない。

ただ無邪気に文化を貪り続けるよりはマシだと思っている。


あの制作会社会議室で、今日広告文化足り得るようしのぎを削る人たちがいる。

私は化石のような彼らを、情熱大陸クルーの代わりに見届けることにする。

  • いいね。 広告を文化足り得るようにしのぎを削る人たちは、目先ではないコスト効率を訴えているのだろうか。

  • 数字や即効的な効果よりブランドイメージ優先してるような、つまり文化的な広告って金銭に余裕のある大手しかやれないじゃん。フリー素材を好む層とは棲み分けができてる印象があ...

  • 多分、50~60年ぐらい前にも 「自分は紙の出版広告に誇りを抱いてきたが、最近のTVCMときたら視聴率の効率重視でこんなものは~」 と悲嘆口調で嘆いていた者がいたであろう そして500~...

  • どうせ塵なら少しでもマシな塵を ってわけか。目的と手段が逆になってちゃ、そりゃ廃れる

  • もんのすごい勘違いぶり。珍しくブコメのほうで適切なツッコミ多数なので屋上屋は控え、ただ感想を。 こういう幼稚で尊大な寝言言ってるの、おゲージツ系のケンチクカか左翼系の出...

  • 供給側はニュースになったりバズったりする広告を作りたくて業界に入る。 需要側は当たるかわからないガチャに大金を払いたくない。 両者の感覚の差がすごいわかるけど、プライベー...

  • クライアント側ですが、お付き合いのある広告代理店が徹夜と休日出勤を繰り返していたら今後の発注はちょっと考えてしまいますね。 労働基準法を守った企業と取引したいです。

  • 「商売の役に立つ便利なお知らせ←→カネもうけの道具」を凄くカッコイイものにしようとする仕事、ではなかった・・・

  • web広告、主にモバイル系の経験者です。 web広告代理店と言ってもピンキリだろうが、俺の可視範囲では、広告では無く集客代行であり、販促代行のようなものだと思ってる。 全てがCPA...

  • 広告は文化だと思いながら仕事してたのに数字になってしまった悲しいってこと? 広告の価値はさー 知る価値のある情報をそれを知らない人に届けるってのが本質なんじゃないかなと...

  • じっさいにやってることはビビッドアーミーであり、まとめサイトへの出稿だからね。 何をどう喚こうとも広告はクズ。

  • "広告は公共空間・公共電波を使ったゴミである。"結構なパワーワードでワロタ 関係者でもなんでもないけどカワイソス

  • 寝てないわーと会社でアピールする人の心理を見事に描写してて資料として良い

  • 変に時代にあらがっても仕方がないので、例えば四半期ごとにブランドイメージ計測のアンケートを取るとかやって数値化したほうが増田さんのやりたいことができそう

  • 同じ業界にいる人間として補足を少し。 広告は文化ってのは何も現場の人間のこだわりじゃなくて、 今はそうならなければ広告がすべて淘汰されてしまうという意味合いが強い。 そも...

  • この類の自己陶酔系かまってレイディの増田に「読ませる文章」とか言うのが今のブクマカのレベル。

  • だからAdbolockを入れてWEB広告を駆逐しようよ

  • 広告は文化だというのは増田は自戒を込めているというけども 最終的にその広告を見て購入する消費者は広告を買ってるんじゃなく商品やサービスを買うじゃない? 文化に金を出してい...

  • 顧客の要求と広告屋としての文化(というかプライド)をマージできなかった広告屋の技術不足が原因だな。 文化は否定しないし守るべきだが、客商売をしている以上、客の要求は満た...

  • 休日出勤徹夜上等のゲーム会社でゲームプログラマーだけど自分が作っているものが文化だなんて思ったことなかった、広告もゲームも世の中から消え去っても問題ないものだというこ...

  • 古い世代の広告屋が良しとしてきた文化は消えつつあるかもしれない。けれど、広告の成果を数値で計るのもそれはそれで「数値を是とする文化」だ。クライアントの要求を無視してア...

  • YouTubeでクリエイターが一生懸命動画作ってそこにシンプルな広告つけばそれでいいじゃん むしろ広告はシンプルな方がいいね

  • 「広告」は確かに文化やアートと捉えられる側面がある。一方で、経済活動のなかで合理的になっていくのは当然。 未だ「広告」は顧客の要求を超える連続的な成長をとげるかもしれな...

  • あなたは、典型的な美大卒のデザイナーなのだろうなと思いました。 いわゆる、自身の作ってきたものや作るのもに自信を持つ職人気質であるように読み取れました。 広告が金儲けの...

  • 広告とは何か、ってより、コンテンツとは何かじゃねぇのかなー、アンタが考えてんのは。 悩むのも告解するのも懐古するのも隠遁視点で達観したつもりになるのもいいが、境界のない...

  • web広告はマーケティングだし形のないものだから数値が必要 広告制作はアウトプットした物が物理的に触れる事が多いし、なんかこの二つを混同することが違う気がする

  • これインターネッツが辿った歴史と同じだったんだよな。 スマートフォンがろくすっぽ無かった頃、2009年までのインターネットが最も居心地良かった。 スマホが登場してから、それに...

  • ギョーカイ人の傲慢さが嫌いです。 なんであんなに偉そうなんだろう? コネが何よりも大事。セレブには媚まくり一般人を見下し、そのくせファッションで左派を気取る。 民放テレビ...

  • これに2000近くもブクマが付く意味がわからない、普通のことしか書いてないただの日記じゃん 反応した人はどこが面白いと思った?もしくは何か怒ってるの?

  • 僕も総合代理店出身、WEB広告代理店を今月末で辞める勢ですが、WEB広告の現場も言うほどひどい状態ではないですよ。 どちらかと言うと、数字で広告を作ろうとしているマーケ畑と、表...

  • 元増田は実に大きな勘違いをしているように見受けられる。 広告は、私たちの仕事は、むしろ今がかつてないほどに面白い。 私の仕事をゴミだと断じるのならそれは元増田が時代に...

  • 広告業は昔も今も漁業。自分がゴミだと思っても獲物が釣れるならそれは良い餌よ。

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