※法クラ以外にはあまり興味が湧かないというか、そもそも意味がさっぱり分からない記事になると思います。あまり前提の解説とかもしないんでそう思って読んでください
※一部、ブログの記事への誘導みたいになってて申し訳ないけど、まあアフィも貼ってないし許してほしい
木村花さんの事件以降、「誹謗中傷」は現代のインターネットで最も耳目を集める問題の一つである。
芸能人からYoutuberからインフルエンサーから何と政治家まで、匿名の悪意のある一般人から「誹謗中傷」されたとして、被害者の立場から法的措置をとり、その結果として開示請求が成功したり、その後の法的交渉で和解金を受け取ったりしたら誇らしげに報告している。。
最近ではネットの誹謗中傷とそれをテーマにした弁護士のドラマが放映されていたようだ。
さて、その流れを受けて、芸能事務所が所属タレント(たいていの場合は事務所の運営会社との業務委託契約相手)への「誹謗中傷対策」を行う事例が散見されるようになった。
私の把握している中ではUUUMが「誹謗中傷および攻撃的投稿対策チーム」なるものを結成したのが最初ではないかと思うが、今では似たようなことをやっていない芸能プロダクションの方が珍しいくらいだ。
中には、「当社は、所属タレントへの誹謗中傷についてこんな法的措置をとってこんだけ賠償金を受け取ることに成功しました」みたいなプレスリリースを大々的に出す会社もある。
ここからが本題
法学をやっている人間として気になるのは「非弁行為」の問題である。
非弁行為とはなにか、ここでは全く知らない人に一から説明する趣旨の記事ではないのでざっくりと書くと、「他人の法的紛争について、有償性のある形で、鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務およびそれらの周旋を提供することは弁護士または弁護士法人にしか許されておらず、無資格の人または法人がそれを行うことを非弁行為という」わけである。(講学上ではそれぞれの要件について他人性、事件性、有償性、法律事務性、等といわれる)
非弁行為を行った場合は懲役や罰金といった刑罰が課されることもある
つまり芸能事務所の運営会社が所属タレントという名の「金銭のやり取りのある業務委託契約相手」に起こった「誹謗中傷」事件に対して「法的な対策」を行うことは、非弁行為に当たらないかと気になったわけである。
実はこの件については2023年の9月に法務省が事業者からの照会からの回答書という形で見解を発表しており、概要をまとめると以下の通りである
・企業内弁護士がやる→例え企業内弁護士であっても事業の主体が企業にある場合は該当する可能性は否定できない
・ネットの誹謗中傷監視や証拠保全→「鑑定」に該当する可能性は否定できない
・タレントの法的措置の支援→「鑑定」「法律事務」に該当する可能性が高い
個別具体的に活動や契約の実態を見ないと分からないが、芸能活動と法的サービスの提供に関連性が認められ、対価性があるとされれば該当する
https://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00134.html
https://www.moj.go.jp/content/001402862.pdf
以上のように、かなり厳格な判断であった。これでは誹謗中傷対策なんて何一つできないんじゃないかと思ったくらいだ。
私はこの回答があったことを知ってこの問題を知り、自分のブログに書いたりして世間の反応を待ったが、特に注目されることもなく、その後も普通に芸能プロダクションは「誹謗中傷対策」をしていた。
私は議論すらされることなく状況が続いていることは不健全であると思い、弁護士会の方にこの件を持っていくことにした。
https://www.toben.or.jp/know/iinkai/hiben/fyi/
これは何かというと
非弁行為(弁護士法第72条、73条、74条違反)について違反行為があるとの疑惑があった場合、照会書を送ったり、該当者を呼び出したりして調査し、
調査結果によっては警告状を渡したり、刑事告発したりする、非弁行為に対する自警団みたいなものである。
強制捜査権もなく刑罰を下す権限もないが、非弁行為は裏に反社でもいない限りは警察があまり積極的に動かないこともあり、実質的には各都道府県にいる弁護士会の非弁委員会が第一次捜査機関みたいな立場になっている。
ここに情報を渡すということは、要するに「通報しました」みたいなもんである。
なぜそこを選んだのかというと、証拠となる資料が豊富すぎたから。公式HPでもニュースサイトの取材にも誹謗中傷対策について詳しく答えていて、ここまで具体的に業務内容を語っている会社はほかになかった。
詳細な記述や具体的な引用元はブログに書いたので興味のある人はそちらを参照してほしい。
https://eientei.livedoor.blog/archives/51931668.html
は以下の通り(詳細な引用などは上のブログに書いたので、ここでは概要だけにとどめる)
・誹謗中傷行為対策チームを創設し、攻撃的行為や誹謗中傷行為に対して法的措置を含めた対策を行うと宣言
・所属タレントに対する誹謗中傷行為等が発生した場合における、社外弁護士とも連携した迅速な法的対応の実施 および
・所属ライバーが当事者となり法的請求を行う場合において、社外弁護士の紹介、社外弁護士との打ち合わせの同席、証拠収集等 を行っていると公式HPに記載
・2023年のプレスリリースにて、所属タレントへの権利侵害によって300万円以上の損害賠償金が支払われたという件の報告にて、同社は所属タレントに対する攻撃的行為及び誹謗中傷行為に対する具体的対応を進めており、また所属タレントと連携のうえ、発信者情報開示請求を含めた法的対応を進めていると記載
所属タレントへの名誉権またはプライバシー権侵害の投稿について、アカウント主とSNS運営者に対しそれぞれ削除請求と通報を実施
ネット掲示板での名誉毀損等行為について、所属タレントとも連携のうえ、削除請求を実施
したと記載あり
・誹謗中傷等が発生した場合の通報フォームを設置し、また従業員はネットを巡回し誹謗中傷等の書き込みを発見している
・ネットニュースサイトの取材記事にて、同社の対策チームはネット上を巡回して誹謗中傷の証拠を収集していること、事例を研究して民事訴訟に取り組み、判例をつくっていったことなとが書かれていること
・Twitter(現Xにて、所属タレントへの発言について、名誉毀損等の法的措置をとる、法的対応を含め厳しく措置をとると宣言しているツイート
・同社の有価証券報告書にて、所属タレントと同社の関係が業務委託契約であり、金銭のやり取りがあることが記載された部分
私は、以上の資料としてまとめて、文書として、2024年5月15日付で東京弁護士会の非弁委員会に送っておいた。
東京弁護士会の回答
その後、7月に同社の株主総会でこの件について質問した株主がいたらしくてビックリした。社長は適法性についての回答は差し控えたとのこと。
で、それから数か月間、特に動きもなかったけど、東弁のHPによれば調査結果は情報提供者には通知しないものの、電話で聞けば結果だけ教えてくれるとのこと。
結果、
「当委員会の判断としては、これは非弁行為に当たらない」とのこと
意外だったので驚いてしまい、それ以上詳しくは聞き損ねた。聞いたら教えてくれたのかは知らん。
もちろん弁護士会の見解が法的解釈の全てというわけではないが、非弁行為に関しては、よほど悪質でもない限りは警察も検察もあまり動かず、基本的には弁護士会の非弁委員会が担当みたいなところがある。
その弁護士会がシロ判定を出したのだとしたら、まあ取締る組織はないわけである。
ここまで会社が法的対応に踏み込んでおいてシロ判定なら、芸能プロダクションが「誹謗中傷対策」することは社会的に許容されるのかもしれない。
個人的には、別にその会社が嫌いなわけでもないので、別にシロならシロでいいんだが、
その思いを込めて、ここに書き記しておく