2024-10-28

芸能事務所が「誹謗中傷対策」することは「非弁行為」か

※法クラ以外にはあまり興味が湧かないというか、そもそも意味がさっぱり分からない記事になると思います。あまり前提の解説とかもしないんでそう思って読んでください

※一部、ブログ記事への誘導みたいになってて申し訳ないけど、まあアフィも貼ってないし許してほしい


芸能プロダクションと非弁行為

木村花さんの事件以降、「誹謗中傷」は現代インターネットで最も耳目を集める問題の一つである

芸能人からYoutuberからインフルエンサーから何と政治家まで、匿名の悪意のある一般人から誹謗中傷」されたとして、被害者立場から法的措置をとり、その結果として開示請求成功したり、その後の法的交渉和解金を受け取ったりしたら誇らしげに報告している。。

最近ではネット誹謗中傷とそれをテーマにした弁護士ドラマが放映されていたようだ。

さて、その流れを受けて、芸能事務所所属タレント(たいていの場合事務所運営会社との業務委託契約相手)への「誹謗中傷対策」を行う事例が散見されるようになった。

私の把握している中ではUUUMが「誹謗中傷および攻撃投稿対策チーム」なるものを結成したのが最初ではないかと思うが、今では似たようなことをやっていない芸能プロダクションの方が珍しいくらいだ。

中には、「当社は、所属タレントへの誹謗中傷についてこんな法的措置をとってこんだけ賠償金を受け取ることに成功しました」みたいなプレスリリースを大々的に出す会社もある。

ここからが本題

法学をやっている人間として気になるのは「非弁行為」の問題である

非弁行為とはなにか、ここでは全く知らない人に一から説明する趣旨記事ではないのでざっくりと書くと、「他人の法的紛争について、有償性のある形で、鑑定、代理仲裁若しくは和解その他の法律事務およびそれらの周旋を提供することは弁護士または弁護士法人しか許されておらず、無資格の人または法人がそれを行うことを非弁行為という」わけである。(講学上ではそれぞれの要件について他人性、事件性、有償性、法律事務性、等といわれる)

非弁行為を行った場合懲役罰金といった刑罰が課されることもある

まり芸能事務所運営会社所属タレントという名の「金銭のやり取りのある業務委託契約相手」に起こった「誹謗中傷事件に対して「法的な対策」を行うことは、非弁行為に当たらないかと気になったわけである


法務省見解

実はこの件については2023年9月法務省事業者からの照会からの回答書という形で見解を発表しており、概要をまとめると以下の通りである

1「弁護士又は弁護士法人でない者」の要件

弁護士以外の従業員がやる→明らかに該当する

企業弁護士がやる→例え企業弁護士であっても事業主体企業にある場合は該当する可能性は否定できない

2個々の誹謗中傷対策業務は「法律事務性」の要件に該当するか

ネット誹謗中傷監視証拠保全→「鑑定」に該当する可能性は否定できない

タレントから相談業務→「鑑定」に該当する可能性が高い

タレントの法的措置支援→「鑑定」「法律事務」に該当する可能性が高い

タレント弁護士を紹介→「周旋」に該当する可能性が高い

3「有償性」の要件

個別具体的に活動契約実態を見ないと分からないが、芸能活動と法的サービス提供に関連性が認められ、対価性があるとされれば該当する

https://www.moj.go.jp/housei/shihouseido/housei10_00134.html

https://www.moj.go.jp/content/001402862.pdf

以上のように、かなり厳格な判断であった。これでは誹謗中傷対策なんて何一つできないんじゃないかと思ったくらいだ。

東京弁護士会の非弁問題担当通報

私はこの回答があったことを知ってこの問題を知り、自分ブログに書いたりして世間の反応を待ったが、特に注目されることもなく、その後も普通に芸能プロダクションは「誹謗中傷対策」をしていた。

私は議論すらされることなく状況が続いていることは不健全であると思い、弁護士会の方にこの件を持っていくことにした。


東京弁護士会弁護士取締委員会(通称 東弁の非弁委員会)

https://www.toben.or.jp/know/iinkai/hiben/fyi/

これは何かというと

非弁行為(弁護士法第72条、73条、74条違反)について違反行為があるとの疑惑があった場合、照会書を送ったり、該当者を呼び出したりして調査し、

調査結果によっては警告状を渡したり、刑事告発したりする、非弁行為に対する自警団みたいなものである

強制捜査権もなく刑罰を下す権限もないが、非弁行為は裏に反社でもいない限りは警察があまり積極的に動かないこともあり、実質的には各都道府県にいる弁護士会の非弁委員会第一捜査機関みたいな立場になっている。

ここに情報を渡すということは、要するに「通報しました」みたいなもんである

通報」した対象は、某大手VTuber会社である

なぜそこを選んだのかというと、証拠となる資料豊富すぎたから。公式HPでもニュースサイト取材にも誹謗中傷対策について詳しく答えていて、ここまで具体的に業務内容を語っている会社はほかになかった。

詳細な記述や具体的な引用元ブログに書いたので興味のある人はそちらを参照してほしい。

https://eientei.livedoor.blog/archives/51931668.html


非弁行為ではないかと疑われる某大手VTuber会社行為

は以下の通り(詳細な引用などは上のブログに書いたので、ここでは概要だけにとどめる)

誹謗中傷行為対策チームを創設し、攻撃行為誹謗中傷行為に対して法的措置を含めた対策を行う宣言

所属タレントに対する誹謗中傷行為等が発生した場合における、社外弁護士とも連携した迅速な法的対応実施 および

所属ライバー当事者となり法的請求を行う場合において、社外弁護士の紹介、社外弁護士との打ち合わせの同席、証拠収集等 を行っている公式HP記載

2023年プレスリリースにて、所属タレントへの権利侵害によって300万円以上の損害賠償金が支払われたという件の報告にて、同社は所属タレントに対する攻撃行為及び誹謗中傷行為に対する具体的対応を進めており、また所属タレント連携のうえ、発信者情報開示請求を含めた法的対応を進めている記載

・同じく2023年プレスリリースにて、

所属タレントへの名誉権またはプライバシー権侵害投稿について、アカウント主とSNS運営者に対しそれぞれ削除請求通報実施

ネット掲示板での名誉毀損等行為について、所属タレントとも連携のうえ、削除請求実施

したと記載あり

誹謗中傷等が発生した場合通報フォームを設置し、また従業員ネット巡回誹謗中傷等の書き込み発見している

ネットニュースサイト取材記事にて、同社の対策チームはネット上を巡回して誹謗中傷証拠収集していること、事例を研究して民事訴訟に取り組み、判例をつくっていったこなとが書かれていること

Twitter(現Xにて、所属タレントへの発言について、名誉毀損等の法的措置をとる、法的対応を含め厳しく措置をとると宣言しているツイート

・同社の有価証券報告書にて、所属タレントと同社の関係業務委託契約であり、金銭のやり取りがあることが記載された部分


私は、以上の資料としてまとめて、文書として、2024年5月15日付で東京弁護士会の非弁委員会に送っておいた。


東京弁護士会の回答

その後、7月に同社の株主総会でこの件について質問した株主がいたらしくてビックリした。社長適法性についての回答は差し控えたとのこと。

で、それから数か月間、特に動きもなかったけど、東弁のHPによれば調査結果は情報提供者には通知しないものの、電話で聞けば結果だけ教えてくれるとのこと。

10月電話してみた。

結果、

委員会判断としては、これは非弁行為に当たらない」とのこと

意外だったので驚いてしまい、それ以上詳しくは聞き損ねた。聞いたら教えてくれたのかは知らん。

もちろん弁護士会の見解が法的解釈の全てというわけではないが、非弁行為に関しては、よほど悪質でもない限りは警察検察もあまり動かず、基本的には弁護士会の非弁委員会担当みたいなところがある。

その弁護士会がシロ判定を出したのだとしたら、まあ取締る組織はないわけである

ここまで会社が法的対応に踏み込んでおいてシロ判定なら、芸能プロダクションが「誹謗中傷対策」することは社会的に許容されるのかもしれない。

個人的には、別にその会社が嫌いなわけでもないので、別にシロならシロでいいんだが、

法クラの間でもうちょっと議論されて欲しいと思う

その思いを込めて、ここに書き記しておく

記事への反応(ブックマークコメント)

ログイン ユーザー登録
ようこそ ゲスト さん