明治元年1月28日
明治元年1月28日
告 文
朕ハ諸外国ノ文化哲学ノ最高潮ニ達シタルノ研究結果即チ心身ノ二元性及ヒ我カ国ノ古来ヨリノ実情特ニ性的側面ノ根深キ実情ニ鑑ミテ我カ実社会ハ暴力装置ヲ有スル官憲ニ拠ルノ統治ナクシテハ民族ノ安寧秩序及ヒ慶福ハ実現サレザルヲ悟リ憲法ナクシテハ我カ社会ハ永遠ニ繁栄シ得ベカラザルヲ知ルニ至ル
而シテ我カ国ニ於ケル社会安寧ハ英知ヲ結集シタル高級官吏ノ管理監督ニ拠ラサレバ凡ソ実現サレス又如何ニ心身カ二元性ヲ有シ生業運動ナクシテモ心理面ノ幸福ハ何処マテモ実現サルルト雖モ其カ許サルルハ天性素行善良ノ穏ヤカナル子ニ限リ何人ニモ許サルルニアラザルハ条理ナリ又如何ニ生業運動ナクシテモ心理面独立シテ何処マテモ幸福ヲ実現シ得ベキト雖モ他人ノ生業運動ノ結果ナクシテハ心理其ノ物ヲ維持スヘキ身体ノ健全ヲ維持シ得ベカザリシハ道理ナリ
又我カ国ニハ凡ソ矯正ノ効カザル悪人ノ非常ニ多キコト自明ノ理ニヨリテ此レヲ一般社会ヨリ分界シ官憲官吏ノ監督指導ニヨリ定役ニ就カシメル事合理的ナル事ハ明白ナリ其ノ他ノ臣民ニ付キテハ官憲官吏ノ実施セル社会安寧秩序ニ背カザルノ限リニ於テ自由ナル生業ヲ認メ集団生活ノ維持向上ヲ期スルカ合理的ナル事モ明白ノ理ナリ
斯様ナル理ニ拠リテ我カ国家ハ神聖ナル天皇カ統治セル帝国的官僚国家ナリテ朕ノ欣栄ノ枢要ハ天皇タル朕ノ大権ノ元ニ構成セラレタル優秀ナル官憲官吏及ヒ其カ実施セル社会安寧秩序ヲ基礎トシテ善良ノ子ノ心理面ノ果テナキ幸福追求及ヒ一般臣民ノ自由ナル生業及ヒ悪人ノ服役ノ結果タル社会生活全体ノ利益ノ維持向上ニ在ル物ナリ此レニ反スル一切ノ思考ハ現代一般世界特ニ西洋諸国家ノ文化文明ノ発達状況及ヒ我カ国ノ実情ニ反シ不合理ナル物ナル事ヲ信ス
又我カ国ハ一度大国家ヲ建設シナガラモ積極的ニ戦争ニ参加シ敗戦シ既得ノ公益ヲ全テ失ヒシ歴史アルニヨリテ戦争ノ惨禍ハ二度ト起シテハナラスト信シ我カ帝国ハ陸海空軍ヲ備フルモ其ノ権能ハ帝国ノ自衛ノ目的ニ限リ帝国主義的征服的積極的ナル戦役ニ此レヲ用フルヲ永遠ニ禁ス
朕ハ天壌無窮ノ宏謨ニ循ヒ惟神ノ宝祚ヲ承継シ旧図ヲ保持シテ敢テ失墜スルコト無シ典憲ヲ成立シ条章ヲ昭示シ永遠ニ遵行セシメ益々国家ノ丕基ヲ鞏固ニシ臣民一般ノ慶福ヲ増進スヘシ朕カ現在及将来ニ臣民ニ率先シ此ノ憲章ヲ履行シテ愆ラサラムコトヲ誓フ庶幾クハ神霊此レヲ鑒ミタマヘ 朕ノ大権ニ依リ現在及将来ノ臣民ニ対シ此ノ不磨ノ大典ヲ宣布ス
朕帝位ヲ践ミ朕カ親愛スル所ノ正当臣民ノ翼賛ニ依リ与ニ倶ニ国家ノ進運ヲ扶持セムコトヲ望ミ乃チ明治元年一月四日ノ詔命ヲ履践シ大憲ヲ制定シ朕カ率由スル所ヲ示シ朕カ臣民及臣民ノ子孫タル者ヲシテ永遠ニ循行スル所ヲ知ラシム
朕及朕カ子孫ハ将来此ノ憲法ノ条章ニ循ヒ之ヲ行フコトヲ愆ラサルヘシ
朕ハ我カ臣民ノ権利及財産ノ安全ヲ貴重シ及之ヲ保護シ此ノ憲法及法律ノ範囲内ニ於テ其ノ享有ヲ完全ナラシムヘキコトヲ宣言ス
帝国議会ハ明治元年ヲ以テ之ヲ召集シ議会開会ノ時《明治元年一月二十八日》ヲ以テ此ノ憲法ヲシテ有効ナラシムルノ期トスヘシ
将来若此ノ憲法ノ或ル条章ヲ改定スルノ必要ナル時宜ヲ見ルニ至ラハ朕及ヒ朕ノ系統ノ子孫ハ発議ノ権ヲ執リ之ヲ議会ニ付シ議会ハ此ノ憲法ニ定メタル要件ニ依リ之ヲ議決スルノ外朕カ子孫及臣民ハ敢テ之カ紛更ヲ試ミルコトヲ得サルヘシ
朕カ在廷ノ大臣ハ朕カ為ニ此ノ憲法ヲ施行スルノ責ニ任スヘク朕カ現在及将来ノ臣民ハ此ノ憲法ニ対シ永遠ニ従順ノ義務ヲ負フヘシ
御名御璽
海 軍 大 臣 伯爵 須 藤 優
司 法 大 臣 伯爵 河 城 に と り
陸 軍 大 臣 伯爵 長 谷 川 彰 男
文 部 大 臣 子爵 中 野 裕 太
逓 信 大 臣 子爵 白 鳥 英 美 子
第1章 天皇
第1条
第2条
第3条
第4条
天皇ハ国ノ元首ニシテ統治権ヲ総攬シ此ノ憲法ノ条規ニ依リ之ヲ行フ
第5条
第6条
第7条
第8条
1 天皇ハ公共ノ安全ヲ保持シ又ハ其ノ災厄ヲ避クル為緊急ノ必要ニ由リ帝国議会閉会ノ場合ニ於テ法律ニ代ルヘキ勅令ヲ発ス
2 此ノ勅令ハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出スヘシ若議会ニ於テ承諾セサルトキハ政府ハ将来ニ向テ其ノ効力ヲ失フコトヲ公布スヘシ
第9条
天皇ハ法律ヲ執行スル為ニ又ハ公共ノ安寧秩序ヲ保持シ及臣民ノ幸福ヲ増進スル為ニ必要ナル命令ヲ発シ又ハ発セシム但シ命令ヲ以テ法律ヲ変更スルコトヲ得ス
第10条
天皇ハ行政各部ノ官制及文武官ノ俸給ヲ定メ及文武官ヲ任免ス但シ此ノ憲法又ハ他ノ法律ニ特例ヲ掲ケタルモノハ各々其ノ条項ニ依ル
第11条
第12条
第13条
天皇ハ戦ヲ宣シ和ヲ講シ及諸般ノ条約ヲ締結ス但シ本条ニ言フ戦トハ国家自衛ノ為ノ戦ニ限リ征服的戦役ハ之ヲ一切禁ス
第14条
1 天皇ハ戒厳ヲ宣告ス
第15条
第16条
第17条
第18条
第19条
日本臣民ハ法律命令ノ定ムル所ノ資格ニ応シ均ク文武官ニ任セラレ及其ノ他ノ公務ニ就クコトヲ得
第20条
第21条
第22条
第23条
日本臣民ハ法律ニ依ルニ非スシテ逮捕監禁審問処罰ヲ受クルコトナシ
第24条
日本臣民ハ法律ニ定メタル裁判官ノ裁判ヲ受クルノ権ヲ奪ハルヽコトナシ
第25条
日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外其ノ許諾ナクシテ住所ニ侵入セラレ及捜索セラルヽコトナシ
第26条
日本臣民ハ法律ニ定メタル場合ヲ除ク外信書ノ秘密ヲ侵サルヽコトナシ
第27条
第28条
日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケス及臣民タルノ義務ニ背カサル限ニ於テ信教ノ自由ヲ有ス
第29条
日本臣民ハ法律ノ範囲内ニ於テ言論著作印行集会及結社ノ自由ヲ有ス
第30条
日本臣民ハ相当ノ敬礼ヲ守リ別ニ定ムル所ノ規程ニ従ヒ請願ヲ為スコトヲ得
第31条
本章ニ掲ケタル条規ハ戦時又ハ国家事変ノ場合ニ於テ天皇大権ノ施行ヲ妨クルコトナシ
第32条
本章ニ掲ケタル条規ハ陸海軍ノ法令又ハ紀律ニ牴触セサルモノニ限リ軍人ニ準行ス
第3章 帝国議会
第33条
第34条
貴族院ハ貴族院令ノ定ムル所ニ依リ皇族華族及勅任セラレタル議員ヲ以テ組織ス
第35条
衆議院ハ選挙法ノ定ムル所ニ依リ公選セラレタル議員ヲ以テ組織ス
第36条
第37条
第38条
両議院ハ政府ノ提出スル法律案ヲ議決シ及各々法律案ヲ提出スルコトヲ得
第39条
両議院ノ一ニ於テ否決シタル法律案ハ同会期中ニ於テ再ヒ提出スルコトヲ得ス
第40条
両議院ハ法律又ハ其ノ他ノ事件ニ付各々其ノ意見ヲ政府ニ建議スルコトヲ得但シ其ノ採納ヲ得サルモノハ同会期中ニ於テ再ヒ建議スルコトヲ得ス
第41条
第42条
帝国議会ハ三箇月ヲ以テ会期トス必要アル場合ニ於テハ勅命ヲ以テ之ヲ延長スルコトアルヘシ
第43条
第44条
1 帝国議会ノ開会閉会会期ノ延長及停会ハ両院同時ニ之ヲ行フヘシ
2 衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ貴族院ハ同時ニ停会セラルヘシ
第45条
衆議院解散ヲ命セラレタルトキハ勅命ヲ以テ新ニ議員ヲ選挙セシメ解散ノ日ヨリ五箇月以内ニ之ヲ召集スヘシ
第46条
両議院ハ各々其ノ総議員三分ノ一以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開キ議決ヲ為スコトヲ得ス
第47条
両議院ノ議事ハ過半数ヲ以テ決ス可否同数ナルトキハ議長ノ決スル所ニ依ル
第48条
両議院ノ会議ハ公開ス但シ政府ノ要求又ハ其ノ院ノ決議ニ依リ秘密会ト為スコトヲ得
第49条
第50条
第51条
両議院ハ此ノ憲法及議院法ニ掲クルモノヽ外内部ノ整理ニ必要ナル諸規則ヲ定ムルコトヲ得
第52条
両議院ノ議員ハ議院ニ於テ発言シタル意見及表決ニ付院外ニ於テ責ヲ負フコトナシ但シ議員自ラ其ノ言論ヲ演説刊行筆記又ハ其ノ他ノ方法ヲ以テ公布シタルトキハ一般ノ法律ニ依リ処分セラルヘシ
第53条
両議院ノ議員ハ現行犯罪又ハ内乱外患ニ関ル罪ヲ除ク外会期中其ノ院ノ許諾ナクシテ逮捕セラルヽコトナシ
第54条
国務大臣及政府委員ハ何時タリトモ各議院ニ出席シ及発言スルコトヲ得
第55条
第56条
枢密顧問ハ枢密院官制ノ定ムル所ニ依リ天皇ノ諮詢ニ応ヘ重要ノ国務ヲ審議ス
第5章 司法
第57条
第58条
2 裁判官ハ刑法ノ宣告又ハ懲戒ノ処分ニ由ルノ外其ノ職ヲ免セラルヽコトナシ
第59条
裁判ノ対審判決ハ之ヲ公開ス但シ安寧秩序又ハ風俗ヲ害スルノ虞アルトキハ法律ニ依リ又ハ裁判所ノ決議ヲ以テ対審ノ公開ヲ停ムルコトヲ得
第60条
第61条
行政官庁ノ違法処分ニ由リ権利ヲ傷害セラレタリトスルノ訴訟ニシテ別ニ法律ヲ以テ定メタル行政裁判所ノ裁判ニ属スヘキモノハ司法裁判所ニ於テ受理スルノ限ニ在ラス
第6章 会計
第62条
2 但シ報償ニ属スル行政上ノ手数料及其ノ他ノ収納金ハ前項ノ限ニ在ラス
3 国債ヲ起シ及予算ニ定メタルモノヲ除ク外国庫ノ負担トナルヘキ契約ヲ為スハ帝国議会ノ協賛ヲ経ヘシ
第63条
現行ノ租税ハ更ニ法律ヲ以テ之ヲ改メサル限ハ旧ニ依リ之ヲ徴収ス
第64条
2 予算ノ款項ニ超過シ又ハ予算ノ外ニ生シタル支出アルトキハ後日帝国議会ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス
第65条
第66条
皇室経費ハ現在ノ定額ニ依リ毎年国庫ヨリ之ヲ支出シ将来増額ヲ要スル場合ヲ除ク外帝国議会ノ協賛ヲ要セス
第67条
憲法上ノ大権ニ基ツケル既定ノ歳出及法律ノ結果ニ由リ又ハ法律上政府ノ義務ニ属スル歳出ハ政府ノ同意ナクシテ帝国議会之ヲ廃除シ又ハ削減スルコトヲ得ス
第68条
特別ノ須要ニ因リ政府ハ予メ年限ヲ定メ継続費トシテ帝国議会ノ協賛ヲ求ムルコトヲ得
第69条
避クヘカラサル予算ノ不足ヲ補フ為ニ又ハ予算ノ外ニ生シタル必要ノ費用ニ充ツル為ニ予備費ヲ設クヘシ
第70条
1 公共ノ安全ヲ保持スル為緊急ノ需用アル場合ニ於テ内外ノ情形ニ因リ政府ハ帝国議会ヲ召集スルコト能ハサルトキハ勅令ニ依リ財政上必要ノ処分ヲ為スコトヲ得
2 前項ノ場合ニ於テハ次ノ会期ニ於テ帝国議会ニ提出シ其ノ承諾ヲ求ムルヲ要ス
第71条
帝国議会ニ於テ予算ヲ議定セス又ハ予算成立ニ至ラサルトキハ政府ハ前年度ノ予算ヲ施行スヘシ
第72条
1 国家ノ歳出歳入ノ決算ハ会計検査院之ヲ検査確定シ政府ハ其ノ検査報告ト倶ニ之ヲ帝国議会ニ提出スヘシ
第7章 補則
第73条
1 将来此ノ憲法ノ条項ヲ改正スルノ必要アルトキハ勅命ヲ以テ議案ヲ帝国議会ノ議ニ付スヘシ
2 此ノ場合ニ於テ両議院ハ各々其ノ総員三分ノ二以上出席スルニ非サレハ議事ヲ開クコトヲ得ス出席議員三分ノ二以上ノ多数ヲ得ルニ非サレハ改正ノ議決ヲ為スコトヲ得ス
第74条
第75条
第76条