はてなキーワード: リチャード・マシスンとは
(追記:H26/12/05)
元ネタになった方々に騒がれているようなので、格好悪い形になりますがいくつかの点について付記を加えておきます。
まず当エントリはあなた方の何かを批難し、留まらせようとして書かれたものではないことを強く主張しておきます。
後半の(ブックマークコメントを借りれば「国語力の低い」)文章には、
あるジャンルに対する愛の形に優越も何もあったものではないのだ、という思いを、あなた方の遊びに対する私が抱いた「気持ち悪さ」それ自体を茶化す寓話に変え、
更に本エントリ自体をリチャード・マシスン著「アイ・アム・レジェンド」との”クロスオーバー小説”へと転換することで込めたつもりでした。
それが全く伝わらず、怒りの対象となり、ましてやトラックバック先の不可思議な関連エントリ(”マシンスパイ・ゼロクロー”)による批難を「ユーモア」と称することで
その溜飲を下げていらっしゃるのであれば、それらにはご指摘の通り私の文章力の低さに責任があります。すみません。三号買えなかったんです。
書き手・語り手としてサークル側の立場を騙ったのは、これを書くうえでやはり一種の寓話として成立させるためです。
また書き手の特定等行っているようですが、文中にあります通り私は真実ツイッターアカウントを所持しておらず、
元ネタとなった当該サークル様とはなんら面識等関わりのない一読者です。
それら無用な争いの火種となり、徒に皆様の感情を刺激してしまったことについて大変申し訳ないと思っております。
誠に申し訳ございませんでした。
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特定はほぼ確実にされるだろうが(見る人が見れば一発でわかる)、まあ出来る限り伏せていく。
今年の夏まで、ある映画の二次創作を行うサークルを主導していた。
元ネタの作品は軍事・諜報、及び公務員としての警察組織の軋轢、更にテロの絡んだ国際問題・技術革新問題にまで踏み込み、
旧来のマフィア映画や諜報ものと比べその圧倒的なリアリティが評価されていた。
監督・脚本・演出とその全てが見事に釣り合い、作品単体としてきちんとエンターテイメントしているのみでなく、
題材となった問題についての正しい知識・見識を広めることで、その理解を深めるものとして機能しており、そこから製作陣の志が読み取れた。
舞台である近未来の厳密な時代考証。一見突飛に思えたキャラクター設定を納得させる脚本・演出の力。
物語の筋そのものが秘めている魅力。どれをとっても一級品で、インターネット上の口コミのみならず、業界人からの評価も非常に高い作品である。
年に数度行われている同人誌即売会で、コミケや文学フリマのようなものだと捉えてくれればいい。
コミケがその題材について自由であり、文学フリマも同様であることと異なり、本イベントは映画関係の二次創作・評論誌であることが参加の条件だ。
先ほど「業界人からの評価も高い」と書いたが、昨年春頃の段階ではまだその評判が広まってはおらず、作品の話をすることができる相手は限られていた。
そこで某壁サー(ようは人気サークル)にコネがあった私は、何人かの知人友人と共に50Pほどの合同誌を作成し、そこに置いてもらうことにした。
私は如何に本作が優れた軍事考証を行い、また現実に向き合った誠実な作品作りを心がけているか、
拙い語学知識を駆使して英文記事を読み、著者の意図を最大限汲み取ろうと努力し、その紹介につとめた。
他の書き手の皆もイラストや漫画、創作小説など凝ったアイデアを出してくれ、読み上がったテスト稿に目を通した時は「非常にいい出来になった」と素直に喜べた。
また委託サークルの方にも口絵を書いてもらい、70部ほど刷った結果売上は40弱。初参加にしては、これはほぼ盛況といっていいだろう。
「艦これ」や「東方」、「アイマス」などのメジャー作品の同人作品に接しているとわかりづらいかもしれないが、マイナージャンルの同人世界はとても狭い。
しばらくして作品自体の人気が向上するとともに、本作唯一の同人サークルであった私のものに便りが寄せられるようになった。
大方の内容は「合同誌の在庫はないか」といったもので、余っていた30部ほどは瞬く間に売り切れた。
また「次回があるなら是非参加させてほしい」という声も聞かれた。原作はちょうど二作目の発表直後であり、イベントの締日も近づいてきていた。
正直なところ、もういいかな、と思った。
私はこの作品を多くの人に紹介したかったのであり、それは既に成されていた。
が、他のイベントに出ていた委託サークルの方にも同様の問い合わせが相次いだため、結局彼女に迷惑をかけない意味でも「出よう」と思った。
再び合同誌の執筆者を募り、原稿が集まった。前回の寄稿者が私を含め5人であったのに対し、今回は11人。
前回の依頼者は本業が忙しく不参加となり、全員が新人で、更に大幅なボリュームアップとなる。正直嬉しかった。
執筆者募集の際、「どのようなジャンルでも構わないが、極端に下世話なものはやめてほしい」
「前回の合同誌を見て、その意図に沿うように」とのみ告知した。あまり上から目線で人を縛りたくはなかったし、私も過去にそれで何度か嫌な思いをしていたから。
私は原稿に目を通し始めた。そして目を疑った。
評論は0。
そして集まった創作小説は、クロスオーバーものが大半であったのだ。
クロスオーバーとは、例えば「アベンジャーズ」「リーグオブレジェンド」、「シュガー・ラッシュ」のように複数作品のキャラクターが同じ作品に登場し、
物語の主役となるもの。また、「シャーロック・ホームズ vs モンスター」をはじめとした「このキャラクターをこのジャンルに放り込む」という、無茶苦茶な設定を持ち込む
ジャンルである。ホームズが恐竜と戦ったり、映画ではないが、ゾンビが魔法少女の形をとって襲い掛かってきたりする作品のことだ。
集まった原稿も、それと似たようなものだと思ってくれればいい。だが内容がひどい。
諜報部がロリ少女に変身してマフィアと戦い、突入部隊が恐竜を召喚してホワイトハウスを守る。
悲惨な死を遂げたヴィラン・キャラクターたちがブードゥーの魔術によって毒々モンスターとして蘇り、警察組織がハイパーヨーヨーを操ってそれらを撃退する。
ネコミミの生える奇病にかかった中間管理職が、侍の操る機械兵とカードバトルに勤しむ…。
読み通すのも苦痛な作品がそこに並んでいた。あまりにも酷すぎる。惨いといってよかった。
しかし印刷所への締め切りは迫っており、原稿はまごうこと無く完成していた。私はそれを出す他なかった。
結果は100部印刷が1時間で完売。遅れてきた客にどのような口調で完売を告げたのか、私は覚えていない。
イベント終了後、ツイッターで彼らのアカウントを覗いてみた(私はアカウントを持っていない)。どうやら日夜これらのクロスオーバー・二次創作の話で盛り上がっているようだ。
月の光に導かれ、前世からの愛を告げられる捜査本部長。謎の覆面五人組によって救われるロシアン・マフィア。麻薬漬けにされパンツレスリングに興じる闇市場のギャングたち…。
彼らはこの作品を、彼らなりに心から愛しているのだろうと想う。だが私にはその愛が受け入れられない。原作で遊ぶことしか考えていない、怪物どもには。
その愛が正しいとはどうしても思えなかった。許せなかった。
だから殺すことに決めた。
「次回用のフリーペーパー見本が早めに刷り上がったので、先にサンプルを送ります」とメールを打てば、氏名付きで住所が送られてくる。簡単な仕組みだ。
大半の女が都内近郊、単身者向けの安アパートに暮らしていた。電車で30分もかからないだろう距離に全員が住んでいたのは好都合だった。
一人一人、作品の「ありえなさ」順に殺していった。包丁で抉るのが、鋸で刺すのが、最も下手なときに、最も嫌いなやつを殺してやりたかった。
彼女らは私の顔を見て戸惑った。まさか自宅に来るとは思っていなかっただろう。
「何度出しても住所不備で戻って来ちゃうんですよ」と微笑めば、皆が皆後ろを向いて茶の用意をしてくれた。そこで首を絞めた。
ベッドに縛り付け、何度も謝らせた。口に刷り上がったばかりの合同誌から担当ページをちぎり取り、口に詰め込んだ。
守らなければならなかった。この映画を、作品を、この怪物たちから。
ひとりは太った女だった。腹を割いてもなかなか死なず、頭を割らなければならなかった。
ひとりは痩せた女だった。首を絞めただけで死んでしまったから、便器に顔を突っ込んでおいた。
ひとりは若い男だった。私を見て赤らめた頬がみるみる血に染まっていった。
そして最後の一人の家を訪れ、インターホンを押したとき、不意に頭部に衝撃が走った。
目が覚めると、法廷のような場所にいた。すり鉢状に抉られた岩場、私を見下ろすように無数の女たちが並んでいた。
皆手に石を持ち、こちらに投げつけてくる。大半は当たらないが、うち一発が右眼窩を砕いた。一滴の血が頬を伝い、漆黒の闇へと堕ちていった。
顔を覆おうとしたところで、手足の自由が効かないことがわかった。広げられた腕は手首のあたりで縛り付けられ、足首の腱は切られているようだった。
自分が十字架に縛り付けられていたことに気がついたのは、松明に火がともされてからだ。何が始まるのかは明白だった。
私は殺されるのだ。この怪物どもに。
私の愛するものを壊し、踏みにじり、これからも汚し続けるやつらに。これで本望か。私を殺し、晒して、あざけ、笑いものにして。
叫ぼうと思ったが、口からは呻くような音しか出てこない。歯は抜かれ、喉も潰されているようだった。
私は唯一動かせる乾いた眼で、焼けつくように痛む瞳で彼らを睨みつけた。口角をあげ、指を指し、ごらん、こいつがいまから死ぬんだよ、と子供に教える母親を。
肩を組んだ恋人たちを。
叫びながら絶え間なく石を投げる女を。
そこに見えた表情は私の考えとは違っていた。眉をひそめ、眼を細めて、唇は固く引き締められている。
瞳に涙を浮かべているものも少なくない。彼らは怯えているのだった。
子供は母の影に隠れ、母はそっと子の頭に手を置いていた。
恋人たちは寄り添い、震えるように松明を支えあっていた。
女の叫びは慟哭だった。石を持たないほうの手に抱えているのは、遺影だろうか。そこに写っている白黒の写真は、いつか殺した男の顔に似ているような気がした。
ああ、と気が付いた。
そうか、奴らにとっては、俺こそが怪物だったのだ。