かわいかった。しかし、その分全部奢ってしまったりした。ダメだった。
いろいろざっくばらんに話したのだが、一つ俺が致命的な勘違いを犯していたことが発覚して、衝撃を受けた。
もしかしたら、一人暮らしでないことではなく、それが原因だったのかもしれない。
セックスしたら好きになる理論を信じて、最短でセックスへの道をひた走ることを是としていたが、それではダメなのだ。
そんな振る舞いをする男は、遊び相手ではあっても、彼氏にはなれない。
何をしているんだろう俺は。
かと言って、紳士に振る舞うと言っても、自分なりに紳士に振る舞って食いつきがなかったりキモがられた経験しかないから、紳士にキモくなく振る舞う方法が、わからない。
丁寧にやり取りしたところで、キモくなって無駄に労力使って死に番率を上げるだけのようで、めんどくさい。
連絡取る気になれないし、既存もほぼ死に番だし、貯まってたいいねも使い果たして、全部リセットされたみたいだ。
生きていくことは失っていくこと。
やっぱり何も得られなくて、何もやる気がおきなくて、正月が明ける。
ボロボロになった時点で興味を無くしそうね。
それだけ基準が下がってる気がする。みんな弱気というか、ネガティブ思考というか
なんでだろうネットの発達と関係あるだろうか。ネガティブを発信するやつが増えたから(ツイッターとかで)、そういうのが当たり前になったのか
ようやくわかった。俺はかわいい女の子とセックスがしたい。で、かわいい女の子に好かれて、その子が俺のためにボロボロになっていくところが見たい。何もかも失って、損なわれていく様子が見たい。
狂ってるわ。
いや口で伝えてくれ。
(きこえますか…きこえますか…増田のみなさん…増田です…今…あなたの…心に…直接…呼びかけています…寒い日…シャワー…だけでは…温まらないときが…ありますね…そういう…ときは…脇腹…脇腹を…温めるのです…ここは…意外と…盲点…なのです…わかり…ましたか…増田のみなさん…増田です…今…あなたの…心に…)
もう何年も前の話になる。仕事が忙しくストレスが溜まる生活を繰り返していた俺は、週に1、2度都内のあるバーで飲んで帰ることが習慣化していた。繁華街からは少し外れたところにある特徴のないショットバーで、特におもしろいメニューも嗜好ももないが、質の悪い酔っぱらいも居らず、1時間程滞在しても自分以外に客がいないことも珍しくないことが魅力のバーだった。
ある金曜日の夜、多分22時くらいだったと思う。流石にこの条件で他に客がいないことは珍しいのだが店は空っぽだった。半ば指定席と化しているカウンターの一番奥に私が座ると、店を一人で切り盛りするマスターは慣れた手つきで私におしぼりと灰皿を出しながら「タイミングが良かったですね。さっきまで戦場のようでしたよ。もう今日は静かだと良いのですが」と語っていた。
しかし、私の最初のオーダーが手元に届き煙草に火をつける時、もう一人客が入ってきた。大学生くらいの若い女性だった。派手さは感じないが華やかさを感じさせる美しい女性で、失礼ながらこんな小さな雑居ビルに入っているバーが似合うような女性ではなかった。おそらく恋人か何かと待ち合わせだろうと思いながら、私は驚きのあまり不躾にも凝視してしまった目線をバックバーに移した。カウンターしかない小さな店だから、普通こういう状況ではマスターは私とは反対の、入り口に近い席を進めるはずだ。俺にできることは、後から来る連れが騒がしい男でないことを祈るだけだった。
ところが、どうやら驚いて一瞬固まっていたのはマスターも一緒だったらしい。なぜか一度俺と目を合わせたマスターが「いらっしゃいませ」と言い切るころには彼女は私と一席空けた隣に座ろうとしていた。奥から詰めたほうがいいだろうと考えたのだろうし、これだけならそれほどおかしいことでもないのだが、何だか少しドキドキしたことを覚えている。
マスターもそれは同じようで、どこかぎこちない動きで彼女にお絞りを渡した。この店はマスターの気配りだけは一流と言って差し支えないため、一見の若い女性が一人で入ってきたら、さも常にそうしていますという素振りでメニューを渡しそうなものだが、マスターは彼女にお絞りを渡したまま姿勢を正して硬直するようにオーダーを待っていた。妙なことになってきたぞ、とそう思った。
私とマスターがそうして硬直していると、彼女は小さな、それでいて良く通る声で「ザンシア」と呟き、私とマスターをもう一度硬直させた。居酒屋やダイニングバーで出るようなカクテルではないし、スタンダードであるかも怪しい。私もショートカクテルということ以外はどういうものかは記憶にないカクテルだった。流石のマスターは「はい」とだけ答え慣れた手付きでオーダーを作り始めたが、私は混乱し始めていた。彼女は確かに華美ではあるが水商売には見えないし、偏見だろうが女子大生がこんなカクテルに詳しいというのも不自然だ。見た目通りの年齢ではないのかもしれないと思いながらチラリと彼女を横目で見ると、バックバーを眺める彼女からはどこか幼さも感じ、余計に俺は混乱することになった。
彼女の正体について私が思いを巡らせながらマスターがカクテルを作る様子を見ていると、ザンシアというのはかなり強いカクテルのようだった。シェイクする分を考えても、40度はあるかもしれない。それがカクテルグラスになみなみと継がれる様子を見ると、本当にあのあどけなさの残る女の子がこんなものを飲めるのだろうか、という余計なおせっかいを考えざるを得なかった。
しかし私の心配は杞憂に終わったようで、横目で見ていると彼女は一息でカクテルグラスを半分ほど開けていた。私も酒に弱いわけではないが、真似できる気はしなかった。少なくとも試したところで酒を楽しめないだろうことは間違いなかった。ますます混乱する私がこの後彼女に声をかけられて、挙動不審にならなかったことは奇跡だと思う。
「ねぇ」彼女は俺のことを見て確かにそう言った。「煙草、分けて下さらないかしら」、と。一字一句間違いない。確かに彼女はそう時代がかった口調で私に煙草を求めたのだ。混乱に次ぐ混乱の中、重ねて言うが私がどもらなかったことは奇跡でしかない。
「どうぞ」と言いながら私は彼女に箱を開けた煙草を差し出した。彼女は慣れた手付きで私の持つ箱から煙草を一本取り出し「ありがとう、火もいいかしら」と答えた。またしても「かしら」だ彼女はいったいどこの世界からやってきたのだろう。
ごめん書くの飽きた