2019-09-04

スパコン事業仕分け再考

スパコン事業仕分け議事録と音声データは以下のサイトに置いてある。

https://blog.wktk.co.jp/ja/entry/2015/06/08/renho-super-computer-siwake

スパコン事業仕分けのはじまり

事業仕分けがはじまったのは民主党政権時代で、記憶曖昧なのだが、自民党政権時代無駄仕分けしようと意気揚々と打ち出された政策だったと憶えている。

事業仕分け話題になったのはスパコン関連の蓮舫氏の「2位じゃだめなんですか」発言で、当時テレビ等のメディアではこの発言ピックアップされ何度も報道された。スパコン事業仕分け自体は「予算計上見送りに近い縮減」として事実上の凍結で終わったのだが、このとき蓮舫氏の発言が非常にフォーカスされ報道された。民主党政権が力を入れる政策で、その担当に抜擢されたのがズバズバ物言う気の強い蓮舫氏だったが、そのくせ科学技術に疎い素人質問事業仕分けが進み、本来必要事業事業仕分け対象にされてしまったと、事業仕分けが残念な形で行われてしまったという風に報道されていたと記憶している。

Wikipedia事業仕分けでの議論の項を読むと、評価者(仕分け人)側の評価コメントは以下のようになっている。

色々書いてあるが、つまり方向性必要性を再考せよ」ということだ。というのも、当時の状況では「そもそもスパコンプロジェクトが本当に完成できるのか疑問」だったかである

スパコンプロジェクト問題

当時の状況としては、NEC日立富士通が3社共同で開発するはずだったが、NEC日立経営不振を建前上の理由撤退し、富士通1社で開発をするという状況であったからだ。「建前上」と書いたのは、企業事業撤退するとき理由はたいてい経営上の理由を建前とするからだ。このことは事業仕分け会議でも指摘されている。しか撤退条項しなので、特に罰則はなかった(たぶん)。その後、理化学研究所賠償請求NECに対してするが、逆にNEC側に未払いの開発費を払う形で和解している(なんじゃそりゃ)。ともかく、この「撤退条項なし」というのが嫌な予感しかしなくて、そんなゆるふわ契約プロジェクトを進めていているのか?という懸念は、「もしかしたら他にもずさんな計画を立ててるんじゃないのか」という疑念を抱いてしまう。実際、事業仕分け会議で様々な角度からスパコン開発の方向性スパコン必要性が突っ込まれるが、理研文科省説明者は窮地に追い込まれ人間特有迂遠言い回しで具体的な回答ができていなかった。といっても、説明者が会議で言っていたとおり、研究費用対効果は相性が悪いし、必ず実を結ぶ研究というのは存在しないので、断定的な説明を避けざるを得ないという点では同情する。

もう一点の懸念事項としては、富士通単独での開発になるので、その1社に多額の国家予算を割り当てるという形なる。これは富士通事業に失敗、撤退すると言い出したらプロジェクト事実上崩壊するという意味である。そんなことはないと信じたいが、ともかく、当初3社でやっていくと言っていた中、2社が撤退し、1社のみの力でやっていきますと言われたら、予算を出す方は当然「ちょっと待てよ」となる。逆に言えばそれを説得する必要があった。

2社が撤退したこと問題は既に発生していた。スパコン仕様変更のことであるスパコンの当初の仕様としてはベクトル型とスカラ型の複合だったが、ベクトル型を担当していたNEC日立撤退したので、富士通担当していたスカラ型単体のみに大幅設計変更する必要がでてきて、ソフトも頑張って書き換え中とのことであった(議事録に書いてある)。そして総予算1154億円のうち、すでに100億円の予算超過をしている。このような状況の中で、第一スパコンさらに700億の追加予算を投じるか会議をして、追加予算が可決されるほうがおかしい。「予算計上見送りに近い縮減」という終わり方をしたのは、ふつう合理的理性的判断だったと思う。

会議議事録だけではわかりにくいが、会議はかなり詰められる形で進行されている(音声を聞けばわかる)。そんな会議なので説明者は疲弊するだろうし、ところどころ支離滅裂で、抽象的な回答をせざるを得ない部分もあったと思う。ただまあ、「世界一を目指す理由をきちんと回答できるように」と事前に宿題を出されておいて、抽象的な解答しかできなかったのは、多くの人が言及しているとおり甘いとしか言いようがない。

国民夢を与える発言

世界一を目指す理由説明者が「国民夢を与える」と回答したとされている。これについて一つ擁護すると、この回答をする直前には文脈があり、以下のような流れになっている。

内閣府大臣政務官「(中略)ですから、皆さんが今、本当に国民生活に向けて、届けたいメッセージが何なのかということをお答えいただきたいのが1つと。(中略)もう一つは、(中略)果たして一時的にでもトップを取るということの意味が、本当にどれくらいあるのかということも、併せてお聞きしたいと思います。」

説明者「(中略)サイエンスには費用対効果になじまないものもございます(中略)」

中村進行役「その一般論は皆さん共通認識でございますので、これだけのお金をかけてこれを来年度やる必要性について、具体的にお答えください。」

説明者「こうした国民夢を与える、あるいは世界一を取ることによって夢を与えることが、実は非常に大きなこのプロジェクトの1つの目的でもあります。」

国民に向けてのメッセージ」と「一時的トップを立つことの意味」を問われ、説明者は費用対効果の回答をしている。この時点で支離滅裂なので疲弊していることが察せられるのだが、その後、説明者は改めて回答する形で「国民夢を与える」と回答している。

この「国民夢を与える」という回答は、直前の「これだけのお金をかけてこれを来年度やる必要性」に対する回答と見るのが普通なのだが、もしかしたら「国民に向けてのメッセージ」に対する回答だったのではないか、とも思う。まあ、だからなんだよという話なのだが、つまり言いたいのは、文脈無視した切り取りで一意に解釈されがちだが、必ずしもそうではないと言いたい。音声データを聞くとこのへんの詰められた感じが印象としてわかるので、それも込みで勘案してあげたいと思った次第である

総括

まあ色々書いたけど、最終的には削減予算が割り振られプロジェクトは再始動し、スパコンは完成した。しかも1位も取った(すごい)。結果論としてはスパコンプロジェクト成功だったと思う(そうだよね?)。しかし当然、当時からしてみれば未来というのは不確かなものなので、結果論のみで語られるわけにはいかない。やはり当時の状況としてはプロジェクト合理的必要性を説明できない上に、そもそもプロジェクトがうまくいくかどうかも疑問という中での「予算計上見送りに近い縮減」は、まあ普通に考えてそうだよね。といった感じ。

削減予算プロジェクトは再始動したが、金田評価者の「少し足りないぐらいが一番いい。物すごく足りなくては困るけれど、少し足りなくて努力させるくらいが本当にアイディアも出るんです。それが新しい研究分野なり産業なりを育成するかもわからないです。だから一番を取るというのは、おかしいと思います。」という言葉の仮説が強化されたように思える。当時そのまま予定通り予算が与えられたとき可能性として、(1) 京よりももっと良いスパコン誕生していた、(2)京と同等のスパコン誕生していた (3)京より劣ったスパコン誕生していた、(4)スパコンプロジェクトがポシャった、の4つくらいの可能性が思い浮かぶが、(1)が達成できていたとは思えず、むしろ…と思ってしまうのである。私も労働者で、常日頃潤沢な予算が欲しいと思っている立場にも関わらず。

あとやはり、音声データを聞くのが一番である会議雰囲気も伝わるし、議事録だけではわからない発言意志意図がつかみやすい。蓮舫氏の「2位じゃだめなんですか」発言も、蓮舫氏一人が尖った発言をしたわけではないことがわかる。むしろこれより以前に金田評価からフルボッコに突っ込まれているわけで、むしろそういう中で、蓮舫氏があのような回答しやすくわかりやす質問をしたと考えれば、あれは「助け舟だった」という意見が出てくるのも頷ける。前後のやりとりが苛烈すぎるせいか蓮舫氏のあそこの発言ときは声色が優しく聞こえるくらいである。

最後に、会議の中でプロジェクトの様々な問題点が浮き彫りになり紛糾しているのに対し、その中でもどうでもいい「2位じゃだめなんですか」発言ピックアップしバズらせ世間話題提供したマスメディアの手腕には脱帽するばかりである

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