1人で飯が食えないタイプだ。誰かと同じことをしていないと不安になってしまう人間だ。
当時、全く面白くもない『ダウンタウン』のお笑い番組だとか『エンタの神様』だとか、興味もない『ミュージック・ステーション』を見て、クラスメイトと話を合わせていた世代だ。
トレンドで言うなら、何が楽しいのかわからないけどオリンピックで金メダルすごいね!と語るタイプのつまらない人間が俺だ。
現代風に言うと、陰キャ。でも、人と話を合わせることで、なんとか立ち位置を獲得していた。
当時はハルヒやコードギアスが流行っていた。あとはスクールデイズだとか、ひぐらしだとか。とにかくそういうものが好きだった。今より少し、深夜アニメを見ていると公言するには恥ずかしかった時代だ。
名前を仮にNとしよう。
Nは学活というものを極端に嫌うやつだった。合唱祭の練習だとか、文化祭の手伝いだとか。
「みんな積極的に出ようね」という空気はとにかく読まず、自由参加と銘打たれた活動に一切姿を現したことがなかった。
でも、頭はよかった。5教科の総合成績で、いつも1番か2番になっていた。特定を避けるために詳細は書かないが、とある学問分野で全国的に表彰されたりもしていた。
だからものすごく嫌われていたと思う。そして、多分Nも俺達のことが嫌いだった。給食の時間だとかに、Nが口を開いているのを見たことがなかった。
Nはバラエティ番組の話を一切しなかった。オリンピックの話を一切しなかった。
大衆娯楽というやつを、Nはとにかく見下していたのだと思う。やつは二次元狂いだった。昼休みは常に図書室に籠って漫画やラノベを読んでいた。
なんでそんなことを知っているのかというと、一時期、俺も昼休み、中二病にかかって、図書室でラノベを読みに通っていた時期があるからだ。
その行きと帰りの道で、必然一緒になって、Nと話す機会が何度かあった。教室に戻ると、Nはとにかくこちらから話しかけてもほとんど空返事しかしない男だったので、その道中で話すしかなかった。
Nは話してみると面白い人間で、オールラウンダーなヲタクだった。
少しハルヒの話を振ると、Nは「ハルヒは嫌いだ」と前置きをした上で、元ネタのSF小説の話を初心者にもわかりやすく、ジョークを交えて教えてくれたし、歴史系の話をすれば、聞いたこともない武将や各時代のエピソードを色々と語ってくれた。
アニメや特撮についても勿論詳しくて、押井守の批判だとか出﨑統のすばらしさを語って(今思うと彼も中二病だったのかも)、まんだらけに行って原画や資料を眺めるのが楽しいと嬉しそうに話していた。
映画も大量にTSUTAYAで借りて見て、聞いたこともないような芸術雑誌や文芸雑誌、科学雑誌を何冊も買っているようなやつだった。(Nは俺がそれらのジャンルを知らないとわかると、一切その話をしなくなった)
ただ、Nにバラエティやオリンピックの話をすると、途端にやつは不機嫌になった。俺は慌てて話題を変えたものだ。
その時に、Nは言っていた。「パチンコだとか競馬だとAKBだとか、ああいう趣味にハマっている大人はダメだ。嫌いだ」と。
俺はなんとなく、鼻が高くなったのを覚えている。多分、俺はNの存在に救われていたのだと思う。
きっと、キョロ充である俺が到達するのは、そのような「つまらない大人」に違いないと諦めていたからだ。そして多分、俺もまた人とのコミュニケーションにうんざりしていたからだ。
人と同調して中身のない会話をして、なにやら冗談を言って笑わせて。自分のためではなく他人のためのコミュニケーションが、俺は嫌いだった。
俺は無能だったし、人から孤立するのが怖かったから、キョロ充をしていた。でも嫌だった。N以外のクラスの人間と話したり遊んだりするのが苦痛でしかなかった。
でも、Nは違った。自分の能力で他人を黙らせて、好きな物だけ摂取して、自由に、生きたいように生きているように見えた。
他人に流されない、気高い孤高の男で、俺はいつかNみたいになりたいと思った。
ヲタクとして、Nはきっとクリエイターや評論家になって、多くの人を唸らせるような、美しいものを表現するに違いないとすら当時の俺は確信していた。学生時代にコイツと時間を共有したことをいつか誇ろうと算段していたのを覚えている。
前置きが長くなった。
卒業と同時に離れ離れになったNと、先日、俺達は東京で再会したのだ。偶然のことで、たまたま映画館で『閃光のハサウェイ』を観た時、横で限定版のBlu-rayと『夏への扉』のパンフレットを買っていたのが、Nだった。
Nに話しかけ、俺のことを覚えていると知った時、嬉しくなって、うっかり「飯でも食わないか?」と誘った。
「しまった」と思った。
Nは、これからハサウェイのBlu-rayとパンフレットを自宅に帰って観るのを何より大切にするような人物だと覚えていたからだ。
だが、Nは、「いいよ」とアッサリ快諾してくれた。
俺もまた、ウマ娘をやっていたので、「推しはタキオンなんだよ~」とか、中身のない会話を続けた。
Nは、俺とアイドルライブの話をした。BTSの話をした。オリンピックの話もした。
俺は勝手に失望していた。Nは、きっとあの幼き日に、彼が嫌っていた大人そのものになっているように見えた。
酒の話、サウナの話、競馬や野球の話をする。全てNは自分の体験談も交えて応じてくれた。
試しにパチンコの話をすると、ミリオンゴッドとかいうよくわからない機体の話をペラペラと話していた。
Nは、大衆に呑まれていた。低学歴のオッサンが好むような、侮蔑するべき酒だのサウナだのパチンコだのアイドルだのの話をしていた。
一番やつが嫌いそうな、バラエティ番組にも、随分と詳しくなっているようだった。
どうしたのだと聞きたくなった。
お前は、俺とは違うんじゃなかったのか。
他人なんて気にせずに、自分の道に邁進して、人の顔色を伺うようなつまらないコミュニケーションは決してしない、そういう男ではなかったのか。
学生時代にお前が探求していたに違いない、美しいものは何処に行ってしまったんだ。キョロ充の俺とは違うんじゃなかったのかと。
孤高のヲタクは、どこにいってしまったのだ。俺は辛かった。そして、その辛ささえもあまり感じなくなっていた俺自身が、何よりも辛かった。
若い日の憧れも、時間と社会経験によって、すっかりと洗い流されてしまっていたのだ。だから、きっとNもそうに違いないと思った。
社会は独りで生きていけるようにはできていない。今は特にそうだ。
1億総オタク社会だとか、1億総陰キャ時代だとか揶揄するやつがいるが、それは違う。
今は、『1億総キョロ充時代』なのだ。SNSは、下らないキョロ充を量産するための装置に違いなかった。常にみんなが、人の顔色を伺ってコミュニケーションを取っている。
キョロ充だけれど、きっと充実しているのだろう。だからいいじゃないか、としたり顔の大人達の声が聞こえてくるような時代だ。
だから仕方のないことだと思った。Nも、「上手く他人と生きる」つまらない人間、否、正しい人間に進化したのだと、自分を納得させた。
他人が見たい仮面を必死に作るのが、正しい生き方でありコミュニケーションの本質である。そして低学歴趣味とは、その本質にとって最高に都合のいい道具なのだから。
でも、それでも俺はNに、お前、どうしたんだよと聞きたくなった。
聞きたくなったので、聞いた。正直に、「パチンコとか競馬とかバラエティとか、あと流行りのウマ娘とか、そういうの嫌いだと思ってた」と。
Nは、俺の顔を見て、笑って言った。
「当たり前じゃん。今言ったやつ、全部大嫌いだよ!」
Nの目はドス黒くて、世の中全てを見下していて、それでいて、とても楽しそうだった。
俺は、最高に嬉しかった。その後のことは、あまり覚えていない。とにかく、Nの職業が何なのかは、あえて聞かないで別れた。
何故なら、確信したからだ。やつはきっと、多くの人を唸らせるような、何かを創り上げているに違いないと。
勿論その日、NとLINEの交換はしなかった。
うっせー、長文野郎!さっさと、寝ろ!
応援 ありがとう!
こいつ無敵か?
お前が弱すぎる
「若い頃のいじめ、性犯罪は時効になる」 逆やん。むしろ、忘れられる権利がなくなって、増田に無限にネットレイプされるじゃん。認知の歪みが、ありすぎる。
サブカルやオタクの選民意識がピンとこない世代で今もなおないんだけど 増田みたいな何者病の奴は確かに気持ち悪いと思う けどそれは時代じゃなくてパーソナリティの問題だぜ
自分が何者なのか悩まないのもそれはそれで自分が無さ過ぎねえか?
マジレスするけどそれ自体が誇大妄想の類いだって気付いて 世の中の人は何者妄想は持っていない あと考えが浅い それから追記した 強いて何かのせいのできるなら小金持ち...
オーケンならオーケンののほほん日記の方が好きだが?
やっぱそっち方面の人か しょんもりするね サブカルを口にするのが恥の時代が来ているのかもしれない
そもそもサブカルってのはサブなんだから サブカルがオシャレって時代の方がおかしいよ アウトサイダーはアウトサイダーらしく他人に馬鹿にされて生きようぜ
サブカル好きとか昔から馬鹿にされてたからw
いやまあ小山田とか小林はサブカルの中ですらメインストリームじゃない人達なんで… サブカルの寄生虫っていうかさ…
さくらももこ も 椎名林檎 も カヒミ・カリィ もあげたらきりないくらい 繋がりあるぞ
繋がりがあるからって小山田がメインストリームじゃないだろ
じゃあ何のために繋がるんだ? 仕事・知名度があるからだろ
メインストリームじゃなくても繋がれるだろ…? 周り差っ引いて小山田ってクリエイター単体で本流名乗れんのかって聞いてんだよ
名乗れるんじゃね?
めっちゃN君に気遣われてるやんけ キョロ充にすらなれてなさそう
元増田が流行り物に乗れない可哀想な人間なの察知してNが空気読んで話合わせてくれただけだよね
そんなことないだろ…
めっちゃN君に気遣われてるやんけ あぁそれだ! 好きでもないキョロ充向けの話題を振ってくれてたんだな
N君はちゃんと成長してるのにキョロ充気取ってる元増田は成長できてないという高度なギャグなんだよねこれは。 でも2000年代に青春すごした人って当時流行ってたラノベに被れてこん...
クリエイターがお前が低学歴って見下してる趣味のオッサンばっかりなのに何いってだコイツ
いや正直気持ちわかるわ。 オタクもコミュ力必須とか狂ってる。 Twitterのオタクとか流行りの絵しか描かねえし お前ホントにそのコンテンツ好きなんか? って問い詰めたくなるわ
昔のオタクの方がコミュ力必須でしたが。今みたいにネット配信とか無かったから映像はオタクの家でダビングするしかなかった。 レベル高いオタクになろうとしたらコミュ力が今より...
イギリス電通や銀行が作ってきた植民地文化に対してアンチを装うのは自由だが、それもまた植民地ならではの反抗スタイルに過ぎない たとえ植民地状態を脱するために植民地を得たと...
植民地関係ある?
勉強のために趣味以外に自分の興味が薄い分野まで手を伸ばして吸収して、さらに久々にあった知り合いに話を合わせてくれる、何者かになった友人と、なんの趣味もなく空気も読まな...
増田は友人に好かれてると勝手に思ってそうなのが救えない
そもそも連絡も特に取ってなかったっぽいし友人ですらないでしょ。 オタクってキョロ充のことクソ嫌いだから元増田めっちゃ嫌われてそう。そんでこのお気持ち表明って自分がその立...
実はすごく共感したんだが増田には響かない人多そうだな 案外00年代世代少ないのかここ
草 どうでもいい人生すぎるだろ