シン・ゴジラを見てきたのだけど、普通に面白かったのだけど、面白かったけどイマイチだと思う点が多かった。
なんとなく原因はわかってて、SF的な部分に気になる点が多かったのと、シン・ゴジラの長所が自分にとって重要ポイントでなかったのが原因、要するに好み。これはカレーが好きとかラーメンが好きとかと同じような話なので、別に好きな人を批判したり見下す意図はありません、この映画が好きな人とは友だちになれると思う。
以下理由と雑談。勘違いもあるかもなのでなにかあれば指摘してもらえると嬉しい。
出てくる科学者が知識としても思考としても科学者っぽくない。自分が科学で飯を食ってるので余計に気になる。オデッセイレベルは無理としても...
・ゴジラが変形したのを変態でなく進化だと呼ぶ。いや変態でしょ。「ゴジラの細胞を分析した結果通常の細胞分裂で突然変異を繰り返しており...」とかそういうSF的な説明があった上で科学者が「これは進化だ」と結論付けるとかだったら個人的には盛り上がったと思う。
・普通ゴジラの通り道の空間線量が変わってるなら「ゴジラが放射性物質をくっつけて歩いてる」が最初に来るべき仮説でしょ。なぜそれが出ないのか。
・ちょくちょく規制庁管轄らしい線量測定を「サーベイ」って表現してて、それも違和感、定点観測はサーベイとは呼ばない。多分モニタリングポストの空間線量。
・「0.4μSvという微量」とか言う会見とニューステロップ。文脈からしてμSvはいわゆる空間線量を言っているのだと思うので、その場合単位はμSv/h、つまり、そこに1時間いた時にどれだけ被爆するか。μSvだけだとなんらかの時間での積算線量とかになる。この差は地味なようで「秒速〇〇発打てる機関銃」と「今日は〇〇発打った」くらい違う。少なくとも「自分のいる場所がどれだけ危険なのか知りたい人」にとってはとても大事な違い。
・「遺伝子情報が人間の八倍だから最も進化した生き物」遺伝子情報の多寡は進化の度合いと比例しない。そもそも最も進化したって何?進化の回数(これも定義が難しいけど)なら虫とか世代交代の短い種の方が多いだろうし、頭が良いとかでないのは劇中から明らか、なら何を持って「最も」なんて言うのか、科学っぽくない表現。
・一回目の上陸時、ゴジラは冷却のために海に戻った。なら、二回目に来た時にも「温めたら放熱できなくなって海に帰るんじゃねーの?」ってなんでならなかったのか。
・確信がないのだけど、劇中でゴジラは体液の循環で体内の原子炉を冷却してるから、体液を凝固させれば動きを止められる。的な話をしてた気がするんだけど、これ、凝固させたら冷却不全になって次に来るのは過熱だと思うんだけど、なんで最後凍ったの?あまりに不整合なので、これについては自分が何かを勘違いしてるのかもしれないと思ってる。
・飛んでるものを撃ち落としただけで「フェイズドアレーレーダーと同じような機関が」って飛躍しすぎじゃないかな。撃ち落とすことが可能なだけなら超音波でも良いしめっちゃ耳が良いでもいいしちっちゃな目が実はあるとかでも良い。なんか測定したっって言ってたっけ?
・半減期20日程度の新元素なら、1-2日もあれば半減期の推定はできたはずで、ゴジラを倒してから判明するのは作劇上の都合なのが露骨でちょっとな...
・なんで凝固剤を口に入れたら飲んでくれるの?なんで飲んだら血液に混ざるの?口に入れても吐かれるかも、消化器官で分解されるかも、そもそも口から入れて体液に混ざるの?と疑問は尽きない。
・口に凝固剤を入れるシーンのゴジラの口が下を向いているのであれ流し込んでも重力で流れ落ちるだけでしょ。あの「かみ合わせの悪そうな口」の隙間から。
・最後凝固させてなんで冷えたのか、なんか-196℃(液体窒素温度)って言ってたと思うんだけど、凝固剤とゴジラ血液の反応が吸熱反応だったのかもだけど、そんなところまで冷却させられる化学反応ないでしょ。多分(専門外なので確証はない)。冷温停止がモチーフなら室温で良かった。
全体的に、実在の地名を使ったり自衛隊とか会議とかについてはリアリティがあったり、専門用語がそのまま出たりとリアリティに寄せてるのにSF部分が整合性を投げてる感じなのが落ち着かない。あと、どう見ても福島第一原発事故を意識している作りなのに放射線関連での用語や放射線に関する知識の部分がグダグダなのが謎。個人的には現実には無いとしても、SFだし放射性物質を分解する生物とかそういうのは嫌いじゃないです。
2つか3つなら気にならないけど、ちょっと多い。感覚的にはひっきりなしで出てくる感じ。インターステラーとかグラビティとかオデッセイとかでもこういう違和感はあったけど、頻度が違う。
あまり好きじゃない、これはSF的な所よりもさらに好みの問題。
・閣僚11(?)人が死んだことで政府が変わるきっかけになる的な描写はなぁ...政権交代時はもちろん、自民党政権内ですら総理が変われば閣僚も入れ替わるけど本質的な政府の機能は変化しないのはご存じの通り。閣僚は目標等を決めたりできるので影響は大きいけれど実運用は官僚のしごとなので閣僚が変わっても組織は変わらない。臨時総理が若手に譲る的な意思を見せたのかもだけど、死んでない政治家達は生きてるわけだよね。
・省庁の縄張り意識悪玉論とかもちょっと出てきて安易だなぁと思った。じゃあお前、連携したくてもどこの誰に問い合わせたら良いのかもわからない状態で連携できるか、ったら無理でしょ。突然連携しろと言われてできないのはしょうがないよ。
・なんで誰も「核兵器でゴジラを殺した場合に死ぬ人の数」と「ゴジラを倒せなかった場合に死ぬ人の数」を天秤にかけないのか。唯一の核兵器使用容認の先輩的な人も国際政治的な理由で、登場人物の価値観が判で押したように反核兵器使用なのが気持ち悪い。全編通じて誰も「どの選択肢が一番多くの命を救えるのか」という論点を持つ人間がいない。政治家なのに。
庵野さんのかっこ良いビーム演出とかがさほど好きではない。あまりにも旧作のゴジラ達に思い入れが強すぎて、斬新な演出の庵野ゴジラが好きになれなかったというところもある。この点はギャレス版ゴジラのほうが好き。
斬新であるところは大多数の人にとってはむしろ良い点だったんだろう。
・主人公とか人間の演出とか好きな点が多い。大統領になるとか総理大臣になるとかちょっとくすぐったいけど、いろいろな人が一生懸命なのは良い。
・散々言われているけど臨時じゃない総理大臣とかも含めて「無能キャラ」がいない。馬鹿な勢力もいない。ゴジラがすごすぎるだけってところがかっこ良い。
・総理が閣僚と一緒に死んだシーンは、災害の理不尽さみたいなものを感じて良いなって思った。でも最後まで見ると、あれはエピローグ後に「スクラップアンドビルド」って言わせるための作劇上必要な死だったのかなってなってちょっと残念。
・ゴジラがかっこ良かった。言葉使いの所でツッコミはしたけど、ゴジラは進化し続けていて変形していく、というのも良いギミックだと思った。
次回作があったら見ると思う。
覚えてる範囲で ・ゴジラが変形したのを変態でなく進化だと呼ぶ。いや変態でしょ。「ゴジラの細胞を分析した結果通常の細胞分裂で突然変異を繰り返しており...」とかそういうSF的...