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2015-10-18

皆さん、阿部洋一という漫画家を御存知でしょうか

阿部洋一という漫画家がいる。

彼の独特な作風は間違いなく評価されるべき才能であると思うのだが、ものすごい不遇。圧倒的に不遇。

地味な作家ならいろいろ打ち切られても当然だと思わなくはないのだが、彼に関しては間違いなく光る何かを持っている。それでいて埋もれている。

グーグル画像検索してみれば独特なのはすぐにわかる。


まずデビュー作の「少女奇談まこら」という作品があるのだが、これは未だ完結していない。

この作品原作付きで、原作平野俊貴魔法騎士レイアースなどの監督植竹美男アニメ脚本家)の2人。

ゲゲゲの鬼太郎」をオマージュした妖怪漫画で、妖怪皇の血を引く少女まこらが、お供の妖怪と共に父母を探す旅に出るお話

2006年リイド社月刊少年ファングで連載を開始したのだが、1年後にその雑誌休刊

作品自体は好評だったようで、その後、講談社ピテカントロプスというウェブコミック誌で「まこら〜ひひひ怪々伝」に改題して連載再開したのだが、これも08年の終わりあたりに突然の更新終了。無念。

その後、しばらく「まこら」は音沙汰がなく打ち切り状態に。

その間に、講談社別冊少年マガジンで「バニラスパイダー」が連載開始(2009年)。

別冊少年マガジン創刊号の連載陣としてラインナップされ、そのおどろおどろしい世界観SF的なストーリーでそこそこ注目された。

原作無しの完全オリジナルの連載は初めてだが、きちんとストーリーも書けることを証明してみせたわけだ。

だが、別マガには他に同じようなおどろおどろしい雰囲気を持った怪物的な作品があった。

そう、「進撃の巨人である

こちらの作品は瞬く間に注目され、あっという間に人気作に。

一方バニラスパイダーの方は一部で話題に出るもの特にブレイクはせず、地道に連載を続けていたのだが、結局3巻で打ち切られることになった。

別に巨人」に何の罪もないのだが、完全に陰に隠れてしまった感がある。

実はこの作品、3巻でものすごくきれいにまとまった傑作なので、最初から3巻の予定だったのでは?という疑問も浮かぶのだが、

序盤に出された伏線が回収できていないことと、3巻での作者のコメントを見る限り「打ち切り」だったのは間違いないと見ていい。


とまあここまでならありきたりな話だが、阿部洋一の不遇はまだ続く。


バニラスパイダー終了後、2010年末に今度はアスキー・メディアワークス電子コミック誌電撃コミックジャパンで「血潜り林檎と金魚鉢男」を連載開始。

コミックジャパンという名が付いてる時点で嫌な予感がするのだが(過去に短命に終わった同名の雑誌が2つある)、先に言ってしまおう。これも休刊する。

しかも、こともあろうに阿部洋一はこの雑誌で2つの連載をしていたのだ。

1つは前述の「血潜り~」、そしてもう1つはなんと連載を休止していた「少女奇談まこら」だったのである

「まこら」連載再開時には大きく「復活」と取り上げられ、それまで発表された話数に加筆修正を加えた「完全版」の刊行、そして最後まで連載するという宣言もあり、ファンを歓喜させた。

そして「血潜り」と並行して連載されることになったのだが、結果は御存知の通り休刊で連載中断である。ひどい。

「血潜り~」は奇抜な設定の漫画で、第15回文化庁メディア芸術祭マンガ部門審査委員会推薦作品に選ばれたりとなかなかの高評価を得ていた。

「まこら」も連載再開後のエピソード「夢華族」が傑作中の傑作で、この作品はもう名作になること間違いなしだな、と勝手に思っていた。

それが休刊で2つ同時に中断である。「まこら」に関してはぬか喜びもいいところである

休刊時の発表では、打ち切りではなく今後の動向は追ってお知らせするとなっていたが、いつまで経っても発表はされず、ついにはサイトまで消滅してしまった。


1つの連載作品で3つも休刊経験するなんてなかなか無いことで、よくわからない称号を得たような感じすらある。

その後はまた別マガで2013年に「橙は、半透明に二度寝する」を連載開始したり(2015年中に完結予定、打ち切りかは定かでない。既刊1巻)、

集英社ウルトラジャンプで短期連載の「オニクジョ」を含め読切が複数回掲載され、短編集が発売されたり、

デジタル版に完全移行したコミックアーススターで「新・血潜り林檎と金魚鉢男」として連載が復活したり(これまた新装版が発売されるようだ)(雑誌雑誌なだけにまた休刊するんじゃないかとの声もある)

と、なんとか漫画家を続けてこられている。(しかし「まこら」は音沙汰なし)

これはもはや逆に考えて幸運なのか・・・

とにかく阿部洋一という漫画家もっと知られてもいい。

ネット上でオススメ漫画とか紹介するのが流行ってたりするみたいだが、そこにもほとんど顔を出さない。

完全に主観だが、間違いなく才能ある漫画家なのよホントに。

少女奇談まこら」はマジで傑作。「橙は、半透明に二度寝する」もとてつもない怪作。オムニバスなんでとりあえず1話だけでも。(http://www.shonenmagazine.com/bmaga/daidaiha


というわけで、皆さん是非読んでみてね。(わざわざ言わなくてもいいと思うけど、本人じゃないよ)


(追記)

ブコメに「総合マンガキッチュの話はしないのかい?」とありましたが、はい

キッチュ」は同人誌に近いマンガ誌で、編集長阿部洋一氏と同じく京都精華大学マンガ学科ストーリーマンガコースの一期生であるという繋がりからか、作品がよく掲載されています

しかし残念ながらまだこの雑誌を読めていないんですよね。

「それはただの先輩のチンコ」とかいタイトルだけで気になる作品とかもあったりするんですが。

http://studiokitsch.info/about.html

2014-12-01

希望原理

 

大分県国東市周辺で開催されていた国東半島芸術祭で「希望原理」という展示を見た。

使われなくなった町役場を会場に複数作家作品が展示されていた。

 

面白かった。

廃校になった学校や町中の施設で展示を行う、というのはよくあるが、たいていは面白く無い。

美術館ギャラリーで見た方がまだましなんじゃないかという展示だったり、

会場との関係性に媚びすぎて作品自体がどうでも良くなっているものだったり。

見ているうちにこちらが白けてしまう。

 

良い作品出会った時、面白いものを見た時に共通することがある。

 

その前に、もう一段階前の話。

美術館ギャラリーちょっと面白かったり、楽しめたりする展示に出会うことある

学芸員キュレーターの熱意や愛情が伝わってきたり、

作品作家の態度がきちんと反映されていたり。

見た後に「面白かったな」と思える展覧会

ただ、それは「見て損しなかった」という感覚にも近い。

録り忘れたなら見なくてもいいけど、なんとなく毎週見てしま寡作テレビドラマアニメ

単行本は買わないけど、雑誌立ち読みでは読んでしまマンガ。みたいな。

 

そんな展示を見ている時、実は作品をあまり見ていない。

この作品はこういう仕組みで動いているな、この作品の素材は何々かな、

誰それの影響を受けてるっぽいな、ここのとこ仕上げは手抜いてるな、

設営は大変だっただろうな、低予算ぽいのに工夫してがんばってるな、

などなど、ついつい作品の外側の部分に思考が行ってしまう。

作品や展示だけでは弱いから。物足りないから

 

 

良い作品出会った時、面白いものを見た時、

そういう余計な思考はいつの間にか消えてしまう。

鑑賞を終えたあとで振り返ってみれば、何か日常と切り離されて異空間にでも居たかのように感じる。

その感覚は、作品自体の詳細は忘れてしまっても記憶として長く残るように思う。

なにか良いものを見た、という記憶として。

 

本展では、個々の作品が全体の要素として上手く機能していたように思う。

個々の作品が、自我を主張しあうのではなく、溶け合おうとしているわけでもなく

なにか塩梅良く存在していた。

悪く言えば、何か強烈に印象的な作品があったわけではなかった。

(いや、会議室で展示されていた映像作品は、それだけでとても印象的ではあったが、

それでも会場全体の中の一つとしても機能していた。)

にもかかわらず、小品まで記憶に残っているのは

余計なことをあまり考えずに鑑賞できていたからかもしれない。

 

町役場廃墟が非日常的であり、日常から切り離されるのに一役買っていたかというと

そうではなく、作品現実と非現実の間を縫うように展示され

少しずつ「本当にあった景色」を「どこにもなかった景色」へと空間を歪ませていく。

観覧者はその歪(ひずみ)へとしらないあいだに踏み込み

現実と非現実を横断し、自分自身記憶思考を巡らすことになる。(なった)

 

展示の中に虫の標本のようなものがあった。

町役場内の元々あったとは思えない場所に虫を置いた瓶が並べられていた。

それとは別に赤いブロックで囲まれ植木のような作品の縁に一匹

死んだコオロギ(?)があきらかに意図して置かれていた。

会場内(廃墟)の別の場所、「保健室」と入り口にある部屋の流しにも

さなコオロギの死骸があった。

それは意図して置いたようにも思われるし、会場が田舎であることも相まって

そこで死んでしまっていたようにも思える。

そこで、空間が歪む思いがした。

本当にあった景色」と「意図して作られた景色」が

擦り合わされ混濁し、見るものの足場をぐらつかせる。

 

 

虫の死骸一つで、見える世界が変わる。

 

そんな印象を持って、会場を出た。

 

 

 

http://theprincipleof.org/

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