2023-12-25

水星魔女公式ガイド本の監督インタビュー、意外性・驚きに満ちていた

12月22日に発売された公式ガイドブック、The Report of 機動戦士ガンダム 水星魔女 Season2を読んだ。

電子版があったのでポチった)

個人的に、監督インタビューが最も収穫が多かった。

 

毒親もの」のつもりは無かったらしい

スレッタ・ミオリネ・グエルの親が全員毒親かつ、大河内節全開な描写が非常にキャッチーであり、

シャディクとサリウスは養子養親関係だったこともあって、「親子関係」で注目されていた水星魔女

監督インタビューによると、親子関係の辛さに限定せず敷衍して、今の人たちが抱えた様々な「生きづらさ」を重ねて見てもらい、

その「生きづらさ」の克服や救済を描きたかったのが今作らしい。

それが親子関係に「矮小化」されてしまったのは大きな反省であると言っていた。

 

監督的には、「毒親バズのガンダム」という受け取られ方は意図しないものであったらしい。

水星魔女を「毒親もの」と受け取り、生きづらい自分虐待被害者である自分、などを重ねて見ていた層は、

世代因果や大量殺人なんやかんやで子世代が肩代わりして償うようなエンディングを見せられて、

生きづらさを克服して救済されるどころか最終回後に呪詛を吐き始め、炎上していた記憶があるが、

全体的に「監督としてはそんなつもりはなかったのにそうなってしまった」という印象があるインタビューだった。

 

私刑反対」「許すことが大事」を描きたかったらしい

監督は「司法から外れた主観的正義制裁行為の横行」に対して問題意識を持っており、

シェイクスピアテンペスト」の主人公プロペローが見せた「赦し」を今作で描きたかったため、

デリングやプロペラが死をもって罪を償う終わりにはしたくなかったそうだ。

 

しかし今作の世界観は、司法制度機能していない、鎌倉時代レベル自力救済世界だ。

貧民で人体実験して殺していたペイル社のCEOは、殺人の罪で司法に裁かれることもなく自由暮らしている様子で、

特に贖罪などの描写もなく、殺されていてもおかしくなかった5号も彼女たちを赦したようだ。

(5号はベルメリアにはキレていたが、ベルメリアにそうさせているCEOにはキレるシーンすら無かったんだよなあ…)

シャディクは逮捕されたが、やっていない罪を背負って司法制度をハック(?)している。

ニカは三年服役したが、シャディガールズは無罪という、この…。

 

司法制度加害者贖罪、両方を非常に軽視したエンディングを出しておきながら、

私刑反対」とだけ言うのは、「人が何に苦しむところから私刑が生まれしまうのか」についての考えが浅すぎるのではないだろうか。

被害者加害者を許すべきという強い思想が先行しており、「自力救済蔓延を防ぎ秩序をもたらすための司法制度」という前提の欠如を感じた。

監督自身自覚があるようだが、親世代実質的勝ち逃げして、子世代がやってない罪で大きな負債を背負いながらも

世代を赦しているというのは、結構強烈な主張であると感じる。この価値観を、日5ティーン向け作品で?

 

保護責任についての独特の感覚

公式ガイドブックに載っていて驚いた記述が、ラウダはグエルに密かにコンプレックスを抱いていたのが爆発して殺しかけたというものだ。

てっきり、ペトラ危篤錯乱して、ラウダ本人も自分が何をやっているかからない状態になっていたのかと思っていたが、違ったようだ。

しかしミオリネを殺そうとしてグエルを殺そうとするのが、錯乱でなくて何だというのか…謎戦闘にもほどがあるだろ。放送時に充分に叩かれてはいたが。

また、ブルーレイの特典コメンタリーで、ラウダの襲撃は弟を放置したグエルに責任があり、グエルがダメな兄であったことを皆に謝罪する一幕があるらしい。

何を言っているのかわからない。弟に殺されかけた兄が、弟を暴れさせてしまった責任について皆に謝罪…?

思えば本編23話のフェルシーのセリフからして、弟に殺されることを受け入れたグエルに「何を死のうとしているんだ」と叱るような姿勢だったし、

一方的攻撃されてグエルが防戦していたのに「兄弟喧嘩」と認識されていたのも、違和感があったのだった。

 

監督インタビューによると、魔女とは生きづらさを抱えガンダムを用い、魔女狩りに糾弾される者であるらしい。

ジェターク兄弟の話は、あくまでラウダの生きづらさ(兄に並べないコンプレックス)に寄り添うもので、

ガンダム無しでも優れたパイロットである兄とガンダムを用いることで拮抗、「救済」されて、「健やかな精神」を手に入れて「自分の道」を歩めるようになる話だったのか。

グエルはなぜ長男というだけで次男のためにここまでやる義務を負うのか…? 令和の日本は炭治郎に呪われてないか

しかもこの価値観監督一人だけおかしいといったことはなく、本編(監督脚本)・コメンタリーガイドブック編集など公式姿勢統一されているようなのだ…。

 

シャディクが、ミオリネがクイン・ハーバーの件で報道されているのを見て「ミオリネを穢したな」と、グエルの責任であるかのように認識していることにも引っかかっていた。

マルタンがニカの連絡係疑惑についてフロント管理社に報告したことも、寮長なのにチクったマルタンの罪とみなされており、この作品姿勢理解できずにいた。

どうにも、マルタンシャディク・グエルといった「男性の長」が、他人の分まで責任を引き受けて罪を背負い謝罪すべきという、個人主義とは違う感覚公式通底して在るようだ。

ペイルCEOプロペラやミオリネは「女性の長」だが、これに当てはまらない。監督ジェンダー意識していないとは言うが、非常に引っ掛かりを覚えるエンディングだ。

 

まとめ

やっと提示された監督による答え合わせが独特すぎて、追いつけないスピードだ…というのが個人的感想だったが、

10年後20年後、古臭い価値観に満ちた作品に見えるのか、課題に対する解答の糸口となるエッセンスを持っていたのか、確認できたら」

監督言葉にあった通り、今後価値観なんてどう変わるかわからねえからなあ。

でも今は怖くて飲み込めねえわと思った。特にエラン4号・グエル・シャディクのポジションなんか、誰も引き受けたくないだろ、って。

スレミオの結婚よりも、御三家役回りのエグさに関心を持ってかれてる時点で、対象顧客じゃなかったのかもしれないが。

要するにすべては百合の背景だったんだわ。背景に固執する、奇妙な視聴者だったんだわ。

  • 百合アニメに本格的な政治描写を求めた馬鹿

  • 水星の魔女の小林寛監督のインタビューを読んだんだけど、小林監督は就職氷河期末期の世代で、 コロナ禍における「ブーマーリムーバー」のムーブメントを見ながら、年配世代への排...

    • だって親じゃないし

      • 親にならなければいつでもティーンの精神でいるとしたらえらいことやね

        • でも10代の気持ちで常にありたいな

          • それって、大人役を他人に押し付けたいってことですよね

        • だってまだ清い身体だよ 下手すりゃティーンの方が進んでるでしょ 経験させてもらえないのに責任だけ押し付けられても

          • 同年代の異性が全く同じ主張をしていたら気持ち悪いなって思うはずです それが鏡ですね

            • その想定だと、早くセックスしたいと思ってる同年代の異性がいるってコト…!? 最高じゃん結婚しよ

            • 別に思わんよ 私は女だけど同世代の男が同じ主張をしていても特に気持ち悪いとは思わない

        • ×ティーンの視点 ○子供の視点 子供の視点を忘れないのは寧ろ良い事だろ。

    • びっくりするくらい時代錯誤なエイジズム全開で二度見してしまった。40年くらい前のドラマに出てくる老人みたいな古さ。年功序列意識がどこまでも内面化されているんだね。これがも...

      • あー、またひとのせいにしてるー

      • 40代が15歳に理解者面したら「分かってないな」となるのは当然のことだよ 実際水星は10代に全くヒットしなかった

      • 監督自身が世代論やってるんだから世代論で応答されるのは仕方ないのでは

    • 「ある特定のティーン」にとっての親は「氷河期世代」ではなく「ある特定の親」でしかありません。個別の関係性を社会全般に広げようとするのが間違い。序に言えば困窮している子...

      • 「親と同世代なのに仲間のつもりのキモい大人」なら沢山いるじゃん

    • だいたいがジャリ番なんて二十歳超えたら立派な大人ぐらいの雑な感覚だろう

    • ? なんで他人の子どものことを気にする必要が?子どもを持つかどうかは個人の自由になったのだから子育てに使った税金を返すべきですよね。

      • ティーンに向けて作ったアニメがティーンにウケなかったこと話してんのに

    • 実際は「ティーンに向けて作っている」と宣伝すると喜ぶ(いつまでも自分は若者と同じ感覚を持っていると思いたい)中年世代向け、なんじゃないの?

      • 老害を散々批判してきた手前、自分がその老害になるのが耐えられなくて、いつまでも若者側でいたいんやろうね

        • 40歳は初老なのにね

        • 氷河期世代は老害批判がアイデンティティになってる被害者意識強い人が多かったからね

        • つーか「いつまでも若者のつもりでいる中年」しかガンダムなんか見ないってだけじゃ 若者も見ないし大人向けの趣味に移行した大人も見なさそう

    • 氷河期世代の単身者のマインドはマジで今でも「自分は若者」だ ティーンは子供というよりも後輩の印象、ティーン側から自分達が一番の反抗の的とされる親世代となっているという自...

    • そしたら戦中生まれがローティーン向けにだした1stなんてどうなるねん

    • ワイ、モロに監督と同世代で息子15歳 息子氏水星の魔女にどハマりしてミオリネのフィギュアやクリアファイルを買い揃えるも、 二期の中盤から熱が冷め始め終わると同時に興味を失っ...

    • 氷河期世代っていうかもう氷ガキ世代なんだよね いつまでもガキのままつもりでいる世代

    • anond:20231225152405 これにつくブコメひどくない? 少しでも自分たちの被害者的なポジションに疑問符が付けられたと感じると激昂して叩く しかも「親世代」を誤読して「親になれなかった...

      • 若い世代のほうが親になれないという推測はどこから出したの? あと親になれないことに触れただけで誤読扱いするのおかしいだろ

        • 出生率は下がり続けてるんだから、若い世代から見たら氷河期なんて子沢山世代だぞ

        • 「親子ほど年が離れてる」って書いてあるのに対して「親になれなかった人もいる!」ってガイジやろ。

    • シリーズ構成の大河内は55歳

    • アホめ。 まともな就職ができず結婚も親になることもできなかったから氷河期世代なんだぞ。 家族もなく収入も増えず社会的な立場も変化しないから、ライフスタイルは20代前半から全...

      • 氷河期世代の子どものティーン は?満員電車に乗ったらそこら中に 制服女性学生がいますけど?

        • 満員電車に乗ってるモブは身近とは言わん

          • ビジュアル性高いし、距離も近いけど?

            • そういう問題ではなく、モブ女子学生なんて誰の子どもだとか意識しない風景とかキャラクターみたいなもんだから、そいつらの親が同世代だとか感じることがないということ。 自分と...

        • 女性学生増田だ!

    • 物質的豊かな子供と貧困の子供がどんどん二極化してる現状に合わせた世界設定になってるやん そりゃ貧困の子供のほうを主人公にしてドラマを作ってもらいたいけど、金を惜しげもな...

    • じゃあ見るな

    • 氷河期より上だけど、西村ひろゆきとか堀江貴文とかもいつまでも若者側にいる感じで、はっきり老害になってきててしんどい

      • 最近のホリエモンとひろゆきはどう見ても若者じゃないよ

        • どう見ても若者じゃないのに本人は若者側のつもりで喋ってるってことだろ

    • 単純に年齢だけで世代を括って考える意味が分かんない 子供を産んでいなければ40代だろうが60代だろうが子供の視点で語って良いと思うし 逆に子供を産んでいれば20代だろうがそれこそ...

    • 追記: 非常に氷河期的なナラティブを、氷河期よりも30歳年下で全く別の体験をしてきた今のティーンに寄り添うつもりで押し付けながら、 今のティーン向けに生きづらさや克服や救済...

    • 水星の魔女の割と駄目な点として、「親でない大人」のレギュラーキャラクターが殆ど登場せず 大人と子供を安易に親と子供の関係のみに矮小化してしまった点だと思うわ 他のガンダム...

    • そんなんいまさらと言うか、俺やお前が中高生の90年代のエンタメなんて、 「戦争は人が死ぬ、WW2は二度とやっちゃいけない」だとか 「バブルで金だけあってもだめだ自由が欲しい」だ...

    • お前は何も考えなくていいし何も知らなくていいからそのまま死んでくれ。

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