2024-02-14

エチレングリコール幼児誤飲可能性について解説する

浅草にて4歳児を毒殺した疑いで親が逮捕されたというニュースが入ってきた。原因物質向精神薬のオランザピンとエチレングリコールだという。

https://news.yahoo.co.jp/articles/4c24987b00e6f7158af489f1cb7a7747f3033e52

らくだが死因はエチレングリコールの飲用の方だと思われる。

 

このエチレングリコール自衛隊車両整備所で部下に飲ませて中毒入院というニュースも何度か耳にした事がある人も多いかと思う。これに対してイジメだ!と批判が湧くが、実はそうとも言い切れない。

また、エチレングリコール幼児誤飲やす危険な罠があるのである

という訳で、自動車機械整備などに縁のない人にはよく分からない物質エチレングリコールについてちょっとだけ解説するよ。

因みに結構身近にあるもので、あなたキッチンにもあるかもしれないので、幼児がいる家では意識してそれらを幼児の手が届く所から排除しないといけない。

 

エチレングリコールは赤玉パンチの味

自動車エンジン冷却水は鉄むき出しの冷却水通路を通すからただの水は使えない。

更に水だと冬に零度以下になった時に凍ってしまう。水は凍ると体積が膨張するから鋳鉄で出来たエンジン割れしまう。

そこで氷結温度を下げる為にアルコールを入れる。昔はグリセリンが使われたが、現在専ら使われるのはエチレングリコールだ。自動車メーカーはLLC(ロングライフクーラント原液使用油脂指定していてそれを水で割ってラジエーターに入れる。

 

でだね、このエチレングリコール、甘いのだ。ネット化学の本だと「甘い」だけ書いてあるが、実際に舐めてみると、赤玉パンチサングリアのような葡萄系のフルーティな味がするんである

因みに赤玉パンチは味付けした赤ワインで、昭和初期に赤ワインの渋みとか複雑な豊潤さは受け入れられないだろう、という事でフルーティに味付けして販売したものである昭和末期~平成初期で日本人洋食関係の好みは変わり、バブル以前の洋食というのは甘かったのである

 

あともう一つネットにも本にも書いてないのは、整備工場などではこの「甘くてフルーティ」を体験させるというのが半ば儀式化してるのだ。先輩が新人に「舐めてみな、甘いワインみたいだろ」とやるのだ。もうこれは必ずと言っていい程やる。

そして毒なのだが指先で舐めるぐらいではどうという事にもならない。

故に、陸自の整備所で中毒事件とかの事件群は、虐めじゃなくて先輩や教官がアホウであった可能性が高い。

普通舐めるだけなのに飲むと言えるくらいまで(10cc以上とか)飲ましたんだろなというのが想像できるのだ。

 

エチレングリコールの毒性

実はエチレングリコール自体には毒性はない。皮膚についても大丈夫だ。

だが飲んでしまうと肝臓の働きに拠って毒になる。肝臓アルコールと似た物質なので同じ手順で分解してアセトアルデヒド酢酸を作っているつもりだが、分子構造が違うので猛毒シュウ酸が生成されてしまう。

シュウ酸は体内のあちこち破壊するが、一番ダメージを受けるのは腎臓で、シュウ酸結晶シュウ酸カルシウム)が腎臓細胞を詰まらす&破壊してしまう。これは後に慢性腎障害として後遺症となるが、腎臓機能が停止すれば当然尿毒症になるから急性症状としても危ない。

とにかくエチレングリコールを飲んでしまったら急いで病院に行かねばならん。

 

治療アルコール静注で肝臓飽和攻撃

飲んでしまった患者治療にはホメピゾールという薬品があって、これはアルコールホルムアルデヒド触媒酵素を阻害する物質だ。肝臓アルコールホルムアルデヒドのつもりでエチレングリコールシュウ酸をやってるからシュウ酸の生成も阻害されて止まる。

 

でもこの薬が無い場合や軽度な場合アルコール静脈注射が行われる。これは肝臓への飽和攻撃だ。

いや、なんで飽和攻撃と言うかというと増田レトロゲーマーアタリマニアなんでミサイルコマンド説明したくなる為だ。ミサイルが一度に大量に来ると迎撃が間に合わなくて殆ど撃ち漏らしてしまう。

これと同じでアルコール静注だと消化器を通らないのでアルコール濃度が一気に上がって肝臓は分解処理が飽和してしまう。サチってしまう訳だ。

この時にエチレングリコールの分解→シュウ酸も行われているがその割合は少なくなる。

一方で腎臓は余計なアルコールジャンジャン捨ててるので、肝臓をサチらせてその間、腎臓頑張ってくれ!という方法だ。

って事でエチレングリコールを少量飲んだ患者はベロベロに酔わされるという目に合う。

 

身近なエチレングリコール

ここまで聞いて、エチレングリコール中毒は整備工場殺人犯絡みで、普通生活には関係が無い、と思った?ところが家の中には至る所にエチレングリコールがあるんだな。

 

氷枕

夏に使うだろう、氷枕、最近のものは密閉されたビニルパッケージに入っていて、冷凍庫で冷やしてもカチカチに凍らないので使い勝手がいい。

そのカチカチに凍らないのが問題だ。コレにはエチレングリコールが使われているのであるエチレングリコールと水を混ぜた溶液を高分子吸収体(おむつとか匂いビーズとかのあれ)に吸わせてある。パッケージが破れると中身がしみ出すが、それはエチレングリコールだ。

 

保冷剤

ケーキとか、冷凍宅急便かに使われる保冷剤。あの保冷剤で凍らしても柔らかいままのものエチレングリコール入りだ。モノを冷やすのに便利なので捨てずに取ってある人もいるかもしれないが、幼児ペットがいる家では止めた方がいい。事故のもとだ。

 

他にも「氷点下に冷やしても凍らないもの」にはエチレングリコールが入っていると思った方がいい。

更に重要なのが、「舐めるとフルーティで甘い」という点だ。幼児ペットが好んでしまうのだ。

 

なんでそんな危ないもんをワザワザ使ってるんだ!

と言いたくなるかもしれない。でもエチレングリコール工業会ではかなりポピュラー物質なのだ

まず使用量が大変多いPET樹脂の原料だ。PETの原料という事はフリース線維の原料でもある(フリースは廃PETからも作れる)。

更に水性塗料溶媒とか化粧品のつなぎとか、用途が大変多い中間材料なので大量に作られ、それ故安い。使い捨ての保冷剤にぴったりだ。電子デバイス界でのCMOSARMみたいなものだ。

厄介なのがクール宅急便用の冷却材なんかは食品関係法律が影響されない。それはたんに輸送用の風袋だから

 

なので、今回の事件でもエチレングリコールを与えられた子供は美味しくて喜んで飲んでしまったのではないか想像する。その後は尿毒症でとても苦しい死に方だったのでは。

それから製品のなめし(変性処理)にはお茶にも含まれタンニン酸とクロム酸を使い事が多いが、エチレングリコール酸も使われる。今回の事件の親は皮革商だったとのことなので自動車LLCじゃなくて商売道具可能性もある。

 

という訳で、自衛隊の整備所とか殺人事件とかで耳にするので危ないが遠い場所にあるモノという感じがするが、身近な場所にあるのでちゃん理解して管理しないと危ないよという事だ。甘い液体で更にフルーティなんだよ。更に高分子吸収体に吸われた状態なら、それはフルーツグミと変わりはない。子供は喜んで食べたり吸ったりしちゃうよ。

 

因みに魚毒性が高いので下水に流すのは厳禁。埋設処分となる燃えないゴミに出すのも良くない。アルコール燃えるので燃えゴミに出して下さい。

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