最近、長時間労働と労働時間削減の話題が多いが、ここ増田では、マネジメントが上意下達でよーいドンで残業禁止、挙げ句に職場破綻、「そんなことになりましたけどいいんすか」というようなエントリーが多いように思う。
本当かよというのが正直な感想で、理由は「余りにも無策で始め過ぎ」だからだ。
自分が見た会社組織は、そこまで「んー、やってみないと分かんないから考える前にやってみようぜ、良きに計らえ、ドーン」みたいな夢見がちの集まりではない。
天才ぞろいではないが、物事やる前はそれなりに策を考えて踏み切る。
弊社は「残業を一気にゼロにしました」とまでは行かなかったが、「日付が変わっても社員が在社してるのが当たり前、一部は徹夜も普通、終電前には帰り辛い雰囲気」から、「21時以降は一部の社員しか残ってない」まで業務を改善できた。
真偽の話題になっても、自分が疑念を抱いたのと反対の角度の話になるだけなので、ちょっと変えて、「どうやってそれをやって、結果どうなったか」を特定されない程度にぼかして言おうと思う。
やった事
・外注の確保
・クライアント窓口者が「帰る」
まず、現場作業者が週の間にどれくらい稼働可能かを30分単位で割り出した。
実際に発生する作業も、30分単位で厳密に見積もり、発生した時点で作業一覧表に記載する。
総工数はリアルタイムで表示され、事前の稼働可能工数とつき合わされる。
・外注の確保
優秀な外注を確保した。
「検品をする」のが作業の大半の人を雇用した。さらに、手のあいたものはダブルチェックする。
「これはやる意味があるのだろうか」「やっても結果が良くなく、元の木阿弥になる」といった作業はクライアント窓口者が粘って交渉する。これは窓口者の力量も求められる。
新規クライアントの開拓は日々行う。このクライアント言う事はどんな無茶苦茶でも聞かないと即死というような状態にならないようにする。
・クライアント窓口者が「帰る」
クライアント窓口が作業を追い込んで、定時退社を(すくなくとも)目指す。
クライアントにも「その時間は普通いないんで」という共通認識を日々もってもらう。
さてどうなったか。
・外注費の増大
・仕事の変質
・売上げ確保
・緊急稼働の激減
・外注費の増大
・仕事の変質
クライアント窓口者の仕事は、「社内に仕事をふる」事から「クライアントと交渉する」「外注を発掘してくる」「外注と良い関係を保って良い仕事をしてもらう」事に変質した。
以前の異常な稼働状況で、その分必要だった残業代、人件費は圧縮された。
労働者の手取りは一部減ったが、なにせ以前は「人間らしい生活が出来ないし金払っても休みたい」レベルだったので、抵抗らしい抵抗はなかった。
あとタクシー代も減ったな。
・売上げ確保
売上げは確保された。売上げの確保はマストだ。
利益率に関しては増えてないが、売上げの総量が増えればカバーできる。
以前は定期的に体調不良で突然倒れるもの、会社に来なくなるものが出ていた。
同僚が倒れたときの会社の雰囲気が「酷い事になった、こんな事は二度と起きないようにしよう」ではなく、「彼が抱えててた仕事をどうしよう」であったこと、その事態が何度も繰り返された事は忘れてない。
組織にとって「人の健康」の優先順位は「請け負った仕事の達成」「売上げ」より低いのだという冷厳で情けない現実をはっきり認識した。
しかし、ここ数年出ていない。
かけた戦力を即席で穴埋めして、ちょっと動けるようになったらまた誰かが倒れる、ということの繰り返しから、雇った人間を時間をかけて教育する余裕も出てきた。
社員が花を渡して見送る。
それだけの事がどれだけ心を落ち着かせるか。
・緊急稼働の激減
検品担当者は「まだ起きていない事」を発見する仕事なので、雇ってみないと重要性に気づき辛い。しかし、今となっては現場が口を揃えて「彼らがいない事を思うとゾッとする」と言う。
以前の会社は「今は緊急事態だ」とマネジメントが言うと「緊急事態が何年続いてるんだよ、ずっとじゃねえか」という雰囲気だった。
弊社に就職すると友達が減った。週末も疲労で気絶してるから当然だ。
人は突然倒れた。倒れないものは示し合わせて一気に退職した。弊社を見限ったのは明らかだった。
最近は、「これだけ変えられただから、自分たちはもっと難しい課題を実現できる」という雰囲気になっている。
後輩が「会社にくるのが好きなので」と言ったのは心に響いた。
追記
ブクマカ諸氏に「クライアントとの交渉」が刺さったようなので、その補足をしたい。
「純粋な利益だけを第一に考える資本家にはどう立ち向かうのか」と言う話にもちょっと応えたいが、資本家が経営を左右するほどの大会社ではないので、経営層に対してという話をしたい。
まず、相手がクライアントであっても、経営層であっても「腹パンして引き下がらせる」という「やるかやられるか」の対決はしていない。
「交渉」というと、そういう見方をしがちだけど、それがマジで「組織のリアル」だったらその組織は危ういと思う。
クライアント、経営、現場の3者にそれぞれの利害や優先順位の違いこそあれ、基本的にはそれぞれ重なりあう所の「おなじ目標を共有する」存在であって、「やるかやられるか」は商取引になじまない。
「おなじ目標を共有する」が微妙に違う存在同士が利益を共有できる「良い落とし所を見つける」のが商取引だ。
「良い落とし所を見つける」という精神は「クライアントとの交渉」で重要になる。
クライアントとの交渉は、窓口がクライアントを打ち負かしにはいってない。
弊社では、あくまで「これがお客様にベストなのです」というスタンスで交渉し、多くのクライアントから「○○さんがそう仰るのなら、それは良い方法なのだろう」という「信頼」を得ている。
読んでるあなたが現場にいるなら、強力なアウトプットで窓口を支え、窓口ならば「単なる作業の手数が欲しい」以上の期待をされるよう、クライアントの信頼を勝ち取ってほしい。
経営層とどう向き合うか
そもそも会社は「利益の為だけ」に存在しておらず、それは「手段」だ。
ただ優先順位の違いはある。
なので、優先順位が低くなりがちな「労働時間の削減」をどう「マストである」と認識してもらえるか。
ここでは「労働時間の削減がマスト」であるという認識を経営に持たせる要素をいくつか上げたい。
・事業の高度化
・株式公開
・事業の高度化には、人材の定着が不可欠だ。短期に人材を使い潰す事を繰り返していると、いつまでも仕事の内容が成長しない。経営にもの申す機会があったら、そのことを訴える。
機会があったら数字の一つも資料にしたためて一席打とう。それがどういう内容であれ、経営は数字に敏感だ。
・マネジメント層の育児は意外とボディーブローのように効く。経営者は「仕事こそ人生」なので、そもそも「人生のそれ以外の価値」をそんなに実感していないように思う。だから「労働時間の削減」の優先順位が下がるのだ。
マネジメント層に家庭を持つものを送り込むと、経営の身近な人間から「人生には人間的に生きる時間が必要だ」と感じるようになる。
・株式公開は、まだ公開していない会社に大きな変化をもたらす。労務管理がいい加減な会社は、審査を通らず上場できない。このことは「労働時間の削減」の優先順位を上げる圧力になる。
最後にひとつ、実感として上げたいのは「組織が成長していること」がいろいろな改革のバッファを生むという事。