2015-01-28

好きな人と会話ができなくなってしまった

大して面白くもない話ですが、わたしの片思いの話を聞いて下さい

好きな女性がいます

もうかれこれ10年以上になりますが、ずっと片思いです

彼女と初めて出会ったのは、わたしが担当していたグラフィックデザイン部署の立ち上げで行なった採用面接でした

わたしは面接官、彼女デザイナー志望の応募者でした

当時はまだわたしのいる業界にはデザインという概念がなく、あっても実に画一的ステロタイプのつまらないものばかりでした

そのため採用はできるだけ業界の知識や経験がない人材を選ぼうとはじめから決めていたのです

そんな中あらわれた彼女は服装こそ普通だったものの、色白な顔に細く釣り上がった眉と濃いめのアイラインに囲まれ意志の強さを感じさせる瞳を覗かせ、サイドを少し長くして輪郭を隠すようしたショートカットの妙な黒さが印象的でした

当時で21歳だった彼女デザインの実務経験があったわけではなかったのですが、用意しておいたデザインに対する質問に最も的確に答えられたということから採用が決まりました

なぜデザインの知識を持っているのかという質問に対しては、学校で専攻していたことと、とあるロックバンドのファンで友人とステッカーポスターなどを自作しているといった返答が返ってきたと記憶しています

その瞳がもつ印象の通り、彼女はこちらから質問に対して一切の淀みを見せることなく最低限の言葉だけで返答を返してきました

仕事に私情を挟むものではありませんので選考理由は当然その能力にありますが、わたしの心のうちはとてもざわついていました

身長はわたしと同じくらいでしょうか

いわゆる男性の平均的体型であるわたしと比べれば彼女女性として高い部類に入るのではないでしょうか

それに比べて顔は小さく手足はすらりと細く長く感じられ、体重で言うとわたしよりも20kg以上は少なかったかもしれません

面接中には、書類の上を軽快に走る触れれば砕けてしまいそうな筆をもつ透き通った指に思わず目を奪われていました

座っている時も終わって席を立つときも、凛とした背筋が美しく、実に奥ゆかしくわずかな膨らみを見せる胸が彼女がもつであろう潔さを一層強調しているようでした

そうして次々に姿を見せる彼女がもつ身体のパーツやそれらから繰り出される仕草は、どれもがわたしが理想としている女性に抱くそれと重なっていくことがわかりました

これほどまでに自分理想と一致する女性がこの世に存在していることの驚きは、むしろ恐怖に近かったかもしれません

彼女との年の違いは7つ

恋愛対象として考えても何ら問題はありません

しかし社には当時、社内恋愛禁止というルールがありました

今になってみればそんなルールが何の抑止力を持っていたのかも分かりませんが、これから新たな部署を立ち上げて会社を盛り上げようと先頭に立っていた自分にしてみれば、足並みが崩れてしまうことが怖いと思えてしまいました

それ以上に、彼女自分を好きになってもらえるかどうかを考えることが怖かったのかもしれません

彼女の髪の黒さを妙に感じた理由彼女の初出勤の時に明らかになりました

初めてスタッフとして勤務先に現れた彼女の髪は、お世辞にも綺麗とは言えない根本や毛先に黒の混じる金色をしていました

聞けば、面接の時は印象を良くしようと一時的に黒く染めていたとのことで、遅かれ早かれ発覚するならばと初日から隠すことなく出勤したとのことでした

そうした格好をする理由は、実のところロックバンドのファンにとどまら熱狂的な追っかけであるために不可欠だとのことでした

わたしは採用した責任彼女デザイン能力不安を抱く一方で、その金色の頭髪にも稚拙ながらも潔い行動にも、自分の心がつよく引き込まれていくことがわかりました

まるで蟻地獄に落ちていくアリのように、二度と這い上がることのできない運命を背負ってしまったような感覚に襲われて背中にひんやりとした何かがまとわりついてくるのを感じていました

その日から彼女メガネをかけて出勤するようになりました

意志の強さを感じさせる瞳は太めの縁とレンズの奥へと隠れてしまいましたが、わたしにはそのことで彼女のもつ美しさがより完成に近づいたのだと感じられました


彼女能力に対する不安はすぐに払拭されました

もともとの感性が異なるのか、広告としての機能を満たしながらもどこか奇抜でいて尚且つ人を選ばないデザインが次々に生み出されていきました

それらは社の内外問わず高い評価を受け、わたしと彼女とで立ち上げたデザイン部署は見る間に会社にとって無くてはならない存在へと成長していきました

その忙しさは、同時にわたしから余計な考えを起こさないようにと時間を奪ってくれていました

仕事に関することでも彼女と話をするときには緊張を隠すことに慣れませんでしたが、わたしはそれでも彼女から嫌われるでも好かれるでもない距離を保ち続けることが出来ました

ちょうど5年目に、デザイン部署に少しの転機が訪れました

その間にもデザインスタッフの拡充を行なっていましたが、今まで営業本隊に所属する形だったデザイン部署がいよいよ単独部署として独立することが決まったのです

今までは本隊と両立する形で管理に参加していたわたしは、新たに新規事業開拓のための部署立ち上げのメインメンバーとして抜擢され、彼女はメインデザイナーとしてそのままデザイン部署に残ることが決まりました

わたしにとっては栄転ですが、自分が同じビルではありながら彼女とは異なるフロアに行ってしまうことがわかると、それが何故か急に不安に感じられました

付かず離れずの関係を維持できていたと思っていたのが、離れてしまうことがわかった途端にじつは彼女自分にとっての拠り所になっていたことが分かってしまったのです

どれだけ顧客バカにされようと仕事ミスをして上司に叱られようとも、部屋に戻れば彼女が背を向けて座っていました

仕事以外のことで会話をすることはほとんどありません

でも、彼女が黙って座っている凛とした背中がそこにあるということだけで、わたしは幸せを感じられていたのです

相変わらず濃いめのアイラインに囲まれ意志の強さを感じさせる瞳がメガネの奥に隠されていると想像するだけで、わたしは幸せを感じられていたのです

それからというもの、わたしは彼女を思うだけで胸が締め付けられるように苦しくなりました

以前にもまして触れてみたいという衝動かられ、彼女が他の男性と話をしている姿を見ているだけで胸の奥に湧き上がる何かを感じました

しかし、だからといってわたしには何かするべきことが見つけられたわけではありませんでした

思いを伝えるには時間がかかり過ぎていたのです

目の前にただ完成された美が存在していたとして、ほんの僅かでも触れてしまうことでその美しさは失われてしまうかもしれない

わたしの中で、彼女を得ることよりも彼女を失ってしまうことの不安のほうがはるかに大きく育ってしまっていたのです

考えてみると彼女と二人だけで話をした最も長い機会は採用面接の時だったかもしれません

もとよりわたしは彼女との会話そのものを楽しんだことはなく、いつも仕事の話かその時に少しだけ世間話を交わすくらいの会話しかしたことがなかったことに今さらながら気がづきました

事務所自分の机を整理しているときのことでした

そのことに気づいてしまったと同時に、止めどない涙がわたしを襲いました

自分でも全く予測できなかったあまりにも突然のことで、どうしてよいかわからずとにかくトイレに逃げ込みました

わたしは自分の情けなさに涙し、自分の人を好きになるという気持ちの身勝手さに涙しました

それから数日、相変わらず彼女を思うと痛みを思い出す胸を抱えたまま新しい部署での生活スタートしました

自分の情けない部分をまざまざと見せつけられてしまったわたしは、仕事に対する自信も失っていました

大した結果もだせないでいたちょうどその頃、突然母親から見合い話が舞い込んできました

どこかこのままではいけないと思っていたわたしは特別に断る理由もなく受けてみることにしたのでした

お相手の女性は、デザイナー彼女とは正反対のような実に快活とした健康的な女性でした

偶然にも共通の趣味の話で盛り上がり、その後も断る理由が見つからないまま数回の食事を共にしました

彼女はよく笑うとても魅力的な女性で何事も前向きに捉えられる明るい性格をしていました

そうして結局断る理由が見つからないまま、お見合いから半年後に結婚式を挙げることになりました

どこかで、もしかたらこれで彼女のことを忘れられるかもしれない、本当に理想とする人はお見合い出会ったこの女性なのかもしれないと考えていたかもしれません

会社での結婚の発表は部署ごとに部屋を訪れてまとめて行いました

たった半年結婚を決めたことから突然のことに驚きを隠せないという言葉やお祝いの言葉が多数投げかけられましたが、そのほとんどはわたしには届いていませんでした

なぜなら、次に訪れるデザイン部署にいる彼女のことばかりを考えていたからです

考えてみればこれは片思いです

彼女にわたしの気持ちを伝えたこともなければ、彼女がわたしに好意を持っているだなんてことも聞いたことがありません

さら思い悩んだところで何も解決しないしそもそも思い悩む事自体無意味なのです

そうして自分に言い聞かせながらいよいよ彼女のいる部屋の扉に手をかけました

扉の向こうからわたしの目に飛び込んできたのは相変わらず凛とした美しい彼女背中でした

わたしはその美しさに見惚れてしばらく声を出せないでいたかもしれません

最もシンプル結婚の報告の言葉を並べることだけがそのときのわたしにできた精一杯でした

発表をしている短い間も終始彼女背中を向けたままでいました

ただ、結婚という言葉が響いた時に彼女背中が少し反応したかのようにも見えました

わたしが反応してほしいと願っていただけかもしれません

でも、いつも見惚れていた背中からこそ他の誰一人として気がつかないような小さな変化を見つけられたのだと信じることにしました

それから数年がたち、今では二人のこどもに恵まれることができました

家に帰れば子育てに追われる日常が待っています

妻のことは愛しています

一人の女性としてももちろんですが、それ以上にもう家族として失うことのできない大切な存在です

だけど、未だにあの凛とした美しい背中はわたしの理想背中であるし、触れれば砕けてしまいそうな透き通った指も、実に奥ゆかしくわずかな膨らみを見せる胸も、色白な顔に細く釣り上がった眉と濃いめのアイラインに囲まれ意志の強さを感じさせる瞳も、それを奥ゆかしくも引き立たせるメガネも、相変わらずわたしのもっと理想とするままであることも事実です

それは10年が経って尚、より美しさを増していくようでも有ります

もしあの時、自分の気持ちを彼女に伝えていたらこ背中は美しいままだったのだろうか

もしあの時、彼女採用しなければこんなにも思い悩むことはなかったのではないだろうか

もしあの時、わずかに反応した背中理由彼女に聞くことができたら何かがかわっていたのではないだろうか

同僚はわたしのことを幸せ人間だといいます

から見れば仕事も順調で結婚もして子宝にも恵まれてまさに順風満帆人生かもしれませんし、本当にその通りなのだと思います

相変わらず焦がれる胸を抱えては、デザイン部署を訪れるたまの機会に凛と美しい彼女背中に目を奪われています

わたしはついぞ片思いをおわらせられずにいました

ちっぽけなアリでは登り切ることの出来ない砂の坂を落ちることも登り切ることも許されないまま、ただひたすらに命が尽きるまでもがき続ける運命を背負ったままの毎日が続くのです

でもそれは苦しみではありません

今はもう話をする機会すら失ってしまった美しい背中のその向こうで、濃いめのアイラインに囲まれ意志の強さを感じさせる瞳がメガネの奥に隠されていると想像することだけが、今のわたしに許された最も幸せを感じられる瞬間なのです

ところが最近になって、この苦しみから逃れられる方法を見つけることが出来たかもしれません

きっかけは2ヶ月ほど前にわたくしを襲った衝撃的な出来事でした

もしこれが実現できれば、彼女も妻も傷つけることなくわたくしは最高の幸せを手に入れることが出来るかもしれないのです

ただ、問題はその手段をいまだに見つけられていないということにございます

いかにして彼女メガネと性行為に及ぶかという手段

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