2020-10-04

夢日記

世間は新たな不老不死可能性に沸き立っていた。

正確には不老不死ではない。

しかし、確実に、今までより遥か未来経験することが出来る可能性が高まっていた。

アメリカとある研究施設が、20名の成人男女の、10日間の冷凍保存に成功した。

このニュース世界中の注目の的となり、世界中寝ても覚めてもそのニュース一色だった。

研究施設には「私も」「俺も」という冷凍体験希望者の声が殺到し、研究施設側も更なるサンプルを収集する為、定期的に世界中から20名ずつの体験者」を募る様になった。

条件は「健康な成人」。同行者1人まで参加可能

世界中の物好き達がその企画に飛びつき、応募し、倍率は宝くじに当たるよりも高くなっていた。

まさか当たるわけないだろうけど」

「でももし当たったのなら体験してみたい」

そんな軽い好奇心から、私は、共にノリノリだった妹を同行者として、その企画に応募した。

日経ったある日、ぼんやりと見覚えのあるアドレスから、一通の英語メールが届いた。

うそ…いたずらよね??」

世界中で同様のメール詐欺が多発していたし、まさか自分当選するなんて。

オフィシャルサイトを開き、慎重に送信アドレスをチェックした後、本文を開いた。

本文サイトにあるリンクドメインも、オフィシャルサイトにある記述も、念入りに確認した。

「本物だ……」

google翻訳を駆使しながら、血眼になって内容を確認した。

内容は至ってシンプルだった。

2021年11月〇日~2021年11月〇日までの10日間、あなた方は冷凍保存体験を受ける権利を獲得しました。

権利を得る為には、いくつかの条件があります

・当施設体験した事に関し、一切の口外を禁じます違反した場合、1億ドル違反金を頂きます

・当体験で発生した事象について、当研究施設は一切の責任を負いかます。全て自己責任でご参加ください。

・当研究施設までの交通費は、全て自己負担となります

・集合時刻に遅れた場合、当体験には参加できません。

また、この権利はいつでも放棄する事が出来ます

なお、当体験必要最低人数を確保する為、本案内は余裕を持った人数へ送信しております

体験者は先着順で決定させて頂いております。ご了承ください。

この短い文章を何度か反芻した後、私は妹にLINEを送った。

今日、話がある」

「え、まじ!?すごくない!?一年後か。結構後だね」

それが妹の第一声だった。

「まぁ、準備とか色々あるだろし」

そう答える私の言葉を遮って、妹が畳みかける。

「返事した?」

「や、まだ」

「はよせいや!他の人に取られるじゃん!」

「まじか」

「いや、何の為に応募したと思ってんの!?はよせいや!」

「そうだね。『いつでも放棄できる』て書いてあるし、とりあえず確保しとこ」

私は半ば勢いで「同意します」をクリックしていた。

それから私たちは浮足立ったものだった。

世紀の大実験体験。初めてのアメリカ

心配性の母は間違いなく泣きながら(そしてブチ切れながら)反対するので、絶対に言えない。

10日間、いや、飛行機での往復を考えるともう少し、仕事も休まなければならない。

飛行機の往復チケットも取らなければならないし、聞いたこともない田舎にある研究施設までのルート確認しなければならない。

「せっかくアメリカ行くんなら観光とかしたかったよね。でも休み取るの限界だしな」

「まぁ、それ以上のすごい体験をする訳だし!」

「てかさ、アメリカまで行って寝てるだけって、冷静に考えたらうけない?」

「まじそれ」

職場に何て言う?」

「私は適当理由つけて有給申請する」

「げー、姉ちゃん会社ユルくていいな。どうしよ。どんな手を使ってでも休むけど」

「お母さんになんて言う?」

「なんて言おうか…」

「…………」

あれこれ画策しているうちに、一年ちょっとはあっと言う間に過ぎた。

初日冷凍保存され、起きたら帰るだけ。

なので、私達は一泊旅行程度の、冗談みたいに少ない手荷物を持って飛行機に乗った。

「結局お母さんに言えなかったね。どうする?」

「たった10日だし。『LINE調子悪かった』とかで乗り切ろ」

「うん…無理あるけど、どんだけ考えてもいい言い訳みつからなかったしね」

「起きて考えよ!起きてから!ねーちゃん考え過ぎなんだよ」

妹はとにかく世紀の体験を楽しみそうにしていて、

心配性の私は、どんどん余計な事を考える様になっていた。

「当研究施設は一切の責任を負いかますって、でもまぁバンジーでもこういうのあるしな」

生還した、ってだけで、体験者全員健康だとは言ってないよな…いやでも何かヤバイ事があったらこんな実験続いてないでしょ」

「口外したら1億ドル…でもまぁ、うちの会社コンプラ厳しいし普通かな…」

疑惑正当化をうろうろしているうちに、飛行機アメリカに到着した。

事前に入念に調べていたので、乗り継ぎを重ね、研究施設へはスムーズに到着した。

集合時間は午前7時。

研究者の方々から挨拶、改めて体験内容と契約内容確認、体調チェック。

そして、契約書へのサイン

体験前には栄養を蓄える為の豪華な食事でも与えられるのかと思いきや、排泄の関係もあるらしく、この日は何も食べさせてもらえなかった。

妹と「クッソ、出る前ちゃんと食べておけばよかった!」「クマ冬眠前に食べ込むのは一体何なの」と軽口をたたき合った。

「では皆様、防護服に着替えてください」

研究員の指示通り、なんだかよくわからない服に着替え、そのままついて行った。

道中、妹はずっとテンション高めにキャッキャとはしゃいでいた。

私は緊張で震えていた。

「ここが先ほどご説明した冷凍室です。皆様は、この中で専用のカプセルに入って眠って頂きます

みなさまは、ねむっていただきますかー。

研究員の人、一人でも体験した事ある人居るのかな。

いや、今まで報道された人達、全員一般人だったよな。

眼科医絶対レーシック手術しないって原理と一緒じゃね??

色々考えていると、冷凍室の扉が轟音と共に開いた。

から、顔を真っ青にした大人達が、ガタガタ震えながら、研究員らしき人々に支えられ、ゾロゾロと出て来た。

「前回の体験者の皆様です。おかえりなさい!」

研究員達は、張り付いた様な笑顔拍手を送っていた。

これから体験する参加者人達も、英雄を見る様な目で見つめ、共に拍手を送っていた。

え、おかしいでしょ。

あの状態人間に、拍手おかしいでしょ。

つか、これ私の体力じゃ絶対無理でしょ。死ぬでしょ。

こわい、どうしよう、こわい。

でも、多分これはいもの考え過ぎだ。私の悪い癖だ。

こんな貴重な体験が出来るんだから、余計なことは考えたらだめだ。

現に、あの人たちは生きて還って来てたし!

「では皆様、中へご案内致します」

研究員がそう言った瞬間、私は研究員の腕を掴み、言った。

すみません、辞退します」

妹は既ににこにこ顔で冷凍室の中に入ってしまった。

承知しました。ではあなたはここで。お気をつけてお帰りください」

もっと怒られるかと思ったのに、研究員は驚く程スムーズに、笑顔で私を解放してくれた。

というか、切り捨てた。

妹も引き戻そうと中に向かって妹の名前を叫んだ。

すると、先ほどの笑顔のまま、研究員は私の前に立ちはだかり、同じ台詞を繰り返した。

あなたはここで。お気をつけてお帰りください」

冷凍室の扉は、閉じた。

なすぎる荷物を抱え、私は研究室敷地を後にした。

何もない。ここがどこかもよく分かっていない。おなかもすいたし、ひどく疲れた

何より、妹をどうしよう。お母さんに何て言おう。

妹は無事に出て来てくれるよね?

10日間、どうしよう。

宿は?ここから一番近い街は?こんな時間にどうすれば?

着替えもほとんどない。とにかくきつい。

妹は大丈夫だよね?

10日間どうすれば…

思考が延々ループして、不安で泣いているうちに目が覚めた。

夢で本当に良かった。

汗びっしょりだった。服脱いだ。

冷凍されてなかった。よかった。

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