「キャサ丸は激怒した。必ず、かの邪知暴虐の“許されざるもの”を除かねばならぬと決意した。キャサ丸にはグリム・フォウリーの居場所がわからぬ。キャサ丸は九州の魔女である。杖を振り、庭小人と遊んで暮らしてきた。けれどもダジャレに対しては、人一倍に敏感であった。」
いつのもようにTwitterを眺めていたら、ハリー・ポッターのゲームが始まるという情報が流れてきた。ゲームなんて10年ぐらいやってなかったけど、リリース日の7/2にインストールした。魔法の世界で私が杖をふって魔法を唱えるのだ。それって夢のようじゃない?
ゲームを始めて気が付いたのはオリジナルストーリーが展開していることだ。
あんなに切望した物語の続きがここにあるということは私を興奮させた。
私はずっとハリー・ポッターシリーズが好きだった。本が出たのは大人になってからで、映像化は社会人になったばかりだった。映像化は想像以上に良い出来栄えで私は幸せになれた。逆に映画から原作に入った人はより深い魔法の世界に浸ることができたと思う。これもきっと幸せなことだった。夢中になった。だけど大人が大声で「大好き!」と言うことはなんだか憚られた。
そして本編完結から12年、(ファンタビはあるけど)本編最後の映画が公開されて9年。世界で一番有名な魔法使いになったかもしれないハリー・ポッター。
2019年の夏、周りでこのハリー・ポッターのゲーム「魔法同盟」をしている人はいなかった。
ソロ活動でコツコツとレベルを上げた。Twitterで見つけた「魔法同盟」をしている魔法使いや魔女の皆さんを密かにフォローした。攻略サイトを見て職業を決め、闇祓いになった。私の中ではハリーの職業というより、闇祓いはシャックルボルトである。(実はつい最近まで「シャックボルト」だと思っていたのだが、Discordのお仲間につっこまれつつ教えてもらった。)
気が付くと砦があり、フレンド機能があった。ソロ活動の私にはハードルが高かった。
一日一回通勤の途中に砦で戦い(もちろん一人で)、デイリー任務をこなした。なにかのイベントでフレンドを作る任務があった。とりあえずTwitterでフレンドを募集した。英語も添えて。サービス終了を前にシンガポールとブラジルとスペインのフレンドたちとは未だにギフトのやりとりをしている。海外のギフトを見るのは楽しかった。それ以外特に交流はないけど幸せになれた。
そんななか、全国の皆さんがリアルで対面共闘をしていることを知った。正直うらやましかった。こちらはソロ活動である。九州の中では栄えている街の砦を見ても緑に光ってなかった。たまに光っていても共闘なんてできるはずもなかった。
有志の人なのか中の人なのかわからない方が書いた攻略のnoteを見るようになっていたので不便は感じなかった。だけど、このゲームはお金にならないのかな、と思う。
マスクが街から無くなり、アクリル板越しの対面は声も聞こえにくく、ソーシャルディスタンスという単語は不必要なコミュニケーションを減らすのに都合がよかったけれど、憧れていた対面共闘からも距離ができた。
福岡のオープンチャットに新しく加わった方々によりDiscordを使いナイトバスで行ける砦で共闘をしていると聞いた。ゲームの仲間に飢えていた私は飛びついた。Discordに登録して何もわかってないのに福岡支部のボイスチャンネルのリクエストをした。何度か使ったけど、定着しなかった。でも使い方を覚えたのは収穫だった。
職場はその頃忙しかった。いつも通り働き、いつも通りイベントを終了させた。読書量が一気に落ちた。読書の時間だった通勤時間にイベントを頑張りすぎたからだ。でも幸せだった。痕跡を集め、それぞれのストーリーを楽しんだからだ。
Discordの隠れ穴にコメントを書き込んだ。ハリー・ポッターの話を、ハリー・ポッターを好きな人としたかったからだ。
『ハリー・ポッターと賢者の石』の4DX上映があったのもこの頃。クイディッチの試合を4DXで観ることができた感動は忘れられない。砦のBGMが、ハリーが初めてのクイディッチの試合に向かう時の音楽だと気が付いたのはこの時のことだ。小さな発見でも幸せになれた。
Discordの全国共闘に誘ってもらった。参加者の皆さんの声が聞き分けられず大変で、戦略もわからずとにかく混乱した覚えがある。後になっても時々話題になるけれど、新しい戦略を試すチームに参加していたのだ。混乱は仕方ない、初心者だもの。でもエリート実績がこの共闘で達成できたらしい。楽しかった。
少しずつ色んな人とおしゃべりができるようになる。隠れ穴での同時上映に参加したのもこの頃だった。テキストでやりとりしながら映画を観るのは本当に楽しかった。ここにはハリー・ポッターが好きな人がたくさんいる。ここほど素敵なところはない。
Discordの全国共闘に時々参加するようになっていく。4月以降は夜の共闘に参加してのおしゃべりが楽しくてついつい夜更かしするように。
少しずつ砦の戦術にも慣れていった。戦いながら会話することもできるようになった。慣れたら博多弁が出た。恥ずかしかったけど、みんなもっとおしゃべりしてくれるようになった。夏は夜な夜なアイスクリームのオススメを話した。アイスクリームと違って、袋入りカキ氷は水なので太らないと信じていた。ものすごく楽しくて、ありえないほどはしゃいでいた。ほぼ毎日セブンイレブンにお世話になった。主にアイスクリームとカキ氷を買うためだ。
「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展の日本開催のニュースが流れ、神戸会場に行ってついでにUSJにも行ってみたいと思ったけれど、やっぱり私は一人だった。
行きたいなってTwitterに書き込んだ。そしたらなんと共闘でご一緒していた方々からお誘いがあった。ゲームで知り合った人と会っていいのか、迷いはあった。けれど、好奇心には道徳がないのである。なによりとても嬉しかった。そして実際お会いしたらめちゃくちゃ楽しかった。この時、神戸のポートタワーの砦で共闘した写真を撮ってTwitterに投稿した。お気に入りの一枚だ。コロナ禍で決行に迷いもあったけどその旅は、楽しかった!で言い表せないぐらい濃密で幸せな時間だった。歩きすぎて筋肉痛も腰痛も今までに経験したことがないレベルだった。ついでに熱中症にもなりかけた。
毎晩のようにおしゃべりしているのに、一度お会いしたらもっともっとおしゃべりしたくなった。他にも会ってみたい人が増えた。
突然のサービス終了のお知らせ。まだまだ楽しい計画が待っているのに。
私はさよならをどう言えばいいか分からない。言葉が出てこない。
だけど私はたくさんの幸せを「魔法同盟」からもらった。本や映画やゲームの中の魔法は現実の世界でも「幸せ」という形で存在する。
次はみんなで丸の内を素敵なクリスマスの魔法で包むのだ。それは私のたくらむ“よからぬこと”の一つ。
まだサービス終了までひと月と少しある。