なんか、えらい裁判官叩きの方向に行ってて、これ遺族への嫌がらせまで行きそうな展開なので釘刺しとこうと思って。
まず、せっかく裁判に興味をもったなら、以下は知っておいたほうが便利。
今回の件は、民事かつ地裁かつ例外ケースである点をまず理解するところからスタート。
事件は9時~17時で起きてない!現場で起きてるんだ!(古い)
と、定時で事件は起きてくれないので、警察も裁判所も24時間フル稼働です。
まあ、そういう背景も合って、ワリと地裁は流れでザクザク処理します。
「このケースは、前のこのケースと同じ。はい次」という感じ。
そのへんは弁護士も理解してるので、この辺で手打ちじゃないスカね、みたいになる。
高裁はワリとキッチリちゃんと時間をかけてやるので、高裁の判決は非常に重い。
その後は、法律そのものに不備があるとか時代に合ってないとか、
「法」解釈の話なんかになると、最高裁の出番になる。なので、超レア。
無いことの証明は非常に難しいというやつね。
「白いカラスが(無限定で)居ないことを証明せよ」は、悪魔の証明。
「このカメラに撮影された中では、白いカラスが居ない」は、証明できる。
というわけで、「限定すれば」無いことの証明は出来るんだけど、これは凄い手間がかかる。
そこで、一般的には訴えた側(原告側)が、訴える内容を証明せよ、となってる。
「こいつにカネ貸したんスよ」と原告が言って、「いや、オレ借りて無いっスよ」と被告(訴えられた側)が言って、
「借りて無いこと証明してみ?ん?」とか裁判官に言われたら、被告超困る。超難しいから。
そこで、「これこれが貸した証拠だ!」と原告側が証明する責任が有ることになってる。
これは、民事であっても刑事であっても同じね。
さて、さっき言ったとおり訴えた原告が、訴えの内容を証明する必要がある。
(一応原則的には)疑わしきは罰せず、なので、なんか怪しいな~ではダメ。
すると、こんなことが起きる。
原告「オレ、車にハネられたんスよ!二ヶ月も入院して治療費で50万もかかったっス!」
弁護士「で、血とか出たんスか?」
原告「……もう洗車された後だったんで」
被告以外の全員(なんか違う……)
というわけで、このまんまじゃいくらなんでも可哀想じゃね?ってことで、昭和30年に自賠法が生まれた。
チョット長いんだけど、趣旨が判りやすいので第一条まんま貼っとくわ。
第一条 この法律は、自動車の運行によつて人の生命又は身体が害された場合における損害賠償を保障する制度を確立することにより、被害者の保護を図り、あわせて自動車運送の健全な発達に資することを目的とする。
第三条 自己のために自動車を運行の用に供する者は、その運行によつて他人の生命又は身体を害したときは、これによつて生じた損害を賠償する責に任ずる。ただし、自己及び運転者が自動車の運行に関し注意を怠らなかつたこと、被害者又は運転者以外の第三者に故意又は過失があつたこと並びに自動車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことを証明したときは、この限りでない。
コッチ長いんで、どうせ読まなかっただろ?
雑に要約すると「車で被害を負わせたら、オーナーが損害賠償しろ」という重い法律。
これ、第一条の『被害者の保護』が法律の趣旨なので、ほとんど無条件に適用される。
だから、自賠責は強制加入なのよ。(責任保険又は責任共済の契約の締結強制)
一般的には、「加害者に落ち度があって、被害者が生まれる」ケースが多いでしょう。
例えば、脇見運転してて人をハネた。加害者は脇見運転手、被害者は骨折した歩行者。
はいさっき出ましたね、自賠法。骨折した歩行者は証明する必要なく、損害賠償してもらえる。
なので、自賠責保険から、ほぼ無条件で「治療費」「慰謝料」「休業損害」を払ってもらえる。120万円までね。
(自賠責基準だと、だいたい1日4200円の慰謝料。実通院とか治療中とか細かいのはググれ)
まあ、事故って2ヶ月入院とかになったら大体120万は超えるから、任意保険にみんな入ってるわけだ。
まず不幸にして亡くなられた方のご冥福をお祈りします。
さて、居眠り運転でセンターオーバー、車体衝突で「居眠り運転側の助手席男性死亡」のパターンです。
この場合、自動車の運行によって人の生命又は身体が害された人、つまり被害者が居ます。助手席男性です。亡くなられています。
((同乗者の妻が他人にあたるかで保険会社と争ったケースの判例がある。妻は他人。ただし慰謝料はナシ。昭和42(ネ)2699 損害保険金請求控訴及び附帯控訴事件 昭和44年4月5日 東京高等裁判所))
なので、報道を信じる限り次の流れになったと思う。
報道をどこまで信じるべきか、という問題はあるにせよ、おおよそ外れてないでしょう。
死亡した男性は自身が所有する車の助手席に乗り、他人に運転させていた。車の任意保険は、家族以外の運転者を補償しない契約だったため、遺族への損害賠償がされない状態だった。対向車側は一方的に衝突された事故で、責任はないと主張していた。
福井新聞 2015年4月17日午後5時00分 福井のニュース 事件・事故より
http://www.fukuishimbun.co.jp/localnews/accidentandincident/69100.html
さっき言ったとおり、被害者救済における自賠責はホトンド無敵で、法律的にもかなり強い。
が、自賠責の賠償責任を負うオーナー自身や運転手へは、補償されない。
法律の趣旨や道徳に則ると、交通事故の被害者(遺族)の保護を考えて、ここは被害補償しとこうよ、となったんじゃないかな。
原則論で言うなら、オーナーが、任意保険で補償されない家族以外に運転させたのがいけない。
また、一般論的に言っても、センターラインはみ出した側の被害を、普通に運転してた側が損害賠償するのは、道理に合わない。
ただなあ、こう言っちゃなんだけど、日本の司法って、多分想像してるより「人情」で動いてるのよ。
風聞でしか無いけど、妻も子もいる自営業者の親父が亡くなって、被害補償ゼロは、キツイって。
「責任が有るとは言えないけど無いとも言えない」と判決出したくなる気持ちは判る。
相手方からすると、4000万なら保険でカバーできる範囲だろうしね。
たぶん控訴されるだろうし、高裁でも揉めるんだろうけど、なんとかうまく行って欲しいね。
たぶん、もらい事故をもらった側は、オーナーの自賠責と任意保険から既に被害補償が出てるはず。
これまた風聞でしか無いけど、運転手は当然自賠責対象外だし、自分のことで一杯でオーナー遺族へカネとか出せないハズ。
そうすると(保険会社は断固として払いたくないだろうが)死んだオーナー遺族が被害補償されてないのに同情する気持ちは判る。
日本は比較的、加害者を罰する方向に行きがちなんだけど、被害者(遺族)を救済する方向にも動いて良いんじゃないかな。
この方向に持ってった弁護士も、それに乗った裁判官も、良い仕事してる、と思ってくれる世の中になると良いな。
あたり屋丸儲けじゃん、みたいな事言ってる人いるみたいだけど、あんま関係ないよ。
現状でも基本的に交通事故被害者は超手厚いので、自賠責範囲内の120万に限って言えば、ほぼ無条件に出る。
ただし、「被害補償」が前提なので、怪我の治療費は出る、1日4200円の慰謝料も出る、休業補償も無くはない。
でもさー、超テクニックでうまく骨折して日給4200円+バイト代だよ?ワリ合わないでしょ。下手すりゃ死ぬよ。
だから、アレな人達はムチ打ちみたいな他覚症状の無い被害にして「保険外」の見舞金を要求するの。誠意を見せろと。
これははてブがヤフーニュースとかまとめサイトのコメント欄と同レベルなことがよくわかる事件だったね。