「富士通を退職した話」を読んで、20年近く努めている側からの感想と疑問について書いてみたいと思います。
私も、情報科学を大学時代専攻した後、新人で山奥というかむしろ雲の上にある天空の工場に勤務してメインフレーム関連の仕事をしていました。
その工場に配属される新人は(希望すれば)寮に入るわけですが、高専卒は工場の敷地内にある山頂の寮で二人部屋、学士卒は山の5合目にあるアパートの一人部屋、修士とドクターは街中にあるマンションという感じでした。
街中の下界から工場がある天上界への通勤はバスで移動することになるのですが、わたしは、バスのディーゼルエンジンの排気ガスが苦手なので、頼み込んで工場の敷地内にある寮にしてほしいと願い出て、山頂の寮に特別に入れてもらいました。そもそもが2人で一部屋なのですが、学歴の関係か私は一人で2人部屋を使わせてもらっていたため、ものすごく広々と部屋が使えました。
わりと頼み込めば、人事や勤労も柔軟に対応してくれる会社という印象です。
20年前でさえ、メインフレームは古いというイメージがありました。
ただ、私は古臭い部署に配属されたことは不幸とは思いませんでした。電話からスーパーコンピュータまで幅広く扱っている世界でも稀な会社に入ったからには、いろんなことを経験してみたい。
そのためには、そろそろ絶滅してしまいそうなメインフレームを今経験せずにいつ経験出来るのか?くらいな感じでむしろラッキーくらいに考えていました。
最新の流行を追いかけるのもそれはそれで面白いが、そういったものは出来合いのライブラリを組み合わせて流行を少し遅れて追っていく2位集団であるし、やりたければ個人で家でも出来るじゃないか程度の感覚です。
ただ、せっかくメインフレームの部署に来たのですが、私の担当はワークステーションで動作するUNIXやPCでの開発が主体でした。
そもそもが、メインフレームを扱っていた部署ですから、先輩の人達はあまりUNIXやPCに詳しくなかったので、大学でUNIXやPCを経験した新人が入ってきたことは非常に重宝されました。
その部署では開発言語は、社内の独自の言語(Cよりもさらに機械語に近い言語をマウスでグラフィカルに操作してコーディングする言語)を使っていました。もともとはメインフレーム用の言語なのですが、UNIXワークステーションやPC用にも
その言語コンパイラはあり、あわやその言語でUNIXの開発する羽目になりそうだったのですが、私は猛烈に反対して自分の意見を通しました。当時はJavaやRubyなどの言語は無くCが全盛でしたが、
その部署の開発メンバーはCをほとんど知らなかったのです。そこで、社内のカイゼン活動として、C言語の勉強会を開くことを提案し私が講師になってC言語をメンバーに習得してもらい、
PCやUNIXでの開発は独自言語ではなくC言語を利用することを認めさせました。
元の増田の方は、自分はエクセルのVBAソースが見れない立場のようだと言っていましたが、ソースをみようとしたらシートにロックがかかっていたのを見て諦めてしまったのではないでしょうか?
元のEXCELを使った業務が非効率であるならば、業務の改善活動として提案すれば、それを拒む上司というのはちょっと考えにくいです。
忙しい部署にも、改善活動のノルマが課せられるのですが、先輩はそういったことに関わっている時間が中々取れないので新人がそういった仕事をやると宣言しても拒むのはまずありえません。
下請けのプログラマーからみると富士通のような会社は中間搾取していて高給をとっているのに、仕事は丸投げという印象があるでしょうが、実際やってみると案外大変です。
私は、富士通本社のSE的な立場、グループ孫会社に出向して、そこから顧客先に派遣される4次受け5次受けのプログラマ両方を経験しましたが、はっきりと下請けの方が精神的に楽と感じました。
客商売や、自分でやっているわけではない人に依頼した仕事について、責任をとるのは非常に苦しいものがあります。そもそもプログラミングはとても楽しいというのもありますが。
私見ている範囲では違う部署に異動したいという希望は100%通りました。異動を希望しているのにその部が解散するまでその部署にいる羽目になった人など見たことがないです。
もちろん、「プロジェクトが佳境で君に今抜けてしまわれては困る」というケースはあるのですが、IT業界のプロジェクトの開発周期は年々短くなる一方ですから、割と早い段階で異動の希望は通る感じです。
もとの増田の方は巨大プロジェクトだったので大量の人がいるわけですが、こういった部署は異動の希望は通りやすいです。
なぜなら、新規プロジェクトで最も忙しいときは大量の人員を動員しているわけですが、バージョン2、バージョン3あるいはメンテナンスのフェーズに入ればそんなに大量の人員は必要がないので、会社としてもその部署の人員を異動させたいわけです。
けれど、プロジェクトで中核の技術を担っているようなメンバー、マイホームを天上界に立ててしまったメンバー、新しい仕事に対応しにくい高齢のメンバーは異動させにくいので、
EXCELをいじっているだけのような新人は異動の希望が通りやすいのです。
もとの増田も、もう少し我慢していれば希望が通った可能性は極めて高いですが、プロジェクトが佳境でまだ新人で入ったばかりといった状態では、もう少しその部署で頑張れと言われるだろうと思います。
ただし、異動先の都合もありますので、ここから出たいはほぼ100%通りますが、あそこに行きたいは必ずしも通りません。
今更「京」のスーパーコンピュータをやりたいといっても、人気部署ですし、プロジェクトの最盛期は過ぎているのでその希望が通る可能性は低いでしょう。
色々な部署がある大きな会社では、管理職クラスは頻繁に異動が起こりますから、嫌いな上司はわりと直ぐにいなくなります。小さい会社だとそもそも部署が開発部と人事部と営業部しかないというかんじなので、上司がやめるか自分が辞めるまで、嫌な上司と付き合う羽目になりがちです。
新人研修期間が終わった後、人事の面談のチャンスがあるのですが、そこにはコツがあります。
「おおざっぱにはっきりと希望を言うこと」です。
いちばん最悪なのが、大学での研究を話し、それを活かせる部署に行きたいと話すことです。
人事の人は技術には詳しくないですから、研究内容が最先端であればあるほど、人事の人には通じないです。
キャッシュコヒーレンシが。。とか話すと、「よくわからないけどこの人は基本ソフトウェアに向いているのかな?だったら、自社でOSを開発しているメインフレーム回そう」という感じになってしまいます。
それよりは、人事の人が、会社組織のどの部署に配属すればいいかわかりやすいように、おおざっぱに希望をいうことです。
例えば、
上記のことを強い口調ではっきりというのが良いと思います。
そのうえで、できれば○○製品をやりたいだとか、こういった業種のSEをやりたい等の希望だすと、どの部署に配属すればいいか相手にも伝わり希望が通りやすくなります。
私の同期で入社して新人研修で山奥に配属されたバブル時代の末裔のようなおねーちゃんとか、数人は、割とはっきり希望をいって、下界に戻っていきました。
この20年の間に、新入社員の扱いがすっかり変わってしまっている可能性はないだろうか。