■ロマンポルノ・リブート・プロジェクト『風に濡れた女』を観に行って

　人生で一度くらいは成人映画を映画館で観てみたいと思い、偶然見た予告編の軽快なアクションものっぽい雰囲気にひかれて『風に濡れた女』を観に行ってきた。

　1回きりの鑑賞で見落としや聞き逃したところもあるだろうけど、ひとまず思ったことをネタバレ含みで長々ダラダラとここに書いていく。点数をつけるわけでもないし、正直映画は年に1回観に行けば多いほうで、目が肥えてるわけでも感受性豊かなわけでもないことは先に述べておく。

映画本編に対する感想

• 女主人公・シオリの行動原理とか、どこからきたかとか、あと終盤の濡れ場の小屋から喫茶店へのワープとか、そういう細かいところは気にせずに楽しむ映画なんだと感じた。
  • 途中の間延び(劇団のエチュードのあたり)は否めなかったし、終盤に濡れ場の帳尻合わせしてるなこれとは思ったが、自分の好みだったカメラワークやきだしゅんすけ氏による音楽で帳消しになった印象。
  • クボオカさん、詩を作る男、主人公・コウスケの関係者が連れてきた劇団……といった要素を詰め込みまくってもなんだかんだ80分でまとまるものなんだなと思った。
• 映画の公式な宣伝では「ラブバトル」や「オフビート活劇」といった文言が使われているが、個人的な印象としては「バカエロ要素ありのスクリューボールアクションエロストーリー」。いや、スクリューボールコメディというには性描写が過剰なことは分かっているんだけど。
• 自転車で海に突っ込んだり(?)、相手を振り落したり蹴飛ばしたりムチっぽいもので叩いたりといった破天荒アクション要素を予告編のときから期待していたので、そういうシーンを濡れ場でも濡れ場以外でもたくさん見られたのはとても楽しかった。
  • そうだ、格闘技みたいなんだこの映画。木の棒で対峙するシーンとか、椅子で攻防するシーンとか、互いを煽るためにわざと見せつけるように性交するシーンとか。コウスケとシオリのバチバチ感が私には心地よかったので、そういうのが苦手だとあまり楽しくないのかもしれない。逆に言えば、他のよく分からなかったシーンのぶんも、このバチバチ感のおかげで差し引きのお釣りがきた感覚がする。
    • 主人公の片方と別の人間による濡れ場がたくさん挟まれながらも、この作品の主軸はコウスケとシオリの2人の関係であって最終的にはそこに回帰していくので、単純にラブストーリーは好きだけどポルノはちょっと……な層には意外とウケるんじゃないかと思う。あらすじもけっこうシンプルだし。男の前に女が現れて、反目しつつ紆余曲折あってとうとう結ばれると女は姿を消してしまった、って感じだから。
• ラストのカーラジオのトラのくだりはあまりピンとこなかった。私の理解力が低いだけかもしれないけど、本当に脱走したトラが化けたのがシオリなのか？シオリは風のように現れて風のように消えた。それでいいんじゃないのか？
  • 最初に「細かいところは気にせずに楽しむ映画」と言っておいてここを気にするのは矛盾しているけど許してほしい。というか、コウスケがシオリを野良犬と表現しているのに、ラストで提示された動物がネコ科だったことに個人的に納得がいってないだけかもしれない。せめてオオカミとかキツネじゃないの。

主だった演者に対する感想

• シオリ(演:間宮夕貴)
  • よく見るとややファニー寄りな顔立ちに、勝ち誇ったような表情が作中で映えていた。がらっぱち口調で声もかすれ気味に話していたので序盤は時々台詞が聞き取れなかったが、そういうのを含めても野性味のあるシオリはこの人しかいなかったんだろうなと思う。
• コウスケ(演:永岡佑)
  • いい意味で顔よりもくすんだいい声だなと思って演技を見た。上手く伝わるかはわからないし人の顔を品評する意味は全くない表現なのだが、黒々としてはっきりスッキリとした眉と瞳をしたコウスケの目元と、うっすら茶色混じりでフリーハンドの描線を重ねたような粗いシオリの目元は、続けて映されると対照的でハッとさせられた。

あと、役名と個々の俳優の名前が合致できなくて申し訳ないけど、サーファーの彼はいい味出してたと思う。

印象に残ったシーンなど

• シオリが海に突っ込んだシーンで着ていたＴシャツにはたしか「YOU NEED TISSUE FOR YOUR ISSUE」という文章が書いてあって、よくこんなTシャツ売ってたなと思った。
• 予告編でも流れてたけど下ネタの替え歌のおげれつさがシュール。
• クボオカさんが怒りのあまりコウスケにキスしてしまうシーンは、まあ人間怒りが一定に達すると突拍子もない行動に出るんだなと。唇に指を当てたままのコウスケの茫然加減が絶妙だった。
• エチュードを見ながら退屈そうに木の棒の枝の先を少しずつ剥いでいるコウスケを見て、子どもの頃同じ事やったなあと妙に懐かしくなった。
• 劇団連れてきたキョウコさん、脱いだときちょっと肋骨浮いてなかった？胸以外細すぎない？これが普通？
• ラスト5～10分くらいほとんど濡れ場だったんじゃないか。

結構とんちんかんなことを言っているかもしれない、本編以外に対する感想

• この作品はロマンポルノ・リブート・プロジェクトの一環で、塩田明彦監督は過去の日活ロマンポルノ作品のオマージュを入れ込んで制作したそうだが、そもそも日活ロマンポルノには詳しくないのでその点はさっぱりわからなかった。
  • 個人的にこの作品を観て考えさせられたのは、この作品における「ロマン」とは何なのだろうということだった。感情的もしくは理想的に物事をとらえ、夢や冒険への憧れを持つこと、などという辞書的な定義はあるけれど、この作品のあらすじから広げて考えるに民話とか伝承のような、いまの平穏な暮らしに俄かに現れ俄かに消えた、思い返すとあれは夢だったのかもしれない……となる出来事であって、もしかするとシオリの存在自体がコウスケや彼以外の人物にとってのロマンだったのかなと。
    • 観客には知る由もないけれど、小屋が壊れてしまってコウスケはこれからどうするんだろう。
• この映画館に行ったのは初めてだったが、CMの時間が上映直前のシアター内であらかじめアナウンスされたので驚いた。今まで観に行った映画館はたぶん上映開始から本編までの時間を特に教えてくれなかったように思う。あと、あんまり好きじゃない映画泥棒シリーズが流れなくて少しありがたかった。流れない映画館あるんだ。
• 同じ建物の別のシアターでは同プロジェクトの他作品である『牝猫たち』も上映していたが、『風に濡れた女』のカラッとしたテンションのまま帰りたくて観ずに帰ってしまった。どうせならその日のうちに観に行っておけばよかったかもしれない。
  • このプロジェクトの中だと次に気になるのは『ホワイトリリー』なのだが、もうすぐ上映館のない地域に引っ越してしまうのでソフトのリリースを待つか遠征するか。できれば映画館の音響で観たいのだけれど悩ましい。

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