国立大の附置研(生物系)でポスドクをやっている。次の仕事が見つかったら可及的速やかにアカデミックの世界から離れたいと思っている。以下に記す文章はただの愚痴であって、研究者全体に一般化できるような話ではない。また、多くは、既にポスドク問題とかその辺りで語られてきたことでもある。しかし、何度語られようともこの業界が抱える問題はそのまま何も変わっていない。この状況が続く限り、私のようなポスドクが何度も何度も似たような文章を書き残して消えていくことになるのだろう。とにかく、今はもう我慢ならないから、駄文ではあるけれども書かせてもらう。
これ以上この仕事を続ける気が無くなった理由は二点ある。1)職務内容と待遇のギャップ、2)職務内容と自分がやりたいことのギャップの二点である。
附置研の予算で雇用されている契約職員である。給料は時間給で払われていて、勤務日数によって異なるが、額面で約20万である。手取り16-17万程度。勤務時間は週30時間となっているので、社会保険と厚生年金に入れる。賞与無し・昇給無し。任期は、一年ごとの更新で、最長三年となっている。給与に関して言えば、学生の頃よりも入ってくる現金の量は減った。学生の頃は様々なるところからかき集めてきた奨学金が月20万円ほどあった。入ってくるお金が減ったのは、税金とか保険とか年金のためであるが、社会人になった途端使えるお金が少なくなるというのはかなり心にくるものがある。
同じ仕事をしているポスドクでも、お金の出所によって待遇が全く異なるということはよくあるのだが、うちの研究所では、同じ研究所の予算からお金が出ていても、採用のタイミングによって待遇が異なる。私より早く採用されていたポスドクは、年収が100万円ほど高い。後何年か経ってから採用されるポスドクも、私より100万円高い給料で雇われるはずである。この辺は細かい規定があるのだが、ここでは説明しない。担当するプロジェクトは違うとはいえ、立場は同じであるし、業務の内容に本質的に差が無いのにこの差があるのは相当にやる気がそがれる。
休日等はどうか。私は、同じような分野の研究者としてはかなり甘々な環境に居るとは思う。しかし、それでも平日は平均で11時間ほど研究室に居る。休憩を除けば、一日当たり4時間の残業である。しかし、これは全く管理されていないので、全てサービス残業となっている。研究室に生き物が居るので、休日は実験が無くとも出勤する必要がある。この辺りはどこの研究室でも、博士後期課程の学生とかポスドクの仕事である。これがあるので、完全な休日(研究室に全く行かない日)は年間で10日程となる。これも全く管理されていない。休日に出張が重なった場合は、さすがに事務の方で処理する必要があるので、代休を与えられる。しかし、それは出勤している日に、「今日は代休取ったことにしておきます」と言われるだけのものである。そして、どんな計算をしたのかわからない日当700円が振り込まれるのだ。代休は実質使えないため、この700円は土日分の賃金の全てである。
この待遇で雇っておきながら、ボスはポスドクが出ていくということを全く考えていない。この程度のお金さえ与えておけば、ポスドクは任期満了までここに居ると確信している。やめると言い出したらまず間違いなく強く慰留されるだろうし、それがやめるための一番高いハードルになっている。私にはまったく理解できないが、世の中には無給ポスドクというのも居るらしいし、保険や年金に入れるだけまだ恵まれた方であるという話もある。だから、普通の研究者というのは上記の待遇をごく普通だと考えているのだと思うし、不満を言うのは私の甘えかもしれない。しかし、自分の価値はそんなものなのかと思うと悲しくなってしまう。
生きていくのに足りる程度のお金をもらえて、自分の好きなことができるという職場であれば、それでも来る人はいるだろう。そして、多くの場合、研究者がネットで愚痴を吐いたときに、「でも好きなことをやっているのだからいいのでは」、「小説家や芸能人を目指すのと同じであるのに研究者だけ特別に問題視するのはおかしい」「研究の傍ら副業でお金を稼いでこないのは甘え」というような話が聞かれる。だが、現実には研究者というのはサラリーマンである。「好きなことで生きていく」というのとはだいぶ様子が異なる。
私が雇われているのはあるプロジェクトを遂行するためであり、その内容はまさに私が強く興味を持っているものなので、私の仕事がそのプロジェクトを進めることだけであればまだ納得できたかもしれない。しかし、今の私の最優先の仕事は別のプロジェクトである。それは、お金のために魂を売ったような爆死プロジェクトで、お金を取ってきたあとしばらく放置されていたものだ。お金を集めるためにいろいろなところに妄想を書いて送っているため、研究室は処理しきれないテーマを抱えることになる。そして、それはポスドクとか学生とかに適当に振られる。そのうちの一つが私のところに落ちてきたのである。このプロジェクトは締め切りが近く、しかも白紙であるため、優先的に処理せざるを得ない。また、「この分野のこと何も知らないけど、大学院入りました。これから実験頑張りたいです!」とキラキラした目で語る学生の指導もしなければならない。教員でない人間に一から育てる仕事を振って良いのかとも思うが、頼まれたのでやるしかない。これも相当な労力である。それから、土日は出張が多い。自分が興味を持っている分野の学会に参加するのであればいいのだが、実際には、政治的な理由で行われる研究会に政治的な理由で参加するというようなものである。好きな実験のために土日出勤するのであればいいが、何の対価も無く興味のない話を休日に聞くというのは精神を疲弊させる。概ね週末の20-30%はこれでつぶれる。
この愚痴で強調したいことは、研究者(特に下っ端の)というのは自分の好きなことをやって生きているようなものではなく、サラリーマンなのだということだ。だから、研究者を特別視することなく、サラリーマンとして考えてほしい。上記の待遇が企業において問題になるのであれば、我々の場合にも同じ程度に問題になってしかるべきである。公的機関であるにも関わらず、労働者との間に自分たちで定めたルールを全く守る気がないのは何なのだ。超過勤務に関する規則など何のために定めたのだ、一円も残業代を払うつもりが無いのに。これだけ人を馬鹿にした態度を取って、ルールをないがしろにする組織や、そこに属する人が科学に対してだけは誠実であるとどうして信じられるのか。
もうこの国は科学技術立国などという題目を掲げるのをやめたらいいのではないか。この問題は少なくともこの10年ほど全く進展が無いように思える。大学院生やポスドクの犠牲のもとに研究成果をあげる、というのが国の方針なのだとしたら今の状態が正しいのかもしれないが、私にはそこまで出来ない。
家族持ちじゃなければ海外でアカポスに就いてそれなりの業績を残すのが一番いいんじゃね? そんな優秀な同期がいたよってだけで、自分は能力的に諦めて会社員やってますけどね。
こういうこと書く人についていつも疑問に思うのは、なぜそのポストに応募したのかということだ。 俺も任期付きポストを何回か経験しているが、家族をやしなう都合上、月20万とか...
現状で判断するのもどうかと。 ↓これも参考に 研究者を志して、諦めた俺と諦めなかった人の10年後の現在 http://anond.hatelabo.jp/20160207203750