2022-12-21

アーマードコア二次創作について語る

前書き

かつてアーマードコア二次創作コミュニティーファンにとって分かりやす構造になっていた。


どこか有名どころのサイトアクセスすれば、そのサイトから別の有名どころへとアクセスできるネットワークが発達していた。インターネットってそういうものよね。古き良きインターネット

当初はそのような「有名どころ」について幾つか紹介しようと思っていたのだが、あんまり面白くなさそうなのでやめた。結局、ある一つの有名なAC小説について語ることにする。

タイトルは『人間世界である。今はもう削除されてしまっているが、ネット上のアーマードコア二次創作フリークの中にはこの小説を目にした者も多いであろう。冒頭で説明した通り、AC小説の有名どころに当時は簡単アクセスできるようになっていたからだ。『人間世界』が掲載されていたサイトもまた、そのような有名どころの一つだった。


人間世界

小説人間世界』は、とあるアマチュア小説家によって書かれたアーマードコア二次創作である

主人公黒人男性で、かつては妻子を儲けていたが今は独り身である。また、アーマードコアを操る"レイヴン"を生業としている。彼はある任務ブリーフィングにて、同じく黒人の、若い女レイヴンと待機室で出会う。

レイヴンには人格破綻者が多く搾取主義的な人間も多いことから、二人は出会うなり警戒心を抱き、一触即発のような状態になる。しかし、最終的に主人公の次の言葉が、二人の諍いを鎮めることとなった。

あんたは俺の妻に似ている。

毒気を抜かれた女性レイヴンは、彼が今回の任務市街地に潜伏したテロリスト殲滅する二人のレイヴンの片割れであることを知り、改めて協力関係を構築しようとする。二人はブリーフィングを経て、AC輸送するキャリアに搭乗すると、任務が行われる当該地域へと移動することとなるのであった。

これが本小説のあらすじである


この小説の特徴は、死人が出る度にその数をカウントすることである


例えばこんな具合だ。男のACの肩部からナパーム性の弾頭が発射され、検問詰所に直撃した。加熱された半固体状の燃料を浴びて、検問所にいた二人の男性が死んだ。といった具合に。

男と女はそれぞれのACを駆り、テロリストの陣地奥深くへと侵攻していく。ACは作中世界――『大破壊』と呼ばれる破滅戦争によって文明恩寵を大きく失い、地下へと追放された人々によって構築された黙示録世界――における最強の戦闘兵器であり、その前に立ちふさがった者は次々と死んでいった。老齢の戦士、二人の手練れのパイロット若い兵士女性子供。それらが死ぬ度に作者は死者をカウントしていく。"MTAC廉価版兵器)に乗ったパイロットが二手に別れ、一方が囮としてACの背後に回り込もうとするものの、ACパイロットである男はその目的を悟っていた。男は冷静に正面に立ちふさがるMT破壊する。その後、回り込もうとしたもう一体のMT破壊した。二人の男が死んだ。”といった具合に。

最終的に、二人はテロリストの陣地の最奥部へと侵攻する。その時二人が見たものは、ゲートの前に立ちふさがる複数の子供と女性たちであった。手には旗を掲げ、『Don’t fire !』と文字を書きつけている。


『こんなの聞いていない!』と女性レイヴンが叫ぶ。

それに対して男は淡々と答える。

レイヴンだろ、お前も』

テロリスト排除するのが仕事だって聞いていたのに、こんなのって』

繰り返し攻撃を打診する男性レイヴンに対し、女性パイロット否定言葉を連ね、最終的にこう告げていた。

『こんなこと、人間のすることじゃない!』

その瞬間、男は溜息を吐き、突如として女性レイヴンの駆るACへと攻撃を開始するのであった。


フロムソフトウェアの描く悪意

男は逃げ惑う四脚型ACフロート部位に攻撃を集中させ、AC回避行動を停止させる。もう逃げることのできなくなったACを前に、男はゆっくり距離を詰めていく。女性レイヴンは絶叫する。

私はあんたの妻に似てたんじゃないの

しかし、それに対して男は冷たく答える。

俺にはACしか見えん

男は女性の駆る四脚AC破壊する。作者はその淡々とした描写に更に付け加える。女が一人死んだと。

そして、男は周囲一帯にナパーム弾頭をばら撒き続ける。男たちが暮らす地下世界において空気循環は最重要インフラである。男は炎の巡りが十分であることを確認すると、ACでゲートを突破し、区画の最奥部にある空気循環装置破壊する。男は全ての仕事を終え、燃え盛る地下区画にてACを停止させた。

その後、男の過去についての描写が、あっさりと挿入される。

男はかつて妻と娘がいたが、一緒に暮らすにつれて妻は男に対して憎悪を抱くようになってきた。妻はレイヴンである男を憎んだ。あんたみたいな男は人間じゃない、と。

叫ぶ妻を前に溜息を吐くと、男は妻を殺害し、ガレージの土壌がむき出しになった部分に埋めた。

更に年月が経ち、娘は男に対して反抗的になってきた。

ある時、男はふとしたきっかけで娘を殺し、再び妻を埋めたガレージ一角に娘を埋めることになった。男は溜息を吐いた。また一人になってしまった、と。


そして、物語ラストシーン。再び男のAC炎上する町に佇んでいるシーンに合流する。そして、次のように語られる。

街が炎に包まれていた。

30679人死んだ。

そこにACが佇んでいた。パイロットは暫く死ぬ予定に無い。その男は優れた人間からだ。そしてその男世界中の全ての愚者を嘲っていた。


ArmoredCore6 Fires of Rubicon

これはあくまフロムソフトウェアの手を離れた創作であり、あるいは、フロムソフトウェア作品であるAC世界観とは、直接何の関係も無いと、そう断じることもできると思う。しかし、フロムソフトウェアACという作品を通じて描こうとしていたテーマに、底無しの悪意があるということは明らかである

ACには二十五年前から次のような場面が時折現れる。

市街地を襲撃して護衛の兵器破壊する任務鉄道インフラを襲撃しモノレール破壊する任務。多数の民間人の乗る航空ユニット破壊する任務

それらのゲーム中の要素はフロムソフトウェアが二十年以上前から描き続けてきたテーマであった。つまりは悪だ。

人間は容易に悪になることはできない。ある種の人間にとっては、それは息の詰まる事実である。そこで、フロムソフトウェアはその息苦しい現実に僅かばかりの空気穴を設けようとしてくれたのである。それは、例えば有名なソウルシリーズにおける、聖女アストラエアを自殺に追い込む一連のストーリーなどがそれに当たる。

崇高な目的を以て活動する聖女の、護衛役である男性殺害し、その事実を告げることで女性自殺に追い込むというストーリーデモンズソウルには存在している。このように、フロムソフトウェアは明らかに暴力や悪意や、煎じ詰めれば悪そのものを描き、時にそのテーマプレイヤーたちが演じられるように取り計らってさえくれているのである


先日発表された最新作、アーマードコア6の副題は『ルビコンの炎』である。つまり、かの英雄カエサルが渡ったルビコン川の存在を、象徴的に用いている。

そして恐らくは、そのタイトル原初戦火を、つまり暴力の始まりを指しているのであろうと推察される。


先日公開されたティザームービーでは、凍結し白化した地球映像と、人工の構造物の映像ばかりが流れる中で、川や森といった自然の造形物は映し出されなかった。一方で、過剰なほどにクローズアップされていたのは、ACの頭部に映ったカメラアイの赤い光である

人間を模した頭部の、瞳を模した部分に絶えず映り続ける、赤い光。暴力目的とした兵器の頭部に映り続ける、赤い炎。

恐らく、ルビコンの炎とはそれのことだ。人の瞳の奥底に映る、仄暗い暴力と、憎悪と、悪意を秘めた炎。

古代における戦争の端緒は、兵器にあったのではなく、人間のそのような悪意にあったのではないだろうか。ルビコンの炎とは、我々の中に巣食う原初の悪意と暴力を名指しているのではないだろうか。そのような印象は、前作タイトルAC5のキャッチコピーが、『全てを焼き尽くす暴力』であったこからも無理なく推察できると思われる。

我々人間は悪意を時に成す。我々の瞳の奥底には仄暗い炎が灯っている。それは、いずれ戦火の発端となるだろう。この世界のどこかでは、そのような炎は未だ燃え広がり、人を殺し続けている。

灰の最後の一片に至るまで燃やし尽くす、暴力と悪意の火を焚べること。それが、AC6の描こうとしているテーマであろうと私は推察している。

  • ひとつだけツッコミ入れるが、今作の舞台は地球じゃなくて「ルビコン3」と呼ばれる外惑星やで その星で見つかった新物質が暴発か何かして星系丸ごと炎に包まれる大事故が起きて、そ...

  • 俺はアーマードコアをプレイしながら主人公のレイヴンはロボットアニメの主人公みたいなヒーローだと思ってたわ ルート次第ではやろうと思えば積極的に誰かを裏切る悪人プレイも出...

  • フロム作品、特にACって世界観はあるけどキャラクターはほぼないから二次創作とかあんまされなそう 結局、二次創作ってあのキャラを動かしたいって欲求だと思うし ACの二次創作やっ...

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