■バーでウイスキーを飲もう　その2

https://anond.hatelabo.jp/20240122183330 の続き

ピートについて

ウイスキーの製造に使う大麦麦芽は成長を止めるためと貯蔵のために乾燥させられている。この乾燥に用いられる燃料のうち伝統的な燃料がピート（泥炭）である。このピートを燃料とするとピートの香りが麦芽に移りこの麦芽を使ったウイスキーにはピーティと言われる香味（燻製のようなスモーキーさとヨードチンキや正露丸のような薬品香）がもたらされる。その香りはピートを燃焼させたときの燻煙に含まれるフェノール化合物によるものであるが、その麦芽に含まれるフェノール化合物の割合をフェノール値と言いppmを単位として示される。このピートはスコットランドに広く存在するがアイラ島のピートには海藻由来の成分が多く含まれ特に薬品香を強くもたらすと言われる。このピートで乾燥させた大麦麦芽を使った原酒は程度の差こそあれアイラのみならず多くのスコッチウイスキーに使わている。また日本のウイスキーにも広く使われている。

ウイスキーがどれくらいピーティかは実際にはフェノール値だけでなく蒸留のどのタイミングの蒸留液をどう使うかや熟成に使う樽によっても変わるのであるが便宜的にフェノール値を用いてほぼ０の場合をノンピーテッド、それから順に（人によって違うが）10ppmぐらいまでをライトリーピーテッド、25ppmぐらいまでをミディアムピーテッド、50ppm台までをヘヴィリーピーテッド、その上をスーパーヘヴィリーピーテッドとしてウイスキーを区分することがある。ただ特にフェノール値が非常に高いような場合、例えば150ppmのウイスキーを飲んでも50ppmの3倍スモーキーだと感じるようなことは（増田の経験上は）ない（多分それを目指して作っていないと思う）。フェノール値はあくまで目安である。

ノン・チルフィルタード

ウイスキーには様々な成分が溶けているがその中には冷却すると目に見える澱や白濁の原因となるものがある。この原因となる成分を除去するためにウイスキーを冷却して濾過するのだがこの成分にウイスキーの香りや味わいの成分が含まれるとして香味が薄くなるのを避けるためにこの冷却濾過をしないウイスキーがある。このような冷却濾過しない製法もしくは冷却濾過していないウイスキーそのものをノン・チルフィルタードと言い、一般にラベルにNon-Chillfilteredと書かれている。冷却濾過は大量生産するウイスキーの味の均一化という側面があるとも言われる。

主な蒸溜所のごく一部

スコッチウイスキーの蒸溜所は地域別（ハイランド、スペイサイド、ローランド、キャンベルタウン、アイランズ、アイラ）に分類されることが多い。ここではスペイサイドとアイラの蒸溜所の一部を紹介する。ここに挙げた蒸溜所はすべてモルトウイスキーの蒸溜所である。

• スペイサイド　蒸溜所の密集地域。スペイサイドのウイスキーの香味の傾向は「華やか」という言葉で表現されることが多い。
  • ザ・グレンリベット蒸溜所　1824年に政府公認第1号蒸留所となったということで有名。現在、シングルモルトとしてトップクラスの販売量をほこる。
  • グレンフィディック蒸溜所　早く(1960年代)からシングルモルトを一般消費者向けにマーケティングして輸出したことで有名。現在もシングルモルトとしてトップクラスの販売量をほこる。
  • マッカラン蒸溜所　日本ではよく「シングルモルトのロールスロイス」という言い回しが使われ人気が高い（元は1970年代の英ハロッズのカタログに記載された宣伝文句？）。2023年にロンドンのオークションで1926年蒸留60年熟成のボトルが当時のレートで約4億1千万円で落札され話題となった。

• アイラ　アイラ島。ピートで乾燥させた麦芽を使った銘柄が多い。
  • ラフロイグ蒸溜所　ヘヴィリーピーテッドの代表的存在であり公式サイトに「昔から“惚れ込むか、大嫌いになるかのどちらか” と評されてきた」と書いてあるように癖が強い。ちなみに増田にとっては惚れ込むというほどではないけどそれなりに好きである。
  • アードベッグ蒸溜所　ラフロイグと同じくヘヴィリーピーテッドで有名だがラフロイグが正露丸っぽい癖が強いのに対しアードベッグはそれに比べると煤のような癖が強いと言われる。毎年数種類の限定ボトルを発売するが100ppmを超えるスーパーヘヴィリーピーテッドのこともある。
  • ブルックラディ蒸溜所　シングルモルトの銘柄としてのブルックラディはノンピーテッドであるが、ヘヴィリーピーテッドのポートシャーロット、100ppmを超えるスーパーヘヴィリーピーテッドのオクトモアという銘柄のシングルモルトも作っている。増田もそうだが「ブルイックラディ」と言う人もいる。
  • ブナハーブン蒸溜所　基本的にはノンピーテッドであるがピーテッドも生産している。ピーテッドタイプのブナハーブンはボトラー（後述）からストイーシャの名前で販売されることも多い。

オフィシャルボトルとボトラーズ

• オフィシャルボトル　蒸溜所が自分で瓶詰めをして出荷しているボトル。
• ボトラーズ　ボトラー（瓶詰め業者）が蒸溜所等から樽の状態で買い付けたもの等を瓶詰めして出荷するボトル。いくつかの樽の原酒を使うこともひとつの樽のこともある。ひとつの樽だけで作られたものをシングルカスクという（オフィシャルからもシングルカスクのボトルが販売されることもある）。基本的にいくつかの樽を使うとしても大量生産ではないので個別性が強いボトルとなる。ボトラーズのボトルはその原酒の蒸溜所の名前が表示される場合だけでなく（買付時の契約等により）蒸溜所の名前が伏せられる場合もある（シークレット○○（○○には例えばスペイサイドといった地域名が入る）とボトルに記載されることが多い）。名前が伏せられたシングルモルトは簡単にその蒸溜所がわかる場合と本当に地域しかわからない場合がある。簡単にその蒸溜所がわかる場合として販売資料に蒸溜所を特定するヒント（例えばマッカランの「スペイサイド最小の蒸留器」「シングルモルトのロールスロイスと言われる」など）が書かれている場合や、シークレット○○ではなくよく使われる別名（例えば先ほどのピーテッドのブナハーブンの「ストイーシャ」、ラフロイグの「ウイリアムソン」「キルブライド」など）が使われている場合がある。またボトラーズにはシングルモルトが多いがシングルモルトに極微量の他の蒸溜所の原酒を加えたとしてブレンデッドモルトの扱いで販売されることもよくある。このブレンデッドモルトを特にティースプーンモルトと呼びバーでは事実上のシングルモルトとして扱われる。ボトラーズにはティースプーンモルトでない（その意味で普通の）ブレンデッドモルトやブレンデッドウイスキーもある。

ジャパニーズウイスキー

日本のウイスキーはスコッチウイスキーから大きな影響を受けている。そのため法律に基づく部分を除き日本では用語等はジャパニーズウイスキーとスコッチウイスキーで同じ意味で使っていると言えるのであらためて説明しない。日本のウイスキーについてオーセンティックバーで見ることが多い銘柄のうちいくつかを紹介する。

代表的な銘柄のごく一部

• サントリー
  • 山崎　山崎蒸溜所で製造されるシングルモルト。ミズナラ樽で熟成される原酒を使っていることでも知られ白檀や伽羅を思わせる香味があるとされ国際的にも評価が高い。2020年に香港のオークションで山崎55年が当時のレートで約8500万円で落札され話題になった。
  • 響　山崎蒸溜所及び白州蒸溜所のモルトウイスキーと知多蒸溜所のグレーンウイスキーをブレンドしたブレンデッドウイスキー。

• ニッカウヰスキー
  • 余市　ドラマ「マッサン」の舞台となった余市蒸溜所で製造されるシングルモルト。スモーキーで力強い味わいといわれ人気が高い。
  • 竹鶴ピュアモルト　余市蒸溜所と宮城峡蒸溜所のモルトウイスキーをブレンドしたブレンデッドモルト。

• キリンビール
  • 富士　キリンディスティラリー富士御殿場蒸溜所ではモルトウイスキーとグレーンウイスキーの両方を生産しており、「富士」のブランド名でシングルモルト、シングルグレーン、シングルブレンデッドウイスキーを製造している。キリンのウイスキー製造はシーグラムグループとの合弁会社キリンシーグラムに端を発することもありグレーンウイスキー、ブレンデッドウイスキーに定評がある。蒸溜所設立当初の1970年代からモルトウイスキーも製造している。

• ベンチャーウイスキー
  • イチローズモルト　日本のいわゆるクラフトウイスキーのはしりであり、かつ代表格。少量生産であるがワインウッドリザーブ（シングルモルト）、ミズナラウッドリザーブ（シングルモルト）、ダブルディスティラーズ(ブレンデッドモルト)のリーフシリーズとモルト＆グレーン ワールド・ブレンデッド・ウイスキー（ブレンデッドウイスキー）は比較的バーで見かける。2019年香港のオークションでカードシーズ全54本が当時のレートで約1億円で落札され話題となった。

• 嘉之助（かのすけ）蒸溜所　焼酎の蔵元の小正醸造が2018年からウイスキーの蒸留を始めたクラフトウイスキーの蒸溜所だが2021年にジョニーウォーカー等多数のブランドを擁するイギリスの巨大酒造メーカー・ディアジオの出資を受け話題となった。
  • 嘉之助

ジャパニーズウイスキーの定義

もともと日本のウイスキーの定義は酒税法で定められたものだけで非常に緩く輸入した原酒を日本で瓶詰めしただけのウイスキーがジャパニーズウイスキーと称されて販売されたり、酒税法上の焼酎が海外でジャパニーズウイスキーとして販売されたりしていた（ https://toyokeizai.net/articles/-/216248 ）。その問題への対処として業界団体である日本洋酒酒造組合が「ウイスキーにおけるジャパニーズウイスキーの表示に関する基準」でジャパニーズウイスキーを定義した（ https://www.yoshu.or.jp/files/libs/550/202303291553482719.pdf ）。この基準の施行前に販売していたウイスキーについては経過措置により従前の表示が認められているが2024年3月31日で経過措置の期限となるためもしかすると一波乱あるかもしれない。

その3へ続く https://anond.hatelabo.jp/20240122184434

Permalink | 記事への反応(2) | 18:43

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